モフモフ叔父との田舎暮らしがカオスすぎる

迷い人

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16.パンダ叔父 詐欺師を撃退する

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 学校帰り。

 玄関を開ける前から、エアコンの涼しい風がチラリと漏れてくる。 まるで執事のごとく、私の帰宅時間に合わせて冷房をキメてくるあの軟体生物こと『ピュアエキス』が、バッチリお出迎え。

「Welcome home!」
「はい、ただいま~!」

 身体に良いからと放出されるミストの噴射口を指で押さえると——別の場所から新たなミストが噴き出してきやがった。まるでモグラ叩きゲームのように、次々と現れる噴射口。

「おじさんめ……余計なことを」

 爽やかな竹の香りが部屋に漂う中、私は冷蔵庫へと向かった。扉を開けると、オレンジジュースには「ジュースの飲みすぎ禁止」と書かれた付箋が貼られ、代わりに緑茶が前面に鎮座している。

 一瞬疑って軟体生物をチラリと見るが、彼は欠伸をしていて全くの無反応。お茶を手に取り、クンクンと匂いを嗅ぐ。仄かに竹の香りがするが——パンダが私を害するはずがないと、心のどこかで信じ切っていた。

 一緒に置かれたスイートポテト。昨日、カスタードクリームを中に仕込んでいる様子を見ていた私は、確かに緑茶でスッキリと味わいたい気分になった。いや、でもコーヒーも捨てがたい。冷房の効いた部屋で飲む温かいコーヒーも、なかなか乙じゃない?

 そんなことを考えている私の脳裏に、パンダの厳格な顔が浮かんだ。

『コーヒーは眠れなくなるから朝だけ!!』

 眠れずに咳が出て、結果的にパンダを抱き枕代わりに数日過ごした末に、約束事の一つに盛り込まれたルール。

「ミスト禁止は受け入れない癖に」

 おやつを冷蔵庫から出そうとした瞬間、なんとなく胸を不安が過ぎった。パンダが現れない。いつもの鼻歌も聞こえない。バイトの予定は聞いていない。お買い物だろうか?ご近所付き合い? 不安になった瞬間、食欲が消え失せ、少しばかりの苛立ちが湧き上がった。

「お風呂掃除??」

 私は胸に過るほのかな不安を解消させようとお風呂場に向かう。

 その時——チャイムの音が響いた。

 ホッとしながらも、なんだお買い物だったのか、と玄関へと向かい鍵を開ける。




 玄関へ。鍵を開けた瞬間――不穏な来訪者、登場!

「こんにちは! 松原工務店でーす! 以前、こちらの修繕をご依頼いただいたご縁で、今日は近隣の点検ついでに寄りました! ほら、この辺、古い家多いでしょ? この前の地震で、屋根や配管がヤバい家、続出なんですよ! 放置するとマズいって! 前に住んでたおじい様、お元気です?」

 早口でまくし立てる作業服のオッサン。ニヤニヤ笑顔が、なんか胡散臭い。言葉の半分も頭に入ってこない。 ただ、近づけられる顔が不快で、何か臭くて……逃げた私だが、狙ったように一歩踏み出され家の中に。

 おじさん!!

「え、祖父母は留守で……勝手に決められないんで、相談してから――」

「いやいやいや! お孫さんに一人で留守番させてる時に、屋根が崩れたら大変でしょ! おじい様おばあ様も『点検しといて!』って言うはず! 俺、昔からこの家のメンテやってるんで! ほら、無料! タダですよ、タダ! 今すぐ見ときましょ!」

 ニヤニヤが加速するオッサン。名刺までチラつかせる。マジで懇意にしてた風の圧がすごい。困惑してる私の背筋に、ゾワッと悪寒が走った。

 その瞬間――ヒーロー(?)パンダ、爆誕!

「ぱんだキィィィック!!」

 ドゴォォン!オッサンが宙を舞う! 現れたパンダがモフッと私をハグ。ふわっと竹の香りに包まれ、心底ホッとした。

「おじさん、知らない人が……! おじさんの知り合い?!」

 なみだ目な私の背をポンポンと叩き宥めるパンダ。

「悪いな、留守にしてた隙にこんなヤツが! コイツ、知らねえぞ。それに――」

 パンダ、キリッとオッサンを睨む。

「この家のメンテは、この俺がやってる! コイツ、詐欺師だ! 町内会のオバちゃん情報網で、最近この辺でウロウロしてるって情報は届いている」

 癒し系パンダの本領発揮! オッサン、こそこそ逃げようとするけど、パンダの眼光がギラリ!

「とぉっ!」

 パンダの精密キックがオッサンの腰に炸裂!

「うおっ! 持病の腰痛が……治った!?」

「治療?!」

 私のツッコミに、パンダがニヒルにニヤリ。

「俺、癒し系パンダだからな。病人にゃ優しくせざるを得ねえ。本番はこれからよ!」

「カッコつけパンダ、さっき普通にオッサン吹っ飛ばしてたよね?」

「ははっ、野暮なこと言うなよ!」

 と笑うパンダを尻目に、私は慌ててスマホで警察へダイヤル!



 ヒーロー爆誕から30分後。
 詐欺師オッサンは警察官に連行されていった。

 パンダと私は玄関先でそれを見送る。

「おじさん、ありがと。 ……怖かった……」

 ぽつりとつぶやけば、モフモフに抱きしめられ柔らかな毛並に埋もれた。

「当然だ! 俺がいる限り、姪っ子ちゃんに危険はねえ!」

 胸を張るパンダ、なんかカッコいいけど愛嬌たっぷりで大きな手で頭を撫でて来る。

「でも、なんで詐欺師って分かったの?」
「簡単さ。この家のメンテは俺の専売特許! それに――」

 パンダ、振り返ってウインク。

「町内会のオバちゃんたちの情報網、舐めんなよ。詐欺師の噂、昨日からガンガン入ってきてたぜ」

 夕暮れの中、家に戻る。冷めた緑茶を温め直し、スイートポテトを半分こ。パンダの鼻歌が響く中、今日も不思議で愛おしい日常が幕を閉じた。

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