死亡回避困難で悪役令嬢は鬱ってる。―理想ENDは天使も悪魔も出し抜いて大往生ですけど?―

ムツキ

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第4章・捨てられし者

◆ 2・ファンファーレ ◆

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「チャーリー……!!!」

 カエルの声が遠くで聞こえる。
 彼女の手は正確に心臓付近に突き通っている。

 痛みはない。
 衝撃だけは凄まじく、呼吸ができず何度も息を吸おうと口を開く。
 まるで息を吸う事を忘れたように、何度も何度も胸を膨らまそうと努力した。

 駆け寄ってくるカエルの胸にも、オリガの手が突き刺さる。
 私と同じく停止するカエル。

「委ねろ、見せてやる」

 オリガの声が、脳内に直接流し込まれたように響いている。

「ココでの『肉』に意味はない。お前たちは死なない。オレに『観念』を委ね、『魂』を確立しろ。我々は、精神のみでココに在るのだ」


 ……。
 ……。
 ……。
 ……。
 ……。


 大音量のファンファーレ。

 世界に響く鐘の音。

 パチリと開いた目の先に、小花が降る。
 絵画から抜け出たようなエンジェル集団が、光と共に降りてくる。
 皆、楽器を手にし、慈愛深い笑みを浮かべている。

 ラッパ、ラッパ、ラッパ。

 黄金色の光が世界に降り注いでいた。

「始まったか」

 オリガの声は私の口から漏れた物だ。
 視界には荒波激しい海と、光あふれる空が対照的な映像として存在していた。

 私は、いや――オリガは、切り立った崖の先にいる。
 両手を開き、手に差し出す。
 私には自由にならない身体。

「オレの『中』にいる『お前たち』を歓迎する。お前たちが、いつの時代、どこの世界から観ているかは知らないし、なぜ観ているのかも些細な事だ」

 オリガの語り掛けが『私たち』に向かってのモノだと分かる。
 なぜ彼女が私たちに気付けたのかは分からない。


 これは過去じゃないの??


「これらは過去でしかない。古き時代であり、オレの記憶でもある。だから、……よく見ていけ」

 光溢れる天が、徐々に世界を浸食していた。
 荒波は穏やかになり、黄金へと染まっていく。

 目に見える『祝福』だ。

 エンジェルの楽団が中心をあけ、整列していく。
 中心には見覚えのある男。
 神々しいオーラを纏って、降りてくる。
 その翼は大きく、他の天使とは比べ物にならない程に白く輝いていた。

「やぁ、オリガ・アデレイド。お疲れ様、よくぞ辿り着いたね」


 え?
 おっさんじゃん!!!! おっさん天使っっ!!!!


「素晴らしいよ、君に祝福と愛を。さぁ、天使の列に加わるといい」

 おっさん天使の言葉とは裏腹に、オリガが拳を握りしめる。
 雰囲気も私が知っているおっさん天使とは比べ物にならないくらいに、厳かだ。

「オレだけか? アーニャやサーシャは……世界の為に、今も魔王と戦ってるんだぞっっ」

 本に出て来た聖女と勇者の愛称だ。
 オリガたち三人は、幼馴染のような関係だと書いてあったのを思い出す。

「安心していい。魔王ごと地上は浄化される」
「だからっっ、ソレは、……ソレは、魔王だけの話じゃないんだろ……?」

 天使たちの中心で、おっさん天使こそが『神』のような存在感を放っている。
 しかし、ふっと笑った瞬間――いつもの『らしさ』が現れる。

「汚れたら掃除するでしょ」
「汚れ……魔王の事か?」
「元々、地上は『人間』に貸した大地だよ。それも期限付きだ。すべき事もできていない上に汚しすぎているんだから、返してもらおうって言ってるだけだよ。ついては汚された所は掃除」

 オリガが更に拳を強く――強く握りしめる。
 爪が刺さって痛い手にも、彼女は注意を払えないらしい。

「それが神『エルキヤ』の意思か……?」
「地上が汚いから『エルティア』も戻れないしね。神々が通るには地上も穢れすぎたんだよ、正直邪魔なんだよね。もう一度ここを『楽園』に作り変えるのさ」

 オリガは小さく「そうか」と呟く。

「天使は、神に『愛』されてるんだったな……」
「それが?」
「オレも色々と調べた。天使は神に『忠誠』を誓い、神は天使に『愛』という名の『祝福』を誓う。いわば共存関係だ。オレが天使の列に加わるって事は、お前たちと同じように……忠誠の名の元に『人間』に神への『信仰』を植え付ける為に奔走するって事だ。人間の信仰が……神の力となるんだからな」

 まるで自分に言い聞かせるように、言葉を紡ぐ。
 実際、先ほどの発言からしても『中』にいる私たちに語り掛けているつもりかもしれない。

「なのに、人間を掃討するっていうのか? 力も失うぞ」


 つまり?
 神の食事=信仰で、食事調達係=天使って事か。食材=人間ね。
 成程!
 成程?
 なるほどぉ……わからん。
 食事がなくなって困るのは神側で、こっちは生存に全振りしたらいいような? いっそ悪魔側と手を組めばいいような気がする。あいつら信仰とかじゃなくて、ルーファ曰く『欲』を喰ってるらしいし?
 めちゃくちゃ人間との相性いいような?
 いっそ悪魔に守護してもらった方がお互いにお得なんじゃ……?


「驕るねぇ、人間が天使の列に加わった所で、然程の力にもならないよ。これは慈悲だよ? お前はこの列に加わる事で生存を勝ち得る。それくらいの事さ。それでも人間は、生存が何より大事だろう?」


 よし、このおっさん天使、絶対地上にブチ落としてやろ……。


「神の『祝福』がどんなモノか、オレには想像がついている。世界の成り立ちがそうであるなら、オレはこの淘汰を止める為に『エルキヤ・エルティア』を打倒するっ」

 よく言った、と思う私に、おっさん天使の冷笑が写る。

「オレは……オレが、サーシャやアーニャのいる世界を守る……!」
「天使の集団の前で、そんな事を言うとはね。思ってたほど頭が良くないらしいねぇ」
「バカはお前だ! オレの中を見れば分からないか? なぜオレがこんな事を言えるのか」

 そこでおっさん天使がオリガを――私をジッと見つめた。
 唇が動く。

「 【 〇〇〇 】 」

 聞き取れない何かを発し、おっさん天使は初めて動揺していた。
 余裕が崩れた瞬間だ。

「天使の統括者にして神の代権者、大いなるエル〇〇よ! 選べっ、今コイツごとオレを殺すか、神を裏切るか!」


 私、じゃないよね??
 これは過去の追体験みたいなもので、すでに終わってる過去の出来事のはずだし。
 ってことは、オリガの中にはすでに『誰か』がいた??
 で、その人は、天使にとって重要人物だった?


「それとも見過ごすか、だ! ……裏切れば、お前たち天使は神の愛を失う。失いたくないなら、目を閉じろ、見るな、聞くな! これはオレたちと神の戦いだ」
「オマエ一人で息巻いて、どうするの?」
「オレは未来にまでこの瞬間を刻む。次代の勇者達に何度でもこの時を見せて問いかけよう、真の敵について」

 おっさん天使は目を閉じる。

「ならば、オレたち『天使』は神の名の元にオマエたち『人間』を呪おう。オレの『愛』を封じたオマエごと、人間全てへの『呪い』を。我々はオマエたちが神の名を口にする事を許さない」

 パチリと開いた天使の目は、青く燃えている。
 まるで業火だ。

「地上に産まれしヒトの間で揺れる者共よ……呪われろ」

 ファンファーレ。

 天使の楽団がかき鳴らす音、音、音の奔流。

 耳が潰れそうな程の轟音は、もはや音楽とさえ言えない。
 耳を塞ぎもしないオリガに変わり、初めて自分の意志で体が動く。

 塞いだ耳。
 塞いだ目。
 意識が落ちる――。


 ……。
 ……。
 ……。
 ……。


「え?」

 元の空間が広がっている。
 轟音も天使の姿もない、穏やかな白と森の空間。

 思わず自分の胸を掴む。
 無事だった、穴はどこにもない。服も破れていない。

「分かったか?」

 オリガの問いかけ。
 カエルが頷く。
 私は首を横に振った。

「なにが???」
「分からないのか!?」

 愕然としているオリガに申し訳ない気持ちにはなる。
 だが残念ながら、映像を見せられても歴史に興味はない。そもそもすでに終わった事象を見て、何を知れというのか。
 最初に見るべき点を打診しておいてほしい。
 だが感想を聞かれているのだ。
 空気を読んで、求められている事に近い返答をするのが大人というモノだろう。

「いや、分かった事はあるよ、うん、つまり、アレよ。悪魔と手を組む事にする!」
「なんでそうなった?!」

 オリガが絶望顔で突っ伏する。
 カエルが思案顔で問う。

「そもそも人間は『祝福』を受けていないから『神の愛』を失う事はない。だが、前述の関係性上、オリガと会う事はオリガの過去を知る可能性があり、神への反逆を悟られたくない天使たちにとっては脅威。なので、オリガの元への召喚呪文こと神の名を口にすると、天使にマーキング、監視されるんですね」
「その通りだ」
「なぜ、召喚呪文が神の名なんですか?」
「あぁ、オレが――力を――からな。この――がエルキヤの――ようなもので……おい、聞いているのか?」

 話を振られて頷く。

「簡潔にお願いします」


 なんか、色々聞こえないし……。


「……オレの苦労を何文字で表せと???」
「チャーリー、ボクが解説するよ。多分だけど、天使は神の名を口にした人間に口封じの意味で呪いをかけてるって事だよ。裏切った話をしたら許さないぞってね」


 カエル、流石だ。
 よく分かりました。


「つまり、やっぱり悪魔と手を組もうって事じゃないの? 天使、明らかに敵じゃん!」
「いや、チャーリー。天使は傍観者で。神が敵なんだと思うよ? 天使にも何か事情がありそうな気がするな」

 考え込むカエルを放置し、私は空を仰いだ。


 天使vs悪魔の時は、次回からルーファの味方をしよう。


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