偽りの婚姻

迷い人

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終章

61.別にからかっている訳ではなく

 他国が乗り気を見せない中、ルーベンス国は先んじて魔女組織から魔女の派遣を受ける事となった。

 待遇は国王陛下の相談役。

 実際の魔女の仕事は、もっと実務的なのだが、長年の間に蓄積された魔女に対する恐怖が仇となり、受け入れを拒む機関が大半であったためだ。 唯一前のめりで魔女を受け入れると言ったのは、現在、賢者対策として最も動いているヒュブリス騎士団を率いるパーシヴァル。

 当然、ヒュブリス騎士団と魔女との連携は必要と認められているが、何しろトップの脳内の8割が、

 シヴィルがどうしているか?
 どうすればシヴィルと会えるのか?
 魔女の森は何処にあるのか?

 で占められているため、失礼に当たりかねる事を心配し……いや、失礼を通り過ぎ逃げられては困る。 追い掛け回して仕事にならないと困ると、国王陛下の相談役として落ち着いたのである。



 そんな暴走傾向収まらぬ将軍は、現在騎士団を率いて領主との入れ替わりを目論む、賢者討伐のため少し長めの遠征へと出かけている最中であった。



「陛下がお呼びになっておられます」

 デスクワークに励むパーシヴァルの元に伝令が訪れたのは、昼過ぎを迎えた頃。 賢者関係の実務の大半はヒュブリス騎士団が、務めているため。 各国への注意喚起、魔女を迎えるにあたっての条約の相談等、呼び出される頻度は日を追うごとに高くなっていた。

 国王陛下の執務室を訪れれば、ルーカスの部下である男が敬礼をし、陛下に来訪を告げる。 かつて王宮管理を任せられていた王宮騎士団は、現在も王宮内の警備を務めているが、ここぞという重要な部分に関しては、特に陛下と王妃の護衛に関してはヒュブリス騎士団内で引き受けている。

 公私混同と言うものもいるが、何よりも命を大切にするのは当然の事だろう。

「失礼します!」

 礼儀はソコソコ、だが適度に力を抜いた状態でルーカスが中に入れば「しまった!」と言う思いにとらわれた。 来客があったからだ。

 頭を下げるのは、白を基調としブルーのラインで飾りが施されたローブ姿の青年。 手に持っている杖、そしてシヴィルが付けていた装飾品と同系のデザインの装飾品を見つけていた。

 魔女(男)か……。

「コチラ、ルーベンス国の担当を引きうけて下さった。 シヴィル殿と、ティーハ殿だ」

「ぇ?」

 言われて視線を上げれば、魔女(男)改め、ティーハの身体に隠れて見えなかったシヴィルの姿を確認した。 いや、見得なかったというよりも魔女特有とされる魔力を封じた状態でも、不都合なく対賢者としての魔術が仕えるように工夫された衣装と白衣姿のシヴィルの印象が結びつかなかったという方が確かであろう。

 何しろ身体にフィットしたレース多用のドレスは、右肩から腕への露出、尻から足にかけて流れるラインを見せるタイトなスカート。 スカートには深いスリットが入っているのだが、スソの長いドレスが地面に触れないように、自力でユラユラと揺れるためか? 艶めかしい太腿がチラチラと見得る。

 ニッコリと懐かしさの混じった微笑みをむけられるが、ルーカスは反射的にパーシヴァルを恐れて硬直した。

 分からないでもないというように苦笑するライオネル。 そして不思議そうに首を傾げるシヴィル。

「外交協力条約の調印式を前に、双方の利害関係の確認、現場での指揮系統の調整、色々と確認してもらいたいことが多く、我が国担当の魔女殿には先んじて王宮入りをしていただいた」

「これは上司を呼ばなくてよろしいのですか?」

 ルーカスがいたたまれない気持ちに、天井を仰ぐ。

「今は、残念ながら仕事優先だ。 条約文章にミスがあり、調印式が失敗となり担当が変わってしまえば元も子もないだろう」

 そう告げるライオネルは笑っている。

 わざとだ……、長い遠征を命じられた上司をルーカスは憐れんだ。

「なんだか、ズイブンと面倒をかけているようですね」

 そう答えるシヴィルの、むき出しの肩から腕、細い手首、揺れるドレスから見える太腿、足首、耳、首筋、その封じの数は、以前と比べ物にならない数にも関わらず、力が漏れ出ているのか? それとも、ただ彼女のあるべき魔女と言う姿が余りにも煽情的なのか、その美貌に視線を逸らす。

「いえ……先生、もう少し力を封じられた方がよろしいかと思いますが? ズイブンとその……男性を刺激すると言いますか……」

 ルーカスの言葉にシヴィルは溜息をつく。

「陛下にも言われたところですが、封じは以前と同レベルまで行われています。 多分、この制服のせいですわ……。 だから、男物を準備して欲しいといいましたのに!」

 横にいるティーハに不満そうに訴える姿が、妙に美しく、そして可愛らしい。

「先生、ソレアウト!」

「何がですの?」

「なんでしょう……」

 言っておいて苦笑し、問い返すようにつぶやくルーカス。 不機嫌な姿もまた愛嬌があり美しいのだから、どうしようもない。

「申し訳ありませんが、白衣とスーツ準備してもよろしいでしょうか?」

 そう告げれば、パッとシヴィルの微笑みは明るくなる。

「面倒かけますが、お願いできますか?!」

「えぇ、心の安定のために、ぜひ準備をさせてください」





 そして、着替えたシヴィルを交え、真面目な条約文章の確認がなされた。

「逃亡魔女を増やさぬよう。 文化交流を盛んにおこなう件ですが……魔女は感情が盛り上げると魔力制御がおろそかになり、周囲に影響を与える可能性があります。 祭りなどを始め人が集まり熱狂するようなものは禁じた方がよろしいと思われます」

 ティーハが難しそうな顔をする。

「それは?」

「興奮状態となった魔女達は、感情を乗せた魔力を放出するという性質を持つためです」

「どの程度の影響ですか? 近々賢者たちも混ざったイベントを妻が計画しているのですが……」

「王妃様の元に寝返った賢者たちであれば、それほど大きな影響はないと思いますね」

「ということは、所有する魔力量によって変化すると?」

「えぇ、そういうことです」

「では、全てを制限するのではなく、方法を模索していきましょう。 もともと創生の魔女殿は、魔力回路の異常者として殺害される子供を救いたかったという理由から、魔女組織を作ったと伺っています。 ならば、時代と共に生きることの意味を拡大するのも、組織の理念に外れるものではないと言えるのではないでしょうか?」

「……ありがとうございます陛下」

 ティーハはただ黙って頭を下げた。

 穏やかに微笑むシヴィルだが、その後の会議内容では幾度となくシヴィルを発狂させることとなる。

「次の議題ですが、魔女殿が一般社会での恋愛、結婚を望まれたさいの制限に関してですが、先ほどの感情の伝達はどのようなほどに至るものですか?」

「惚れた晴れたぐらいで、問題が発生したなどと言うことはありません」

「では、行為相手への影響は?」

「私は只人との経験はありませんから、なんとも言えませんが……魅了の能力を持たない相手であっても、その効果があるという噂は聞いております」

「そうですか、ではソレが魔女同士であれば?」

 シヴィルが、狼狽えだした。

「魅了というか、双方の魔力が混ざりあう事で酩酊状態、いわゆる媚薬を摂取したかのような状態に至ります。 現状、賢者が一般社会の権力者に力を発揮しているのも、ソレが理由であると言えるでしょうね」

「その酩酊状態が、周囲に及ぼす影響は?」

「それは魔力放出量と魔力防御値の差異に影響があると思われます」

「そちらのシヴィル殿では?」

「……封印状態でありますが酩酊状態になると、解放時と同様と考えておいた方がいいかもしれません。 封じと言っても当人の負担になるような制限まではされていませんし。 彼女は母親の力を引きすぎていますから……彼女の母は、その清純たる色欲の魔女等と呼ばれるほどの魅了の持ち主でしたから。 軽く周囲一帯の色情を誘発してしまうと考えた方がいいでしょう」

「なら、別邸を娼館周辺に作らせるか?」

 ライオネルがルーカスに問えば、

「それは上司が嫌がるでしょうから、保養所に住まわせるのが良いかと」

「ちょ、な、ななんあなな、もももももももも、もう!!! いい加減にしてぇええええええええ!!」

 ヒステリックに叫びシヴィルに、ライオネルとルーカスは真顔で言う。



「いえ、重要なことですから」

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