偽りの婚姻

迷い人

文字の大きさ
45 / 65
3章 オマジナイ

43.勝負に向かうための心構え

 レイランド侯爵家の夜会までの間、ライオネルは彼に与えられた業務は行うものの、それ以外の時間の多くは、女性達の集まる茶会に顔を出し浮名を流していた。

 貴族当主達からは、

「ナイジェル様に対抗しようという考えかもしれないが、余りにも浅はか!」

 そんな声が大きくあがり、父王から誠実さがないとお叱りの呼び出しがあった。 ソレは最初のアピールチャンスである。

「気になる女性がいるんです。 可愛らしい。 守ってあげたいという方ではありません。ですが、凛々しく才能豊か、知的な瞳が魅力的な女性です。 地位を使えば容易に近づくことも出来るでしょうが、私は私と言う人間を好きになってもらいたいと思っているのです。 あらぬ噂に父上には不快な思いさせてしまうこともあるでしょうが、ご容赦ください」

 ライオネルは真摯に言葉を紡いだ。
 恋に浮かれた、情熱を演じた。

「ようやく、分かってくれたか……」

 こういう人だから、ナイジェルなどに良いように扱われるんだ……。 王は息子の心の内に気づくことはない……。

 そしてライオネルは父王に願った。

「私が恋をしたと噂になれば、貴族達は相手がだれかと躍起になって探すでしょう。 邪魔するものも出てくるでしょう。 それでは、愛する方を手に入れる事すらできなくなります。 どうか内密に願えますか?」

 自らの婚姻を、利権や派閥に使おうとしていた息子の願いを、父王は意外だと思った。 だが反面、本当に息子は恋をしたのだと、自分達は理解しあえたのだと喜ばしく思った。

「わかった。 頑張るがいい」

 そして、ライオネルに意中の人が居るという話は秘密とされた。



 ミランダとの婚約は政治的なものであり、ソレを最適な状況で活用しなければ、婚約の意味を失ってしまう。 父王には、恋心を印象付ける必要はあるが、世間には侯爵家との縁組を広め、邪魔が入っては面倒だと考えたのだ。



 それでも、茶会に続け出て腑抜けを演じれば、ライオネル達(護衛と言う名の道ずれとしてパーシヴァルとルーカスが伴われている)は、結婚の相手を探している。 そんな噂が流れ、貴族令嬢達を湧き立たせる事となった。

 全てが予定通りである。




 レイランド侯爵家の夜会当日。

 その日騎士団内は忙しかった。

 ルーカスは全体の警備指揮を執り、寄せ集めの魔導士部隊のボスは何故か医局の、妖艶たる美貌の持ち主マリン・ダルトン副医局長が務めた。 魔導医師はこの世界において、魔導士の中の上位職とされるのだから決してあり得ない事ではない。

 パーシヴァルは、早朝からライオネルの筆頭騎士として護衛に入る事となる。

「シヴィ」

 きっちりとした礼装に身を包み、シヴィルとの別れを惜しむパーシヴァル。

「折角、素敵な衣装を着ているのになんて顔をしているんですか」

 捨て犬のような顔をするパーシヴァルに苦笑するシヴィル。

「まさか、シヴィルの社交界デビューのエスコートをできないだなんて、思ってもいなかった……なぁ、今回は欠席という事にしないか? 他の男に言い寄られる姿なんて見たくない」

 ぐずぐず言う様子は、子供のようである。

「大丈夫ですよ。 私に声をかける殿方なんている訳ないじゃないですか」

「そんな事はあるか!! シヴィは可愛い」

「そんなことを言うのは、パーシィくらいですよ。 現地でお会いしたら、すぐにお傍に参ります。 ほら、集まってくる女性を蹴散らして欲しいとおっしゃっていたではありませんか」

「……そうだが……」

「ボス、ソロソロ時間ですよ~。 ギリギリですよ~。 馬と一緒に走っていくつもりですか?」

 アイザックが言う。

 ちなみに、大きなパーシィが馬車に乗ると、馬車の走行は遅くなる。 だから、降りて一緒に走れば早く目的地に着きますよと言う嫌味である。

「……アイザック、シヴィに余計な男を近づけるな。 何かあったらただじゃおかないからな」

 アイザックの耳元で、静かに脅しをかけるパーシヴァルだった。

 そんなパーシヴァルを見送りアイザックが、感情を浮かべない表情と面倒だなぁ……とでもいう声色で言う。

「先生、参加辞めませんか?」

「いえ、参加します」

「そこまで、頑張るなんて……珍しいというかなんというか……どうされたんですか」

「それは……その……」

 もともとパーシヴァルは、伯爵としての地位、戦場での功績、ライオネル殿下との関係から、娘をけし掛ける貴族当主は少なくなかった。 日常のパーシヴァルを見ていれば、彼の異名に怯えつつも好意的な感情を持ち始める者もいた。

 だが最近、パーシヴァルに対する恐怖が、一部令嬢から消えたのだ。

 偉そうに暴力的に女性を値踏みし、不躾な声をかけてくる戦場帰りの騎士が少なくない中、鬼神、化け物と呼ばれるパーシヴァルは、むしろ礼儀正しく穏やかだった。

 それに、1つの噂が令嬢達を後押ししたのだ。

『ヘルムート伯爵は、己が心に飼う化け物を思い悩み、その心は孤独に嘆き苦しみ救いを求めている』

 悲劇とは美しいものだ。
 ソレを支えるものは絵になる。

 パーシヴァル本人も気づかないうちに、ナイジェルに張り合う悲劇の人として陰ながら語られるようになっていたのだ。 そうなると、令嬢達にとって気になるのは、パーシヴァルが気に掛けている平民女シヴィルの存在であり、直接シヴィルにその関係をたずねに来るものも少なくなかった。

 質問に対して、閣下には並々ならぬ寵愛を頂いております。 そう優雅に大胆に微笑むことが出来ればいいのだが、実際には静かに控えめに

「それは、閣下のお心次第ではありませんでしょうか?」

 そう返せば、鼻で笑われ、

「アナタなんて閣下に相応しい女ではないわ」
「身分相応に引きなさい」
「アナタに閣下の孤独を埋める事ができまして?」
「閣下の心の中の化け物事、アナタに愛せますの?」
「第二婦人として、認めて差し上げるから身の程をわきまえなさい」

 ツバを吐き掛ける勢いで言われ、バカにされ蔑まれるばかりだった。

 ライオネルやミランダにとって国を賭けた勝負の始まり。

 それに比べればズイブンと小さいが、それでもシヴィルにとっても負けられない勝負がそこに存在したのである。

あなたにおすすめの小説

お姉様優先な我が家は、このままでは破産です

編端みどり
恋愛
我が家では、なんでも姉が優先。 経費を全て公開しないといけない国で良かったわ。なんとか体裁を保てる予算をわたくしにも回して貰える。 だけどお姉様、どうしてそんな地雷男を選ぶんですか?! 結婚前から愛人ですって?!  愛人の予算もうちが出すのよ?! わかってる?! このままでは更にわたくしの予算は減ってしまうわ。そもそも愛人5人いる男と同居なんて無理! 姉の結婚までにこの家から逃げたい! 相談した親友にセッティングされた辺境伯とのお見合いは、理想の殿方との出会いだった。

公爵家の秘密の愛娘 

ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝🌹グラント公爵家は王家に仕える名門の家柄。 過去の事情により、今だに独身の当主ダリウス。国王から懇願され、ようやく伯爵未亡人との婚姻を決める。 そんな時、グラント公爵ダリウスの元へと現れたのは1人の少女アンジェラ。 「パパ……私はあなたの娘です」 そう名乗り出るアンジェラ。 ◇ アンジェラが現れたことにより、グラント公爵家は一変。伯爵未亡人との再婚もあやふや。しかも、アンジェラが道中に出逢った人物はまさかの王族。 この時からアンジェラの世界も一変。華やかに色付き出す。 初めはよそよそしいグラント公爵ダリウス(パパ)だが、次第に娘アンジェラを気に掛けるように……。 母娘2代のハッピーライフ&淑女達と貴公子達の恋模様💞  ✴️設定などは独自の世界観でご都合主義となります。ハピエン💞 ✴️稚拙ながらもHOTランキング(最高20位)に入れて頂き(2025.5.9)、ありがとうございます🙇‍♀️

ある日、私は事故で死んだ───はずなのに、目が覚めたら事故の日の朝なんですけど!?

ねーさん
恋愛
   アイリスは十六歳の誕生日の前の日に、姉ヴィクトリアと幼なじみジェイドと共に馬車で王宮に向かう途中、事故に遭い命を落とした───はずだったが、目覚めると何故か事故の日の朝に巻き戻っていた。  何度もその日を繰り返して、その度事故に遭って死んでしまうアイリス。  何度目の「今日」かもわからなくなった頃、目が覚めると、そこにはヴィクトリアの婚約者で第三王子ウォルターがいた。  「明日」が来たんだわ。私、十六歳になれたんだ…

笑い方を忘れた令嬢

Blue
恋愛
 お母様が天国へと旅立ってから10年の月日が流れた。大好きなお父様と二人で過ごす日々に突然終止符が打たれる。突然やって来た新しい家族。病で倒れてしまったお父様。私を嫌な目つきで見てくる伯父様。どうしたらいいの?誰か、助けて。

もう一度あなたに逢いたくて〜こぼれ落ちた運命を再び拾うまで〜

雪野 結莉
恋愛
魔物を倒す英雄となる運命を背負って生まれた侯爵家嫡男ルーク。 しかし、赤ん坊の時に魔獣に襲われ、顔に酷い傷を持ってしまう。 英雄の婚約者には、必ず光の魔力を持つものが求められる。そして選ばれたのは子爵家次女ジーナだった。 顔に残る傷のため、酷く冷遇された幼少期を過ごすルークに差し込んだ一筋の光がジーナなのだ。 ジーナを誰よりも大切にしてきたルークだったが、ジーナとの婚約を邪魔するものの手によって、ジーナは殺されてしまう。 誰よりも強く誰よりも心に傷を持つルークのことが死してなお気になるジーナ。 ルークに会いたくて会いたくて。 その願いは。。。。。 とても長いお話ですが、1話1話は1500文字前後で軽く読める……はず!です。 他サイト様でも公開中ですが、アルファポリス様が一番早い更新です。 本編完結しました! 大変お待たせ致しました。番外編も完結いたしました!

【完結】勘当されたい悪役は自由に生きる

雨野
恋愛
 難病に罹り、15歳で人生を終えた私。  だが気がつくと、生前読んだ漫画の貴族で悪役に転生していた!?タイトルは忘れてしまったし、ラストまで読むことは出来なかったけど…確かこのキャラは、家を勘当され追放されたんじゃなかったっけ?  でも…手足は自由に動くし、ご飯は美味しく食べられる。すうっと深呼吸することだって出来る!!追放ったって殺される訳でもなし、貴族じゃなくなっても問題ないよね?むしろ私、庶民の生活のほうが大歓迎!!  ただ…私が転生したこのキャラ、セレスタン・ラサーニュ。悪役令息、男だったよね?どこからどう見ても女の身体なんですが。上に無いはずのモノがあり、下にあるはずのアレが無いんですが!?どうなってんのよ!!?  1話目はシリアスな感じですが、最終的にはほのぼの目指します。  ずっと病弱だったが故に、目に映る全てのものが輝いて見えるセレスタン。自分が変われば世界も変わる、私は…自由だ!!!  主人公は最初のうちは卑屈だったりしますが、次第に前向きに成長します。それまで見守っていただければと!  愛され主人公のつもりですが、逆ハーレムはありません。逆ハー風味はある。男装主人公なので、側から見るとBLカップルです。  予告なく痛々しい、残酷な描写あり。  サブタイトルに◼️が付いている話はシリアスになりがち。  小説家になろうさんでも掲載しております。そっちのほうが先行公開中。後書きなんかで、ちょいちょいネタ挟んでます。よろしければご覧ください。  こちらでは僅かに加筆&話が増えてたりします。  本編完結。番外編を順次公開していきます。  最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!

悪女の針仕事〜そのほころび、見逃しません!〜

陰陽@4作品商業化(コミカライズ他)
ファンタジー
公爵令嬢として生まれながら、子ども時代からメイドや周囲の陰謀で、次々と濡れ衣を着せられ、「悪女」扱いされてきたミリアム。 第3王子との婚約を聖女に奪われ、聖女への嫌がらせの冤罪で国外追放された後、平民として生き延びる中で、何度も5年前へのロールバック(逆行)を繰り返すことに。 生計をたてる為に、追放後の平民生活で極めた針仕事が、ロールバックが繰り返されることで、針仕事の能力だけは引き継がれ、天才的な実力を手に入れる。 その時女神「アテナ」の加護を得て、2つの力を手にすることに。 「加護縫い」 (縫った布に強力な祝福を込められる) 「嘘のほころびを見抜く力」 (相手の嘘を布のほころびとして視覚的に捉え、引き抜く、または繕うことで、真実を暴いたり修正したりする) を手にしたミリアムは、5歳の幼女時代まで遡り、2つの力で悪評をぬりかえ、仲違いしていた家族も、加護の力を与えることで協力な味方へと変貌。 さらに、女神から可愛いしもべ「アリアドネ」を授かり、元婚約者と聖女にザマァを狙う中、加護縫いの能力が最も高い人間を王太子妃に迎える決まりのある大国、ルーパート王国の王子が近付いて来て……?

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?