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4章
48.天才絵師 06
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会わない方がいい。
晃がいるから。
晃のために。
そんな様子を匂わせられれば、気になるのは当然だろう。
「質問いいでしょうか?」
晃が言う。
「何かね?」
「先生は、精神科医ですよね? なぜ、岬加奈子への面会対応をしているのですか? 先生が彼女の保護者だからですか?」
「いいえ、彼女にとってカウンセリングが必要な状況だからですよ」
それが何か? とでも言うような返事。
確かに、同級生が友人を殺し、ソレに加担したとなれば、カウンセリングは必要な事だと晃が納得を示せば、新見が藤原に問いかける。
「幹部にとって何か都合の悪い事は、ありますね……。 彼女は眼球をくりぬいている。 彼女の絵に心酔する方々は幹部にも多く、何よりも高い値が付く……眼球の再生は最優先になされました。 ですが、視力が戻っていないと言うところでしょうか」
「えぇ、ですが、患者の情報を勝手に語る訳にはいけません」
その返答で既に語っていると同じだろう。
晃も新見も同じ事を考えているのが、顔に出ていたのだろう。 藤原は小さく笑い、音を出さず囁くように唇だけを動かした。
秘密ですよ。
「加奈子君は自分の記憶にとどめる最後の映像を、永遠の記憶を、雫だと決め、眼球を引き抜いたそうです。 ですが、ソレは許されず彼女の眼球は再生された」
トントンと、テーブルが指先で叩かれだす。
無意識に晃は藤原の指先へと視線を向けていた。
「彼女は、何も見えていません。 再生は完璧だったと言うのに……。 ですから私が招かれました」
「見えていないなら、新見がその岬加奈子と会うのに俺が同行しても問題が無いのでは?」
同行したいと強く願い新見と共に来た訳ではないが、藤原との会話から岬加奈子と言う人間に興味が沸いた。 興味とは言っても好意とは限らない。
晃は、今もテーブルを叩く指先を見ていた。
「彼女を刺激したくはない。 彼女にはまだ、雫が生きている事も伝えていません。 それに……雫のせいでそうなった彼女を家族が良く思ってはいません」
「ソレは詭弁ではありませんか? 気づいていますよね? 彼女は雫ちゃんの友人だったのですから。 雫ちゃんは呪われている事を加奈子君は知っています。 それに……雫ちゃんを助けた時、加奈子君は側に居ました」
新見の言葉を晃は否定しようと、強く意識を持った。 そうして、ようやく晃の視線はテーブルを打つ藤原の指先から外れた。
「いや……あの時、彼女はもう意識を失っていた」
雫と言う人間を知らなかった晃は、あの場で雫を一番に優先した。 だけれど、視線の先にはシッカリと岬加奈子も捕らえていた。
眼球をくり抜き、晃を拒絶した岬加奈子を晃は記憶している。 そう、拒絶したのだ……彼女は、雫の死を望みながら、自らへ向けられる救いの手は拒絶した。 もしかすると雫の死に後悔し絶望したのかもしれない。 失われた瞳で晃を睨みつけて来た岬加奈子を思い出す。
「彼女は、本当に雫の死を望んだのですか? 俺には、そう見えなかった」
「人の心は揺らぐもの。 彼女は、雫と言う存在を失った今を慈しみ、己の不幸を、不遇を、不憫を愛している。 彼女は不幸でありながら誰よりも幸福な時を送っている。 だから、岬加奈子は聞かない。 雫の生死を……。 コレは、君たちが求めていた疑問の答えではないのかな?」
「ソレが、信用できる情報であれば……」
新見が藤原を睨んでいた。
「今は真実だが、君達が加奈子にあった瞬間、真実は変貌するだろう。 なら、触れない事が正解ではないかな? あぁ、コーヒーのお代わりは?」
空になったカップを藤原は見ていた。
同時に、それは、退室を促すための言葉でもあった。
「いえ、失礼します」
新見が席を立てば、晃もソレに続く。
扉へと向かう2人の背に、いや……晃に向かって藤原は話しかけた。
「晃、次は友達として会いましょう」
晃は藤原に嫌味っぽく笑って見せた。
「俺は……正気ですよ」
常に人の心理を、心の奥を、闇を探ろうとしていた母と藤原の姿がかぶり晃はそう答えた。
そして2人は部屋から出るが、閉め切らない扉の端から顔を覗かせた新見は聞く。
「岬加奈子は、目が見えないとおっしゃっていましたよね?」
「えぇ、ソレが何か?」
「彼女は、かなり気難しい人間ですが、誰が世話をしているんですか?」
「彼女の姉が、世話をしています」
「そうですか、ありがとうございました」
声が終わると同時に扉は締まり切った。
晃がいるから。
晃のために。
そんな様子を匂わせられれば、気になるのは当然だろう。
「質問いいでしょうか?」
晃が言う。
「何かね?」
「先生は、精神科医ですよね? なぜ、岬加奈子への面会対応をしているのですか? 先生が彼女の保護者だからですか?」
「いいえ、彼女にとってカウンセリングが必要な状況だからですよ」
それが何か? とでも言うような返事。
確かに、同級生が友人を殺し、ソレに加担したとなれば、カウンセリングは必要な事だと晃が納得を示せば、新見が藤原に問いかける。
「幹部にとって何か都合の悪い事は、ありますね……。 彼女は眼球をくりぬいている。 彼女の絵に心酔する方々は幹部にも多く、何よりも高い値が付く……眼球の再生は最優先になされました。 ですが、視力が戻っていないと言うところでしょうか」
「えぇ、ですが、患者の情報を勝手に語る訳にはいけません」
その返答で既に語っていると同じだろう。
晃も新見も同じ事を考えているのが、顔に出ていたのだろう。 藤原は小さく笑い、音を出さず囁くように唇だけを動かした。
秘密ですよ。
「加奈子君は自分の記憶にとどめる最後の映像を、永遠の記憶を、雫だと決め、眼球を引き抜いたそうです。 ですが、ソレは許されず彼女の眼球は再生された」
トントンと、テーブルが指先で叩かれだす。
無意識に晃は藤原の指先へと視線を向けていた。
「彼女は、何も見えていません。 再生は完璧だったと言うのに……。 ですから私が招かれました」
「見えていないなら、新見がその岬加奈子と会うのに俺が同行しても問題が無いのでは?」
同行したいと強く願い新見と共に来た訳ではないが、藤原との会話から岬加奈子と言う人間に興味が沸いた。 興味とは言っても好意とは限らない。
晃は、今もテーブルを叩く指先を見ていた。
「彼女を刺激したくはない。 彼女にはまだ、雫が生きている事も伝えていません。 それに……雫のせいでそうなった彼女を家族が良く思ってはいません」
「ソレは詭弁ではありませんか? 気づいていますよね? 彼女は雫ちゃんの友人だったのですから。 雫ちゃんは呪われている事を加奈子君は知っています。 それに……雫ちゃんを助けた時、加奈子君は側に居ました」
新見の言葉を晃は否定しようと、強く意識を持った。 そうして、ようやく晃の視線はテーブルを打つ藤原の指先から外れた。
「いや……あの時、彼女はもう意識を失っていた」
雫と言う人間を知らなかった晃は、あの場で雫を一番に優先した。 だけれど、視線の先にはシッカリと岬加奈子も捕らえていた。
眼球をくり抜き、晃を拒絶した岬加奈子を晃は記憶している。 そう、拒絶したのだ……彼女は、雫の死を望みながら、自らへ向けられる救いの手は拒絶した。 もしかすると雫の死に後悔し絶望したのかもしれない。 失われた瞳で晃を睨みつけて来た岬加奈子を思い出す。
「彼女は、本当に雫の死を望んだのですか? 俺には、そう見えなかった」
「人の心は揺らぐもの。 彼女は、雫と言う存在を失った今を慈しみ、己の不幸を、不遇を、不憫を愛している。 彼女は不幸でありながら誰よりも幸福な時を送っている。 だから、岬加奈子は聞かない。 雫の生死を……。 コレは、君たちが求めていた疑問の答えではないのかな?」
「ソレが、信用できる情報であれば……」
新見が藤原を睨んでいた。
「今は真実だが、君達が加奈子にあった瞬間、真実は変貌するだろう。 なら、触れない事が正解ではないかな? あぁ、コーヒーのお代わりは?」
空になったカップを藤原は見ていた。
同時に、それは、退室を促すための言葉でもあった。
「いえ、失礼します」
新見が席を立てば、晃もソレに続く。
扉へと向かう2人の背に、いや……晃に向かって藤原は話しかけた。
「晃、次は友達として会いましょう」
晃は藤原に嫌味っぽく笑って見せた。
「俺は……正気ですよ」
常に人の心理を、心の奥を、闇を探ろうとしていた母と藤原の姿がかぶり晃はそう答えた。
そして2人は部屋から出るが、閉め切らない扉の端から顔を覗かせた新見は聞く。
「岬加奈子は、目が見えないとおっしゃっていましたよね?」
「えぇ、ソレが何か?」
「彼女は、かなり気難しい人間ですが、誰が世話をしているんですか?」
「彼女の姉が、世話をしています」
「そうですか、ありがとうございました」
声が終わると同時に扉は締まり切った。
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