250 / 375
第12章・秘密は舞台
◆ 19・生贄会議(前) ◆
しおりを挟む
ヨルク本邸は町から少しだけ離れた位置にあった。
オアシスの町から西へと進んだ砂漠の中にあり、岩を組み上げて作られた屋敷は縦に大きい。ほぼ城だ。砂塵舞う敷地には緑が溢れ、水の音も聞こえる。
いや水だけでなく、鳥や獣の鳴き声も中からしている。
「これが分家……。なんだろう、この拝金主義がチラ見えする館は……」
趣味が良いと悪いのギリギリを攻められている気分になる。
夕映えのおかげで微かに染まった頬を見られずに済む。
親族のこういうのって、微妙な気恥ずかしさがあるわね。
「シャーロット・グレイス・ヨーク様ですね、ようこそおいでくださいました」
門の前で立ち尽くす私たちを初老の紳士が出迎える。
恐らくは執事だ。予定到着時刻から少しズレたものの、町の様相はこちらにも届いているらしく「大層お疲れでしょう」と気遣われた。
にこやかですらある。
邸内に招き入れられ、応接室へと誘導されれば、館は外から感じたままの様相――無駄な絢爛さを象徴する陶磁器に絵画が廊下を彩る。
さて、……ルーファには帰って貰ったし、予定通りのメンツでの来訪。あれだけの騒ぎの中、こっちに移動してきたわけだし、荘園の領主としての立場からしたら、町の様子を聞いてくるはず。どこまで隠して話すか……。
カエル体のルーファとは町で別れている。
なにせ彼は現在カエル王子役をしているのだから、帰っていてもらわねば方々に障りが出る。モニークたちの目を掠めてのお見送りは骨が折れた。
応接室の戸が開くと同時に、ハッと息を飲む。
ソファーに男が座っていた。黒い巻き毛、黒い瞳、浅黒い肌の優男は、二十代前半。どこか私の父に似た面差しをしている。服はこちらでは一般的な刺繍の派手な長衣。ジャラジャラと耳にも首にも金属のアクセサリーを付けている。
「ようこそ、シャーロット!」
駆け寄り、私の手を取る。
手にガサリと堅くクシャリとしたものを握り込まされる。
何だ? ……紙?
「と、お付の方々! 私は、カシム・クシュム・カミール・シャプール・スィナン・ティメル・アララ・カドリ・ヨルク、ヨルク家の長子です」
長い……っ!!!!
「とても大変な経験をなさったとか。早馬が届いて以来、心配しておりました。私はシャーロットの親戚ですから、あなたがたの仲間にも等しいと思っております! ここから先はわたくしが必ずお守りいたしましょう!」
態度こそ礼儀にのっとったものながら、勢いと圧はすごい。
「シャーロット……親戚同士、仲良くしましょうね」
言う男の手は微かに震えている。
なに? なんで?
「ああ! どうぞどうぞ、お疲れでしょう? 座ってください。すぐに軽食を運ばせます。よろしければ町の状況なども併せて伺いたいです」
「優しい、お言葉……ありがとうございます。身に沁みます」
微笑む。
もちろん相手の言う事など毛ほども信用していない。仮面を被ってやり過ごす気は満々だ。
オアシスの町から西へと進んだ砂漠の中にあり、岩を組み上げて作られた屋敷は縦に大きい。ほぼ城だ。砂塵舞う敷地には緑が溢れ、水の音も聞こえる。
いや水だけでなく、鳥や獣の鳴き声も中からしている。
「これが分家……。なんだろう、この拝金主義がチラ見えする館は……」
趣味が良いと悪いのギリギリを攻められている気分になる。
夕映えのおかげで微かに染まった頬を見られずに済む。
親族のこういうのって、微妙な気恥ずかしさがあるわね。
「シャーロット・グレイス・ヨーク様ですね、ようこそおいでくださいました」
門の前で立ち尽くす私たちを初老の紳士が出迎える。
恐らくは執事だ。予定到着時刻から少しズレたものの、町の様相はこちらにも届いているらしく「大層お疲れでしょう」と気遣われた。
にこやかですらある。
邸内に招き入れられ、応接室へと誘導されれば、館は外から感じたままの様相――無駄な絢爛さを象徴する陶磁器に絵画が廊下を彩る。
さて、……ルーファには帰って貰ったし、予定通りのメンツでの来訪。あれだけの騒ぎの中、こっちに移動してきたわけだし、荘園の領主としての立場からしたら、町の様子を聞いてくるはず。どこまで隠して話すか……。
カエル体のルーファとは町で別れている。
なにせ彼は現在カエル王子役をしているのだから、帰っていてもらわねば方々に障りが出る。モニークたちの目を掠めてのお見送りは骨が折れた。
応接室の戸が開くと同時に、ハッと息を飲む。
ソファーに男が座っていた。黒い巻き毛、黒い瞳、浅黒い肌の優男は、二十代前半。どこか私の父に似た面差しをしている。服はこちらでは一般的な刺繍の派手な長衣。ジャラジャラと耳にも首にも金属のアクセサリーを付けている。
「ようこそ、シャーロット!」
駆け寄り、私の手を取る。
手にガサリと堅くクシャリとしたものを握り込まされる。
何だ? ……紙?
「と、お付の方々! 私は、カシム・クシュム・カミール・シャプール・スィナン・ティメル・アララ・カドリ・ヨルク、ヨルク家の長子です」
長い……っ!!!!
「とても大変な経験をなさったとか。早馬が届いて以来、心配しておりました。私はシャーロットの親戚ですから、あなたがたの仲間にも等しいと思っております! ここから先はわたくしが必ずお守りいたしましょう!」
態度こそ礼儀にのっとったものながら、勢いと圧はすごい。
「シャーロット……親戚同士、仲良くしましょうね」
言う男の手は微かに震えている。
なに? なんで?
「ああ! どうぞどうぞ、お疲れでしょう? 座ってください。すぐに軽食を運ばせます。よろしければ町の状況なども併せて伺いたいです」
「優しい、お言葉……ありがとうございます。身に沁みます」
微笑む。
もちろん相手の言う事など毛ほども信用していない。仮面を被ってやり過ごす気は満々だ。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます
山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。
でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。
それを証明すれば断罪回避できるはず。
幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。
チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。
処刑5秒前だから、今すぐに!
『処刑されるたびに12歳に戻る悪役令嬢、7回目の人生は「何もせず寝て過ごす」ことに決めたら、なぜか周囲が勝手に勘違いして聖女扱いされています
六角
恋愛
公爵令嬢リリアーナは、18歳の誕生日に必ず断罪・処刑されては12歳に戻るという地獄のループを6回も繰り返していた。 真面目に努力しても、剣を極めても、裏社会を支配しても、結局は殺される運命。 心折れた彼女は、7回目の人生でついに決意する。 「もう頑張らない。どうせ死ぬなら、今回はひたすら寝て過ごそう」と。
しかし、安眠を求めて「うるさい」と敵を黙らせれば『王者の覇気』と恐れられ、寝ぼけて放った魔法は『神の奇跡』と崇められ、枕への異常なこだわりは『深遠なる儀式』と誤解されてしまう。 気がつけば、ストーカー気味のヤンデレ王子、パン屋の元ヒロイン、狂犬の如きライバル令嬢、元部下の暗殺者、そして不眠症の魔王までもが彼女の信者となり、リリアーナは意図せずして国を、そして世界を救う「最強の聖女」へと祭り上げられていく。
「お願いだから、私を寝かせて!」 睡眠欲だけで運命(システム)さえもねじ伏せる、無気力悪役令嬢の痛快勘違いサクセス(?)ストーリー!
9回巻き戻った公爵令嬢ですが、10回目の人生はどうやらご褒美モードのようです
志野田みかん
恋愛
アリーシア・グランツ公爵令嬢は、異世界から落ちてきた聖女ミアに婚約者を奪われ、断罪されて処刑された。殺されるたびに人生が巻き戻り、そのたびに王太子マクシミリアンはミアに心奪われ、アリーシアは処刑、処刑、処刑!
10回目の人生にして、ようやく貧乏男爵令嬢アリーに生まれ変わった。
もう王太子や聖女には関わらない!と心に決めたのに、病弱な弟のために王宮の侍女として働くことに。するとなぜか、王太子マクシミリアンは聖女ミアには目もくれず、男爵令嬢アリーを溺愛し始めて……。
(頭を空っぽにして笑えることを目指したコメディです。2020年に執筆した作品です。本作を読みたいというお声があったため再掲します)
モブ転生とはこんなもの
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
あたしはナナ。貧乏伯爵令嬢で転生者です。
乙女ゲームのプロローグで死んじゃうモブに転生したけど、奇跡的に助かったおかげで現在元気で幸せです。
今ゲームのラスト近くの婚約破棄の現場にいるんだけど、なんだか様子がおかしいの。
いったいどうしたらいいのかしら……。
現在筆者の時間的かつ体力的に感想などを受け付けない設定にしております。
どうぞよろしくお願いいたします。
他サイトでも公開しています。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる
街風
ファンタジー
「お前を追放する!」
ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。
しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。
巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!
あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!?
資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。
そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。
どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。
「私、ガンバる!」
だったら私は帰してもらえない?ダメ?
聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。
スローライフまでは到達しなかったよ……。
緩いざまああり。
注意
いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる