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少年K
少年K【完】
しおりを挟む「気は済んだか。帰るぞ」
「……なんだよ、今まで放っておいたくせに」
「…………お前にも時間が必要だろう」
黒塗りの車の後部座席に座った少年は隣に座る男性から目を逸らすように窓の外を見て、公園を通り掛かった瞬間、小さく溢した。
「…………ごめんね」
その声は誰にも届くことなく空気に消えたが、少年はそれに勇気を得て、今度は隣に聞こえるような音量で声を出す。
「結婚って、一番大好きな人と結婚するんだって。父さんはどうだったの」
「……子供みたいなこと言うようになったな」
「子供だし」
「そうだな。まだ十二だ」
この人はまさか自分が公園で泥だらけになって遊んだなんて思わないだろうな、と愉快に思いながら耳を澄ませる。
「……私達は政略結婚のようなものだったからな」
「……ふうん」
「でも、きっと、彼女以上に愛せる人はもう二度といないだろう」
もう目を開かない母の隣で、この人の顔からごっそりと表情が抜け落ちたのを少年は見ていた。
これは少年が父親から聞いた最初で最後の本心で、少年の心に深く刻み込まれることになる。
「お前は、心底愛せる人を見つけたら絶対離すなよ」
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