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3章 オマジナイ
43.勝負に向かうための心構え
レイランド侯爵家の夜会までの間、ライオネルは彼に与えられた業務は行うものの、それ以外の時間の多くは、女性達の集まる茶会に顔を出し浮名を流していた。
貴族当主達からは、
「ナイジェル様に対抗しようという考えかもしれないが、余りにも浅はか!」
そんな声が大きくあがり、父王から誠実さがないとお叱りの呼び出しがあった。 ソレは最初のアピールチャンスである。
「気になる女性がいるんです。 可愛らしい。 守ってあげたいという方ではありません。ですが、凛々しく才能豊か、知的な瞳が魅力的な女性です。 地位を使えば容易に近づくことも出来るでしょうが、私は私と言う人間を好きになってもらいたいと思っているのです。 あらぬ噂に父上には不快な思いさせてしまうこともあるでしょうが、ご容赦ください」
ライオネルは真摯に言葉を紡いだ。
恋に浮かれた、情熱を演じた。
「ようやく、分かってくれたか……」
こういう人だから、ナイジェルなどに良いように扱われるんだ……。 王は息子の心の内に気づくことはない……。
そしてライオネルは父王に願った。
「私が恋をしたと噂になれば、貴族達は相手がだれかと躍起になって探すでしょう。 邪魔するものも出てくるでしょう。 それでは、愛する方を手に入れる事すらできなくなります。 どうか内密に願えますか?」
自らの婚姻を、利権や派閥に使おうとしていた息子の願いを、父王は意外だと思った。 だが反面、本当に息子は恋をしたのだと、自分達は理解しあえたのだと喜ばしく思った。
「わかった。 頑張るがいい」
そして、ライオネルに意中の人が居るという話は秘密とされた。
ミランダとの婚約は政治的なものであり、ソレを最適な状況で活用しなければ、婚約の意味を失ってしまう。 父王には、恋心を印象付ける必要はあるが、世間には侯爵家との縁組を広め、邪魔が入っては面倒だと考えたのだ。
それでも、茶会に続け出て腑抜けを演じれば、ライオネル達(護衛と言う名の道ずれとしてパーシヴァルとルーカスが伴われている)は、結婚の相手を探している。 そんな噂が流れ、貴族令嬢達を湧き立たせる事となった。
全てが予定通りである。
レイランド侯爵家の夜会当日。
その日騎士団内は忙しかった。
ルーカスは全体の警備指揮を執り、寄せ集めの魔導士部隊のボスは何故か医局の、妖艶たる美貌の持ち主マリン・ダルトン副医局長が務めた。 魔導医師はこの世界において、魔導士の中の上位職とされるのだから決してあり得ない事ではない。
パーシヴァルは、早朝からライオネルの筆頭騎士として護衛に入る事となる。
「シヴィ」
きっちりとした礼装に身を包み、シヴィルとの別れを惜しむパーシヴァル。
「折角、素敵な衣装を着ているのになんて顔をしているんですか」
捨て犬のような顔をするパーシヴァルに苦笑するシヴィル。
「まさか、シヴィルの社交界デビューのエスコートをできないだなんて、思ってもいなかった……なぁ、今回は欠席という事にしないか? 他の男に言い寄られる姿なんて見たくない」
ぐずぐず言う様子は、子供のようである。
「大丈夫ですよ。 私に声をかける殿方なんている訳ないじゃないですか」
「そんな事はあるか!! シヴィは可愛い」
「そんなことを言うのは、パーシィくらいですよ。 現地でお会いしたら、すぐにお傍に参ります。 ほら、集まってくる女性を蹴散らして欲しいとおっしゃっていたではありませんか」
「……そうだが……」
「ボス、ソロソロ時間ですよ~。 ギリギリですよ~。 馬と一緒に走っていくつもりですか?」
アイザックが言う。
ちなみに、大きなパーシィが馬車に乗ると、馬車の走行は遅くなる。 だから、降りて一緒に走れば早く目的地に着きますよと言う嫌味である。
「……アイザック、シヴィに余計な男を近づけるな。 何かあったらただじゃおかないからな」
アイザックの耳元で、静かに脅しをかけるパーシヴァルだった。
そんなパーシヴァルを見送りアイザックが、感情を浮かべない表情と面倒だなぁ……とでもいう声色で言う。
「先生、参加辞めませんか?」
「いえ、参加します」
「そこまで、頑張るなんて……珍しいというかなんというか……どうされたんですか」
「それは……その……」
もともとパーシヴァルは、伯爵としての地位、戦場での功績、ライオネル殿下との関係から、娘をけし掛ける貴族当主は少なくなかった。 日常のパーシヴァルを見ていれば、彼の異名に怯えつつも好意的な感情を持ち始める者もいた。
だが最近、パーシヴァルに対する恐怖が、一部令嬢から消えたのだ。
偉そうに暴力的に女性を値踏みし、不躾な声をかけてくる戦場帰りの騎士が少なくない中、鬼神、化け物と呼ばれるパーシヴァルは、むしろ礼儀正しく穏やかだった。
それに、1つの噂が令嬢達を後押ししたのだ。
『ヘルムート伯爵は、己が心に飼う化け物を思い悩み、その心は孤独に嘆き苦しみ救いを求めている』
悲劇とは美しいものだ。
ソレを支えるものは絵になる。
パーシヴァル本人も気づかないうちに、ナイジェルに張り合う悲劇の人として陰ながら語られるようになっていたのだ。 そうなると、令嬢達にとって気になるのは、パーシヴァルが気に掛けている平民女シヴィルの存在であり、直接シヴィルにその関係をたずねに来るものも少なくなかった。
質問に対して、閣下には並々ならぬ寵愛を頂いております。 そう優雅に大胆に微笑むことが出来ればいいのだが、実際には静かに控えめに
「それは、閣下のお心次第ではありませんでしょうか?」
そう返せば、鼻で笑われ、
「アナタなんて閣下に相応しい女ではないわ」
「身分相応に引きなさい」
「アナタに閣下の孤独を埋める事ができまして?」
「閣下の心の中の化け物事、アナタに愛せますの?」
「第二婦人として、認めて差し上げるから身の程をわきまえなさい」
ツバを吐き掛ける勢いで言われ、バカにされ蔑まれるばかりだった。
ライオネルやミランダにとって国を賭けた勝負の始まり。
それに比べればズイブンと小さいが、それでもシヴィルにとっても負けられない勝負がそこに存在したのである。
貴族当主達からは、
「ナイジェル様に対抗しようという考えかもしれないが、余りにも浅はか!」
そんな声が大きくあがり、父王から誠実さがないとお叱りの呼び出しがあった。 ソレは最初のアピールチャンスである。
「気になる女性がいるんです。 可愛らしい。 守ってあげたいという方ではありません。ですが、凛々しく才能豊か、知的な瞳が魅力的な女性です。 地位を使えば容易に近づくことも出来るでしょうが、私は私と言う人間を好きになってもらいたいと思っているのです。 あらぬ噂に父上には不快な思いさせてしまうこともあるでしょうが、ご容赦ください」
ライオネルは真摯に言葉を紡いだ。
恋に浮かれた、情熱を演じた。
「ようやく、分かってくれたか……」
こういう人だから、ナイジェルなどに良いように扱われるんだ……。 王は息子の心の内に気づくことはない……。
そしてライオネルは父王に願った。
「私が恋をしたと噂になれば、貴族達は相手がだれかと躍起になって探すでしょう。 邪魔するものも出てくるでしょう。 それでは、愛する方を手に入れる事すらできなくなります。 どうか内密に願えますか?」
自らの婚姻を、利権や派閥に使おうとしていた息子の願いを、父王は意外だと思った。 だが反面、本当に息子は恋をしたのだと、自分達は理解しあえたのだと喜ばしく思った。
「わかった。 頑張るがいい」
そして、ライオネルに意中の人が居るという話は秘密とされた。
ミランダとの婚約は政治的なものであり、ソレを最適な状況で活用しなければ、婚約の意味を失ってしまう。 父王には、恋心を印象付ける必要はあるが、世間には侯爵家との縁組を広め、邪魔が入っては面倒だと考えたのだ。
それでも、茶会に続け出て腑抜けを演じれば、ライオネル達(護衛と言う名の道ずれとしてパーシヴァルとルーカスが伴われている)は、結婚の相手を探している。 そんな噂が流れ、貴族令嬢達を湧き立たせる事となった。
全てが予定通りである。
レイランド侯爵家の夜会当日。
その日騎士団内は忙しかった。
ルーカスは全体の警備指揮を執り、寄せ集めの魔導士部隊のボスは何故か医局の、妖艶たる美貌の持ち主マリン・ダルトン副医局長が務めた。 魔導医師はこの世界において、魔導士の中の上位職とされるのだから決してあり得ない事ではない。
パーシヴァルは、早朝からライオネルの筆頭騎士として護衛に入る事となる。
「シヴィ」
きっちりとした礼装に身を包み、シヴィルとの別れを惜しむパーシヴァル。
「折角、素敵な衣装を着ているのになんて顔をしているんですか」
捨て犬のような顔をするパーシヴァルに苦笑するシヴィル。
「まさか、シヴィルの社交界デビューのエスコートをできないだなんて、思ってもいなかった……なぁ、今回は欠席という事にしないか? 他の男に言い寄られる姿なんて見たくない」
ぐずぐず言う様子は、子供のようである。
「大丈夫ですよ。 私に声をかける殿方なんている訳ないじゃないですか」
「そんな事はあるか!! シヴィは可愛い」
「そんなことを言うのは、パーシィくらいですよ。 現地でお会いしたら、すぐにお傍に参ります。 ほら、集まってくる女性を蹴散らして欲しいとおっしゃっていたではありませんか」
「……そうだが……」
「ボス、ソロソロ時間ですよ~。 ギリギリですよ~。 馬と一緒に走っていくつもりですか?」
アイザックが言う。
ちなみに、大きなパーシィが馬車に乗ると、馬車の走行は遅くなる。 だから、降りて一緒に走れば早く目的地に着きますよと言う嫌味である。
「……アイザック、シヴィに余計な男を近づけるな。 何かあったらただじゃおかないからな」
アイザックの耳元で、静かに脅しをかけるパーシヴァルだった。
そんなパーシヴァルを見送りアイザックが、感情を浮かべない表情と面倒だなぁ……とでもいう声色で言う。
「先生、参加辞めませんか?」
「いえ、参加します」
「そこまで、頑張るなんて……珍しいというかなんというか……どうされたんですか」
「それは……その……」
もともとパーシヴァルは、伯爵としての地位、戦場での功績、ライオネル殿下との関係から、娘をけし掛ける貴族当主は少なくなかった。 日常のパーシヴァルを見ていれば、彼の異名に怯えつつも好意的な感情を持ち始める者もいた。
だが最近、パーシヴァルに対する恐怖が、一部令嬢から消えたのだ。
偉そうに暴力的に女性を値踏みし、不躾な声をかけてくる戦場帰りの騎士が少なくない中、鬼神、化け物と呼ばれるパーシヴァルは、むしろ礼儀正しく穏やかだった。
それに、1つの噂が令嬢達を後押ししたのだ。
『ヘルムート伯爵は、己が心に飼う化け物を思い悩み、その心は孤独に嘆き苦しみ救いを求めている』
悲劇とは美しいものだ。
ソレを支えるものは絵になる。
パーシヴァル本人も気づかないうちに、ナイジェルに張り合う悲劇の人として陰ながら語られるようになっていたのだ。 そうなると、令嬢達にとって気になるのは、パーシヴァルが気に掛けている平民女シヴィルの存在であり、直接シヴィルにその関係をたずねに来るものも少なくなかった。
質問に対して、閣下には並々ならぬ寵愛を頂いております。 そう優雅に大胆に微笑むことが出来ればいいのだが、実際には静かに控えめに
「それは、閣下のお心次第ではありませんでしょうか?」
そう返せば、鼻で笑われ、
「アナタなんて閣下に相応しい女ではないわ」
「身分相応に引きなさい」
「アナタに閣下の孤独を埋める事ができまして?」
「閣下の心の中の化け物事、アナタに愛せますの?」
「第二婦人として、認めて差し上げるから身の程をわきまえなさい」
ツバを吐き掛ける勢いで言われ、バカにされ蔑まれるばかりだった。
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