偽りの婚姻

迷い人

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3章 オマジナイ

55.彼の終わりの終わり 前編

 会場内にいる魔力回路異常者へと意識を巡らすパーシヴァル。

 高く濃密な魔力を所有するものはナイジェルを除き、1.2.3……4。
 4人目を感知し、パーシヴァルは項垂れた。

 ……シヴィルである。

 どんだけ水を飲み続けていたんだ!!
 という突っ込みは、後でしよう。



 シヴィルと比較すれば他の3人は、現在進行形で魔術を使い続けているためか、魔力量はシヴィルやナイジェルと比較してかなり低かった。

 パーシヴァルは、攻撃手段に悩み。

 そして指示を出す。

 もともと、ナイジェルの介入を予測し、パーシヴァルは自分専用武器を幾つも会場内に持ち込んでいた。 その1つを選び見習い騎士に持って来るようにと指示をし、そしてアイザックに騎士の一団へと伝令を頼んだ。

 パーシヴァルにとっては、魔力回路異常者と言っても普通の魔術師となんら変わりはない。 一般の騎士と一般の魔術師が対峙した場合、勝負は双方の実力ではなく、双方の距離と護衛の存在が勝負を決める。 魔力回路異常者同士であれば、一般の騎士と魔術師の戦いと大きな違いはないと言えるだろう。

 パーシヴァルが考える問題は、3人がどれ程の連携を持っているかというものだ。

 1人目を殺しているうちに2人目3人目が貴族達を人質にとれば、お手上げとなる。

 ここ数か月、ナイジェルにチョッカイを出すことで、遠距離からの不意打ちにどの程度対応できるかを計っていたが、基本的に物理攻撃に魔力をまとわせると本人の意識に関係なく、攻撃を弾き飛ばす。 相手よりも強い魔力の塊をぶつければ、魔力障壁を突破できるだろうが、生憎とパーシヴァルは魔術師ではない。

 だが、単純な落下物など、魔力がこもってなければ反応できずにいた。

 ナイジェルが常に側に人を置いていた事を見ても、一般的な魔術師と同じように術の発動までには隙が生じるのが予測できる。 もっとも有効なのは、物理で力おしと言う訳だ。 多分それは、魔女……いや賢者にも共通なはず……。 思い出したばかりの幼い頃の記憶がパーシヴァルの背を押す。

「閣下! 本当にコレで行くんですか?」

 そう言ってパーシヴァルの元にやってきたのは、実務に使えないと判断された今年入団の見習騎士4名と、戦場で弓を武器とし後方支援に身を置いた騎士達10名。

 見習4人は、巨大な箱を3人で持ち、1人は金属製のゴツイ矢に入った筒を持っていた。

「騎士として、不意打ちは卑怯なのではありませんか!!」
「アナタに憧れヒュブリス部隊を希望しましたが、絶望しました」
「これでは、アナタの部下であることに疑問を感じずにはいられません!」
「あのそのえっと……僕もこれは……違うとおもい、ます……」

「そりゃぁ、結構なことだ。 オマエ達のような甘ちゃんは死ぬしかないからな。 そして、オマエ達のような甘ちゃんは、自分の命だけでなく、貴族の8割を殺してしまう。 ここを出たらとっとと退団届をだして、うちの騎士団から出ていってもらおう」

 甘く育てられた見習い騎士は、パーシヴァルの言葉に驚いた。

「たかが、紙吹雪相手に何を恐れているのですか!」

 既にパーシヴァルは見習いごときの声を相手にしていない。 せいぜい、コレ以上騒ぐなら集中の邪魔だからぶっとばしておくか? 程度でありその視線は見習い騎士達から言葉を奪った。

 パーシヴァルは3本の矢を持つ。 3方向に散らばった3人を一度に打つのは無理だ、他の相手に死を伝えられる前に2人目、3人目を殺さなければ、貴族達が人質に取られたも同然である。

 パーシヴァルは3人の賢者の位置を弓騎士に伝えた。 だが、1人だけ弓騎士達には認知できない賢者がおり、パーシヴァルは彼の中で立てた作戦を変更していく。

 パーシヴァルは弓騎士に告げる。

「2隊に分かれ、俺が標的を射止めたあと、徹底的に連射。 3人目は俺が直接行くから先の2人はきっちりと仕留めておけ、過剰なくらいでちょうどいい。 肉片にかえろ。 女相手だからと遠慮もいらない。 相手は俺と同類だ。 慈悲も情けもいらない。 躊躇したら殺されると思え」

 急所に当てたとしても、絶命までの間がある。 その時間を攻撃に転じるか? 回復に転じるか? 仲間への連絡に転じるかは分からないが、防御力は劇的に下がり、通常の弓でも十分に効果があるだろう。

 パーシヴァル以外、構えることが出来ぬ弓を構える。
 パーシヴァル以外、引けぬ弦をやすやすと引き構える。

 パーシヴァルは、わずかな躊躇いもなく3名の賢者に弓を立て続けに打ち込んだ。 狙いは彼等の額。 魔術師にとって思考は術そのものともいえる。 混乱すれば術は発動できず、怒りに震えれば操作は乱れる。

 なぜか幼い頃に忘れていた母の記憶。 そこには、身をもって魔女との戦い方を教えてくれた母の存在がった。



 賢者にも彼等を守る傭兵が側にいたが、気づいた時には雇主である賢者は射貫かれ、それでも死ぬことない彼等を化け物と呼び逃げ出した。

 精神的に未熟なのは、魔力回路異常者の特徴の一つと言えるだろう。 化け物と呼ばれた事が気に障った賢者Aは、自らが雇った傭兵たちを襲いだし、戦闘状態へ入ろうとした……。 だが、無数とも言える弓が賢者を貫き、その死を確定させた。



 女性である賢者Bに対してもパーシヴァルは迷うことなく額の部分を狙う。 唯一彼女を守っていた傭兵は身を挺して、女賢者を守ろうと立ちふさがる。

 傭兵は、……矢を受けた瞬間、肉がはじけ飛び絶命し、そして矢はそのまま女賢者の額を打ち抜いた。 だが……人1人分、肉盾の分の威力は落ちていたらしい。 それは回復のチャンスであったが、女賢者は正気を失い、狂気とかした。

「ああ;ぁぁっぁぁぁぁっぁぁあああああああ」

 叫びともならぬ叫びは、彼女が制御する紙を集合させ巨大な獣を作り出そうとしたが、魔力を制御するための脳は、制御しきれぬ自らの魔力によって破壊される。 そこには、脳を破壊されても生きている化け物が叫び死を待っていた。

 そして弓騎士達によってとどめが刺される。



 3人目に、護衛はない。

 堂々と会場の全てを見下ろす2階ギャラリーで術をそうさしている。 余程自分に自信があるのかと思ったが、パーシヴァルには丸見えの姿は、弓兵たちには見えないのだと伝えられていた。

 3人目に向けられたパーシヴァルの弓は、決して威力が衰えていた訳ではない。

 だが、

 弓は、頭を貫通することなく数センチを進んで動きを止めた。 ずうずずずずと弓が肉体から抜け落ち、そして再生を始める。 そこに剣を構えたパーシヴァルが飛び一撃を入れた。 パーシヴァルの攻撃は、魔法障壁により防がれたが、その怪力によってひびが入る。

「「化け物め!!」」

 双方が叫んでいた。

 それでも、会場に貴族を足止めしていた呪術紙は動きを止め逃げ出す人々、そして興味本位とその場に残りヒュブリス部隊の活躍を眺め続ける者。

 パーシヴァルは幾度となく剣を振るう。
 賢者はソレを魔力で作りあげた障壁で防ぐ。

 繰り返される単純な攻撃、防御。
 見世物としては、余り面白みのない攻防。

 パーシヴァルの攻撃を、自動障壁で防げるはずもなく、簡易化した術で作り出した壁など1撃で崩壊する。  逃亡のための術も準備はしてある賢者だが、発動までの時間を与えてもらえそうにない。

 男は腰に足した短刀を手にする。

 ぉおおおおおおお、刃に見えるは蠢く人の顔。 わずかな剣先でも触れれば、相手は呪われる類の魔剣を手にした。 男は見誤っていた。 パーシヴァルが人を殺すことになんの躊躇もないことを、騎士道の欠片も持ち合わせていないことを、良心にパーシヴァルは悩まない。

 目の前の男を殺すことに悩むくらいなら、シヴィルのことを思う方が幸福で価値がある。

 現にパーシヴァルは考えていた、今日この後、どうシヴィルにプロポーズし、自分の愛情を受け止めてもらえるように誘導するかを。 何しろ今日のシヴィルは随分と積極的だから!

「ぁ……」

 3人目の賢者は、短剣を手にするまではできたが、ソレを一振りすることすらできなかった。

 そして、欲望まみれのパーシヴァルに、縦に綺麗に半分にされた。



 呪術の時が満ちる。
 術返しの準備が整う。

 魔導士達による一斉詠唱が開始された。

「理由がわからなければ、これは恐怖でしかないなぁ……」

 2階ギャラリーから術を発動するための魔術紋と、広間に響く詠唱を聞き、パーシヴァルは赤く血に濡れた身体で眺めていた。 令嬢達の術もソレをかえすための術も成功していた。 

 術返しは、令嬢達に、令嬢達の思い人に宿る邪法を消し去るのではなく。 あくまでも……術の構築者に責任を取らせるという術だ。

 銀色の卵を宿す者達の身体から卵は消え去った。

 卵自体に攻撃性はない。

 呪術の目標を定めるためのものでしかない。
 だが、最も重要な役目と言えるだろう。

 卵を作り出すための核は、思いと魔力を込めて作り出す重要な呪術アイテムである。 本来であれば術者が時間と思いを重ねて作るべきもの。 だが、ただの令嬢に作れる訳などない。 だからナイジェルはソレを自らの手で作り出し、王宮の薔薇に仕込み。 必要アイテムの1つとして噂を広めたのだ。

 恋の術には『王宮の薔薇から生まれる妖精の雫』が、最重要アイテムとして必要ですよと。

 全ての卵はナイジェルの元へと集い、令嬢達の身に巻き付いていた蛇は、銀色の卵を求めて一気にナイジェルへと襲いかかる事となった。

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