死亡回避困難で悪役令嬢は鬱ってる。―理想ENDは天使も悪魔も出し抜いて大往生ですけど?―

ムツキ

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第1章・天使降臨

◆ 7・呪われし婚約者 ◆

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「アレックス……」
「……チャーリー」

 向き合い、お互いの愛称を呼び固まっている。
 それが、数年後には夫婦になる私たちの現状だ。呼び方が愛称なのはお互いの親が『そのように』勧めたからに他ならない。

 横では彼の母と私の父が紳士淑女のあるべき姿を体現中だ。流れるような動作での挨拶、当たり障りない穏やかな談笑、どうやらもう館への案内に移ったようだ。


 早い、早すぎる……。


 寒風吹きすさぶ外、お互いに寒いのに何の対策もとれていない。
 カエル王子はそれなりにモコモコと毛皮や綿の入ったコートを身にまとっているが、こちらは室内から出たばかりの普段着ドレス姿。
 館内と違い、魔法が効いていない為に寒さは普通に1月のモノである。

「……あー……の、チャーリー、誕生日おめでとう」

 王位継承権1位プリンス・オブ・コンクエストがこれ程に共同不審で自信なさげな反応をするのは、私にだけである。
 だが彼が私に惚れているからではない。

 初対面で『カエルと結婚するなら死ぬ』と喚き、彼を池に突き落としたからだ。

 あの時は何も思わなかったが、世の中の道理が分かった今は思う。運動が苦手な10才児が池に突き落とされても生き延びたのは、きっと彼がカエルだったからだ。彼がカエルで本当に良かった。
 あの瞬間に私の人生も終わっていたかもしれない。

「ありがとう、ございます……殿下」
「……どうかした?! 君がっ、ボクに『ございます』なんて……『殿下』だなんてっ」
 大仰に驚きを全面に出す蛙。


 しまったーーっ!!!!
 2個前の展開時に、奴隷調教された癖がっっ。今この時点の私は間違ってもカエルに気弱な淑女対応するわけない!!!


「その、もう、16ですから……?! 大人な振る舞いを心がけようと思って」
「え、そ、そーなんだー……それは、……それはっ、凄く良いと思うよっ」

 私も気付いたのだ。
 この王子の闇の部分を開花させてはいけない。金も地位も国最強の男を好んで敵に回せば地獄展開必至。
 王子などという生き物とは二度と殺し合わず、穏やかな友情を育む!


 というか……この国第二位の地位と金っっ!!
 現時点でのコイツは、私への苦手意識から控え目で大人しい行動で……つまり言いなりに近い!!


「アレックス、未来の妻として頼みがある!」
「……え、もう今月分使い切ったの? まだ上旬なのに??」


 ポケットマネーの話じゃねーよ!


「アレックス、お金まだあります。私の頼みは宴を中止したいって事です、お父様にも頼んだけど、聞いてくれなくて。相手が王子ならお父様も了解してくださるわ」
「……そ、れは……その、障りがあるというか……いくら婚約者とは言え、貴族の夜会に口出しをするのは越権というか」
「王子の癖に肝が小さいっっ、ホントそゆトコがムリなの!!!」

 思わず叫ぶ。
 父と王妃、メイドたちの姿はすでに館に消えている。

「ごめんよ……でも、夜会は社交場だからね……主役が欠席しても開く価値の方が高いような物だし、特にヨーク侯爵は価値の方を重視なさると思う」

 ですよね。
 だが王子の言を無視することもしないだろう。

「特に当日だから。今からできる事と言えば、……そう、だね。……会場の移動や進行の変更くらい、かな」
「会場移動……変更」

 会場の移動くらいで闇の夜会を回避できるとも思えない。進行は言うに及ばずだ。
 だが確かに中止は現実的ではないかもしれない。

「よし、それいこう」

 何もしないよりはマシだろう。

「え、チャーリー落ち着いて、思うままに行動しないで?! 寒さでどうかしちゃったの?? とりあえず中に……」
「寒いよ! 寒いけど、大事な事なのよ! 今っっ!」
「……会場移動といっても今更連絡は行き届かないから一度到着した後からの移動になるんだよ? 会場2つ用意するって事で、どれだけの追加金になるか……」
「ウチは金持ちよ! で、あんたもそうでしょ」
「え、ボクも出すの????」
「決まってるでしょっ! 未来の夫、しかも未来の国王夫妻! なら財布は一緒よ」
「ダメだって!!! 財布は別っ、国庫を個人使用しない!!」
「カエルの上にケチとか、王子に夢見るご令嬢に謝って!!」

 カエル王子は逆らわず『ごめんなさい』と棒読み謝罪をする。
 だが私は知っている。
 この王子、自分で稼いだ金はあるのだ。

 地位の高い王侯貴族にありがちな事だが、彼も幾つもの爵位と領地をもっている。王太子として受け継ぐコンクエストは王都からも程近い大きな領地ではあるが、稼ぎ幅が一番大きいのはメイプルワイト領だ。
 上質なワインを出荷し、輸出入に適した港町をいくつも抱える王国最南端の辺境伯領。

「……ウチの、お父様の悪癖は知ってるわね? アレックス」
「え……まぁ……そうだね。知らない人は、いないだろうね……」
「じゃ分かるでしょ! 大体何が起きそうか! お母様は家出、お父様は朝帰り、宴には愛人多数!」
「まぁ……えと、じゃあ、チャーリーはどうしたいって?」
「よくぞ聞いてくれましたっ。会場をお母様のいらっしゃる所で開こうかと。流石にそんな事をされればお母様も顔を出さざるを得ないし? 少なくとも愛人達への対抗手段にはなるでしょ」

 何より母の仮病疑惑は晴れて、実際の流行り病と世界は知るだろう。
 仮にそこで大流行しても知った事か。いやいっそ、流行を止める為にも知識人共は知るべきである。

 カエルは考え込む。

 かじかむ手をこすり合わせる私に、カエルは仕方なさそうにコートを脱いで差し出してきた。然もなんと、このカエルはしっかり中に魔法糸で編んだ発熱上衣を着ている。


 そんな事ならもっと早く、はぎ取ってやればよかった!!


 羽織れば体にじんわりと温かさが広がる。
 こちらも魔法糸で作ったコートらしい。
 どれだけ寒さ除けををしてきたのか――。

「手伝うのはいいけど、具体的なプランは? 予算もあるし、どこの業者に頼むとか、第二会場設営場所への」
「任せた」
「……は???? チャーリー??」
「お父様の面倒な悪癖云々は、将来あんたにも圧し掛かってきます。どうしますか?」

 唸るカエル。
 やがて彼は溜息をついた。

「チャーリー、手伝うのは未来の妻だからって事に全部が全部繋がるって忘れないでよ」

 大丈夫だとも、カエル王子。私も大人だ。色々経験してきて、男の価値は顔じゃないとか性格じゃないとか色々と、本当に学んだきた。

 だからこそ言える。
 金持ちのお前を自分から捨てるなんて勿体なさすぎる、と。


 カエルだっていいじゃないか、だってお金持ってるっっ。
 何なら聖女な妹に頼んで人間に戻れるようしてやってもいい、それどころかそのままフローレンスとの仲をとり持ってやったっていい。


「勿論ですとも」
「ヨーク侯爵夫人がいらっしゃるのは王太后陛下の生家でしょ? まだ救いはあるね。王城戻りだと醜聞程度じゃ済まないし。ただ、陛下の生家で開くとなると主役が転じかねないから、近隣のボクの別荘地での開催としようか。メイプルワイト領に近い分、馴染みの業者がいるし大急ぎで用意すれば体裁は整えられるかな? 距離が遠いのが難点だな、ちょっとお金が掛かるけど……移動は魔法陣での一斉転移かな。魔法酔いさせない腕利きを雇ってアトラクション感覚を取り入れれば、此方の内情は伝えずにいけるんじゃないだろうか」

 見た目がカエルと言えど、流石は伊達に産まれながらの王子である。
 実質何十も年上な私よりも世慣れて見える。

「段取りその他ボクの尽力で何とかなりそうだ……良かった。それで、代わりに念書を書いて貰える?」
「ん?」
「あ、念書というのは、約束を交わした当事者同士が後日の証拠にする為の」
「分かるよ?! 流石に知ってるよ!?!? 今なんでその話が出たのかって驚いてるんだよねっっ?!?!」
「なんで……って。そういう話でしょ? チャーリー……お金は降ってくるものじゃないんだよ?」


 このクソガエルっっ!!!!


「で、幾らで、いつまでに返済って?」
「あ、ボクはお金に困る予定のない計画を立ててるし、今回の金額なら返済してもらわなくても大丈夫だよ。それに、君が返せるとも思ってない……」


 言いたい放題だな!?


 こちらの腹立たしさを噛み締めている姿はさぞ目にも煩いだろう。
 だが神妙な顔をして、カエルは言った。

「ボクは『呪われた王子』だと噂されてる」

 はい、知ってます。

「でも実は『呪わせた王子』なんだ」

 は――。


 はいいいいい???
 ちょっと意味も内容も理解も追いつかないっっ!!!!


「呪わせた? あんたが、呪わせた??? カエルに?? え? 自分を?? 何で自分をカエルに???」

 考えるよりも先に言葉がポンポン飛び出るのを抑えられない。
 さもあろう。
 カエル王子は理解を越える発言をしたのだから――。


「説明は時間もないし、作業しながらで。取り合えず念書は話の後でいいから、先に開催者のヨーク侯に『王子と喧嘩の果てに二次会場の開催を任せる事になった』とだけ伝えてきて貰っていいかな? 後はお得意の我儘で乗り切ってて、ボクはすぐに清掃業者を入れて会場設営に業者連絡してくるよ」
「え、ちょ、アレックス……っっ」

 言うだけ言い置いて、カエルは不格好にがに股で去っていく。
 方向から見て馬車にでも乗って出かけるのだろう。


 金の返済はいらない……つまり、この私の体が目当てか?!
 ……カエルってどういう風に夜の行動、営む……いや、考えまいっ。数ターン前の人生を思い出せ、その節はカエル王子のお相手はフローレンスだった。見向きもされてなかったが、ストーカーじみた行為に走ってたような気がする。


 言われた通りの事を王妃と歓談中の父に言えば、案外素直な反応が返ってくる。

「若い恋人たちにはありがちなコミュニケーションだよね、父様知ってる。理解あるよ。でも程々にね、それが元で別れたら父様にも影響がでるからね」


 この男、本当に……どうにかなってしまえ。



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