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第2章 夢

25. 酒場兼宿屋

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「ここの酒場はどう? 宿も兼ねているみたいだよ」

 二人と一頭が港をある程度散策した時、ヘルニーが一軒の建物の前に立って指を差した。ヨシュアの目的である酒場だ。塩害を防ぐために、港があるすべての建物は木製で出来ていた。この酒場も例外ではない。酒場に一緒に入ろうとする彼を目線で制止し、アルヴァ―ノを見守る様に頼むと、さっさと中へ入っていく。その後ろでは、不満そうに鼻を鳴らす愛馬がいた。

「いらっしゃい」

 開き戸も木製で出来ているが、丁番が鉄のせいか潮風に当てられてびている。ギィ……と軋む音を上げた。それに気づいた店主が、木製のジョッキを布で拭きながら声をかけてくる。ヨシュアはゆっくりとした足取りで中に入っていった。

「店主、ここは宿屋も兼ねていると聞いた。料金はどれくらいになる」
「ああ、泊まるなら1泊で銅貨50枚だ」
「なら1人分を頼む。後、馬小屋はどこにある?」
「それならこの宿の後ろにあるよ。追加料金は銅貨5枚になるが」
「それでいい。後すまんが、酒とつまみを準備しておいてくれ」

 簡潔に話し、交渉し終わったのか外へと出ていく。すぐに戻ってきたヨシュアを見たアルヴァ―ノは小走りで近づき甘えだした。

「よしよし。さて、裏に移動するぞ」

 服を甘噛みする愛馬の背を撫で、流れるように宿の裏へ連れて行く。その後を悲しそうな顔をしながらついてくるヘルニーがいた。

「僕が悪かったよ……。だから許してほしいんだ」
「……謝罪は好きにするがいい。だが、それを受け入れるかどうかは私が決める。それに、自己紹介だけして近づき、何がしたいか分からない者を近くにいさせる気はないからな」

 落ち込んでいる雰囲気を出すヘルニーに冷たく言い放ち、馬宿に付いた途端、離れたくないと暴れかけたアルヴァ―ノをなんとか落ち着かせながら中に入れ、酒場へと向かった。

「理由は、君達と一緒に旅が出来たら楽しそうだなって思って近づいたんだ」
「……お前は何が出来る」

 酒場の中に入った後、主人がいる前の席に座り、準備されていたお酒を一口飲んだ。一緒について来たヘルニーが隣に座りながら理由を言うのに対し、一瞬だけ考えたヨシュアが変な質問をする。突然言われた事で呆気に取られた彼だったが、質問の意味を組み取り、しばらく考えた後、自分の力を教え始めた。

「一応、斥候としての能力ならなんでも」
「一応ってのがあいまいだな。もっと詳しくだ」
「気配遮断に罠解除、それから探索範囲・中かな」

 ヘルニーが指を折りながら伝えていく。「これぐらいかな」と言った彼の最後の言葉に、聞きなれないものがあり、ヨシュアは詳しく説明するよう足す。

「最後のは何だ」
「探索範囲・中ていうのは、草原なら音や匂いで進む先に何があるか、洞窟内なら音の反響を聞いて、そこがどれくらいの広さがあるかわかる範囲の事だよ」

 先程から視線を合わせず、少しずつお酒を飲みながら彼の説明を聞くヨシュアは、静かにジョッキを置いた。手に顎をのせながらしばらく考え込み、つまみとしては少しだけ豪華に飾り付けされて、塩漬けされた魚を木のフォークを使い、解しながら少しずつ食べていく。

「どうかな? これだったら君の役に立てると思うよ」
「……確かに斥候としての役割は果たせそうだな」
「それじゃあ!」
「信用できるかどうかは別だがな」

 酒のお代わりを待つヨシュアの肯定的な言葉に胸を躍らし、期待した目でヘルニーが見つめる。それをヨシュアは無慈悲な言葉で切り捨てた。

「上げて落とすなんて、ひどいよ」
「どこがだ? こちらは自分の命と愛馬の命がかっているんだ。旅をする以上、どこで何があるか分からないうえに、先程の説明が本当かどうかの判断も今の私には出来ない。しかも、お前との最初の印象は最悪だ。そんな状態で今すぐ信用など出来るはずもないだろう」
「それは……そうだね」

 少し怒気の混じった声で、ごく当たり前のことをいうヨシュアに反論しようとするが、それ以外の言葉が思いつかないのか、ゆっくりと机にうつ伏せて肯定した。その哀愁あいしゅう漂うヘルニーの姿を憐れに思ったのか、ずっと正面で聞いていた店主が声をかけてくる。

あんちゃん。その気持ちは分からんでもないが、見ないで判断するのもどうかと思うぜ?」
「……すまん。少々苛立ちすぎた」

 目を瞑り、軽く息をはきながら不服そうな顔をしつつも、素直に反省するヨシュアに気分がよくなったのか、「それはおごりだ」と店主がにこやかに笑いながらジョッキを持ってきて、二人の前に置いた。これ飲んで落ち着きなと言わんばかりの顔をしている。それを見たヨシュアはもう一度軽く溜息を付き、渡されたものを一気に飲み干し、肺に溜まった重苦しい気持ちを苛立ちと一緒に吐き出した。

「……試用期間は1週間だ。その間に私からの信用を取ってみせろ。それから旅に同行させるかどうかを判断する。それなら文句ないな?」
「え、いいの? うん、全然文句なし!」
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