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50.空飛ぶクジラ

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 ゼル達が旅立って11日目。

 オルグレンには、聖女様の召集に応じて幾つかの国が、大臣レベルの使者、植物生産に関わる神の寵児、そして私の希望により、ガラス生成、腐食に関わる寵児を派遣してきた。

「腐食に関しては、ゼルが戻ってからでも十分なんだろうがな」

 王様が、他国の使者を交えた昼食&報告会の席で語る。

 本日の昼食は、実験用に作られたトマト&腐食……改め醗酵で作ったチーズをふんだんに使ったピザです! 腐食いいよ腐食……。 腐食使いのおかげでチーズ、天然酵母、鰹節、漬物、それに消費した味噌と醤油も増やせた!! かなり楽しく過ごさせてもらっています。

 ほくほく。

「なんかゼルの腐食は……ちょっと違う気がする……けど?」

 例えば、寄せてもらった腐食使い達でも、加護を与えた神の関係なのか? 個々のスペックの差なのか? 甘酒を作ってもらおうとしたなら、同じ時間の能力発動にもかかわらず、甘酒になるものと、酢になるものと、どぶろくになるものに別れたのです。

 どこかの大臣さんが嬉々として昼間から飲んでいるし、腐食使いの皆様は地位向上だぁああと凄く喜んでいたから、私の小さな疑問は横に置くことにしました。

 チラリと王様と酒飲み大臣を見れば、王様は苦笑交じりに

「構わん、どうせ確認と報告要因でしかない。 変に口うるさく言われるよりも、静かでいいだろう」

 って、

「それで?」

 王様がそう声をかけたのは、私ではなく聖女様。

「気温や水の量で生育しやすいものが変化するのは確かだねぇ。 チビちゃんは地域に合わせた植物を植えなければって固定概念があるみたいだけど」

 ここまで言って聖女様はチラリと私を見る。

「ハニーチーズも美味しいよ?」

 今食べているピザを差し出せば、一口だけ齧られた。 まぁ、いっか。

「土壌の栄養成分を配慮することで生産量が増える。 その分は信仰の消費が抑えられるとなれば、やるべきことは植物に会う土地を探すのではなく、土地にあった植物への改造の方が効率よかろう」

「まぁ、そっちの方が……」

 現状集まっている国々の代表が頷きあった。 大臣の一人が溜息と共に告げる。

「現状でも生産系加護国には、頭が上がらない状態ですからのぉ。 自国で賄えるようになるのは喜ばしいことですじゃ。 今まで、なぜ植物が育たなかったか? の理解ができなんだゆえに、神に願うこともできませんでしたからな。 うちの土地にあった改良を加え、自国民が飢えずに済むよう尽力したいものです」

 単純に、うちの土地に会う植物に改良お願いします!! だと、完成までの数十年間、信仰が改良につかわれる続け国が滅びたとかいうこともあったそうです。 ただ、黒い花を赤いのも増やして欲しいとか、寒さに強くとか、水に強くとか、乾燥に強くとか、指示を明確にすると割と簡単に改良はしてもらえるんだって。

 ただ、水耕栽培が最適条件とされる米を、水を必要しなくしてくださいはNGらしい。 だから、そういうのはイモ類とかを中心に植えてと言う、私の考えていた方法を採用するんだって。

 仕事のない時期のサンタクロースを彷彿とさせる大臣が、自国で米を賄えるかもと言う希望に涙を流し、シャケ茶漬けをすすっていた。 年よりにはチーズはきついらしい……。 チラリと聖女様を見てしまうが、チーズも肉も割とガンガンいっていた。

「うちも生育条件の改良を前提に、色々と調査を進めるように」

 王様が、植物系の加護を持つ女性に告げている。

「はい」

 ちなみに、各地の気候に合わせた農業実験は、国単位で温室を作り、内部の気温と湿度管理を現地の気候に合わせてある。 加護ってなんでもありだなぁ……って、神力の恩恵にあたれない私としては少しだけ嫉妬しちゃう。

「なぁに~~~、変な顔をして」

 聖女様が私を抱きしめてくるから、甘えるように拗ねて見た。

「皆凄いなぁ~って」

「あら、神の加護もないチビちゃんが一番すごいわよぉ~」

 欲しい言葉がもらえて……顔が緩む。



「ぁ……」

 聖女様に抱きしめられた肩越しに、大量の水を纏って空を飛ぶクジラを見ていた。

 ぎゃぉおおおおおおおお

 そんな感じでクジラが吠える。
 緊張する私は、王様へと視線を向けるが、王様は笑うだけ。 まぁ……そもそも、攻撃力こそゼルがこの世界での最強クラスらしいが、防御と言う面においては聖女様が最強な訳で、

「なに、怖がることはない。 ゼルも一緒に戻ってきた」

 犯人はゼルらしい。

「アレは、魔物になりかけているじゃないの」

 聖女様の声が焦れば、私を王様に向かって押し付け、そして私は王様の腕の中に納まった。 だけど……

「リエル! こっちに来て、彼を助けてもらえますか?」

 ゼルが私を呼ぶ。

 声のした方向。

 晴れ渡る空を改めてみれば、クジラの影にゼルを見つければ、私は王様へと視線を向けた。

 王様は、魔法を使って自らの背に翼を魔力で構築し、王様は私を抱っこしたまま空を飛ぶ。 ちなみに、神力でもできるらしいけど、私を抱っこして神力を使うのは力が安定しないから、私が側にいるときは魔法を使うんだって王様が以前言っていた。

 クジラの側にいればラフィール君もいて、なんだか奇妙な顔をしている。

 そして聖女様は下で結界を張り城と、城に住む人を守っていた。

「何を考えている。 リエルに危害があるようなら、その前に処分しろ」

 呆れたように王様が言えば、凄く嫌そうな様子でゼルは言う。

「言われずとも……」

 空を飛び、側まで行けば、その巨体な生き物が神秘の化身でないことが分かった。 いや……聖女様は魔物になりかけているっていったいたんですけどね。 なんか巨大なものを見るとすご~いってなるでしょう?

 クジラの頭部と言うのかな? 頭部にあたる部分に、人間の顔がお面をかぶったように張り付き、血の涙を流し吠えている。 その頭部にある顔は、間違いなく人間のものなのに、それがあるから不気味だと思わせられるのが不思議だった。

「我は死を望む」

 人間の頭が語る。
 
「我は死を望む」

 クジラがぼわぼわと大きな音を発し語る。

「我は自らの死を望む」
「我は汝らの死を望む」

 そんな言葉を繰り返す彼は、既に人間の理性は放棄しているかのように見えた

 獣オチならなんとかな……いえでも、この大きさは……。

 それに、これは……魔に落ちて。

 目から涙を流し訴える姿は……やはり人のように思えて、思うからこそ、私はそれが怖かった。

「王様、お腹の部分に移動して欲しいのですけど」

「はいよ」

 軽く答える様に私は安堵した。 その横にゼルが来て、両手を差し出してみせる。

「オマエは、コレの管理に集中しろ。 神力を消すリエルが側にいては力がぶれる」

 軽い舌打ちが聞こえたような……

「ぇ?」

 ゼルを振り返れば、何もないとでもいうように口元を穏やかに微笑ませていた。

 クジラを包む水の中に手を突っ込んでそのお腹に触れる。 想像していたよりも硬かったけど、クジラが硬いのか? 魔物化が硬いのか? ふと悩む。

 あぁ、余計な思考はダメだダメ……。
 恐怖を感じてしまったせいか、気持ちが乗らなかった。

 ダメだ……。

 神力を消す速度と、魔物へと落ちていく速度が微妙だ。

「ママァアアア」

 私が叫べば、結界を作りあげた聖女様が美しい白い翼をその背にはやして傍まで来た。 翼が無くても飛べるらしいけど魔法としての安定度が高くなると後で聞いた。

「魔物オチのが早いの。 神力を奪うから、その神力を他につかえないかなぁ」

「水の神力なら雨で降らせるのが楽だけど、それだとこの国の民への負担が多くなるから、それを考えればこのまま処分する方がいいんだよね」

 苦々しい聖女様の声。

「なら、神力を消すのではなく、神力の属性を消して、それぞれに配分して植物の生長と腐敗を促し堆肥を大量生産する方向で消費するのは?」

「あぁ、なら今いる寵児たちでケリがつくね。 OK、準備をするからもう少し頑張るんだよチビちゃん」



 その後、聖女様は説明もせずに、オルグレンに集まった植物系の寵児と、腐敗系の能力を持つ寵児と……なぜかガラス作りの職人系、オルグレンに元から存在している神の寵児たちも総動員された。

 手順はこう。

 1.私がクジラの神力を奪い無属性へと転換。
 2.私から聖女様が神力を奪う。
 3.聖女様が、信者でもある寵児たちに無属性神力を配分。

 2が必要となるのは、私が他の寵児たちとの間に信頼関係がなく、神力の受け渡しが無理な事と、あれもこれも出来るほど器用ではないため。

 途中から、堆肥の保管場所が問題となって、それはゼルに負担を負ってもらう事になって、クジラは20代前半を思わせる青年の姿へと変化した。

「うそだ……」

 青年の第一声に、なぜか聖女様のビンタが飛んだ。
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