死亡回避困難で悪役令嬢は鬱ってる。―理想ENDは天使も悪魔も出し抜いて大往生ですけど?―

ムツキ

文字の大きさ
33 / 375
第4章・捨てられし者

◆ 2・ファンファーレ ◆

しおりを挟む
「チャーリー……!!!」

 カエルの声が遠くで聞こえる。
 彼女の手は正確に心臓付近に突き通っている。

 痛みはない。
 衝撃だけは凄まじく、呼吸ができず何度も息を吸おうと口を開く。
 まるで息を吸う事を忘れたように、何度も何度も胸を膨らまそうと努力した。

 駆け寄ってくるカエルの胸にも、オリガの手が突き刺さる。
 私と同じく停止するカエル。

「委ねろ、見せてやる」

 オリガの声が、脳内に直接流し込まれたように響いている。

「ココでの『肉』に意味はない。お前たちは死なない。オレに『観念』を委ね、『魂』を確立しろ。我々は、精神のみでココに在るのだ」


 ……。
 ……。
 ……。
 ……。
 ……。


 大音量のファンファーレ。

 世界に響く鐘の音。

 パチリと開いた目の先に、小花が降る。
 絵画から抜け出たようなエンジェル集団が、光と共に降りてくる。
 皆、楽器を手にし、慈愛深い笑みを浮かべている。

 ラッパ、ラッパ、ラッパ。

 黄金色の光が世界に降り注いでいた。

「始まったか」

 オリガの声は私の口から漏れた物だ。
 視界には荒波激しい海と、光あふれる空が対照的な映像として存在していた。

 私は、いや――オリガは、切り立った崖の先にいる。
 両手を開き、手に差し出す。
 私には自由にならない身体。

「オレの『中』にいる『お前たち』を歓迎する。お前たちが、いつの時代、どこの世界から観ているかは知らないし、なぜ観ているのかも些細な事だ」

 オリガの語り掛けが『私たち』に向かってのモノだと分かる。
 なぜ彼女が私たちに気付けたのかは分からない。


 これは過去じゃないの??


「これらは過去でしかない。古き時代であり、オレの記憶でもある。だから、……よく見ていけ」

 光溢れる天が、徐々に世界を浸食していた。
 荒波は穏やかになり、黄金へと染まっていく。

 目に見える『祝福』だ。

 エンジェルの楽団が中心をあけ、整列していく。
 中心には見覚えのある男。
 神々しいオーラを纏って、降りてくる。
 その翼は大きく、他の天使とは比べ物にならない程に白く輝いていた。

「やぁ、オリガ・アデレイド。お疲れ様、よくぞ辿り着いたね」


 え?
 おっさんじゃん!!!! おっさん天使っっ!!!!


「素晴らしいよ、君に祝福と愛を。さぁ、天使の列に加わるといい」

 おっさん天使の言葉とは裏腹に、オリガが拳を握りしめる。
 雰囲気も私が知っているおっさん天使とは比べ物にならないくらいに、厳かだ。

「オレだけか? アーニャやサーシャは……世界の為に、今も魔王と戦ってるんだぞっっ」

 本に出て来た聖女と勇者の愛称だ。
 オリガたち三人は、幼馴染のような関係だと書いてあったのを思い出す。

「安心していい。魔王ごと地上は浄化される」
「だからっっ、ソレは、……ソレは、魔王だけの話じゃないんだろ……?」

 天使たちの中心で、おっさん天使こそが『神』のような存在感を放っている。
 しかし、ふっと笑った瞬間――いつもの『らしさ』が現れる。

「汚れたら掃除するでしょ」
「汚れ……魔王の事か?」
「元々、地上は『人間』に貸した大地だよ。それも期限付きだ。すべき事もできていない上に汚しすぎているんだから、返してもらおうって言ってるだけだよ。ついては汚された所は掃除」

 オリガが更に拳を強く――強く握りしめる。
 爪が刺さって痛い手にも、彼女は注意を払えないらしい。

「それが神『エルキヤ』の意思か……?」
「地上が汚いから『エルティア』も戻れないしね。神々が通るには地上も穢れすぎたんだよ、正直邪魔なんだよね。もう一度ここを『楽園』に作り変えるのさ」

 オリガは小さく「そうか」と呟く。

「天使は、神に『愛』されてるんだったな……」
「それが?」
「オレも色々と調べた。天使は神に『忠誠』を誓い、神は天使に『愛』という名の『祝福』を誓う。いわば共存関係だ。オレが天使の列に加わるって事は、お前たちと同じように……忠誠の名の元に『人間』に神への『信仰』を植え付ける為に奔走するって事だ。人間の信仰が……神の力となるんだからな」

 まるで自分に言い聞かせるように、言葉を紡ぐ。
 実際、先ほどの発言からしても『中』にいる私たちに語り掛けているつもりかもしれない。

「なのに、人間を掃討するっていうのか? 力も失うぞ」


 つまり?
 神の食事=信仰で、食事調達係=天使って事か。食材=人間ね。
 成程!
 成程?
 なるほどぉ……わからん。
 食事がなくなって困るのは神側で、こっちは生存に全振りしたらいいような? いっそ悪魔側と手を組めばいいような気がする。あいつら信仰とかじゃなくて、ルーファ曰く『欲』を喰ってるらしいし?
 めちゃくちゃ人間との相性いいような?
 いっそ悪魔に守護してもらった方がお互いにお得なんじゃ……?


「驕るねぇ、人間が天使の列に加わった所で、然程の力にもならないよ。これは慈悲だよ? お前はこの列に加わる事で生存を勝ち得る。それくらいの事さ。それでも人間は、生存が何より大事だろう?」


 よし、このおっさん天使、絶対地上にブチ落としてやろ……。


「神の『祝福』がどんなモノか、オレには想像がついている。世界の成り立ちがそうであるなら、オレはこの淘汰を止める為に『エルキヤ・エルティア』を打倒するっ」

 よく言った、と思う私に、おっさん天使の冷笑が写る。

「オレは……オレが、サーシャやアーニャのいる世界を守る……!」
「天使の集団の前で、そんな事を言うとはね。思ってたほど頭が良くないらしいねぇ」
「バカはお前だ! オレの中を見れば分からないか? なぜオレがこんな事を言えるのか」

 そこでおっさん天使がオリガを――私をジッと見つめた。
 唇が動く。

「 【 〇〇〇 】 」

 聞き取れない何かを発し、おっさん天使は初めて動揺していた。
 余裕が崩れた瞬間だ。

「天使の統括者にして神の代権者、大いなるエル〇〇よ! 選べっ、今コイツごとオレを殺すか、神を裏切るか!」


 私、じゃないよね??
 これは過去の追体験みたいなもので、すでに終わってる過去の出来事のはずだし。
 ってことは、オリガの中にはすでに『誰か』がいた??
 で、その人は、天使にとって重要人物だった?


「それとも見過ごすか、だ! ……裏切れば、お前たち天使は神の愛を失う。失いたくないなら、目を閉じろ、見るな、聞くな! これはオレたちと神の戦いだ」
「オマエ一人で息巻いて、どうするの?」
「オレは未来にまでこの瞬間を刻む。次代の勇者達に何度でもこの時を見せて問いかけよう、真の敵について」

 おっさん天使は目を閉じる。

「ならば、オレたち『天使』は神の名の元にオマエたち『人間』を呪おう。オレの『愛』を封じたオマエごと、人間全てへの『呪い』を。我々はオマエたちが神の名を口にする事を許さない」

 パチリと開いた天使の目は、青く燃えている。
 まるで業火だ。

「地上に産まれしヒトの間で揺れる者共よ……呪われろ」

 ファンファーレ。

 天使の楽団がかき鳴らす音、音、音の奔流。

 耳が潰れそうな程の轟音は、もはや音楽とさえ言えない。
 耳を塞ぎもしないオリガに変わり、初めて自分の意志で体が動く。

 塞いだ耳。
 塞いだ目。
 意識が落ちる――。


 ……。
 ……。
 ……。
 ……。


「え?」

 元の空間が広がっている。
 轟音も天使の姿もない、穏やかな白と森の空間。

 思わず自分の胸を掴む。
 無事だった、穴はどこにもない。服も破れていない。

「分かったか?」

 オリガの問いかけ。
 カエルが頷く。
 私は首を横に振った。

「なにが???」
「分からないのか!?」

 愕然としているオリガに申し訳ない気持ちにはなる。
 だが残念ながら、映像を見せられても歴史に興味はない。そもそもすでに終わった事象を見て、何を知れというのか。
 最初に見るべき点を打診しておいてほしい。
 だが感想を聞かれているのだ。
 空気を読んで、求められている事に近い返答をするのが大人というモノだろう。

「いや、分かった事はあるよ、うん、つまり、アレよ。悪魔と手を組む事にする!」
「なんでそうなった?!」

 オリガが絶望顔で突っ伏する。
 カエルが思案顔で問う。

「そもそも人間は『祝福』を受けていないから『神の愛』を失う事はない。だが、前述の関係性上、オリガと会う事はオリガの過去を知る可能性があり、神への反逆を悟られたくない天使たちにとっては脅威。なので、オリガの元への召喚呪文こと神の名を口にすると、天使にマーキング、監視されるんですね」
「その通りだ」
「なぜ、召喚呪文が神の名なんですか?」
「あぁ、オレが――力を――からな。この――がエルキヤの――ようなもので……おい、聞いているのか?」

 話を振られて頷く。

「簡潔にお願いします」


 なんか、色々聞こえないし……。


「……オレの苦労を何文字で表せと???」
「チャーリー、ボクが解説するよ。多分だけど、天使は神の名を口にした人間に口封じの意味で呪いをかけてるって事だよ。裏切った話をしたら許さないぞってね」


 カエル、流石だ。
 よく分かりました。


「つまり、やっぱり悪魔と手を組もうって事じゃないの? 天使、明らかに敵じゃん!」
「いや、チャーリー。天使は傍観者で。神が敵なんだと思うよ? 天使にも何か事情がありそうな気がするな」

 考え込むカエルを放置し、私は空を仰いだ。


 天使vs悪魔の時は、次回からルーファの味方をしよう。


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

『処刑されるたびに12歳に戻る悪役令嬢、7回目の人生は「何もせず寝て過ごす」ことに決めたら、なぜか周囲が勝手に勘違いして聖女扱いされています

六角
恋愛
公爵令嬢リリアーナは、18歳の誕生日に必ず断罪・処刑されては12歳に戻るという地獄のループを6回も繰り返していた。 真面目に努力しても、剣を極めても、裏社会を支配しても、結局は殺される運命。 心折れた彼女は、7回目の人生でついに決意する。 「もう頑張らない。どうせ死ぬなら、今回はひたすら寝て過ごそう」と。 しかし、安眠を求めて「うるさい」と敵を黙らせれば『王者の覇気』と恐れられ、寝ぼけて放った魔法は『神の奇跡』と崇められ、枕への異常なこだわりは『深遠なる儀式』と誤解されてしまう。 気がつけば、ストーカー気味のヤンデレ王子、パン屋の元ヒロイン、狂犬の如きライバル令嬢、元部下の暗殺者、そして不眠症の魔王までもが彼女の信者となり、リリアーナは意図せずして国を、そして世界を救う「最強の聖女」へと祭り上げられていく。 「お願いだから、私を寝かせて!」 睡眠欲だけで運命(システム)さえもねじ伏せる、無気力悪役令嬢の痛快勘違いサクセス(?)ストーリー!

9回巻き戻った公爵令嬢ですが、10回目の人生はどうやらご褒美モードのようです

志野田みかん
恋愛
アリーシア・グランツ公爵令嬢は、異世界から落ちてきた聖女ミアに婚約者を奪われ、断罪されて処刑された。殺されるたびに人生が巻き戻り、そのたびに王太子マクシミリアンはミアに心奪われ、アリーシアは処刑、処刑、処刑! 10回目の人生にして、ようやく貧乏男爵令嬢アリーに生まれ変わった。 もう王太子や聖女には関わらない!と心に決めたのに、病弱な弟のために王宮の侍女として働くことに。するとなぜか、王太子マクシミリアンは聖女ミアには目もくれず、男爵令嬢アリーを溺愛し始めて……。 (頭を空っぽにして笑えることを目指したコメディです。2020年に執筆した作品です。本作を読みたいというお声があったため再掲します)

モブ転生とはこんなもの

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
あたしはナナ。貧乏伯爵令嬢で転生者です。 乙女ゲームのプロローグで死んじゃうモブに転生したけど、奇跡的に助かったおかげで現在元気で幸せです。 今ゲームのラスト近くの婚約破棄の現場にいるんだけど、なんだか様子がおかしいの。 いったいどうしたらいいのかしら……。 現在筆者の時間的かつ体力的に感想などを受け付けない設定にしております。 どうぞよろしくお願いいたします。 他サイトでも公開しています。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!

あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!? 資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。 そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。 どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。 「私、ガンバる!」 だったら私は帰してもらえない?ダメ? 聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。 スローライフまでは到達しなかったよ……。 緩いざまああり。 注意 いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。

処理中です...