偽りの婚姻

迷い人

文字の大きさ
63 / 65
終章

60.新・国王陛下の苦悩と苦労

 ライオネルは国王となった。
 いや、業務だけであれば8割は既に交代していた。

 ただ国王が王位にあったのは、未だ彼を押し続ける古い勢力があったから、流石に代替えの効かない外交を無視するだけでなく喧嘩腰になられては……、目に見えて分かる戦争を呼び込もうとする誰もが望まぬ展開に、今回だけは反ライオネル派も口を開く事は無かった。

「まぁ、例え1割であっても賢者を従えてしまったミランダのおかげ……でしょうけど……。 まったく頭があがらん……」

 ボソリと呟くが、ミランダ自身を、その行動を嫌がっている訳ではない。

 まぁ、配下とした賢者によって印刷技術を向上させてしまったというのは、……どうなのだろうか? とは思うが……。 賢者の全てが王家の乗っ取りを考えている訳ではなく、魔女達の己への鍛錬を永遠と追い求めストイックな様子が、嫌だっただけというものは少なくはない。 だからと言ってミランダの作り出すものが、快楽の代替えとして、忠誠に繋がるというのは理解できないが……。

 自らの執務室でありながら、ライオネルはノックをする。

「はいはいは~~~い」

 ご機嫌な様子で扉が開かれた。

 別に鍵がかかっている訳ではない。 ただ、乙女の都合が色々あるらしく、一回合図を入れて欲しいと言われた。
 
 別室を使えばよいと思うのだが……。

 ミランダのこぼれる笑みに、ライオネルが溜息をついた。

「ヨダレ、こぼれていますよ。 何を妄想していたのかは絶対に聞きませんけど、お拭きなさい」

 そう言いつつもヨダレをぬぐうのはライオネルである。

「あら嫌だ……ライオネル様。 王位着任、おめでとうございます!」

「相変わらず情報が早いですね」

 呆れたように言えば、

「目や耳は何処にでもあります。 ライオネル様がココに来るまで幾人かの貴族と打ち合わせをなさっていたでしょう? 私に話が届くまで十分の時間ですわ」

「全く恐ろしい人だ。 そうやって王宮内に目と耳を張り巡らせてしまうなんて」

「あら、それはパーシヴァル様が、賢者を潰してくださったから出来る事ですわ。 そのシステムをそのまま流用させていただいているんですから。 私にすれば既に当主は不在となっているにもかかわらず、情報収集が機能し続けているマノヴァ商会の方が恐ろしく思えますわね。 餌も何も必要とせずただ忠誠のみで動いてますから」

「……それは、聞いたこと無い話ですが?」

 お茶を入れながらミランダは首を傾げる。

「そうでしたか?」

 そうでしたか? じゃないだろう……。

「ソレは、魔女へと繋がっているのでしょうか?」

「どうでしょう? うちに来るような賢者は、魔女の中でも位が低かった者達ですから……ですが、マノヴァ前当主の妻は希代の魔女と呼ばれた女性。 何らかの経路は所有しているかもしれませんね」

「……それはヴァルには?」

「パーシヴァル様が気づき締め上げるのでは? という心配ですか? 無理だと思いますわ。 あの方は魔力をたどっていますもの。 それに、気づかれるほど甘い相手ではありません。 賢者たちも情報交換の持ちかけがなされなければ、気づかなかったと言っておりますもの」

「そうか……」

「そ、れ、よりもぉ~~~!!」

 お茶を手渡すとともに正面に小さな紙の束を持って座るミランダ。
 
「パーシヴァル様をお守りになるために、王位を奪ったとお伺いしましたわ!! その時の心象をお聞かせいただけますか!!」

「ミランダ……」

「いえ、私どもは、それは外側の事実だけでも十分萌える事は出来ますわ! ですが、それとは別に生の声を取り入れ……んっぐっ」

 ミランダの口がライオネルの唇によって塞がれた。 だぁ~~~とミランダは真っ赤に染まるが、一切の抵抗はない。 大人の口づけを済ませれば、しおらしいミランダがそこにいた。

「もう少し未来の夫に対する気遣いを頼めませんかね?」

「は、はい……」

「騒々しいばかりでは、私も気が休まらないというものです」

「申し訳ありません」

「何から何まで許可している訳ではありませんよ。 特に今回のように強引に王位を引きついたとなれば不満に思う者も出てきます。 次期王妃の戯れを戯れではないと利用するものも出てくるでしょう。 そこは、ご理解できていますか?」

「はい」

 何時の間にかライオネルは、ミランダの両腕をまとめ上げ、その身動き奪っていた。

「あの、こんなところで……」

「これはお仕置きです。 周囲も理解してくれますよ」

 気づけば静かに気配を消し、側に控えていた護衛も、ミランダの秘書も、身の回りの世話役も全て部屋から退場していた。



 まぁ……偽りの婚約者ながら、そこそこ仲良くはやっているようだ……。





 そして、パーシヴァルと言えば……、衣装づくりを進め量が増え、その保管に騎士団宿舎の1室を埋め尽くし、次の部屋へと侵攻すれば、アイザックは不満を述べはじめる。

「公私混同ですよボス」

「では、どうしろと?」

「私邸を持たれるのはいかがですか? こうロマンチックな場所に、星を眺めることが出来る湖のほとりなんていいですよねぇ~。 シヴィル様もウットリする事間違いなしですよ。 おすすめなのは、ここなんですけど。 パーシヴァル様の力で所有することは不可能ですかねぇ……」

 王都内地図を広げるアイザック。

「手続き次第だと思うが……」

「では、手続きを進めましょう。 一応うちの騎士団の家族持ちの保養所として申請しますので、体裁を整えるためにも、幾つか建物をお願いしますね。

 そう告げるアイザックの欲望は渦巻く。

 何事も試作は大事だと、シヴィルの私服やドレスを作ろうとするパーシヴァルに、嫁の分も作らせていたアイザックなのだ。 ちなみにアイザックの嫁も不在である。 各村々を襲う魔物が増加したことを受け「ひゃぁはぁ~!魔物素材だ!! いぇええええええ」と、子供達を実家に預けてお出かけ中だ。

「ぇ、あ……おぅ?」

 アイザックはたたみかけるように欲望を満たしていくのだった。





 日々は流れ、シヴィルが消えて5か月。

 王位継承、婚姻の儀式は、神殿で数名の配下を伴い粛々と進められた。 盛大な祝いを求める声は当然上がったが、

「今は準戦時であり戦争を回避するための重要な時期、そのようなものに時間と金をかける暇はない!」

 ライオネルは一蹴した。

 とはいえ、ミランダの懐妊もあっては、祝いが無い事にミランダの周囲は怒り狂った。 結果……ミランダと愉快な仲間たちは、王宮所有の王国で最も広い広間を使っての即売会の権利を勝ち取ったのだった。



 各国の賢者による被害に関していえば、

 表立って見える事が無いというのが難点であった。 だが、確実に賢者の助力を得て力を獲得したものが、王位に食い込んでくる。 同時に、政敵となるものが排除された。

 全てのパターンは(故)ナイジェルのものと同じであった。 ただ、違うのは彼の場合は、父親による監禁がなされ、ナイジェルの一番の敵は彼の一族とされたところだが。

 そして、ルーベンス国と同様に貴族大量殺人の布石が打たれており、次期当主と噂されるものの多くが賢者の介入を受けている。 或いは賢者本人が養子縁組を行っている。 幼児期に赤子を入れ替えられたというものであった。

 ルーベンス国内における同様な懸念は、王都から離れてしまえばパーシヴァルの鼻も利かないということ。 だが、寝返った賢者たちの密告により、王都外の賢者潰しも着々と進んでいる状況である。



 問題は、同様なことを他国が出来る訳などないということだ。

 他国にはパーシヴァルは存在しないし、万が一派遣するとなっても大小さまざまな国に、どのような手順で派遣していくか、そこで大きな争いとなるのは目に見えて分かるし、パーシヴァルの負担が大きすぎる。



 行き詰った状況にライオネルがとった行動は、各国の王の署名を持って、各国に魔女の派遣を望むものであった。

 魔女が怖いと怯える王も居たが、ソレは賢者も同様。 いや、実質被害を与えてくる賢者の方が問題なのだと、説得するまでライオネルは想像を超える時間と忍耐が要求された。



 唯一、得たものは、高まったパーシヴァルの忠誠ぐらいだろうか?

あなたにおすすめの小説

お姉様優先な我が家は、このままでは破産です

編端みどり
恋愛
我が家では、なんでも姉が優先。 経費を全て公開しないといけない国で良かったわ。なんとか体裁を保てる予算をわたくしにも回して貰える。 だけどお姉様、どうしてそんな地雷男を選ぶんですか?! 結婚前から愛人ですって?!  愛人の予算もうちが出すのよ?! わかってる?! このままでは更にわたくしの予算は減ってしまうわ。そもそも愛人5人いる男と同居なんて無理! 姉の結婚までにこの家から逃げたい! 相談した親友にセッティングされた辺境伯とのお見合いは、理想の殿方との出会いだった。

公爵家の秘密の愛娘 

ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝🌹グラント公爵家は王家に仕える名門の家柄。 過去の事情により、今だに独身の当主ダリウス。国王から懇願され、ようやく伯爵未亡人との婚姻を決める。 そんな時、グラント公爵ダリウスの元へと現れたのは1人の少女アンジェラ。 「パパ……私はあなたの娘です」 そう名乗り出るアンジェラ。 ◇ アンジェラが現れたことにより、グラント公爵家は一変。伯爵未亡人との再婚もあやふや。しかも、アンジェラが道中に出逢った人物はまさかの王族。 この時からアンジェラの世界も一変。華やかに色付き出す。 初めはよそよそしいグラント公爵ダリウス(パパ)だが、次第に娘アンジェラを気に掛けるように……。 母娘2代のハッピーライフ&淑女達と貴公子達の恋模様💞  ✴️設定などは独自の世界観でご都合主義となります。ハピエン💞 ✴️稚拙ながらもHOTランキング(最高20位)に入れて頂き(2025.5.9)、ありがとうございます🙇‍♀️

ある日、私は事故で死んだ───はずなのに、目が覚めたら事故の日の朝なんですけど!?

ねーさん
恋愛
   アイリスは十六歳の誕生日の前の日に、姉ヴィクトリアと幼なじみジェイドと共に馬車で王宮に向かう途中、事故に遭い命を落とした───はずだったが、目覚めると何故か事故の日の朝に巻き戻っていた。  何度もその日を繰り返して、その度事故に遭って死んでしまうアイリス。  何度目の「今日」かもわからなくなった頃、目が覚めると、そこにはヴィクトリアの婚約者で第三王子ウォルターがいた。  「明日」が来たんだわ。私、十六歳になれたんだ…

笑い方を忘れた令嬢

Blue
恋愛
 お母様が天国へと旅立ってから10年の月日が流れた。大好きなお父様と二人で過ごす日々に突然終止符が打たれる。突然やって来た新しい家族。病で倒れてしまったお父様。私を嫌な目つきで見てくる伯父様。どうしたらいいの?誰か、助けて。

もう一度あなたに逢いたくて〜こぼれ落ちた運命を再び拾うまで〜

雪野 結莉
恋愛
魔物を倒す英雄となる運命を背負って生まれた侯爵家嫡男ルーク。 しかし、赤ん坊の時に魔獣に襲われ、顔に酷い傷を持ってしまう。 英雄の婚約者には、必ず光の魔力を持つものが求められる。そして選ばれたのは子爵家次女ジーナだった。 顔に残る傷のため、酷く冷遇された幼少期を過ごすルークに差し込んだ一筋の光がジーナなのだ。 ジーナを誰よりも大切にしてきたルークだったが、ジーナとの婚約を邪魔するものの手によって、ジーナは殺されてしまう。 誰よりも強く誰よりも心に傷を持つルークのことが死してなお気になるジーナ。 ルークに会いたくて会いたくて。 その願いは。。。。。 とても長いお話ですが、1話1話は1500文字前後で軽く読める……はず!です。 他サイト様でも公開中ですが、アルファポリス様が一番早い更新です。 本編完結しました! 大変お待たせ致しました。番外編も完結いたしました!

悪女の針仕事〜そのほころび、見逃しません!〜

陰陽@4作品商業化(コミカライズ他)
ファンタジー
公爵令嬢として生まれながら、子ども時代からメイドや周囲の陰謀で、次々と濡れ衣を着せられ、「悪女」扱いされてきたミリアム。 第3王子との婚約を聖女に奪われ、聖女への嫌がらせの冤罪で国外追放された後、平民として生き延びる中で、何度も5年前へのロールバック(逆行)を繰り返すことに。 生計をたてる為に、追放後の平民生活で極めた針仕事が、ロールバックが繰り返されることで、針仕事の能力だけは引き継がれ、天才的な実力を手に入れる。 その時女神「アテナ」の加護を得て、2つの力を手にすることに。 「加護縫い」 (縫った布に強力な祝福を込められる) 「嘘のほころびを見抜く力」 (相手の嘘を布のほころびとして視覚的に捉え、引き抜く、または繕うことで、真実を暴いたり修正したりする) を手にしたミリアムは、5歳の幼女時代まで遡り、2つの力で悪評をぬりかえ、仲違いしていた家族も、加護の力を与えることで協力な味方へと変貌。 さらに、女神から可愛いしもべ「アリアドネ」を授かり、元婚約者と聖女にザマァを狙う中、加護縫いの能力が最も高い人間を王太子妃に迎える決まりのある大国、ルーパート王国の王子が近付いて来て……?

【完結】勘当されたい悪役は自由に生きる

雨野
恋愛
 難病に罹り、15歳で人生を終えた私。  だが気がつくと、生前読んだ漫画の貴族で悪役に転生していた!?タイトルは忘れてしまったし、ラストまで読むことは出来なかったけど…確かこのキャラは、家を勘当され追放されたんじゃなかったっけ?  でも…手足は自由に動くし、ご飯は美味しく食べられる。すうっと深呼吸することだって出来る!!追放ったって殺される訳でもなし、貴族じゃなくなっても問題ないよね?むしろ私、庶民の生活のほうが大歓迎!!  ただ…私が転生したこのキャラ、セレスタン・ラサーニュ。悪役令息、男だったよね?どこからどう見ても女の身体なんですが。上に無いはずのモノがあり、下にあるはずのアレが無いんですが!?どうなってんのよ!!?  1話目はシリアスな感じですが、最終的にはほのぼの目指します。  ずっと病弱だったが故に、目に映る全てのものが輝いて見えるセレスタン。自分が変われば世界も変わる、私は…自由だ!!!  主人公は最初のうちは卑屈だったりしますが、次第に前向きに成長します。それまで見守っていただければと!  愛され主人公のつもりですが、逆ハーレムはありません。逆ハー風味はある。男装主人公なので、側から見るとBLカップルです。  予告なく痛々しい、残酷な描写あり。  サブタイトルに◼️が付いている話はシリアスになりがち。  小説家になろうさんでも掲載しております。そっちのほうが先行公開中。後書きなんかで、ちょいちょいネタ挟んでます。よろしければご覧ください。  こちらでは僅かに加筆&話が増えてたりします。  本編完結。番外編を順次公開していきます。  最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?