偽りの婚姻

迷い人

文字の大きさ
53 / 65
3章 オマジナイ

50.絡めとるのは心か命か?

 ライオネルとミランダの元に訪れる貴族当主達。
 繰り返される挨拶、そして挨拶。

 ライオネル達の側に控える護衛は一時的に騎士団の実力者に代わり、パーシヴァルは、ライオネル達から少し離れた後方でルーカスの報告を受けていた。

 会場全体に魔力酔いの傾向が高まっており、小競り合いが発生しソレを止めるために警備騎士が動かざるを得ないのだという。

「魔物食は撤去させたのでは?」

「えぇ、最初の犠牲者が出た段階で撤去したはずなのですが……」

 苦笑交じりの2人は、パーシヴァルに寄り掛かるようにしているシヴィルへと視線を向けた。 音楽に耳を傾け小さくご機嫌な様子で鼻歌を歌っている。

 パーシヴァルが戯れに頬を撫でれば、触れる手に懐き魔力酔いは小康状態となっているように見られた。

「薔薇の君の動向は?」

 過去に聞いたことのない状況に、ナイジェルの犯行を疑った。 明確な犯人がない以上、魔力酔いによって大きな被害が出ればレイランド侯爵家の責任とされる。

「魔法薬を摂取しているところは確認されています。 ですが、周辺との会話を聞く限り、普通です。 ただ、その普通が一般的であって彼の普通ではないというのが、判断に困るところです」

 ルーカスが苦笑交じりにパーシヴァルに言えば、

「キモチワルイ言い方をするな、報告するならはっきりと報告しろ」

 ルーカスが溜息をつき肩を竦める。

「周囲が悲劇に慣れてきたんですよ。 それで今回の強固な結びつきを見せつけれ、焦ったのかもしれません。 悲劇を売りに自分を主人公とする方法を引っ込め、中央政府発足の柱になりそうな人物に声をかけ始めています」

「ふぅ~ん。 こんな場でか?」

 社交の場での政治的な会話は、血気盛んな若い者達が1度は通る痛々しい失敗である。 本人達はソレを俺様凄いだろ? というアピール代わりに使っているが、実質政治の世界に身を置くものにとっては、信頼できないお調子者の半人前とみられるのが現実だ。

 社交の経験がほぼないナイジェルもまた同じ道を歩んでいたが、彼を注意する友も教師もおらず、彼の地位に対して意見できるものもいなかった。

 いかに中央政府発足が貴族にとって魅力的であっても、ライオネルの婚約発表がなされ、流れが変わった状況で話すのは、国に対する裏切りを皆の前で宣言するようなものだ。 今、話しかけて欲しくないそう願う者達は、必死にナイジェルの視野を避けている状態だと報告する。

「鬱屈がたまり暴走するかもしれんな」

 自らを追い込んでいるだけなのだが、追い詰められていく本人は、そんな現実など気づく余力なんて存在していない。 気づくだけの何かがあるなら、そもそも追い詰められたりなどしないだろう。

「まさか、こんな大勢の前で?」

「そんな些末なこと、関係ないんだよ。 目的のために手段を選ぶ必要があるのか?」

 真顔でパーシヴァルが言えば、ルーカスの表情が凍り付いた。

「俺達が選ぶ方法は2つある」

 そう言葉にしたのちパーシヴァルは、ライオネルへと視線を向けた。 強い視線に気づいたライオネルは振り返り、挨拶の流れを止めてパーシヴァルの元へとやってくる。

「どうかしましたか?」

「もし、薔薇が暴走するとしたなら、暴走を事前に止めるか、暴走を利用して潰すか」

「被害予定は?」

「少なくても数十人単位」

 医師達が魔術警護として加わっているとはいえ、犠牲として切り捨てる数としては厳しい。 沈黙が続く。

「今回、薔薇は暴走しませんよ」

 シヴィルが呟く。

「それは?」

「暴走しなくても、この場を潰すことはできるから」

「ソレは、どういうことですの!!」

 ライオネルを主役の1人とする夜会で問題が起きれば、レイランド侯爵家は信用失墜も良いところだろう。

「魔物食による魔力増加、精神高揚。 それと蛇の邪法」

 騎士団庁舎への侵入者は、主の恋のおまじなの材料を集めに来たのだといっていた。 今、流行りの恋のオマジナイのためだと言っていた。 その割には材料はなかなかガチ素材でアイザックがドン引きするほどだった。

 この国で魔術を使う場合、資格が必要となっている。 

 基礎魔法を学び、才覚と、悪用をしないという人格が認められれば、専門分野の師に弟子入りする。 攻撃系、防御系、補助系、医療系、呪術系。 それら分野は多岐に分けられ、複数分野を身に着けるものは稀である。

 それほどまで魔術は難しく、もし違法使用が見つかれば法で罰することが可能だ。

 パーシヴァル達は、ナイジェルの取引相手を法で罰する事で、ナイジェルが魔術を違法使用しているという証拠は掴んでいる。 だが、王族の介入があれば容易にもみ消し可能な範囲の罪であり、交戦の回数を下手に増やせば、ライオネル、パーシヴァル側の世間的評価が下がりかねなかった。 そんな理由から、魔術の違法使用はナイジェルを攻撃するための武器とし今もまだ利用していなかった。

「ですが、魔物食は撤去しましたよ」

「う~ん」

 シヴィルは小さく唸り考え込んだ。 明らかに、夜会参加者達の魔力量、濃度が上がっているが、理由が思いつかなかったから。

「むぅ、頭がすっきりしない」

 大気中の魔力濃度は人に影響しないレベルだし、むしろ人の魔力が大気に影響を与えている。 1人1人の魔力増加量は微量だが、数が多く場に干渉するには十分と言える。

「お水でもお持ちしますか?」

「いえ、水でどうこうなるものではありません……か、ら……いえ、水ではなくお酒をもらえますか?」

 そう振り返り給仕係へと向かおうとすれば、その体をパーシヴァルは柔らかく受け止め、アイザックに視線で指示をだした。

 シヴィルに差し出された酒をシヴィルは飲む訳ではない。
ただ、ジッと眺める。

「多分、酒、料理全てに、魔物を可能したものが含まれています」

 ザワリとシヴィルの周囲が騒めいた。
流石に、酒と料理を全て撤去して、夜会継続は難しい。

「夜会を続ければどうなりますか?」

 ライオネルがシヴィルに尋ねた。 シヴィルを見る視線はすでに観賞用の白銀少年を見る視線から、シヴィルと言う薬師を見る視線へと変わっていた。

「蛇の邪法を行った者達の術が強制的に発動します。 昼間、騎士団宿舎に侵入してきたものの話を聞く限り、術そのものは正しくても発動条件には至らなかった。 だから緊急性の高い問題としなかったんです。 万が一に術が発動しても正常な発動はせず、中途半端に発動した術は対象者にとって丁度良い……恋愛のオマジナイと誤認する程度だったんです」

「発動条件?」

「えぇ、術実行者の魔力量なんて、グラスを零れ落ちる水のように必要以上、本来はたまらないはずですからね。 まさか魔物にこんな作用があったなんて……薬の制作に利用すれば、魔力量が少ない人でも……」

「先生!! 先生!! 思考が横にそれていますよ!!」

 今のルーカスには、日ごろの緩さはない。 その場にいる者達は自然と余計な口出しを避け、質問はルーカスが代表して行っていた。

「あ、うん、ごめんなさい」

「対処方法は?」

「現状では……お帰り頂くのが一番です。 場と人と魔力が巡回することで、外と内側の魔力の境界線があいまいとなり、本来持ち得る魔力量を超えた魔術が可能となりますから。 ですが既に魔力増加に加え、精神高揚が発生している以上、お帰り頂くよう動かすことが、逆に刺激になるかもと考えれば……容易に動けません」

「術自体に干渉は?」

「既に発動直前まで来ているので、術への干渉は術を術者に返還するぐらいですね」

 ルーカスは、側にいた部下にマリンとクラインを呼ぶように告げた。 その間にもシヴィルは一人ぶつぶつと独り言を続けている。

「蛇の邪法は、術の対象者を絡めとる魔術。 中途半端の魔力で、なぜか偶然にも上手く発動してしまえば、相手との魔力ラインが繋がり、ゆるゆると相手にまとわりつくのですか……、そうなれば術を受けたものは、かけたものが気になって仕方がない。 疑似的な恋愛感情に至る程度なのですね……興味深い物です」

 指示を出し終えたルーカスは、再びシヴィルへと視線を言葉を向ける。

「いやいや、ソレはどうでも良くって、今は最悪の状態を我々は予測し行動しなければならないんです」

「術が失敗していない限り、術を向けられたものが死にます」

 何を当然のことを聞くのだとでもいうように、シヴィルはルーカスを眺め首を傾げていた。 どうやらまだ酔っているらしい。

あなたにおすすめの小説

お姉様優先な我が家は、このままでは破産です

編端みどり
恋愛
我が家では、なんでも姉が優先。 経費を全て公開しないといけない国で良かったわ。なんとか体裁を保てる予算をわたくしにも回して貰える。 だけどお姉様、どうしてそんな地雷男を選ぶんですか?! 結婚前から愛人ですって?!  愛人の予算もうちが出すのよ?! わかってる?! このままでは更にわたくしの予算は減ってしまうわ。そもそも愛人5人いる男と同居なんて無理! 姉の結婚までにこの家から逃げたい! 相談した親友にセッティングされた辺境伯とのお見合いは、理想の殿方との出会いだった。

公爵家の秘密の愛娘 

ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝🌹グラント公爵家は王家に仕える名門の家柄。 過去の事情により、今だに独身の当主ダリウス。国王から懇願され、ようやく伯爵未亡人との婚姻を決める。 そんな時、グラント公爵ダリウスの元へと現れたのは1人の少女アンジェラ。 「パパ……私はあなたの娘です」 そう名乗り出るアンジェラ。 ◇ アンジェラが現れたことにより、グラント公爵家は一変。伯爵未亡人との再婚もあやふや。しかも、アンジェラが道中に出逢った人物はまさかの王族。 この時からアンジェラの世界も一変。華やかに色付き出す。 初めはよそよそしいグラント公爵ダリウス(パパ)だが、次第に娘アンジェラを気に掛けるように……。 母娘2代のハッピーライフ&淑女達と貴公子達の恋模様💞  ✴️設定などは独自の世界観でご都合主義となります。ハピエン💞 ✴️稚拙ながらもHOTランキング(最高20位)に入れて頂き(2025.5.9)、ありがとうございます🙇‍♀️

ある日、私は事故で死んだ───はずなのに、目が覚めたら事故の日の朝なんですけど!?

ねーさん
恋愛
   アイリスは十六歳の誕生日の前の日に、姉ヴィクトリアと幼なじみジェイドと共に馬車で王宮に向かう途中、事故に遭い命を落とした───はずだったが、目覚めると何故か事故の日の朝に巻き戻っていた。  何度もその日を繰り返して、その度事故に遭って死んでしまうアイリス。  何度目の「今日」かもわからなくなった頃、目が覚めると、そこにはヴィクトリアの婚約者で第三王子ウォルターがいた。  「明日」が来たんだわ。私、十六歳になれたんだ…

笑い方を忘れた令嬢

Blue
恋愛
 お母様が天国へと旅立ってから10年の月日が流れた。大好きなお父様と二人で過ごす日々に突然終止符が打たれる。突然やって来た新しい家族。病で倒れてしまったお父様。私を嫌な目つきで見てくる伯父様。どうしたらいいの?誰か、助けて。

もう一度あなたに逢いたくて〜こぼれ落ちた運命を再び拾うまで〜

雪野 結莉
恋愛
魔物を倒す英雄となる運命を背負って生まれた侯爵家嫡男ルーク。 しかし、赤ん坊の時に魔獣に襲われ、顔に酷い傷を持ってしまう。 英雄の婚約者には、必ず光の魔力を持つものが求められる。そして選ばれたのは子爵家次女ジーナだった。 顔に残る傷のため、酷く冷遇された幼少期を過ごすルークに差し込んだ一筋の光がジーナなのだ。 ジーナを誰よりも大切にしてきたルークだったが、ジーナとの婚約を邪魔するものの手によって、ジーナは殺されてしまう。 誰よりも強く誰よりも心に傷を持つルークのことが死してなお気になるジーナ。 ルークに会いたくて会いたくて。 その願いは。。。。。 とても長いお話ですが、1話1話は1500文字前後で軽く読める……はず!です。 他サイト様でも公開中ですが、アルファポリス様が一番早い更新です。 本編完結しました! 大変お待たせ致しました。番外編も完結いたしました!

【完結】勘当されたい悪役は自由に生きる

雨野
恋愛
 難病に罹り、15歳で人生を終えた私。  だが気がつくと、生前読んだ漫画の貴族で悪役に転生していた!?タイトルは忘れてしまったし、ラストまで読むことは出来なかったけど…確かこのキャラは、家を勘当され追放されたんじゃなかったっけ?  でも…手足は自由に動くし、ご飯は美味しく食べられる。すうっと深呼吸することだって出来る!!追放ったって殺される訳でもなし、貴族じゃなくなっても問題ないよね?むしろ私、庶民の生活のほうが大歓迎!!  ただ…私が転生したこのキャラ、セレスタン・ラサーニュ。悪役令息、男だったよね?どこからどう見ても女の身体なんですが。上に無いはずのモノがあり、下にあるはずのアレが無いんですが!?どうなってんのよ!!?  1話目はシリアスな感じですが、最終的にはほのぼの目指します。  ずっと病弱だったが故に、目に映る全てのものが輝いて見えるセレスタン。自分が変われば世界も変わる、私は…自由だ!!!  主人公は最初のうちは卑屈だったりしますが、次第に前向きに成長します。それまで見守っていただければと!  愛され主人公のつもりですが、逆ハーレムはありません。逆ハー風味はある。男装主人公なので、側から見るとBLカップルです。  予告なく痛々しい、残酷な描写あり。  サブタイトルに◼️が付いている話はシリアスになりがち。  小説家になろうさんでも掲載しております。そっちのほうが先行公開中。後書きなんかで、ちょいちょいネタ挟んでます。よろしければご覧ください。  こちらでは僅かに加筆&話が増えてたりします。  本編完結。番外編を順次公開していきます。  最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!

悪女の針仕事〜そのほころび、見逃しません!〜

陰陽@4作品商業化(コミカライズ他)
ファンタジー
公爵令嬢として生まれながら、子ども時代からメイドや周囲の陰謀で、次々と濡れ衣を着せられ、「悪女」扱いされてきたミリアム。 第3王子との婚約を聖女に奪われ、聖女への嫌がらせの冤罪で国外追放された後、平民として生き延びる中で、何度も5年前へのロールバック(逆行)を繰り返すことに。 生計をたてる為に、追放後の平民生活で極めた針仕事が、ロールバックが繰り返されることで、針仕事の能力だけは引き継がれ、天才的な実力を手に入れる。 その時女神「アテナ」の加護を得て、2つの力を手にすることに。 「加護縫い」 (縫った布に強力な祝福を込められる) 「嘘のほころびを見抜く力」 (相手の嘘を布のほころびとして視覚的に捉え、引き抜く、または繕うことで、真実を暴いたり修正したりする) を手にしたミリアムは、5歳の幼女時代まで遡り、2つの力で悪評をぬりかえ、仲違いしていた家族も、加護の力を与えることで協力な味方へと変貌。 さらに、女神から可愛いしもべ「アリアドネ」を授かり、元婚約者と聖女にザマァを狙う中、加護縫いの能力が最も高い人間を王太子妃に迎える決まりのある大国、ルーパート王国の王子が近付いて来て……?

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?