56 / 375
第6章・喪失と再生
◆ 5・探る者たち(前) ◆
しおりを挟む夕日のさしこむ大きな窓。
私は椅子に縛られている。
縛った人は怖い顔で、さっきから何も言わない。
学校の生徒全部をまとめる長――生徒会長オズワルド・スライ。一学年上の先輩だ。最近の私は、人の心を見る事に疲れていた。
彼の呼びかけにも、目を合わせなかった。
だから彼が「忘れ物がある」と言った時、その言葉は挨拶のように普通に聞こえたのだ。
言われるままついていき、部屋に入るなり縛られるとは思っていなかった。
「あの?」
「誰なんだ?」
真意を聞こうと口を開くも、先輩の方が強い口調でかき消してくる。
え……と、意味が。
「お前はヨーク嬢じゃない。見た目はそっくりだがな。それに、あの王子も王子じゃない。お前らは何者だ。ヨーク嬢とアレックスをどこへやった?」
アレックス……は、ルフスの事よね。
「アレックスも、……違うの?」
「も?」
先輩が耳ざとく繰り返す。
私は目を合わせる。
「 〈 どういう事だ? 自覚がないのか? そんな言葉で騙しおおせるとでも思っているのか? 〉 」
やっぱり、何かが可笑しいって思ったのは私だけじゃないんだ……! でもそれって、ルフスが……。
「あの……教えてもらえませんか? 私、記憶がなくて」
言葉を切り、考える。彼は警戒している。何を言えば穏やかに話せるだろうと思考する。
思考する。
思考する。
彼の瞳を見つめ『思考』する。
「 〈 教えて、シャーロットの事、全てを 〉 」
私の口は動かないのに、心が命じていた。
先輩の唇が、目が、戦慄く。
「か、え……カエルじゃないっ。あの男は、お前のっ、騎士だった男だ! あの男は人間でもない! お前も!」
騎士……? ルフスが……騎士? 違う。それは絶対に違う! 私を守る人は、……守る人? 守ってくれた人? 守ってくれてた人……が、いた。
そうだ。
いた。
誰?
ふいに意識の底で何かの断片がよぎる。
金色。
「きんいろ……」
視線を外せば、先輩が膝をつく。
肩で息をしながら、忌々し気に舌打ちをする。
「貴様っ、本当に……、何者だ!」
「私、『シャーロット』だって、言われたの。でも、違うのね」
それはストンと心に落ちて定着した。
「私は『人間』じゃない」
心が見える。
思うだけで命じられる。
この地面を歩く違和感。
どれもが私に『可笑しい』を伝えてくる。
私は目を閉じた。
「教えて、スライ先輩。シャーロットの事、カエルの事、……ルフスの事」
今度は命じない。
沈黙の時間。
彼は逡巡しているのだろう。そうして、ガラガラと扉を開ける音がした。
「お待たせいたしました、無事完了ですわ」
ライラの声――『シャーロット』の『親友』と聞いた人だ。
「もうしばらくなら、あちら……足止めできそうですわ」
0
あなたにおすすめの小説
ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる
街風
ファンタジー
「お前を追放する!」
ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。
しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
田舎娘、追放後に開いた小さな薬草店が国家レベルで大騒ぎになるほど大繁盛
タマ マコト
ファンタジー
【大好評につき21〜40話執筆決定!!】
田舎娘ミントは、王都の名門ローズ家で地味な使用人薬師として働いていたが、令嬢ローズマリーの嫉妬により濡れ衣を着せられ、理不尽に追放されてしまう。雨の中ひとり王都を去ったミントは、亡き祖母が残した田舎の小屋に戻り、そこで薬草店を開くことを決意。森で倒れていた謎の青年サフランを救ったことで、彼女の薬の“異常な効き目”が静かに広まりはじめ、村の小さな店《グリーンノート》へ、変化の風が吹き込み始める――。
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
アリエッタ幼女、スラムからの華麗なる転身
にゃんすき
ファンタジー
冒頭からいきなり主人公のアリエッタが大きな男に攫われて、前世の記憶を思い出し、逃げる所から物語が始まります。
姉妹で力を合わせて幸せを掴み取るストーリーになる、予定です。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
悪女の針仕事〜そのほころび、見逃しません!〜
陰陽@4作品商業化(コミカライズ他)
ファンタジー
公爵令嬢として生まれながら、子ども時代からメイドや周囲の陰謀で、次々と濡れ衣を着せられ、「悪女」扱いされてきたミリアム。
第3王子との婚約を聖女に奪われ、聖女への嫌がらせの冤罪で国外追放された後、平民として生き延びる中で、何度も5年前へのロールバック(逆行)を繰り返すことに。
生計をたてる為に、追放後の平民生活で極めた針仕事が、ロールバックが繰り返されることで、針仕事の能力だけは引き継がれ、天才的な実力を手に入れる。
その時女神「アテナ」の加護を得て、2つの力を手にすることに。
「加護縫い」
(縫った布に強力な祝福を込められる)
「嘘のほころびを見抜く力」
(相手の嘘を布のほころびとして視覚的に捉え、引き抜く、または繕うことで、真実を暴いたり修正したりする)
を手にしたミリアムは、5歳の幼女時代まで遡り、2つの力で悪評をぬりかえ、仲違いしていた家族も、加護の力を与えることで協力な味方へと変貌。
さらに、女神から可愛いしもべ「アリアドネ」を授かり、元婚約者と聖女にザマァを狙う中、加護縫いの能力が最も高い人間を王太子妃に迎える決まりのある大国、ルーパート王国の王太子が近付いて来て……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる