【R18】王太子殿下が他国の将軍の婚約者を孕ませたからって、婚約者の私が責任を問われるのは間違ってはいませんか?【完結】

迷い人

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51.守るべき民のない王は、王なのか?

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「なっ、何をする! オマエ達は何者か! 私が誰か分かっていてそのような態度をとっているのか!!」

 甲高い声でキャンキャン騒ぐのは、先ほどまでクジラだった青年。 魔物オチから回復したばかりでズイブン元気だ……気を失ってくれている方が楽なのでは? なんて思ってしまうのは私だけではないようで、聖女様はもう1度手の平を振り上げた。

 長い青髪の青年は、逃げるように数歩下がればつまづき地面の上に直接座りこんでしまう。

「私は魔物オチしたことがないから分からないけれど、未だ現実が理解できぬなら、もう2.3発殴ってやっても良いのだけど?」

 金髪美女の発言に、不満そうに青年はたずねる。

「アンタ、何者だ?」

「「「なんですとぉおおおお!!!」」」

 周囲に驚きが走った。

 聖女である彼女に会ったことが無くとも、聖女様の神々しさを見れば聖女様だと思うだろうと言うのが、彼女を信仰し、いち早く召喚に応じ、駆け付けた国々の使者や寵児達の思いであり、周囲の気配が剣呑なものとなった。

「構わん。 アクアースとはアナイスが退いてから疎遠になっていたからね。 アンタ、私が何者かと聞いていたが、私を知る者には聖女と呼ばれている。 ほれ、オマエも自分が何者か言うが良いわ」

「聖女だと? こんな派手な女がか? まさか……ありえん……。 聖女とはアナイス様のような方を言うのだ!! そして私こそ、アナイス様の甥っ子であり、アクアース国が王オーターだ!! ひれ伏すがいい!!」

「お前がひれ伏せ」

 王様が、オーターと自己紹介した青年の背に蹴りを入れ、汚れたままのテーブルクロスを全裸の青年の頭からかぶせた。

「何をする!! 私は王だぞ!!」

「王ぐらいなんだと言うんだ。 この世界にどれほどの数の王がいる? 王の権限を与えられた者がいる?」

 王様の言葉に聖女様がウンウンと頷いて見せた。

「まぁ、その落ち着きの無さ、状況判断の無さを見れば、確かに王なのかと疑いたくなると言うものだねぇ」

「不敬だぞ!!」

 オーダーが声を荒げても、誰一人として引く者はいなかった。 それどころか聖女を貶された立腹をぶつけ声を上げるものまで出る始末。

「この世界唯一の聖女様に何という事を……、聖女様の尽力あったからこそ命が助けられたと言うことを理解していないのか!」

「このような派手な女を聖女だと私は認めん!!」

「潰すわよ」

 聖女様の視線は、地面に座る男の股間へと向けられていた。 ひゅんっという感じで両手で股間のものをかくせば、

「目が腐るから見るんじゃない」

 王様が私に言いながら、近寄ってきたゼルに私を渡す。 ゼルと言えば、しみじみとした様子で私を抱きしめ、ひたすら撫でてきた。

 ほのぼのとするゼルとは別に、殺伐は継続する。

「アンタは、重なりあう偶然の結果、その命を助けられた。 感謝をすることね」

 聖女様の言葉に青年オーターは、どこまでも偉そうに告げた。

「大儀であった」

 聖女を信仰する使者や寵児達は苛立つ。

 だが、聖女もオルグレン王もその侮辱を、一刀両断することはなく、見ていてもいらつくだけ、ならば自国の寵児を休めようと考える者もではじめた。

「相手にする気にもならん!!」

 使者の一人が腹立ちまぎれに叫んだ。 予定していた午後の作業を台無しにされた挙句、態度の悪い青年の相手をするのは余り気分の良い話ではない。

「我が国の寵児達に休息を与えたい」
「そのような、無知蒙昧、相手に等したくない」

 王様は、苦笑交じりに頷いて見せる。

「悪いな、無茶につき合わせた」
「労力に見合った情報を期待しておりますよ」
「それは、彼次第だな」

 王様は使者に苦笑を向ければ、使者達も苦笑で返し一礼と共に去っていく。

 それでも数名の使者はその場に残った。

 人々が去っていくなか、優しい顔立ちのサンタ爺ちゃんがオーターに話しかける。

「アナタが王だと言うなら、なぜ魔物になりかけていたのですか?」

 穏やかな様子で問われたにもかかわらず、オーターはムッとした。 だが、他の者の態度を見れば、サンタ爺ちゃんを味方にするのが、いや頼りにするのが得策だと考えたのだろう、オーターはボソボソと語りだす。

「……それは……あぁ、そうだ……王宮に勤める者達の大半が魔物になって……それを処理しているうちに、私自身も……」

 そして眉間を寄せ、黙り込んでしまった。

「ゼル殿、今のアクアースの状況を伺ってもよろしいですかな?」

 サンタ爺ちゃんの言葉に、ゼルは視線をラフィール君へと向けた。

「説明は僕からさせていただきます」

 そうして彼等が見た水に沈んだ大地。
 獣オチしか生きられない環境。
 少ない野菜を奪い合うほどの食糧事情。

 王宮には魔物オチ寸前の彼のみが残されていたことを語った。

「それは……今後どうなると言う事ですかな?」

 ゼルは全く話し合いに参加する気などなく、私を満足そうに抱きしめるばかり。 そしてラフィール君もサンタ爺ちゃんの新しい質問に答える事は出来なかった。

 代わりに応えたのは王様だった。

「獣オチと言えど、人と代わりはしない。 滅びを望むものもいれば、腹を満たそうと移動するものもいるだろう。 国境沿いの水辺に警備を固める準備をし、行動にうつせ」

 王様が食事用に使われていたガゼボの周辺を警護していた騎士の1人に告げれば、騎士は一礼と共にその場を去った。

「当方も、国の方に連絡をしたいのだが……どの程度の警備が必要となるか、判断はつくかね?」

 神経質そうな使者の1人がゼルに聞けば、それに対してはゼルは答えた。

「そうですね……獣オチは基本的に身体能力が強化されます。 アクアースの獣オチの特徴は水に強いが、水から出てしまえば制圧は余裕と言うところでしょう。 その点を踏まえ戦える者であれば、経験の浅い戦士でも大丈夫ではないでしょうか?」

「ありがたい、参考になった」

「私の民をどうするつもりだぁ!!」

「ここにいるものの大半は、民に責任を持つ地位にあるものだ。 自らの民を守る事は当然のこと。 オマエは……自分の民を守るためにどうするんだ?」

 王様が、鷹揚な態度で聞いた。

「それは……」

 従う者もおらず、守る者も守れず、それで何が王だとオーターを見る視線は何処までも冷たい。

 それでもサンタ爺ちゃんは優し気な目元で、口元で、声色で、オーターに言葉をかける。

「民を助けたいと言う思いがあるなら、まずは自己の有用性を示し、手持ちの情報を売り、民のために食糧を調達し、そして民の飢えを満たしてやれば、臣下となり守るべき民となり、お主は再び王となれるやもしれんぞ」

「それは……、記憶がまだ曖昧で……」

「どうじゃな、オルグレン王よ。 彼に少しばかり休息を与えてやるのは?」

「構わんよ。 ただ、その者の実力を知らない以上、こちらは用心として牢へと放り込ませてもらうがな」

「まぁ、それは仕方のない事じゃろう」

「私は、」

 オーターの声をサンタ爺ちゃんが遮る。

「主は、王ではない。 ここにいる大勢の者に命を助けられねば、世界の敵として退治されていた魔物でしかない。 当然の扱いだと受け入れるがよい。 未だ礼の一つも言える主は、魔物となんら変わりはないのじゃから」

 サンタ爺ちゃんの声が徐々に厳しい者へと変化していけば、王様は苦笑していた。

「私は王なのに……」

 状況を知ろうとすら知らないオーターは、まだそう呟きに王様は呆れて口を開いた。

「王だからどうだと言うんだ。 人は俺をオルグレン王と呼ぶぞ」

 交流がなくとも、大国と呼ばれる隣国を知らないはずはないだろう。 そして聖女様が言葉を続けた。

「私の事は、聖女ちゃんと読……んだら、踏みつぶす……」

 呼んでねと言うのかと思えば、おどろおどろしい表情で聖女様は潰すと宣言。 ずっと黙っていたと思ったらかなり不快な思いをしていたらしい。 そんな不機嫌な聖女様の横で、王様はこの場は一旦解散すると宣言した。
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