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第11章・恩赦
◆ 27・サソリとカメ(後) ◆
しおりを挟むエイベルの歩みが、サソリと一歩分の距離で止まる。
振り下ろされるハサミを阻む拳。
続くハサミの連打が風圧を起こし、砂を巻き上げる。
え、エイベルの手加減とか……っ、全然期待できないけど……!
たまらずショールで顔を庇う。
「チャーリー」
すぐ側でルーファことアレックスの声。
「カメが出たら」
カメ?!
「一緒に……っ、て、……しい」
抑えた声は他のメンバーに聞かせたくないが故だろう。だが悲しいかな、その潜めた声は風を切る音にかき消されて大事な部分が聞こえなかった。
もう一回……、なんて、聞けないよね……。
続く風の音。
視線を向ければ、弟の手刀が無数の足を切り落としていた。彼は足やハサミを足場に飛び跳ねて次々『処理』していく。
瞬きほどの瞠目の間にアレックスは離れていた。
ヤバい……カメが何!?
モンスターがサソリ一択でない事は想像に易いし、カメが水辺以外にも出没する事くらい私とて知っている。
だから、カメのモンスターがいても不思議はないし『カメのモンスターもいるのね』と受け入れられる。
いったい何をしろって??
欠けたハサミや虫っぽさのある千切れた足から目を背ける。
牢屋で虫とも共存した過去を持つ私だ。令嬢にありがちな虫嫌いという山は越えているが、千切れた足は未だにモゾリとのたうち、本体の方も胴体をうねらせてでもいるように砂を巻き上げていた。
気持ち悪いわーっ!
「オネーサマ、尾、どーする?」
「あぁ……毒があるんだっけ。いや、……いいわ」
ハサミも足もなくしたサソリの将来を考えれば、尻尾の毒くらいは残してやるべきだろう。
ひらりと馬に戻ってきたエイベルは、チラリとアレックスを見た。アレックスの方はスライ先輩と何事か話し、またも進行を再開した。
「オネーサマ、オレはゴエイ。だから、その時も行く」
「何の話?」
「……カメ」
カメ! ココでもカメ!?
いや、アレが聞こえてたって事?
「エイベル。あの時、アレックスが言った言葉を繰り返してみなさい」
持つべき者は魔王な弟かもしれない。姉の至らない部分をがっちりフォローしてくれて助かる。
「……わかった。『カメが出たら、一緒にミンナからリダツして、ついてきてほしい』って」
ほう! そうなのね?!
「アレックス的には、あんたが一緒は困るんじゃないかしら? その言い方で分かるでしょう?」
「でも、ゴエイはシゴト」
エイベルの心配は納得しかない。武力ゼロのアレックスとエイベル曰くザコ戦闘力の私。二人でこの集団から離れて、どうやって生き残るのかと心配されて当然だ。
だが、相手はアレックスなのだ。頭の良い彼の事、色々と手配しているに違いない。
「まぁ、……カメが出てからの話ね」
エイベルはそれっきり黙り込んだ。
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