偽りの婚姻

迷い人

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3章 オマジナイ

57.強制終了

「何を謝っているんですか?」

 宝物でも抱きしめるように、壊さないようにそっと触れるパーシヴァル。 ソレをシヴィルは金色の瞳で見上げ頬に触れる手にすり寄るから、口付けたい衝動に駆られたパーシヴァルはグッと堪えた。

 流石に不謹慎だ……。

「俺が、もう少し早く対処できれば、油断しなければ……」

「油断も何も予定調和。 アレの罪を周知させるには、必要だと皆理解していたはずです」

「ソレはそうだが……、流石にライを狙い返すところまでは……」

 終わったと全員が安心しきっていたのは、ナイジェルが防御をした場合であってもナイジェルは十分に消耗するだろうと思われていたからだ。 それでも、パーシヴァルがシヴィルを見続け、見返せば、その瞳に迷いや揺らぎがない。

「こうなることは想定していたのか?」

「はい。 パーシィは……その、よくやってくれたと思いますよ。 そもそも賢者が出ている以上、その後始末は魔女の役目ですから。 ただ……魔女達は、世界を守るために自分達は世界への干渉は最低限にすると定めています。 その最低限がどこかを会議で話し合うと、長いんですよね……」

 シヴィルが溜息をつく。

「ならば、やっぱり俺の役目だろう?」

 そう告げれば、シヴィルが抱き着いてきて、その背を髪を撫でながら、パーシヴァルは躊躇していた。

 シヴィルはナイジェルにとどめを刺したことを余り気にしていないようで、ソレが大きな躊躇いとなっていた。 躊躇いつつも、では自分がドレ程の数を殺してきたのか?と、言われれば、その行為に1度たりと動揺などしたことはない。 むしろ今、シヴィルがナイジェルに止めをさした事の方が余程動揺しているだろう。

 ……ま、いっか。
 そもそも、俺が何もできなかったのが悪い訳だし。

 軽かった。

「それよりも! 聞いて欲しい事がある」

「なんでしょう? できれば早めに済ませて貰えますか」

 腕の中で、スリより甘えながら、その声は淡々としどこか辛辣に思え、パーシヴァルは苦笑する。

「うん、ソレ淡々といわれると男心がなんか痛い。もう少し抑揚をつけて喋って、お願い」

「……今は、少し……難しいのですが……むしろ、パーシィの方が異常なのだと思いますよ」

「何がだ?」

「そこまで、魔力垂れ流し状態で感情に精神に、変質が無いというのは」

 周囲は無言で突っ込んだ『十分、オカシイから!!』と、だがまぁシヴィルにとっては、パーシヴァルは感情豊かで一般人の範囲内に見えているという事だ。

「あぁ……まぁ、そこはほらアレだ、俺の感情の全てがシヴィル好きに集中しているということだきっと」

 人を観察し、人の取る反応を眺め、人の感情・行動の平均値を割り出し、行動しているという事実をパーシヴァルは今この時にわざわざ説明する気はなかった。

 シヴィルは瞳は金色のままだが、髪は真っ白のままだが、何時ものシヴィルのようにパーシヴァルに微笑みをむけた。 だが、どこかぎこちない。

「難しい?」

「かなり、魔力を摂取して、封印を壊してしまいましたので……」

 暴走しないように感情が自然と抑制されている。

「ぁ、あぁ、そういう……」

 なぜ封印? ということは聞かない。 聞かずともパーシィヴァルは知っていたから。 シヴィルが誰の娘であり、母親に魔力回路に異常を持つ者は、腹にいる間に膨大な魔力影響を受けるために、親よりも魔力回路に異常が生じやすくなるのだ。

「えぇ、父と母の願いでしたから、普通に生きて欲しいというのが。 ただ、あの親の子に生まれた以上、ソレは無理と言う話だと思うのですけどね」

 肩を竦めるのを見れば、パーシヴァルは苦笑した。

「確かに」

 シヴィルは、パーシヴァルの腕の中から逃れようと、相手の胸を押し離れようとした。 だが、触れているばかりの腕の中なのだが、それは巨木を移動させるかのように無意味な行動となる。

 腕の中から抜け出れぬシヴィルは、ぱちぱちと軽く放電し始めた。

「ちょ、なんだなんだ。 何がしたい」

「ここから出たいのですが」

「あぁ、そうならそういえばいいものの……嫌だ」

「……攻撃を開始する前に、離してください」

 再び放電を始めれば、

「だからマテと言っている。 願いを聞いてくれたら離そう」

「会話に抑揚をつけましたよ?」

「あ~~~、ソレをお願いにされちゃったのかぁ……なら、もう1つ」

「まぁ、聞くだけなら……」

「結婚しよう!!」

 してくれないか? でも して欲しい。 でもなく、確定事項として伝える。

「……唐突ですね」

「俺が記憶している限りは、唐突でも何でもないんだが……」

「変な人ですね」

 照れたように視線を背ける。
 悪くはない反応にホッとした。

 運が良ければいけるか? という思いはあるが、一応まだまだ長期戦は覚悟している。

「そうか?」

「普通、この状態でそんなことを言いますか?」

「まぁ、確かにギャラリーは多い」

「そうではなく……」

 周囲が、以前の自分と今の自分を分けて考え、ともすれば自分達を謀っていた魔女であると思っている者がいるだろう。 そんな中で、何のためらいもなくパーシヴァルは結婚を申し込んできたことを指した言葉だった。

「本当、バカな人」

「仕方がない。 一目惚れなんだから。 初めて見たときに、まだ赤ん坊だったシヴィを見て、この子がいい、この子しかいない。 小さなころの俺はそう思ってしまったんだ」

「究極のロリコン?」

「なら、今は興味失くしているだろう? 今でも変わらず好きだ」

「私は、赤ん坊の頃から媚びるのが上手かったそうですから」

 視線を伏せながら誤魔化すようにシヴィルは言う。

「次に会った時も、その次に会った時も、俺はシヴィがいいと思った。 シヴィだと気付かなくてもシヴィ以外は考えられないと思ったんだ。 だから、この先もずっとそう思い続ける」

「それは、恐ろしく情熱的ですね」

 シヴィルは、何かを言いそうに口を開け、言葉を紡ぐことなく口を閉ざし、感情の薄い瞳が不安に揺れ、再び口を開いた。

「好きよ」

「なら!」

「もし、私のことが本当に好きだというなら、もう少し待っていただけますか?」

「嫌だ。 もう、待ちたくない」

「子供ですか……」

「なんといわれようと嫌だ」

「嫌だと言われても、こればかりは……迎えが来てしまうので」

「ぇ? ちょ、待て。 誰が?」

 パーシヴァルが脳裏に過ったのは『あの世』からの迎えで、本気に焦っていた。 シヴィルの身体が光だせばその光を消そうとパタパタと払いだす。 かなり混乱していた。

 そして、シヴィルの周囲を囲むように光る小人が現れる。

 反射的に握り潰そうとしたが、それは触れることも出来ない幻影でしかなかった。 そして小人の幻影は告げる。

『白き魔女の子よ』
『只人の影なる英雄の子よ』
『定めを破り封じを解いたか』
『親の願いを、無碍にしたか』
『その力は、人の世にあってはならぬ』
『人の世を惑わす力なり』
『故に、約定通り魔女の森へと連れ帰る』

 次々に小人が告げる。

「ま、まて、待ってくれ!! 俺もいく!」

 パーシヴァルの言葉に、シヴィルも小人たちの姿に扮した魔女達も目を丸くし、会場内に残る騎士達や、様子をうかがっていたライオネルが、慌てだす。

「ちょ、待って下さい上司!! この状況を放り出してどこ行こうって言うんですか!!」

 脊髄反射的に叫ぶルーカス。

「オマエが居ないと困るんだ!!」

 熱烈なライオネルの叫びに、横で身もだえするミランダ。

 そして、部下たちの叫びが続く、途中から「ストーカー」「変質者」等と言う明らかにオカシイ叫びも混ざっているが、気にしては負けである。

 シヴィルはクスクスと笑う。

「好かれていますのね」

「だが、それ以上に俺はシヴィを好いている」

「ありがとうございます。 私も好きですよ。 だから……」

「だから、なんだ?」

「戻ってくるまで浮気は厳禁です」

 アヤシイく金の目が輝いた。

「そんなことは絶対ない!! ってか、行くなら連れていけ」

 パーシヴァルの揺るぎのない言葉に苦笑しつつ、シヴィルは無視した。

「そう……なら安心ですわ。 私、かなり嫉妬深い方ですから」

 ニッコリ笑って……そして、シヴィルは光の粒に覆われて小人と共に消えていった。

 パーシヴァルは、その場で座り込み呆けた、だが! 次の瞬間に立ち上がり、ライオネルを振り返り叫んだ。

「ライ、魔女の森は何処だ! シヴィルを連れ戻す!」

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