勇者科でたての40代は使えない

重土 浄

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第三話 西日暮里駅 「おじさん、美女軍団の下働きをする」

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 スイホウ達一行は弁当購入に手間取り、いまだにダンジョンに出発できずにいた。

 新たに到着した電車からも大量の冒険者たちが降りて、薄くなった駅前の人混みに追加の冒険者たちが加わりまた濃くなる。この通勤ラッシュはしばらく続きそうだ。

 しばらく経つと小さな悲鳴のような声が上がった。その声は驚きの歓声に変わり、周囲一帯の若者たちがざわつき始めた。

 「なに?なんかあったかな?」

 バックパックの荷物の積み直しをしながらシンウが駅の方を見た。

 「事故とかじゃないっッポイ」

 ニイは眠っているホリーチェをいじりながら同じ方を見る。

 人々のさざめきは駅舎内からから駅前エントランスに進んできた。

 「ビーパイスだ…」

 現れた人混みの中心にいる人物を見て、ニイが驚愕の声を上げる。

 「うわぁマジだ。本物初めて見ちゃった!」

 シンウも目を丸くした。

 ビーパイス、冒険者業界の中でもっとも有名なパーティーの一つ。その特徴は女性だけで編成されているパーティーである事だが、それだけではない。

 スイホウもその人混みの中でひときわ背の高い人物を見つけて

 「サキさんだ…数少ない魔法剣士の…」

 彼女にとっても憧れの対象のようだ。メモリーを使った魔法と剣術を同時に操れる、それを高いレベルで融合させられる者は本当に少ない。

 「全員が黒魔法の心得を持ってて、そのうちユイとイクミは白黒両方使える賢者。そしてリーダーのサヤカさんは…国内で十指に入る黒魔法使い…」

 ニイも呆然として見ながら次々現れる有名人を見つめ続ける。

 ビーパイスは全員が魔法を使え、魔法以外の戦闘技術も当然身に着けている。通常のパーティーとしても十分に強いが、五人全員による連続黒魔法攻撃は冒険者業界でも「リーサル・ウェポン」と讃えられているほどだ。

 そして、それだけでなく彼女たちは

 「そしてなにより…マジ美人ぞろい…」

 ニイの目は美しい花畑を見るかのように輝いていた。

 ニイ、スイホウ、シンウのパンピー冒険者の女性三人は、目の前を通り過ぎる美しき女性たちを見て、恍惚とした表情を浮かべている。目指すべき、目指したい、こうなりたい。そういう対象が目の前にいる。スターに出会ってしまったファンのように一時、現実を忘れてしまう。

 「でもさー、色々噂あるじゃん、有名パーティーとつながって這い上がってきたとか」

 夢見る女たちの前で、ネットで拾った情報をうかつにも口走ったジンクは、三人同時のケリをケツに食らって倒れた。

 「ゴシップたれてんじゃないよ、弟クン」

 ニイは同じ黒魔法使いとしてビーパイスに強いあこがれを抱いている。なによりその容姿の美しさ、愛らしさ、可愛さに。

 「ああ、私も黒魔法のセンスがあったら…」

 ジンクのケツを足で躙りながらスイホウも魔法剣士への憧れを語る。

 「全員二〇代後半で、私もああいう風になられたらなぁ…」

 倒れた弟に目もくれずにシンウが憧れを口にする。シンウがネットに上がっていたビーパイスのグラビアを、わざわざプリントアウトして部屋に飾っている事をジンクは忘れていた。

 駅から現れたビーパイスの一行はそんな一般冒険者の視線や反応にも慣れたもので、悠然と人混みの中にできた道を進む。凛々しき五人の女性は駅舎外に作られたギルドの冒険者用施設に向かっていく、その道行きを案内するかのように人々は後ろに下がり、道を作っていく。

 西日暮里の駅舎は小さいため、電車用のホームとダンジョン口だけがあるだけだ。冒険に必要なロッカー、シャワー、メモリーの引き出しと納品、緊急医療センターでの治療、各種受付のためには一旦、駅から出る必要があった。

 ふわりとした香りを放ちながら五人の美女がスイホウ達一般人の前を通り過ぎていく。その麗しき女性の後ろに、見たことのある中年が付き従って歩いてきた。その中年は鮮やかな女性とのコントラストのせいか、ものすごく地味なくすんだ影のように見えた。

 シンウが驚きの声をあげる。

 「尾地さん?」



 「おじサン…ついにストーカーになっちまったか!」

 そう言ってジンクは手早く尾地をひっ捕らえた。

 「情けない…実人生が虚しいからって、美人冒険者の後をつけるようなマネをするとは…」

 スイホウが情けないという顔をして尾地を見る。

 「悲しいよ、おじさん、ストーカーをしたって、得られるのは愛じゃなくて懲罰だよ…」

 ニイも哀れな人を見る目で言った。

 尾地は中年の困り顔で答えた。

 「ちょっと、皆さん…違いますよ!」

 スイホウ達もそれは知ってのことだが、意外なところで意外な知人に遭遇したため、一通り面白がろうという腹だ。この中年とは意外に縁があるのかもしれないと、それぞれが思っていた。

 シンウも尾地と話そうと近づいた時。 

 通り過ぎたビーパイスの美人軍団の一番後ろにいた、黒魔法使いのサヤカが捕まっている尾地に向かって

 「ちょっとオジさーん、遊んでないで仕事してよー」

 と声をかけた後、ギルドの建物の中に入っていった。

 「え?仕事ってなんですか? 趣味のストーキングじゃないんですか?」

 冗談を言おうとしていたシンウが思わず失礼な事を言ってしまった。

 「なんですかストーキングが趣味って。そんな事一度もしてませんよ。今日はビーパイスの付き人です。いつもどおりの派遣の仕事ですよ」

 「うわ、なに?派遣ってそんなラッキーな仕事あるの?俺もやりたい」

 ジンクが下心のままに発言する。

 「大丈夫ですよ、九九パーセントむくつけき男性パーティーの下働きですから」

 と残念な事実を尾地は返した。

 「それにお前の趣味はストーキングじゃなくてストリーキングだからな」

 騒ぎに目を覚ましたホニーチェだ。先日のパンツ姿で救われた件をまだ納得していないようだ。

 「ホニーチェちゃん、お久しぶりです」

 「お前にちゃん呼ばわりは気に入らないな。まあいい、それよりもお前の方は随分と楽しそうな仕事のようだな」

 尾地は頭をかいて、少し考える。何か言いそうになるがそれを飲み込んで。

 「そうですね、美女にかしずく、楽しい仕事ですね」

 そう笑顔で答えた。その時、尾地は後ろから襟首をつままれた。

 「おじさん…仕事してくれる?」

 「魔法剣士のサキさんんん!」

 スイホウが卒倒しかける。彼女のすぐ前に憧れの人が立っているのだ。パーティー内で一番背の高いスイホウよりも高い。当然尾地よりも頭一つ高い。

 いや、顔がさらに小さいため、二つは高い。

 「顔、ちっちゃー」

 芸能人に出会った一般人のような普通の反応をするニイ。

 「おじさ~~ん仕事してよー」

 ぞろぞろとビーパイス他の四人もやってくる。空間そのものが華やかになり、華やかさが限界突破してしまう。

 「アワワワ」

 一般冒険者の女三人はビビリまくり、ジンクは想定外の美女指数に脳がオーバーヒートしている。ただ一人、ホニーチェだけが興味ない感じで立っていた。

 「なにおじさん、この子たちと知り合い?」

 ビーパイスのリーダー、サヤカが尾地の後ろから肩に抱きついて尋ねる。

 一瞬、シンウがピンと直感した。まるで自分の物を取られるのを警戒するかのようなサヤカの動きを。

 そして彼女の顔の横にならぶ、ニヤけて鼻の下を伸ばしているような尾地の顔を見てイラッとした。

 「あ、、、あのファンです!」

 ニイが緊張しながらようやく言うことが出来た。それを聞いた五人の美女は代わる代わるに手慣れた礼を言い、ニイとスイホウが憧れの人と握手する。ジンクは調子に乗って全員と握手した。

 シンクはなぜか動かず、尾地を挟んでサヤカと目線をぶつけ合う。シンウの挑むような目線をそらしたサヤカは、尾地の耳元に唇を寄せ。

 「おじさん、いきましょ」

 甘く囁いた。尾地の体は小刻みに震えていた。

 尾地は軽く別れの挨拶をしたあと、みなの冒険の無事を祈った、そのままギルドの建物の中に入っていった。装備を整えた後で美女たちと冒険に出かけるご身分なのだ。



 嵐のような香りの後、駅前に残された惚け顔のメンバーたち。その中でシンウは一人憮然とした顔をしていた。なにか、つまらないという顔だ。

 ホニーチェは暇そうに一連の出来事を眺めていたが、

 「お前ら、とっとと支度しろ」

と、蕩けてしまっているメンバーに厳しく命令した。

 出発の予定は、だいぶ遅れてしまっていた。





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