勇者科でたての40代は使えない

重土 浄

文字の大きさ
11 / 41
第一話 池袋駅 「おじさん、若者たちの窮地を救う」

11

しおりを挟む


 もっとも繁盛しているダンジョン口の一つである池袋駅の緊急医療センターには、医療魔術、つまり白魔術と呼ばれる技術の専門家が常駐している。24時間体勢でダンジョンからの負傷者や死者に対応しているのだ。

 時間は早朝五時すぎ、まもなく夜が明けようとしている。

 その医療センター内にある「リザレクション室」の一室で、つい今しがた冥界の門を往復してきた人物が目を覚ました。

 美しい金髪の長髪の少女。目を開けてすぐに上半身を起こした。医療用の薄い一枚布の服を着ただけの少女は、自分の周りで涙を流す人たちの姿を見て、すぐさま事態を把握した。

 ダンジョンの往復を強引に行い、復活魔法のためのサポートを寝ずに行っていた四人のパーティーメンバーは皆、目の下にくまを作り、疲れた姿でありながらも、喜びに輝く目で彼女を見ていた。

 「どうやら、みんなに苦労かけたみたいだね。ゴメンナサイ、ありがとう」

 ペコリと頭を下げた途端、仲間が一斉に飛びかかり、我先に抱きつこうとしてもみ合いになった。



 落ち着き、水分を補給しながら少女、ホリーチェは聞き返した。

 「つまり私はパンツ一丁の中年男性に助けられた…と」

 復活した早々の彼女の視線は厳しい。仲間は全員、首を縦に振るか横に振るかで悩んだ。

 「いや、パンツ一丁だったのは結果であって、あの人のパーソナリティーを表すものではなくてね…」

 シンウは説明に窮した。

 「後から聞いたんだけど、服やアーマーが気づかずに糸を切っちゃうと負けるから、肌で糸がかかるのを感知するために服も靴も脱いだって…」

 恩義ある男性に対してフォローをしておこうとジングが話しているが、彼も半信半疑だ。

 「パンツだけじゃなくて真っ白い液でネバネバでちょっと臭かったね~」

 ニイが悪意なく余計な情報を挟むので、ホリーチェの可愛い顔が歪んだ。

 「あの男はパンツと手斧だけであのモンスターを一人で倒したのだ…と思う。呼び返された時にはもうスパイアントは死んでいて、ホリーチェは救出されていたんだ」

 スイホウも結果は知っているが、過程は一切見ていないため、事態を正確には把握していない。

 「どうやってかわかんねーけど、大型モンスターが縦に真っ二つになってたんだぜ、斧とパンツしかなかったのに」

 ジンクも何をどう信じたらいいか分からなかい様子だ。

 パーティーメンバー全員の情報を聞き集めホリーチェが導き出した結論は、

 「つまり私はパンツ一丁の中年男性に助けられたと」

 変わらなかった。



 「まあとにかく、本人に聞くのが早いでしょ。お礼もちゃんとしないといけないし。

 で、そのおじさんとやらはどこ?」

 「尾地さん?」

 「オじさん?」

 「おジサン?」

 みんながみんな、ホリーチェのイントネーションの間違いを指摘した。

 「あの人、仕事は終わったからって言って、帰っちゃったよ。池袋ついたらすぐに」

 ジングがガッカリしたように言うと、みなが驚いた。

 そういやいないな、あの中年、気づかなかったと。

 ジンクはあの男からもっと聞きたいことがあったと残念がり。他のメンバーも、このぼんやりとした謎の結末の詳細を聞きだしたかった。

 「派遣で全額前払いだったしね。仕事終わったら、用なんてないか、私達に…」

 シンウは寂しそうだった。

 「あの人といると、ちょっと面白かったな。便利だし!」

 「私はまだ信じられない。パンツだけで戦ったなんて…」

 ニイの素直すぎる感想とスイホウの戸惑い。

 ベッドの上に座るホリーチェは、このパーティーの最年少でありながらリーダーでもある。その彼女は尾地に一度も会っていないので、感傷もなくサバサバとしたものだった。

 「また会えるでしょ、派遣なんだし。ダンジョンに潜っていればいつか、また交わることもあるでしょ…その……オジサン?に」

 「尾地さん」

 全員がツッコミを入れた。



 「とりあえず、みんな無事だった…。この御礼はいつかちゃんとしよう、あの人に」

 すべての仕事をやり遂げたシンウはそう心に決めていた。彼女は自らの最悪の時を救ってくれたあの男に大きな恩を感じていた。

 医療センターの一室で、取り戻したリーダーの少女を中心に、彼女の愛する仲間たちが集って笑顔を見せている。これを取り戻すために命をかけたのだ。自分も、あの男も。

 彼女は駅医療センターの窓から池袋駅構内を眺める。朝一番の電車から降りてきた冒険者達がダンジョン口へと向かっていく。駅構内の賑やかさが増してきた。また今日も多くの冒険者達がここから冒険に旅立つ。

 沈没しダンジョンと化した東京へと。

 それが毎日続く。

 そこには彼女たちのパーティーもいて、

 派遣で働く、あの中年男性もいるのだ。



しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

「魔物の討伐で拾われた少年――アイト・グレイモント」

(イェイソン・マヌエル・ジーン)
ファンタジー
魔物の討伐中に見つかった黄金の瞳の少年、アイト・グレイモント。 王宮で育てられながらも、本当の冒険を求める彼は7歳で旅に出る。 風の魔法を操り、師匠と幼なじみの少女リリアと共に世界を巡る中、古代の遺跡で隠された力に触れ——。

軽トラの荷台にダンジョンができました★車ごと【非破壊オブジェクト化】して移動要塞になったので快適探索者生活を始めたいと思います

こげ丸
ファンタジー
===運べるプライベートダンジョンで自由気ままな快適最強探索者生活!=== ダンジョンが出来て三〇年。平凡なエンジニアとして過ごしていた主人公だが、ある日突然軽トラの荷台にダンジョンゲートが発生したことをきっかけに、遅咲きながら探索者デビューすることを決意する。 でも別に最強なんて目指さない。 それなりに強くなって、それなりに稼げるようになれれば十分と思っていたのだが……。 フィールドボス化した愛犬(パグ)に非破壊オブジェクト化して移動要塞と化した軽トラ。ユニークスキル「ダンジョンアドミニストレーター」を得てダンジョンの管理者となった主人公が「それなり」ですむわけがなかった。 これは、プライベートダンジョンを利用した快適生活を送りつつ、最強探索者へと駆け上がっていく一人と一匹……とその他大勢の配下たちの物語。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

九尾と契約した日。霊力ゼロの陰陽師見習いが大成するまで。

三科異邦
ファンタジー
「霊力も使えない。術式も出せない。 ……西園寺玄弥、お前は本当に陰陽師か?」 その言葉は、もう何度聞いたか分からない。 霊術学院の訓練場で、俺はただ立ち尽くしていた。 周囲では炎が舞い、水がうねり、風が刃のように走る。 同年代の陰陽師たちが、当たり前のように霊を操っている。 ――俺だけが、何もできない。 反論したい気持ちはある。 でも、できない事実は変わらない。 そんな俺が、 世界最強クラスの妖怪と契約することになるなんて―― この時は、まだ知る由もなかった。 これは―― 妖怪の王を倒すべく、九尾の葛葉や他の仲間達と力を合わせて成長していく陰陽師見習いの物語。

【もうダメだ!】貧乏大学生、絶望から一気に成り上がる〜もし、無属性でFランクの俺が異文明の魔道兵器を担いでダンジョンに潜ったら〜

KEINO
ファンタジー
貧乏大学生の探索者はダンジョンに潜り、全てを覆す。 ~あらすじ~ 世界に突如出現した異次元空間「ダンジョン」。 そこから産出される魔石は人類に無限のエネルギーをもたらし、アーティファクトは魔法の力を授けた。 しかし、その恩恵は平等ではなかった。 富と力はダンジョン利権を牛耳る企業と、「属性適性」という特別な才能を持つ「選ばれし者」たちに独占され、世界は新たな格差社会へと変貌していた。 そんな歪んだ現代日本で、及川翔は「無属性」という最底辺の烙印を押された青年だった。 彼には魔法の才能も、富も、未来への希望もない。 あるのは、両親を失った二年前のダンジョン氾濫で、原因不明の昏睡状態に陥った最愛の妹、美咲を救うという、ただ一つの願いだけだった。 妹を治すため、彼は最先端の「魔力生体学」を学ぶが、学費と治療費という冷酷な現実が彼の行く手を阻む。 希望と絶望の狭間で、翔に残された道はただ一つ――危険なダンジョンに潜り、泥臭く魔石を稼ぐこと。 英雄とも呼べるようなSランク探索者が脚光を浴びる華やかな世界とは裏腹に、翔は今日も一人、薄暗いダンジョンの奥へと足を踏み入れる。 これは、神に選ばれなかった「持たざる者」が、絶望的な現実にもがきながら、たった一つの希望を掴むために抗い、やがて世界の真実と向き合う、戦いの物語。 彼の「無属性」の力が、世界を揺るがす光となることを、彼はまだ知らない。 テンプレのダンジョン物を書いてみたくなり、手を出しました。 SF味が増してくるのは結構先の予定です。 スローペースですが、しっかりと世界観を楽しんでもらえる作品になってると思います。 良かったら読んでください!

無能と追放された俺、死にかけて覚醒した古代秘術を極めて最強になる

仲山悠仁
ファンタジー
魔力がすべての世界で、“無能”と烙印を押された少年アレックスは、 成人儀式の日に家族と村から追放されてしまう。 守る者も帰る場所もなく、魔物が徘徊する森へ一人放り出された彼は、 そこで――同じように孤独を抱えた少女と出会う。 フレア。 彼女もまた、居場所を失い、ひとりで生きてきた者だった。 二人の出会いは偶然か、それとも運命か。 無能と呼ばれた少年が秘めていた“本当の力”、 そして世界を蝕む“黒い霧”の謎が、静かに動き始める。 孤独だった二人が、共に歩き出す始まりの物語。

田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした

月神世一
ファンタジー
​「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」 ​ ​ブラック企業で過労死した日本人、カイト。 彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。 ​女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。 ​孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった! ​しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。 ​ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!? ​ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!? ​世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる! ​「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。 これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!

処理中です...