死亡回避困難で悪役令嬢は鬱ってる。―理想ENDは天使も悪魔も出し抜いて大往生ですけど?―

ムツキ

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第11章・恩赦

◆ 22・幼き日の出来事――By.カエル王子 ◆

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◆◇◆


 その日のボクは、一ケ月と三日前に出来た婚約者宅への訪問に向けて準備をしていた。
 カエルの見た目である事は男女の関係において、かなりのハンデを負うと聞いている。美醜の問題では効かないレベルの違いなのだから、納得だ。
 だが、この婚約成立を持ってヨーク侯爵はボクの後ろ盾となるのだ。ボクのやろうとしている道――王位から遠ざかる手伝いを始め、色々な雑事を請け負ってくれるというのだ。
 彼との協力関係を円滑に進める為にも、彼の娘とは良好な関係を構築するべきだ。


 最初が肝心だ……大丈夫! 今まで大人を相手に、交渉術を磨いてきたボクだ。
 対応を間違えずに、建設的な交流にこぎつける事を念頭におけば間違いはない。勝てずとも負けない対話を心がける事こそが重要だ……。


 と、気合を入れて訪れた屋敷。

「ようこそ、おいでくださいました。殿下」

 出迎えたのは彼女の父で、お決まりの挨拶から始まった。合間に、中庭へと移動し互いの親が愛称で呼ぶように強制を受けた。
 その間、ボクは全ての言葉が脳を素通りしていくのを感じていた。


 なんて事だ……っ、想定以上だ……レベルが違いすぎる!


 お人形のように鎮座する少女は鮮烈だった。
 複雑に結い上げた赤銅色の髪、物憂げなエメラルドの瞳、陶磁のようにツルリとした白い肌、真っ白なフリルたっぷりのドレスを身に纏った姿は、まさに美少女。


 いや、考えれば分かった事だ……!
 あの女性人気が高いヨーク侯と美人と誉高い伯母上の間に生まれた娘ともなれば、それは美人でしかない!
 

 ここまでランク差があると、対等な関係を構築する事自体が難しい。差があれど、互いに秀でた能力で補い合う事ができれば関係は良好に保てると思ってきた。
 だが現状、互いの天秤に乗る物は地位と将来性と見た目しかないのだ。
 カエル姿のボクと人間でも高ランク姿のヨーク嬢。


 国でも権勢を誇るヨーク侯の愛娘、加えて美少女ともなれば望みの相手と結婚できる。ここまで約束された境遇の娘が、将来コンクエスト号を返上なカエルのボクと結婚? 狂気の沙汰だ。
 つまり、この美少女はボクがコンクエスト号を返上すると知らないんじゃ……?


「殿下、お察しの事とは思いますが天使の吐息です」

 まるで心を読んだようにヨーク侯が笑った。
 天使の吐息とは、珍しい言い回しだ。
 想像するに、天使の存在は人間には程遠い。感知できない天使の息など存在しないに等しいという事で、転じてか変じてか――子供の枠組みにいるボクのあやふやな将来像など鑑みる価値もないといった所だろう。

「ボクにはヨーク嬢こそ顕現した姿に見えます」

 朗らかに言う。
 暗に、彼の娘と縁を持つ事によって不確かな物が確かな存在へと変わるのだと伝えたつもりだ。天使の吐息などではない未来をボクは手繰り寄せると。
 だが、彼はこれまた珍しい顔をした。
 柔和で笑みの絶えない侯爵が、初めて笑みを消した。

「天使に見えるならば重畳」

 瞬き二回の間に、再び笑みを取り戻したヨーク侯は言う。

「リトル・モンスター、殿下と散策でもしておいで」

 そうして無責任な大人たちは笑顔の仮面を被り、ボクたちを宴から放逐した。


◆◇◆


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