偽りの婚姻

迷い人

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3章 オマジナイ

54.終わりの始まり 後編

 騎士団に守られるライオネル。

 今となっては、ミランダとレイランド侯爵の安全は保障されたようなもの。 ライオネルの側にいる必要はない。 むしろ逃げた方が安全だったのだが、2人は側にいた。 ちなみにライオネルの叔母にあたる侯爵夫人は、我先にと他の子供達と逃げて行ってしまっている。

 まぁ、騒々しい警備対象が勝手に逃げてくれてよかったと、安堵の息を吐く者は多く、ソレを薄情だと騒ぐものはいなかった。

 ライオネルを守るための術返しは終えた。

 安堵の息を吐くマリンに、シヴィルが水を渡せば「もう」と苦笑交じりにまだ飲んでいたのかという表情をしつつも、マリン自身も魔力補給のために水を飲む。

 シヴィルは、自らも水を飲み続けつつ、側にいる給仕係に、現場の魔術師達に水を運ぶように伝えた。 閉鎖された空間で使えるものは全て使うのは当然のことだろう。

 会場から逃げる事が出来ない者達の騒ぎと混乱は、収まるどころか増すばかり。 それでも今年度加入の新入りや見習いは、貴族達が魔術師達の邪魔にならないように必死に挑んでいた。

「戦争を終えてから入ってきた知名度狙いと思ったが、なかなか頑張るじゃないか」

 一人の騎士が言えば、彼等を疎ましがっていたヒュブリス部隊の猛者たちは、ひっそりと若い騎士達を認め始めていた。





「なさけない有様ですね」

 ライオネルが舌打ちをする。

 会場に集まるのが貴族である。 彼等は、領地を持ち領民を守り導く立場にいるものばかりなはずなのだ。 それが力ない知恵の無い赤ん坊のように、ただ何とかしろ、外に出せと喚くばかり。

「醜いものだ……」

 だからと言って、地位と権力を持ってコチラに責任を求め対処を求めやってくるものは、邪魔でしかなくより鬱陶しい。 あぁ、イライラする……ライオネルは、人々の見本であるべく冷静を保つという行為にすら、腹立ちを覚えだしていた。

「事情を説明してもらえませんか!!」
「これはどういうことだ!!」
「殿下は、公爵はこの全容を掴めているのか?」
「まさか、アナタ方が……一体何が目的なのです!」

 警備騎士に阻まれ、詰め寄ってくることは無いが、叫び続ける声は耳障りで苛立つばかりである。

「殿下、ここは私にお任せを……これでも人に何かを使えるというこは、得意なんですよ」

 そう場違いなほど明るく朗らかに言い放ったのはミランダで、彼女は返事を待つことなく説明を求める者達の元に歩き出す。 ソレに付き添うレイランド侯爵。

「私もこの社会の責任者としての務めを果たしましょう」

 説明、説明、説明、どう責任を取るのだ!

 大抵がそんな叫びの中で、美しい顔立ちの金髪の少年が必死にマリンへの面会を求めていた。 まだ、幼い少年の胸にも小さいながら卵が抱かれており、騎士達は少年を幾度となく追い出すが彼もまた必死であった。 騎士達が少年を強引に排除しないのには理由があった。

 既視感……があったから。

 マリンは今は重要な時期、それ以前に怪しい物を通す訳にはいかない。 騎士団のものはそう叫ぶ。

「アイザック・ヒューバーを!!」

 そう叫べば、とうのアイザックが顔をだした。

「ぁ、すみません。 その子うちの子なんです!! そんなに慌ててどうしたんだい?」

 そう告げたのはアイザックで、子供にしか見えない男に子供がいたのか?! むしろ双子にしか見えない2人に混乱するも、状況が状況、必死に任務に意識をもどそうとするのだった。

「父さん! クラインオジサンから伝言なんだ、お、マリン……さんにと、お願いだマリンさんにあわせて!!」

 アイザックは唖然としている騎士達の中を素通りして、彼とよくにた容姿の息子をマリンの元に連れて行った。

「おば……マリンさん」

 前半睨みを利かせるマリンと、言い直すアイザックの息子。

 思いがけない状況に、はち切れんばかりだったの緊張がゆるんだ。

「マリンさん、オジサンが危ないんだ。 オジサンには、もう術を確実に成功できると言い切れるだけの魔力も集中力もないから。 手伝ってほしいって、お、マリンさんに伝えるようにって、頼まれたんだ!! ソレに会場から逃げるのを阻害している紙が、オジサンたちの邪魔をしていて、ほんの小さな紙だから、騎士の人達にもどうにもできないし、魔術師達は最後の仕上げがあるし」

「シヴィ!!」

 マリンがシヴィルに叫ぶ。

「ここは、任せてよいですね?」

 一応質問ではあるがNoを許さない勢いである。

「ボーナス次第?」

 無表情でポソリとシヴィルが呟けば、

「それなら、働きに応じて支払いましょう」

 シヴィルが金を求めるのは珍しいが、ライオネルは真顔で言った。

「そう、ならすべてが丸く収まったら、お願いごとを幾つか聞いてくださいませ」

 ニッコリと微笑む姿は妖艶、優艶、艶麗で、これは誰だとライオネルが躊躇った。 息を飲んだ。 寒気がした。 これはなんだ? まるで、触れてはいけない……そう、悪魔と契約でもするような気にさせられた。

「判りました。 私にできることなら」

 乾いた喉で、ライオネルは声を絞り出した。

 丁度その頃、パーシヴァルとルーカスの元に、小さな紙で作られた花吹雪のようなものに足止めされ、人々が閉じ込められたと報告が入った。

 まだ、何かを見逃していたのか?

 日頃ナイジェルを見張っている限り、軽薄そうな貴族の接触ぐらしか聞いていない。 彼に薬を届けていた。 受け取っていた相手は片っ端から連行した。

 今回、ナイジェルの協力者は、今まで表に出たことが無い呪術師たちであることを思い出し、意識を失い拘束術付きの紐でぐるぐる巻きにしてある男を見た。

「起こして、状況を説明させるか?」

 パーシヴァルの背後に隠れているかのような位置取りで、シヴィルが言う。
 
「必要がない。 というかやめた方がいい。 不意打ちが聞いたから捉える事ができたんですよ。 意識が戻ればこの程度の拘束簡単に逃げ出してしまう」

 シヴィルは告げながら、男に何らかの魔術を施した。

「何をしたのかな?」

 混乱時でありながら、パーシヴァルは問い詰めにならないようにシヴィルに気を使う。

「眠りを深くした。 状況によっては命を奪う準備をしておいた方がいいと思う。 医局長の前では言えない言葉だけど……」

「それほど危険なのか?」

「これは、パーシィやナイジェルと同類。 今まで確信はなかったけど、誰に学んだか? 何時から存在しているのか? ひっそりと国に干渉している呪術組織のぞんざいが、妙に不気味に感じていたのだけど……判った……彼等は、賢者だ」

 賢者とは、魔女組織の理念が気に入らないと出奔した者達が集まる組織だ。

 魔女組織が、巨大な力は人間社会に関わる者ではないとし。 賢者組織は、力があるものが世界を支配しなければどうするのだ? と考える組織である。

「魔女達から力は借りられないのか?」

「すぐは無理。 呼び出してもアレは魔女が関与する案件かどうか? に何時間も考察を重ねるから、すぐに役立つ者ではないと思う……コレはあくまで人間社会の事件で、魔女は人間社会に不干渉が、組織理念だから」

「なら、どうすればいい」

 そうシヴィルに尋ねながら、パーシヴァルは心のどこかに安堵を感じていた。

 パーシヴァルは、魔力回路異常者ではあるが、肉体系である。 魔術など学ばなくても、身体強化は常にかかっている状態だし、余程でなければ治癒力・再生力も早い。 魔法を使うよりも、小石を投げつける方が確実に殺傷できるし。

 いわゆる完全な脳筋である。

 戦中も、ルーカスはヒュブリス部隊に参謀となるべき人間を求めた。 ヒュブリス部隊が引き受ける仕事はどれも危険で、困難で、知恵が必要となるから。 参謀候補は幾人かいた。 だが、その場にいないながら状況を予測し、理解し、遠方から助言をよこすシヴィル父の手紙の方が余程役にたっていたことから、参謀を迎えないまま戦争を終えていた。

 情けなくも、パーシヴァルはシヴィルに懇願し、彼の父の代わりとなることを求めた。

ヒザをおり、シヴィルの両手を包み込むようにとり、そしてその手に額をあてて懇願する。

「どうか、助けてほしい。 知恵を貸して欲しい」

「もう……動き出した事態を対処していくしかありません。 もう、すぐに術返しが発動します……妨害してくるものの対処を……パーシィはもう既に知っているはずです。 どうすればいいかを。 目を閉じて」

 シヴィもまた、2人が握り合う量の手に額を当てた。

「見えるはず、アナタは知っている。 教えられている。 魔力の仕組みを、制御の仕方を知り、 そしてソレを見つめる方法を知っている。 体内の魔力の流れを見る方法をしっている」

 濃度の高い黄金の流れがめいた。 深い川が大地を流れるように、ソレは身体を巡る。

(※パーシヴァルの記憶にはないが、過去、パーシヴァルの母とシヴィルの母の間には、交流と言う名のバトルが定期的に行わていた。 パーシヴァル母が勝てば、パーシヴァルの力を制御するためにシヴィル母が協力する。 ちなみにシヴィル母が勝てば、そのまま殺すという。 ハートフルな交流)

 シヴィルは誘導する。

「視界を外に広げて……会場内に流れる魔力が見えるはず。 自分と同じように……巨大な魔力を持つ者を……、ナイジェルのみを生かし、全て処分するのよ!!」

 処分、死を命じる言葉。 それはシヴィルの言葉とは思えず驚いた。 だが、そうしなければいけないのは、それほど危険なものが入り込んでいるのは、十分に理解できた。 そして、ソレは他の誰かに任せること等できない、自分の仕事だということも重々に理解していた。

「行ってくる」

「うん、気を付けて」

 両手を握りしめたまま、微笑んだシヴィルは人目もはばからず口づけた。 パーシヴァルもまた口づけ耳元で囁く。

「好きだ」

「うん」

「これが終わったら……話がある……」

「判ったわ」

 シヴィルは、優しく静かに彼女らしい微笑みと共にパーシヴァルを送り出した。

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