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蛇足(R18)
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お互いの気持ちを確認した翌日、ルカは慌てているかのように婚約の手続きを行った。
ルカの気持ちはわからない訳でもないわ。 だってフリーの王族が居れば、大物貴族が居れば、誰だって目をつけてしまうものだから。
私にはもう幾つも婚約の申し込みがあったし……王族としてルカが世間に紹介されたなら……モラレス公爵令嬢がしたようにルカに女をアピールするだろう。
絶対に嫌!!
だから厄介ごとを避けるためには、こう手続きだけでも急ごうとしたルカの方法は合理的だと……納得はしているのよ。 感謝もしている。 だけど、だけど……それとコレは違うのよ!!
「ホリー」
婚約の日からルカは主とは呼ばなくなった。
……当たり前だけど……。
私は、なれなくてドキッとしてしまう。
「ぇっ、な、何?」
振り返り、すぐそこにルカが居て……慌てて飛びのいてしまう。
だってすぐ側だったし……。
人の姿だから……。
慣れない……いえ、今までだって書類仕事の時は人の姿だったけど、それは珍しい事で……。
「流石にソレは傷つくぞ」
「び、びっくりしただけ……それに、な、んだか慣れなくて……」
「触れなくなったし」
深い溜息と共に言われれば、そっと私の手に触れて来る手を避ける事はできなかった。 いえ、本当に嫌な訳ではないんですよ?
重ねられる手は大きくて……温かい。
絡められる指がくすぐったくて、逃げようとすれば、捕らえられる。
「恥ずかしい」
「どうして? 何時もこの手で触れてくれていたのに」
私は、私の手を取る手と指を見つめていた。
だって、顔を見るのが恥ずかしかったから。
指を絡められ、重ねられた手はそのまま彼の唇に触れチュッと音を立てる。 悪戯そうな目が私をジッと見つめていて……ドキドキしてしまう。
「えっと……し、仕事……中」
掴まれていない方の手で書類を持って盾に使った。
「よし、なら早く仕事を終えよう」
私は仕事を終えた後、逃げるように部屋へと戻った。
『何故だ……』
ラスティとブランが訓練している間に割り込むルカ。 いつの間にかブランは引き、ルカvsラスティによる戦闘訓練へと変化していた。
『私も聞きたいよ。 何故、私とブランの邪魔をする』
『オマエ等だけ幸せになるのが気に入らん』
欠伸をするブランと、ちょっと待てとばかりにガウッと威嚇するラスティ。
『コレは戦闘訓練だ!!』
『全く、イチャイチャとじゃれつきやがって』
『どう考えても違うだろうが!!』
ぶつかり、距離を取り、威嚇し、素早く移動し位置修正からの飛び掛かり、回避。 そんな感じの中で会話は進む。
『その姿なら平気なんだろう? なら、時間をかけて慣れればいい』
『よし、じゃぁ、頑張って来るかぁ~』
そうひらりと身をひるがえせば、ブランがご機嫌を取り戻して揺れる尻尾に噛みついた。
『ぎゃん!!』
ルカは待った。 待って、待って……時折触れられない事に負けて、獣姿でホリーの側に寄り添えば、当たり前のように身体を預け触れて来る。
顔を寄せ、鼻先で突けば、本を読む邪魔をするなと言われる事があっても、拒否はない。 例え仕事中であっても、戯れに自分から顔を寄せてきて頬を摺り寄せて来るのだから……切ない……。
「別人として認識しているのか?」
「何がですか?」
「人の俺と獣の俺」
「いえ……そう言う訳では……その話は仕事の後と言う事で……」
「逃げるなよ?」
「分かってます」
「愛している」
「……わ、私も……その、好きですよ」
この温度差がどうにも不安で仕方がない。
強引に進め過ぎたのは自覚しているが、ラスティの結婚は仕方がなかった……出会うのが遅すぎた。 だけど、今度は遅すぎたと諦めたく無いとルカは思っている。
溜息と共に……目の前の仕事を片付けようとルカはもくもくと励む。
今日こそは!! 人間の姿でキスをするぞ!! と……決意をしたが……食事と共にホリーは逃げ出し……見失ったと言うより……。
「手を貸した奴がいる!!」
『そりゃぁ……いるだろう。 やる気満々なルカ様からどう逃がすか、真剣に打ちあわせをしてましたからねぇ』
「そのルカ様は止めろ。 虫唾が走る。 俺の方が強くて偉くてカッコいいってだけだからな」
『あのなぁ……』
呆れるラスティだが……一応上下関係のある場所で育ってきただけあって、呆れを露わにする言葉を飲み込んだ。
「まぁ、いい。 俺に勝てると思うな!!」
そう意気込んだルカだが……以外と時間はかかった。 ホリーを逃亡させた者達全員がホリーの匂いがする何かを持って移動していたから。 そして、ホリー自身は匂いを隠しながら移動していたのだろう。
月が高くあがっていた。
「……日を改めるか? いや……食後と言ったのは彼女だ!!」
そう勢いよく言いながら、ルカは行儀よく扉をノックした。
「はい?」
わずかに扉は開かれ顔が覗かせるホリー。
ルカは扉に素早く手と足を入れ、閉ざされるのを封じた。
「ルカ……えっと、これは……」
「わかってる。 どうせ、ブランの嫌がらせだろう」
ルカは苦笑いと共に言い、そして真顔でホリーに向かう。
「俺が怖いか?」
「そう言う訳では……少し、恥ずかしいだけ……それに、怖いって言うなら普通は獣姿を怖がるわ。 えっと……入る?」
「怖くないなら……お邪魔させてもらう」
「な、にか飲む?」
「……仕方ない……」
溜息交じりにルカは獣の姿を取った。 それなら……横に寄り添える……温かなぬくもりと触れ合う事ができる。 そして……穏やかに……そう穏やかに話し合おう。
頑張れ!! 俺!!
ルカの気持ちはわからない訳でもないわ。 だってフリーの王族が居れば、大物貴族が居れば、誰だって目をつけてしまうものだから。
私にはもう幾つも婚約の申し込みがあったし……王族としてルカが世間に紹介されたなら……モラレス公爵令嬢がしたようにルカに女をアピールするだろう。
絶対に嫌!!
だから厄介ごとを避けるためには、こう手続きだけでも急ごうとしたルカの方法は合理的だと……納得はしているのよ。 感謝もしている。 だけど、だけど……それとコレは違うのよ!!
「ホリー」
婚約の日からルカは主とは呼ばなくなった。
……当たり前だけど……。
私は、なれなくてドキッとしてしまう。
「ぇっ、な、何?」
振り返り、すぐそこにルカが居て……慌てて飛びのいてしまう。
だってすぐ側だったし……。
人の姿だから……。
慣れない……いえ、今までだって書類仕事の時は人の姿だったけど、それは珍しい事で……。
「流石にソレは傷つくぞ」
「び、びっくりしただけ……それに、な、んだか慣れなくて……」
「触れなくなったし」
深い溜息と共に言われれば、そっと私の手に触れて来る手を避ける事はできなかった。 いえ、本当に嫌な訳ではないんですよ?
重ねられる手は大きくて……温かい。
絡められる指がくすぐったくて、逃げようとすれば、捕らえられる。
「恥ずかしい」
「どうして? 何時もこの手で触れてくれていたのに」
私は、私の手を取る手と指を見つめていた。
だって、顔を見るのが恥ずかしかったから。
指を絡められ、重ねられた手はそのまま彼の唇に触れチュッと音を立てる。 悪戯そうな目が私をジッと見つめていて……ドキドキしてしまう。
「えっと……し、仕事……中」
掴まれていない方の手で書類を持って盾に使った。
「よし、なら早く仕事を終えよう」
私は仕事を終えた後、逃げるように部屋へと戻った。
『何故だ……』
ラスティとブランが訓練している間に割り込むルカ。 いつの間にかブランは引き、ルカvsラスティによる戦闘訓練へと変化していた。
『私も聞きたいよ。 何故、私とブランの邪魔をする』
『オマエ等だけ幸せになるのが気に入らん』
欠伸をするブランと、ちょっと待てとばかりにガウッと威嚇するラスティ。
『コレは戦闘訓練だ!!』
『全く、イチャイチャとじゃれつきやがって』
『どう考えても違うだろうが!!』
ぶつかり、距離を取り、威嚇し、素早く移動し位置修正からの飛び掛かり、回避。 そんな感じの中で会話は進む。
『その姿なら平気なんだろう? なら、時間をかけて慣れればいい』
『よし、じゃぁ、頑張って来るかぁ~』
そうひらりと身をひるがえせば、ブランがご機嫌を取り戻して揺れる尻尾に噛みついた。
『ぎゃん!!』
ルカは待った。 待って、待って……時折触れられない事に負けて、獣姿でホリーの側に寄り添えば、当たり前のように身体を預け触れて来る。
顔を寄せ、鼻先で突けば、本を読む邪魔をするなと言われる事があっても、拒否はない。 例え仕事中であっても、戯れに自分から顔を寄せてきて頬を摺り寄せて来るのだから……切ない……。
「別人として認識しているのか?」
「何がですか?」
「人の俺と獣の俺」
「いえ……そう言う訳では……その話は仕事の後と言う事で……」
「逃げるなよ?」
「分かってます」
「愛している」
「……わ、私も……その、好きですよ」
この温度差がどうにも不安で仕方がない。
強引に進め過ぎたのは自覚しているが、ラスティの結婚は仕方がなかった……出会うのが遅すぎた。 だけど、今度は遅すぎたと諦めたく無いとルカは思っている。
溜息と共に……目の前の仕事を片付けようとルカはもくもくと励む。
今日こそは!! 人間の姿でキスをするぞ!! と……決意をしたが……食事と共にホリーは逃げ出し……見失ったと言うより……。
「手を貸した奴がいる!!」
『そりゃぁ……いるだろう。 やる気満々なルカ様からどう逃がすか、真剣に打ちあわせをしてましたからねぇ』
「そのルカ様は止めろ。 虫唾が走る。 俺の方が強くて偉くてカッコいいってだけだからな」
『あのなぁ……』
呆れるラスティだが……一応上下関係のある場所で育ってきただけあって、呆れを露わにする言葉を飲み込んだ。
「まぁ、いい。 俺に勝てると思うな!!」
そう意気込んだルカだが……以外と時間はかかった。 ホリーを逃亡させた者達全員がホリーの匂いがする何かを持って移動していたから。 そして、ホリー自身は匂いを隠しながら移動していたのだろう。
月が高くあがっていた。
「……日を改めるか? いや……食後と言ったのは彼女だ!!」
そう勢いよく言いながら、ルカは行儀よく扉をノックした。
「はい?」
わずかに扉は開かれ顔が覗かせるホリー。
ルカは扉に素早く手と足を入れ、閉ざされるのを封じた。
「ルカ……えっと、これは……」
「わかってる。 どうせ、ブランの嫌がらせだろう」
ルカは苦笑いと共に言い、そして真顔でホリーに向かう。
「俺が怖いか?」
「そう言う訳では……少し、恥ずかしいだけ……それに、怖いって言うなら普通は獣姿を怖がるわ。 えっと……入る?」
「怖くないなら……お邪魔させてもらう」
「な、にか飲む?」
「……仕方ない……」
溜息交じりにルカは獣の姿を取った。 それなら……横に寄り添える……温かなぬくもりと触れ合う事ができる。 そして……穏やかに……そう穏やかに話し合おう。
頑張れ!! 俺!!
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