223 / 375
第11章・恩赦
◆ 22・幼き日の出来事――By.カエル王子 ◆
しおりを挟む◆◇◆
その日のボクは、一ケ月と三日前に出来た婚約者宅への訪問に向けて準備をしていた。
カエルの見た目である事は男女の関係において、かなりのハンデを負うと聞いている。美醜の問題では効かないレベルの違いなのだから、納得だ。
だが、この婚約成立を持ってヨーク侯爵はボクの後ろ盾となるのだ。ボクのやろうとしている道――王位から遠ざかる手伝いを始め、色々な雑事を請け負ってくれるというのだ。
彼との協力関係を円滑に進める為にも、彼の娘とは良好な関係を構築するべきだ。
最初が肝心だ……大丈夫! 今まで大人を相手に、交渉術を磨いてきたボクだ。
対応を間違えずに、建設的な交流にこぎつける事を念頭におけば間違いはない。勝てずとも負けない対話を心がける事こそが重要だ……。
と、気合を入れて訪れた屋敷。
「ようこそ、おいでくださいました。殿下」
出迎えたのは彼女の父で、お決まりの挨拶から始まった。合間に、中庭へと移動し互いの親が愛称で呼ぶように強制を受けた。
その間、ボクは全ての言葉が脳を素通りしていくのを感じていた。
なんて事だ……っ、想定以上だ……レベルが違いすぎる!
お人形のように鎮座する少女は鮮烈だった。
複雑に結い上げた赤銅色の髪、物憂げなエメラルドの瞳、陶磁のようにツルリとした白い肌、真っ白なフリルたっぷりのドレスを身に纏った姿は、まさに美少女。
いや、考えれば分かった事だ……!
あの女性人気が高いヨーク侯と美人と誉高い伯母上の間に生まれた娘ともなれば、それは美人でしかない!
ここまでランク差があると、対等な関係を構築する事自体が難しい。差があれど、互いに秀でた能力で補い合う事ができれば関係は良好に保てると思ってきた。
だが現状、互いの天秤に乗る物は地位と将来性と見た目しかないのだ。
カエル姿のボクと人間でも高ランク姿のヨーク嬢。
国でも権勢を誇るヨーク侯の愛娘、加えて美少女ともなれば望みの相手と結婚できる。ここまで約束された境遇の娘が、将来コンクエスト号を返上なカエルのボクと結婚? 狂気の沙汰だ。
つまり、この美少女はボクがコンクエスト号を返上すると知らないんじゃ……?
「殿下、お察しの事とは思いますが天使の吐息です」
まるで心を読んだようにヨーク侯が笑った。
天使の吐息とは、珍しい言い回しだ。
想像するに、天使の存在は人間には程遠い。感知できない天使の息など存在しないに等しいという事で、転じてか変じてか――子供の枠組みにいるボクのあやふやな将来像など鑑みる価値もないといった所だろう。
「ボクにはヨーク嬢こそ顕現した姿に見えます」
朗らかに言う。
暗に、彼の娘と縁を持つ事によって不確かな物が確かな存在へと変わるのだと伝えたつもりだ。天使の吐息などではない未来をボクは手繰り寄せると。
だが、彼はこれまた珍しい顔をした。
柔和で笑みの絶えない侯爵が、初めて笑みを消した。
「天使に見えるならば重畳」
瞬き二回の間に、再び笑みを取り戻したヨーク侯は言う。
「リトル・モンスター、殿下と散策でもしておいで」
そうして無責任な大人たちは笑顔の仮面を被り、ボクたちを宴から放逐した。
◆◇◆
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます
山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。
でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。
それを証明すれば断罪回避できるはず。
幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。
チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。
処刑5秒前だから、今すぐに!
『処刑されるたびに12歳に戻る悪役令嬢、7回目の人生は「何もせず寝て過ごす」ことに決めたら、なぜか周囲が勝手に勘違いして聖女扱いされています
六角
恋愛
公爵令嬢リリアーナは、18歳の誕生日に必ず断罪・処刑されては12歳に戻るという地獄のループを6回も繰り返していた。 真面目に努力しても、剣を極めても、裏社会を支配しても、結局は殺される運命。 心折れた彼女は、7回目の人生でついに決意する。 「もう頑張らない。どうせ死ぬなら、今回はひたすら寝て過ごそう」と。
しかし、安眠を求めて「うるさい」と敵を黙らせれば『王者の覇気』と恐れられ、寝ぼけて放った魔法は『神の奇跡』と崇められ、枕への異常なこだわりは『深遠なる儀式』と誤解されてしまう。 気がつけば、ストーカー気味のヤンデレ王子、パン屋の元ヒロイン、狂犬の如きライバル令嬢、元部下の暗殺者、そして不眠症の魔王までもが彼女の信者となり、リリアーナは意図せずして国を、そして世界を救う「最強の聖女」へと祭り上げられていく。
「お願いだから、私を寝かせて!」 睡眠欲だけで運命(システム)さえもねじ伏せる、無気力悪役令嬢の痛快勘違いサクセス(?)ストーリー!
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
9回巻き戻った公爵令嬢ですが、10回目の人生はどうやらご褒美モードのようです
志野田みかん
恋愛
アリーシア・グランツ公爵令嬢は、異世界から落ちてきた聖女ミアに婚約者を奪われ、断罪されて処刑された。殺されるたびに人生が巻き戻り、そのたびに王太子マクシミリアンはミアに心奪われ、アリーシアは処刑、処刑、処刑!
10回目の人生にして、ようやく貧乏男爵令嬢アリーに生まれ変わった。
もう王太子や聖女には関わらない!と心に決めたのに、病弱な弟のために王宮の侍女として働くことに。するとなぜか、王太子マクシミリアンは聖女ミアには目もくれず、男爵令嬢アリーを溺愛し始めて……。
(頭を空っぽにして笑えることを目指したコメディです。2020年に執筆した作品です。本作を読みたいというお声があったため再掲します)
モブ転生とはこんなもの
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
あたしはナナ。貧乏伯爵令嬢で転生者です。
乙女ゲームのプロローグで死んじゃうモブに転生したけど、奇跡的に助かったおかげで現在元気で幸せです。
今ゲームのラスト近くの婚約破棄の現場にいるんだけど、なんだか様子がおかしいの。
いったいどうしたらいいのかしら……。
現在筆者の時間的かつ体力的に感想などを受け付けない設定にしております。
どうぞよろしくお願いいたします。
他サイトでも公開しています。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる
街風
ファンタジー
「お前を追放する!」
ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。
しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる