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前編
01
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プライドが許さなかった。
語り合う事をしなかった。
真っ白な頭の中に巡るのは『後悔』だった……。
「どうしたんだ? ウィル。 急に立ち止まって」
学生時代からの相棒カールが少し後ろから声をかけてきた。
「ぇ?」
反射的に振り返り、カールの声と顔を認識すると同時に、ボンヤリとした思考が急激に覚醒を促され、光の中に引き戻される感じがした。
不安そうに見えたのだろうか?
安心するようにとでも言うようにカールは笑って見せる。 背が高く体格のいい男。
「いえ、何でもありません」
大きな帽子を傾けて僕は不安定な自分の顔を隠した。 初めて会った時からコイツの事が嫌いだった。 なのに、今は奇妙な懐かしさすら感じてしまう……だけど、それは屈辱で……戸惑ってしまう。
「いえ……」
嫌いなのに……カールを見ながら、いつの間にか微笑んでいたのだろう。 カールがいぶかしげな顔を向けて来る。
彼との付き合いは長い。
王立学園グランツは、国にとって重要な人材を育成するための学園で、入学には貴族の推薦、そして10歳以上である事が条件とされている。
辺境伯令息であるカール・シュミットと、グランビル伯爵の息子である僕ウィル・グランビルは、同じ年の春に入学し……そして、上級生の標的となり2人で仕返しをした日からずっと共に戦ってきた。
嫌いなのに、無くてはならない人。
「本当にどうしたんだ? 大丈夫か?」
「うん……大丈夫だから……頭を撫でるなよ」
頭に置かれた手を払い退け、沈黙のままダラダラと歩きカフェへと向かう。
先の大戦の際に、カールは騎士として僕を守り、僕は魔術で敵を蹴散らした。 その功績を知らない者は王都にはおらず、人々は何時だってチラチラと好機の視線を向けて来る。
今日は何時も以上に視線が気になりイライラした。
「そんなに不機嫌にならなくてもいいだろう。 おまえが婚約者殿との時間を疎ましく思っているのは知っているが、国王陛下のはからいだ。 それよりも俺は思うんだが、彼女と会う時に恋人気取りで君の栄誉を利用する義妹を伴うのは如何なものだろうか?」
苦笑交じりに語る声は苛立ちに拍車をかけてくる。
「君こそ、僕の義妹に失礼じゃないかな? それにメアリーだって毎回お茶会についてくるわけじゃない。 彼女だって忙しいだろうからね。 それこそ一人前にさえなればソフィラよりもメアリーの方が人に求められるんだ。 今はまだ学生なんだから仕方ないだろう!!」
「あのなぁソフィラもまだ学生だ」
「ソフィラは5年生でメアリーは2年だ。 それに年齢だってソフィラの方が年上だ。 年下を思いやるのは当然だろう?!」
婚約者のソフィラは今年16歳、メアリーは15歳になる。
「年上って数か月の違いだろう。 見た目的にはソフィラの方が幼い」
「僕だって!! 僕だって……見た目は子供だけど……魔力を蓄えているだけで、本当は大人だ……。 見た目なんて意味は無い……」
国を守るための魔力ストックとして魔石作りが義務づけられ、僕の姿はもう何年も子供のまま。 僕が……僕とカールが助けた子供……ソフィラもメアリーも、特にメアリーは年齢以上に大人っぽく成長しているのに、僕はと言えば彼女を助けた5年前の彼女と同じぐらいの幼い姿をしている。
そんな僕に対してもメアリーは、子供扱いすることなく敬意を向けてくれる。
「そうか? その割にメアリーの素敵な身体には興味津々のようだが?」
「そんな事はない!!」
「顔を真っ赤にして、あんだけ貢いでおいてやってないのか?」
「ふ、不潔だ!!」
「魔導師って奴は……根暗だな」
「ウルサイ!!」
「まぁ、冗談はともかく……おまえが、他の女の味方をしてどうする。 築ける関係も築けなくなる」
「ガキ相手に欲情しろって言うのが無理な話だよ」
「そこから考えを離せ、お坊ちゃん。 正直、笑えない」
真顔で言われた僕は、頭の中がぐらぐらした。 別にメアリーの年齢にそぐわない魅惑的な肢体ではなく……カールの真面目な言葉に背筋がヒヤリとしたのだ。
「君が言ったんだろう。 それに、僕だって分かってる……。 分かっているよ」
何がと言われても分からないけど、それでもゾワゾワと背筋に走る予感には泣きたくなるほど不安だった。
魔導師の帽子を奪ったカールが子供にするようにウィルの頭撫でながら、ウィルに白蝶貝と真珠で作った髪飾りを入れた箱を手渡した。
「なんだよコレ……」
「今回の遠征の土産だ。 おまえからだと渡すといい」
「なんでそんなものを……あんたが渡せばいいだろう? ガキに機嫌を取れって言うのか?」
ウィルはそう言いながら奪われた帽子を取り戻し、顔を隠すほどに深くかぶった。
贈り物はしたくない。 彼女に贈り物をする人は多く、その人達は皆ウィルと違って金持ちなのだ。 見た目こそ子供のような姿をしているが、中身は27歳の青年だ。
プライドが傷つくのが怖い……。
カールは口の悪い相方に、苦笑いと共に肩をすくめて見せる。
「上手くやれよ」
「一緒に来ないの?」
「デートに割り込むなんて非常識な事はしないさ」
明らかに義妹となった女性の同行を許すウィルに対する嫌味。
嫌いだ……。
睨みつけるウィルにカールは笑いかけ手を振り去って行った。
語り合う事をしなかった。
真っ白な頭の中に巡るのは『後悔』だった……。
「どうしたんだ? ウィル。 急に立ち止まって」
学生時代からの相棒カールが少し後ろから声をかけてきた。
「ぇ?」
反射的に振り返り、カールの声と顔を認識すると同時に、ボンヤリとした思考が急激に覚醒を促され、光の中に引き戻される感じがした。
不安そうに見えたのだろうか?
安心するようにとでも言うようにカールは笑って見せる。 背が高く体格のいい男。
「いえ、何でもありません」
大きな帽子を傾けて僕は不安定な自分の顔を隠した。 初めて会った時からコイツの事が嫌いだった。 なのに、今は奇妙な懐かしさすら感じてしまう……だけど、それは屈辱で……戸惑ってしまう。
「いえ……」
嫌いなのに……カールを見ながら、いつの間にか微笑んでいたのだろう。 カールがいぶかしげな顔を向けて来る。
彼との付き合いは長い。
王立学園グランツは、国にとって重要な人材を育成するための学園で、入学には貴族の推薦、そして10歳以上である事が条件とされている。
辺境伯令息であるカール・シュミットと、グランビル伯爵の息子である僕ウィル・グランビルは、同じ年の春に入学し……そして、上級生の標的となり2人で仕返しをした日からずっと共に戦ってきた。
嫌いなのに、無くてはならない人。
「本当にどうしたんだ? 大丈夫か?」
「うん……大丈夫だから……頭を撫でるなよ」
頭に置かれた手を払い退け、沈黙のままダラダラと歩きカフェへと向かう。
先の大戦の際に、カールは騎士として僕を守り、僕は魔術で敵を蹴散らした。 その功績を知らない者は王都にはおらず、人々は何時だってチラチラと好機の視線を向けて来る。
今日は何時も以上に視線が気になりイライラした。
「そんなに不機嫌にならなくてもいいだろう。 おまえが婚約者殿との時間を疎ましく思っているのは知っているが、国王陛下のはからいだ。 それよりも俺は思うんだが、彼女と会う時に恋人気取りで君の栄誉を利用する義妹を伴うのは如何なものだろうか?」
苦笑交じりに語る声は苛立ちに拍車をかけてくる。
「君こそ、僕の義妹に失礼じゃないかな? それにメアリーだって毎回お茶会についてくるわけじゃない。 彼女だって忙しいだろうからね。 それこそ一人前にさえなればソフィラよりもメアリーの方が人に求められるんだ。 今はまだ学生なんだから仕方ないだろう!!」
「あのなぁソフィラもまだ学生だ」
「ソフィラは5年生でメアリーは2年だ。 それに年齢だってソフィラの方が年上だ。 年下を思いやるのは当然だろう?!」
婚約者のソフィラは今年16歳、メアリーは15歳になる。
「年上って数か月の違いだろう。 見た目的にはソフィラの方が幼い」
「僕だって!! 僕だって……見た目は子供だけど……魔力を蓄えているだけで、本当は大人だ……。 見た目なんて意味は無い……」
国を守るための魔力ストックとして魔石作りが義務づけられ、僕の姿はもう何年も子供のまま。 僕が……僕とカールが助けた子供……ソフィラもメアリーも、特にメアリーは年齢以上に大人っぽく成長しているのに、僕はと言えば彼女を助けた5年前の彼女と同じぐらいの幼い姿をしている。
そんな僕に対してもメアリーは、子供扱いすることなく敬意を向けてくれる。
「そうか? その割にメアリーの素敵な身体には興味津々のようだが?」
「そんな事はない!!」
「顔を真っ赤にして、あんだけ貢いでおいてやってないのか?」
「ふ、不潔だ!!」
「魔導師って奴は……根暗だな」
「ウルサイ!!」
「まぁ、冗談はともかく……おまえが、他の女の味方をしてどうする。 築ける関係も築けなくなる」
「ガキ相手に欲情しろって言うのが無理な話だよ」
「そこから考えを離せ、お坊ちゃん。 正直、笑えない」
真顔で言われた僕は、頭の中がぐらぐらした。 別にメアリーの年齢にそぐわない魅惑的な肢体ではなく……カールの真面目な言葉に背筋がヒヤリとしたのだ。
「君が言ったんだろう。 それに、僕だって分かってる……。 分かっているよ」
何がと言われても分からないけど、それでもゾワゾワと背筋に走る予感には泣きたくなるほど不安だった。
魔導師の帽子を奪ったカールが子供にするようにウィルの頭撫でながら、ウィルに白蝶貝と真珠で作った髪飾りを入れた箱を手渡した。
「なんだよコレ……」
「今回の遠征の土産だ。 おまえからだと渡すといい」
「なんでそんなものを……あんたが渡せばいいだろう? ガキに機嫌を取れって言うのか?」
ウィルはそう言いながら奪われた帽子を取り戻し、顔を隠すほどに深くかぶった。
贈り物はしたくない。 彼女に贈り物をする人は多く、その人達は皆ウィルと違って金持ちなのだ。 見た目こそ子供のような姿をしているが、中身は27歳の青年だ。
プライドが傷つくのが怖い……。
カールは口の悪い相方に、苦笑いと共に肩をすくめて見せる。
「上手くやれよ」
「一緒に来ないの?」
「デートに割り込むなんて非常識な事はしないさ」
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