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3章 オマジナイ
45.金と銀は視線を集める
レイランド侯爵家の夜会には、派閥の敵も味方もなく大勢の人が参加していた。
今、貴族内の派閥が揺らいでいる事を考えれば、予想を超える人員と言えるだろう。
その理由も分からないではない。
ルーベンス国は戦争を終えたことにより、各領地は領民を戦争に派遣したことで得る戦争給付金を失った。
例えるなら貧乏な両親の元に、子供3人の家庭があったとしよう。 母と3人の子は、父の働きによって送られてくる戦争給付金で生きてきた。 贅沢は出来ないものの祝い事には特別な食事を食べ、プレゼントを贈りあうぐらいはできた。
だが、戦争を終えたならどうなるだろう?
給付金は失われ、もともと豊かな地であっただけに、収穫量が増える事は価格崩壊へ繋がる。 領民の赤貧は、領主(貴族)達の赤貧にもつながっていた。
貴族達はなんとかして、自らの利益を取り戻そうと躍起になっているのだ。
戦争給付金の元を生み出していた魔物退治を行える者達と、領地経営成功者と、国の要人と、領地を盛り立ててくれる商人と、将来性のある者と……。
夜会の開催と共に、当主の挨拶を終えた。
楽団員が音楽を奏でるが、人々は音楽に耳を傾ける余裕などない。 情報を手に入れ、人との繋がりを作るのに忙しく動き回っていた。 ソレは貴族当主だけでなく、子息、令嬢達も同様である。 子息は領地を治めるものとして、令嬢も家のため自分のため、良い縁組を求めて挨拶に回る。
「皆さん忙しそうですね。 ぁ、ヴィ、コレ美味しいよ」
小さな体のどこにそんなに入るのか? というほど、誰も手につけぬ料理を一人楽しんでいる少年がいた。 金色の巻き毛が愛らしい30代少年である。 濃緑のタキシードに黒襟、黒のスカーフタイと言う姿。 おしゃれのポイントは少しデザインに凝った靴。 タイを止めるリング、巻き髪を抑える小さな髪留め。 何時もは愛らしいだけの姿が、今日は少しばかり凛々しくもある。
「余り目立つ行為は、どうなのでしょうか?」
そう応じるのは、ばっちりと着飾ったシヴィルである。 先ほどから2人への注目が途絶えない。 何度か挨拶に来るものもいるが、何れも威圧的にお前達は何処の誰だと問うてくる。
「せめて礼儀として前口上と自己紹介が欲しいよね」
金巻毛の少年が言えば、白銀長髪の少年が応じた。
「そうですね。社交の場と言うのに貴族の礼儀とはこの程度と思えば、ショックが否めませんね」
白銀の長髪少年……シヴィルである。
金の少年アイザックが、ニッコリと微笑んだ。
「ねぇ、オジサン。 まずは鏡と財力と武力を確認してから声をかけてくれないかなぁ? まさか安易な行動で、折角の場を血の海にしたくないでしょう? ねっ?」
アイザックはシヴィルに同意を求める。
「相手をランク付けして声をかけてくるなと言うのはどうかと思いますし、血の海と言うのも少々大げさ。 だけど、まぁ……正直声をかけられるのは鬱陶しいので、今日はアイザックの意見に乗っておきます」
静かに瞳を伏せ、ニッコリとシヴィルは微笑んだ。
「おとといきやがれだよ。 オジサン」
オジサンと連呼しているが、アイザックと余り年齢が変わらないくらいだろう。 多くの人間が2人に声をかけた男性の勇気を賞賛し、視線を集めていた。 流石にコレ以上の恥はかいてはならないぐらいの思考を巡らせる知恵はあったのだろう。 男は礼儀正しく頭を下げて、沈黙のまま去っていった。
アイザックは料理を食べながら笑う。
「全く根性がないというか、メンタルが弱いというか、この程度で引いちゃうなんてねぇ」
「鬱陶しくなくていいです。 そもそも追い返したいのですか? 遊びたいんですか?」
社交の場ではあるが、何時も以上に男性を意識した衣装に身に着けたシヴィルは、ラフな口調で話をする。
美しい金と銀の少年は、対の人形のようだ。
柔らかく朗らかな笑みを浮かべる金。
控え目で、静かな印象の銀。
金の少年であるアイザックは、一応王族の血は流れてはいるが末端であり、貴族席にもない。望めば社交の場に出られるが、早くに結婚をした彼は社交の場に出る事を望まず、戦場で多くの手柄を立て、妻を家族を養う事を優先していたため、社交の場で彼を知るものと言えば、戦場での彼を知る者、そして庶民出身の薬師の弟子にまで視線を向けるもの好きぐらいだろう。
銀の少年であるシヴィルは、そもそもが女性であり平民であり、日ごろは上に白衣を着ていれば全てを誤魔化せる等と言う価値観で生活しているのだから、しっかりと着飾り、うっすらとだが化粧もしたシヴィルに気づくものはいない。
「なんですか、その恰好は? ぁ、こっちの美味しいですよ」
シヴィルの恰好は、薄いグレーを基調としたタキシード。 濃い色合いの襟元は銀糸の刺繍で美しく飾られ、レースのスカーフタイは繊細で美しく、ソレを止める宝石は決して大きく無いものの銀の装飾は繊細で華やかだった。 長い白銀の髪は、後ろで1本に結ばれているが、髪を止める銀飾りにも美しい細工が施され、華憐と言うに相応しい姿をしていた。
「似合っていませんか? 本当だ……素材はなんでしょう?」
会話の後半は食事についてである。
「可愛いですよ。 美人ですよ。 似合い過ぎて分けわからない!! 魔物肉ですよ」
「なら、いいじゃないですか。 ……魔物ですか……魔物肉って言うと、魔力濃度が高く魔力回路を刺激してしまうんですけど、大丈夫ですかね?」
「いや、いや可愛ければ良いというものではないでしょう。 なんでそんな恰好なんですか! 戦場では普通に食べられていましたから、問題ないのでは?」
「ドレスは華やか過ぎて……目立つでしょうし? ソレは戦場での戦いで発散できていただけというのではありませんか?」
手のひらの上に小さな魔力渦を作って魔力変化を確認する。
「十分目立ってますよ。 先に確認しなかったのはボスの落ち度と言えなくはないですが、ドレス持ってないんですか? こんなところで魔力を高めないでください。 警備の魔導士達を混乱させます」
「持ってはいますが、男性の服ばかり着ているせいか、ドレス似合わないのですよね。 いえ、むしろ警備に伝えた方がいいです。 コレ、魔薬使用者と混乱させてしまいますよ」
「……確かに日頃から男装ですが……似合わないと誰かに言われたんですか? まさかボスやルーカス……クラインではありませんよね?」
そう言いながら、アイザックは警備の者に視線を送り軽く手を挙げ、呼び寄せた。 今日のアイザックの仕事はあくまでもシヴィルの護衛である。 報告に焦り、側を離れる訳にはいかない。
会場警備を請け負っている配下の者達は、アイザックの元へ行くのを拒んでいた。 押し付けていた。 挙句緊張感なくジャンケンをし、負けたものがしぶしぶ近寄ってくれば、思い切り蹴りを入れられ床にキスをしてしまう警備騎士。
「先輩、先生、目立ちすぎです……」
当然、配下の警備騎士も目立つことになる。 警備騎士が2人の元を離れた途端に、アレは誰だと追いかけられ問い詰められる事は誰が見ても明らかであった。
「こっちの報告を終えたら、配置場所を変えてもらえばいいでしょ」
アイザックは、マリンかクラインに魔物肉の影響をすぐに検査するようにと、ルーカスには用心のため魔物肉の影響がある可能性を報告するようにと告げた。
魔物肉や魔物素材は、戦争以前は魔女達が全てを買い取っており、一般人が食べるということは戦争以前にはあり得ない事。 戦時下においては、深みのある味わいが人気であり、進んで食べられていた。 そして、肉を食べることで得られる高揚感は、兵士達の恐怖心を奪う事から、兵士を先導する者達にとって便利であったのもまた事実である。 シヴィルの懸念は、考えておくべき事柄だったと言えるだろう。
今、貴族内の派閥が揺らいでいる事を考えれば、予想を超える人員と言えるだろう。
その理由も分からないではない。
ルーベンス国は戦争を終えたことにより、各領地は領民を戦争に派遣したことで得る戦争給付金を失った。
例えるなら貧乏な両親の元に、子供3人の家庭があったとしよう。 母と3人の子は、父の働きによって送られてくる戦争給付金で生きてきた。 贅沢は出来ないものの祝い事には特別な食事を食べ、プレゼントを贈りあうぐらいはできた。
だが、戦争を終えたならどうなるだろう?
給付金は失われ、もともと豊かな地であっただけに、収穫量が増える事は価格崩壊へ繋がる。 領民の赤貧は、領主(貴族)達の赤貧にもつながっていた。
貴族達はなんとかして、自らの利益を取り戻そうと躍起になっているのだ。
戦争給付金の元を生み出していた魔物退治を行える者達と、領地経営成功者と、国の要人と、領地を盛り立ててくれる商人と、将来性のある者と……。
夜会の開催と共に、当主の挨拶を終えた。
楽団員が音楽を奏でるが、人々は音楽に耳を傾ける余裕などない。 情報を手に入れ、人との繋がりを作るのに忙しく動き回っていた。 ソレは貴族当主だけでなく、子息、令嬢達も同様である。 子息は領地を治めるものとして、令嬢も家のため自分のため、良い縁組を求めて挨拶に回る。
「皆さん忙しそうですね。 ぁ、ヴィ、コレ美味しいよ」
小さな体のどこにそんなに入るのか? というほど、誰も手につけぬ料理を一人楽しんでいる少年がいた。 金色の巻き毛が愛らしい30代少年である。 濃緑のタキシードに黒襟、黒のスカーフタイと言う姿。 おしゃれのポイントは少しデザインに凝った靴。 タイを止めるリング、巻き髪を抑える小さな髪留め。 何時もは愛らしいだけの姿が、今日は少しばかり凛々しくもある。
「余り目立つ行為は、どうなのでしょうか?」
そう応じるのは、ばっちりと着飾ったシヴィルである。 先ほどから2人への注目が途絶えない。 何度か挨拶に来るものもいるが、何れも威圧的にお前達は何処の誰だと問うてくる。
「せめて礼儀として前口上と自己紹介が欲しいよね」
金巻毛の少年が言えば、白銀長髪の少年が応じた。
「そうですね。社交の場と言うのに貴族の礼儀とはこの程度と思えば、ショックが否めませんね」
白銀の長髪少年……シヴィルである。
金の少年アイザックが、ニッコリと微笑んだ。
「ねぇ、オジサン。 まずは鏡と財力と武力を確認してから声をかけてくれないかなぁ? まさか安易な行動で、折角の場を血の海にしたくないでしょう? ねっ?」
アイザックはシヴィルに同意を求める。
「相手をランク付けして声をかけてくるなと言うのはどうかと思いますし、血の海と言うのも少々大げさ。 だけど、まぁ……正直声をかけられるのは鬱陶しいので、今日はアイザックの意見に乗っておきます」
静かに瞳を伏せ、ニッコリとシヴィルは微笑んだ。
「おとといきやがれだよ。 オジサン」
オジサンと連呼しているが、アイザックと余り年齢が変わらないくらいだろう。 多くの人間が2人に声をかけた男性の勇気を賞賛し、視線を集めていた。 流石にコレ以上の恥はかいてはならないぐらいの思考を巡らせる知恵はあったのだろう。 男は礼儀正しく頭を下げて、沈黙のまま去っていった。
アイザックは料理を食べながら笑う。
「全く根性がないというか、メンタルが弱いというか、この程度で引いちゃうなんてねぇ」
「鬱陶しくなくていいです。 そもそも追い返したいのですか? 遊びたいんですか?」
社交の場ではあるが、何時も以上に男性を意識した衣装に身に着けたシヴィルは、ラフな口調で話をする。
美しい金と銀の少年は、対の人形のようだ。
柔らかく朗らかな笑みを浮かべる金。
控え目で、静かな印象の銀。
金の少年であるアイザックは、一応王族の血は流れてはいるが末端であり、貴族席にもない。望めば社交の場に出られるが、早くに結婚をした彼は社交の場に出る事を望まず、戦場で多くの手柄を立て、妻を家族を養う事を優先していたため、社交の場で彼を知るものと言えば、戦場での彼を知る者、そして庶民出身の薬師の弟子にまで視線を向けるもの好きぐらいだろう。
銀の少年であるシヴィルは、そもそもが女性であり平民であり、日ごろは上に白衣を着ていれば全てを誤魔化せる等と言う価値観で生活しているのだから、しっかりと着飾り、うっすらとだが化粧もしたシヴィルに気づくものはいない。
「なんですか、その恰好は? ぁ、こっちの美味しいですよ」
シヴィルの恰好は、薄いグレーを基調としたタキシード。 濃い色合いの襟元は銀糸の刺繍で美しく飾られ、レースのスカーフタイは繊細で美しく、ソレを止める宝石は決して大きく無いものの銀の装飾は繊細で華やかだった。 長い白銀の髪は、後ろで1本に結ばれているが、髪を止める銀飾りにも美しい細工が施され、華憐と言うに相応しい姿をしていた。
「似合っていませんか? 本当だ……素材はなんでしょう?」
会話の後半は食事についてである。
「可愛いですよ。 美人ですよ。 似合い過ぎて分けわからない!! 魔物肉ですよ」
「なら、いいじゃないですか。 ……魔物ですか……魔物肉って言うと、魔力濃度が高く魔力回路を刺激してしまうんですけど、大丈夫ですかね?」
「いや、いや可愛ければ良いというものではないでしょう。 なんでそんな恰好なんですか! 戦場では普通に食べられていましたから、問題ないのでは?」
「ドレスは華やか過ぎて……目立つでしょうし? ソレは戦場での戦いで発散できていただけというのではありませんか?」
手のひらの上に小さな魔力渦を作って魔力変化を確認する。
「十分目立ってますよ。 先に確認しなかったのはボスの落ち度と言えなくはないですが、ドレス持ってないんですか? こんなところで魔力を高めないでください。 警備の魔導士達を混乱させます」
「持ってはいますが、男性の服ばかり着ているせいか、ドレス似合わないのですよね。 いえ、むしろ警備に伝えた方がいいです。 コレ、魔薬使用者と混乱させてしまいますよ」
「……確かに日頃から男装ですが……似合わないと誰かに言われたんですか? まさかボスやルーカス……クラインではありませんよね?」
そう言いながら、アイザックは警備の者に視線を送り軽く手を挙げ、呼び寄せた。 今日のアイザックの仕事はあくまでもシヴィルの護衛である。 報告に焦り、側を離れる訳にはいかない。
会場警備を請け負っている配下の者達は、アイザックの元へ行くのを拒んでいた。 押し付けていた。 挙句緊張感なくジャンケンをし、負けたものがしぶしぶ近寄ってくれば、思い切り蹴りを入れられ床にキスをしてしまう警備騎士。
「先輩、先生、目立ちすぎです……」
当然、配下の警備騎士も目立つことになる。 警備騎士が2人の元を離れた途端に、アレは誰だと追いかけられ問い詰められる事は誰が見ても明らかであった。
「こっちの報告を終えたら、配置場所を変えてもらえばいいでしょ」
アイザックは、マリンかクラインに魔物肉の影響をすぐに検査するようにと、ルーカスには用心のため魔物肉の影響がある可能性を報告するようにと告げた。
魔物肉や魔物素材は、戦争以前は魔女達が全てを買い取っており、一般人が食べるということは戦争以前にはあり得ない事。 戦時下においては、深みのある味わいが人気であり、進んで食べられていた。 そして、肉を食べることで得られる高揚感は、兵士達の恐怖心を奪う事から、兵士を先導する者達にとって便利であったのもまた事実である。 シヴィルの懸念は、考えておくべき事柄だったと言えるだろう。
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