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第7章・二つの心
◆ 9・歪が生むモノ(後) ◆
しおりを挟む言葉の意味が分からない。
それは肉として、食料として――人間的な食事の意味で――『食べた』の意味になるのだろうか。分からないのか、分かりたくないのか。
私は彼の顔を見つめた。
彼が悪魔だと知らなければ、神の愛された顔だとでも評したかもしれない。見れば見る程、顔が良い。
「どういう、意味になるかな? えーっと、蒸したの? 焼いた? バラバラに切り分けた? あぁ、痛そうだ、どうして、そんな痛そうな……」
言葉が止まる。
なんてことだろう……。
私は、何を言っているんだろう……。
想像して、吐いたりはしない。
想像して、泣いたりはしない。
そんな弱い心しか持ち得ていなかったら、私はリスタートと同時に何度でも自殺しただろう。拳を作る。爪を切ったのはいつだったか、掌に刺さる爪の感触を味わいながら顔を上げる。
心が負けたら、試合終了――人生終了だ。
絶対に! 負けてなんか、やらない。
眉に力を入れ、ルーファを睨む。
「説明! ちゃんとして」
ルーファがニヤリと笑う。
「別に大した話じゃねぇけどな。言葉のまんまだ。喰った。マルっとな。今、ココにいるぜ」
そう言って、彼は自分の腹を撫でた。
食べた……の? 本当に?? 本当にバリバリムシャムシャ系で?
実感が遠い。
言葉の上での『悪魔』が『人間』を食べたと言ったなら、すぐに理解したかもしれない。だが接してきた相棒のような『ルーファ』が、私の婚約者『アレックス』を食べたのだ。
「アレックスを……」
浮かびそうになったカエルの顔を打ち消して、問いかける。
「なんで食べたの?」
ライラと分かり合って温まっていた胸が、冷たく澄む。
ルーファは欲を食べると言っていた。
人間のように水や肉を口にする必要はないのだと。喰われた側も数日寝込む程度で、すぐに回復する。そうして悪魔にとっての永遠の牧場が、地上に形成されているのだ。
一匹や二匹の家畜が減っても問題はないかもしれない。
それでも彼らが肉を受け付けないのなら、ただ殺せばいいだけだ。肉として口にする意味はなんだろうと考える。
本当に、このルーファが……。
未だアーラは沈黙している。
「次のステージに上げる為だ」
ルーファが答えた。
何の話?
一段階上の層へっていう天使のアレ? いやいや、こいつは悪魔だ。天使ならいざ知らず悪魔が一段階あげられる?
「人間の魂ってのもんは、肉に影響されるんだ。だから俺様が解放してやった」
「解放……」
「それが、ヤツの願いでもあったからな」
「……食べられる事が?」
私だって獣に食われた覚えしかないが、アレはあまりに痛く苦しい思い出だ。通り過ぎた過去とはいえ、思い出すだけで震えそうになるほどの責め苦だった。
「一体、誰が食われたいと思う? ないでしょ。ないわ。ちゃんと殺してから食べたんでしょうね? 殺す前に食べるのはとても辛いのよ? あんたは知らないでしょうけど。いや、きっとそうね、カエルも知らなかったんだわ。だから簡単に食わせたのよね? きっとそうよ。あんなの……本当に本当に、痛いの。地獄はここにあったかって。でもどの死も痛いけど。でもあれは……アレは本当にきついのよ。あんたはちゃんと殺したんでしょうね? 食べ物への敬意よ。敬意をみせたの?」
ブツブツと羅列する私にルーファは顔を顰めた。
「お前もかなりキメェな。……でもな、お前こそカエルの事、甘く見てたんじゃねぇの?」
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