モフモフ叔父との田舎暮らしがカオスすぎる

迷い人

文字の大きさ
11 / 20

11.パンダ叔父は、心配性

しおりを挟む
 朝、リビングに差し込む柔らかな日差し。

 目を覚ますと、パンダはいなかった。

 それでもいつもの発作とは違い、早く収まりしっかり眠れたのはパンダのおかげだろう。誰かが支えてくれているというのは……安心できる。胸が少し熱くなった。

「ただの変態だと思っていたけど、ああいう時には安心できるよね……」

 仕事に忙しいパパとママに甘えるなんてできるわけがないし、もう高校生だということを考えれば親に甘える年じゃない。そういう意味では、パンダの存在はとても甘えやすいと言えるだろう。

 そんな風に感謝を胸に、台所に行けば。

 キッチンカウンターに擬態するかのように、丸い水槽でうごうごしている緑の粘液。緑の濃さはまちまちで、光に反射してキラキラ光る。綺麗だと錯覚しそうになるのがヤバい。

「なんで、そんなところにいるのよ」

「Hello」

「……ハロー」

「プク…ククク」

 怪しく笑う。

「オジサン!! これ、新しい冷蔵庫買ったんだからしまいなさいよ!」

 声を上げたら、ドスドスと身体の大きさを感じさせない足音で歩み寄ってきて、ふんわりとハグをする。

「ぶつかって飛ばされるかと思った……」

「俺が姪っ子ちゃん相手にそんなことするわけないだろう。熱は? 喉は? 体調は?」

 パンダの肉球で熱を測られ、抱っこされて四方八方から確認しようと持ち上げられた。スカートが……。

 げしっ。

「ご、ご無体な……」

 私はゆっくりと床に降ろされた。

「今日は、パン派の姪っ子ちゃんのために、朝からフレンチトースト行くぜ!」

 仄かに緑に染まっているフレンチトースト。

「ごめん、もう時間がないから行かないと!!」

 ……って、逃げ切れるはずがない。叔父と親戚風を吹かせているが、奴はパンダなのだから。

「まぁまぁ、俺、昨日本当にお前がどうにかなるんじゃないかって心配したんだぞ」

「それは、申し訳ございません」

 敬語なのは、距離感を大切にしたいからだ。

「朝から、新鮮な竹を使って癒し竹エキス空気清浄スムージーIN牛乳&卵&砂糖を作ってだな」

 説明の動作で、あちらこちらに置かれた笹の葉が落ちれば、パンダは凄い速さで葉をかき集めて口に入れる。

「掃除だ掃除、姪っ子ちゃんの周りは綺麗なもので揃えたいからな」

 笑顔とウィンク。だが、この室内が竹置き場のような喧噪なのは、アンタのせいでしょう!

 こほっ。

「あああああああ、やっぱり空気清浄元気満々スムージーに使ったフレンチトースト、すぐに準備するからね!!」

 すぐに逃げよう。それが私の強い決意だ。ソロリソロリと、作業中の目を盗んで学校へ向かうことにした。どこまでも静かに、気配を消して……。

 こほっ。

「ハハ、姪っ子ちゃん、細かいこと気にするな! これはピュアな竹パワーで肺をリフレッシュだぜ! 飲んだ瞬間に元気満々だぁ~」

 とニヤリ。

「……いや、絶対怪しいって!」

「怪しいもの、不味いものほど効果があるって言うだろう?」

「限度があります!!」

 私は緩慢なパンダの動きの隙を突いて玄関へと猛ダッシュ……そして、両手で抱きしめるように捕獲された。

 見上げる視線。

「全く、いたずらな子猫ちゃんだ」

 ドキッ……って、違うでしょう!!

「私よりアンタが猫でしょ、熊猫」

「ふっ、話を変えようと思っても、残念……とは言え、時間はないようだから、これだけは持って行ってくれ!!」

 なぜか緊迫感が張り詰めた映画の中のように言われた……瞬間、マスクが着用された。

 謎の竹製マスク。

「これが! 俺の『パンダ式癒しマスク』! 姪っ子ちゃん、これつけて深呼吸だ! 喘息なんてぶっ飛ばすぜ! まあ、新しい愛の形だ。ぜひ持って行ってくれ」

 マスクには、もちろんパンダの顔がプリントされてて、目が……光ってる!? しかも、なんか微妙にヒンヤリする!? この設定、パンダ的ブーム? それとも危険があるとビーム攻撃とか?

「ちょ、なにこれ!? 怪しさMAXじゃん! てか、こんなマスクつけたら学校で目立つって!」

 拒否モード全開。あまり意味がない。

 パンダがモフモフの腕で私の肩を抱き(重い!)、真剣な目で言う。

「姪っ子ちゃん、叔父としてお前の健康が一番大事だ。絆ってのは、こうやって守り合うもんだろ? ほら、試しにつけてみな!」

 その声、いつもよりしんみりしてる……って、待て、サングラス外したパンダの目、キラキラしすぎ! ギャップ萌え狙ってる!? 渋々マスクをつけると……なんか、竹の清涼な香りがフワッと広がって、呼吸が楽に!?

「……うそ、なんで!? 怪しいのに、なんでちょっと効くの!?」

 私が動揺する中、パンダがドヤ顔で胸(たぶん)をドン!

「ハハ、俺の愛のパワーだぜ!」

 ちょっと怪しい体勢。

 だが、そこへ現れたのは、ご近所のおばちゃん軍団が「パンダさぁ~ん!」と乱入!

「この間もらったマスク、うちの孫のアレルギーにも効いたわぁ~。癒しエキス、追加でちょうだい」

 と大騒ぎ。

 パンダが竹スティックを咥えながら、「どうだい?」とでも言いたげにウインク。

「レディース達、癒しは任せな! さぁ、姪っ子ちゃんも俺を存分に頼ってくれていいんだぜ」

 カッコつけポーズ。

 ……って、ステージじゃないんだから!

「サキちゃん、いい叔父さんね!」

「そ、そうですね。もう少し落ち着いてくれるといいんですけど」

 確かにそう言う時もある! が、が!! この『が!』が問題なのよぉおおおおお!! みんなのこのノリ、洗脳されてる?

 おばさん軍団に囲まれそうになり、私は慌てて学校へと向かった。

「いってきま~~す!!」

 全員声を揃えて「いってらっしゃい」の大合唱。悪い人達ではないのよね。だから困るんだけど。

 学校に向かう途中、友達がマスクを見て爆笑。

「サキちゃん、それヤバすぎ! パンダの目が光ってる!」
「今は昼なんだから控えなさいよ」
「そうそう、夜は自転車通学のサキには必須だろうけどね」

 笑っているのか応援しているのか……いや、これは楽しんでいるやつだ。

「でも、なんか涼しそうじゃん!」

「これ、オジサンの手作り……」
「え、めっちゃ愛感じるじゃん! いいなー!」

 とニコニコ。

 教室に行けば、なんかみんながパンダアイテムに群がる始末。なんでみんなパンダの愛にハマるのよぉおおおおお!?

 放課後、帰宅すると、パンダが庭で緑の軟体生物(!?)とスパーリングしながら、

「姪っ子ちゃん、今日の発作はどうだった!? さぁ、叔父に報告だ!」

 元気にパワフルに、心配モード全開。

 ため息をつきつつ、意地悪な嘘をつけない私は、

「……まあ、マスクのおかげで楽だった、かな。ありがと……」と小声で呟く。

 パンダの耳がピクッと動き、牙がキラリ。

「やったぜ、姪っ子ちゃん! 俺たちの絆、また一歩深まったな!」

 ガッツポーズを見せてきた。

 その日の夕食は、暑さに負けるなスタミナすき焼きだった。

 食卓で、軟体生物が一緒にご飯を食べているのは……多分、気にしちゃ負けなやつ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ペットになった

ノーウェザー
ファンタジー
ペットになってしまった『クロ』。 言葉も常識も通用しない世界。 それでも、特に不便は感じない。 あの場所に戻るくらいなら、別にどんな場所でも良かったから。 「クロ」 笑いながらオレの名前を呼ぶこの人がいる限り、オレは・・・ーーーー・・・。 ※視点コロコロ ※更新ノロノロ

七日後に神罰が落ちる。上層部は「下を切り捨てろ」と言った——私は全員を逃がす

蒼月よる
ファンタジー
七日後、この港に神罰が落ちる。 追放された元観測士イオナだけが、その事実を知っていた。 しかも災害は自然現象ではない——誰かが、意図的に引き起こそうとしている。 港の上層部はすでに手を打っていた。「下層区画を緩衝被害区として切り捨てる」秘密契約。被害を最小限に見せかけ、体制を守る冷徹な計画だ。 イオナは元護送隊長ガルム、荷運び組合長メラとともに動き出す。 犯人を暴き、証拠を公開し、住民を逃がし、工廠を止める——すべてを七日で。 被害を「選ぶ」管理か、全員を「残す」運用か。 追放観測士の、七日間の港湾カウントダウン・サスペンス。 この作品は以下の箇所にAI(Claude Code)を利用しています。 ・世界観・設定の管理補助 ・プロット段階の壁打ち ・作者による執筆後の校正

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

『まて』をやめました【完結】

かみい
恋愛
私、クラウディアという名前らしい。 朧気にある記憶は、ニホンジンという意識だけ。でも名前もな~んにも憶えていない。でもここはニホンじゃないよね。記憶がない私に周りは優しく、なくなった記憶なら新しく作ればいい。なんてポジティブな家族。そ~ねそ~よねと過ごしているうちに見たクラウディアが以前に付けていた日記。 時代錯誤な傲慢な婚約者に我慢ばかりを強いられていた生活。え~っ、そんな最低男のどこがよかったの?顔?顔なの? 超絶美形婚約者からの『まて』はもう嫌! 恋心も忘れてしまった私は、新しい人生を歩みます。 貴方以上の美人と出会って、私の今、充実、幸せです。 だから、もう縋って来ないでね。 本編、番外編含め完結しました。ありがとうございます ※小説になろうさんにも、別名で載せています

女神に頼まれましたけど

実川えむ
ファンタジー
雷が光る中、催される、卒業パーティー。 その主役の一人である王太子が、肩までのストレートの金髪をかきあげながら、鼻を鳴らして見下ろす。 「リザベーテ、私、オーガスタス・グリフィン・ロウセルは、貴様との婚約を破棄すっ……!?」 ドンガラガッシャーン! 「ひぃぃっ!?」 情けない叫びとともに、婚約破棄劇場は始まった。 ※王道の『婚約破棄』モノが書きたかった…… ※ざまぁ要素は後日談にする予定……

幼子家精霊ノアの献身〜転生者と過ごした記憶を頼りに、家スキルで快適生活を送りたい〜

犬社護
ファンタジー
むか〜しむかし、とある山頂付近に、冤罪により断罪で断種された元王子様と、同じく断罪で国外追放された元公爵令嬢が住んでいました。2人は異世界[日本]の記憶を持っていながらも、味方からの裏切りに遭ったことで人間不信となってしまい、およそ50年間自給自足生活を続けてきましたが、ある日元王子様は寿命を迎えることとなりました。彼を深く愛していた元公爵令嬢は《自分も彼と共に天へ》と真摯に祈ったことで、神様はその願いを叶えるため、2人の住んでいた家に命を吹き込み、家精霊ノアとして誕生させました。ノアは、2人の願いを叶え丁重に葬りましたが、同時に孤独となってしまいます。家精霊の性質上、1人で生き抜くことは厳しい。そこで、ノアは下山することを決意します。 これは転生者たちと過ごした記憶と知識を糧に、家スキルを巧みに操りながら人々に善行を施し、仲間たちと共に世界に大きな変革をもたす精霊の物語。

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

「王妃としてあなたができること」を教えてください

頭フェアリータイプ
ファンタジー
王妃候補達に王太子様が決意を問う。そんな一幕。

処理中です...