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第三章 9歳
12 説得
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その後も、揺さぶってはみたが、ネルズィエンはそれ以上を語ることはなかった。
本格的な拷問にかければべつかもしれないが、俺にそういった知識はない。そんな趣味もない。……ほんとだって。
「……それで、どうするのだ? 私を殺すか?」
ネルズィエンが、やけになったように聞いてくる。
「いや、そんなことはしないよ」
俺が答えると、
「ほう、なぜだ?」
「なぜって、おまえを殺せば、赤装歩兵なんていう面倒な連中が制御不能になっちまう。おまえには粛然と軍団を率いて山の向こうにお帰りいただく必要があるんだ」
「私がそんなことをするとでも?」
「するさ。そういう暗示をかけるからな」
「なに?」
「おまえは、この国を一歩出た途端、この国であったことをすべて忘れる。おまえの部下たちもな。ただ、この国で何か途方もなく恐ろしい目に遭ったことだけは覚えてる。二度とこの国に足を踏み入れたいとは思わない。それどころか、こんな国にはいたくない、一刻も早く本国に逃げ帰りたい。そう思うことになる」
「そ、そのようなことまでできるのか!?」
「そうじゃなかったら、ここまでぺらぺらと自分の手の内を明かすはずがないだろ」
最終的には忘れてもらうことになるので、話を引き出す意味で、こっちの種明かしをしたってわけだ。
「ついでに、ネルズィエン皇女殿下には特別な暗示もかけさせてもらう」
「特別な暗示だと? 何をさせるつもりだ?」
汗透けでエロいことになってる鎧下姿で、ネルズィエンが身を震わせる。
「たいしたことじゃない。皇帝がミルデニアに侵攻しようとしたら、『それだけはやめてください』と説得してもらう」
「ふん。父娘とはいえ、皇帝陛下が私の言葉になど耳を貸すものか」
「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。
でも、まったく効果がないわけでもないだろう。いまこの街にいる赤装歩兵たちも、怯えてミルデニアには行きたくないと言い出すからな。皇帝だって、不気味さを感じて、手を出すのを躊躇するかもしれない。
すくなくとも、時間を稼ぐことくらいはできるだろ。いや、おまえには是が非でもそうしてもらう」
「暗示で、か?」
「もしおまえがその努力をサボるようなことがあれば、まぶたの裏にまた太陽が上ることになる」
「うっ……」
「眠れない辛さはわかってるだろ?」
「な、なんの、これしきのことで……」
「言っとくが、徹夜も四日五日と続くと精神に変調をきたすからな。聞こえるはずのない声が聞こえてきたり、全身を蛆が這い回ってるような感覚がしたり……あまり長く続くと、一生元に戻れなくなるぞ」
俺の言葉に、ネルズィエンが青くなった。
(最後は盛ったけどな)
断眠実験の話をテレビで見たことがあるが、精神に変調をきたした人でも、その後ぐっすり眠れば比較的短期間で回復すると言っていた。
「そうだ。ついでに、吸魔煌殻の使用を制限するべきだと皇帝に進言してもらおう。危険が大きすぎるから軽々に扱うべきではないとか言ってな」
「ふん……あの男にそんな情理が通じるものか」
「おまえの立場が危うくなるようなことまではしなくていい。可能な範囲で、そういう世論作りをやってくれ」
「なぜ、そのようなことをする? 戦力低下を狙ってか?」
「それもあるが、個人的に気に入らないからだ」
「なに?」
「人の命を使い捨てにするような発想が、だ。
そんな発想をする人間には、大陸を征服することなんか絶対に無理だと俺は思うね。
自分の命を粗末にされた者が、皇帝のために命を張ろうと思うはずがねえ」
俺の言葉に、ネルズィエンがぽかんとする。
「……まさか、こんな子どもに道理を説かれるとはな」
ネルズィエンが苦笑した。
「そういう反応をするってことは、あんたもこういうやり方には疑問を持ってたわけだな」
「疑問など。父上のお考えに間違いのあろうはずがない……」
「ま、べつに認めなくてもいいけどな。さっき言ったふたつのことは忘れるな。ミルデニア攻めには反対する、吸魔煌殻の使用に異議を唱える。本国に帰ったら、このふたつは確実にやってもらう。拒否権はない」
「……く……」
「ああ、もちろん、その前にこの街の兵を率いてお国にお引き取りいただく必要はあるけどな」
「そのようなこと、できるはずがなかろう。具体的には何ひとつ覚えてないが、何か途方もなく恐ろしい目に遭ったので逃げ帰ってきました、などと……」
「そのマヌケさが、こっちには必要なのさ。こっちが思いのほか手強く、未知の魔法でこてんぱんにされました……なんて報告されたら、皇帝陛下はいきりたってさらなる大軍を送ってくるかもしれないだろ」
「それでは……私のメンツが」
「じゃあ、メンツと引き換えにいますぐ命を失うか? やろうと思えばできるんだぜ。この街にいる兵たちを、影の中から一人ずつ殺してくってことはな。
あんたは殺すより、虜囚にして生き恥をさらさせたほうがいいのかもな。いい女だし、俺のペットにしてやろうか?」
「ふっ……マセガキが。そのようなことは十年経ってから言うのだな。まるで迫力がないぞ」
ううむ。これは言葉を誤ったな。
ネルズィエンに余裕を取り戻させてしまった。
非モテが調子に乗るからこうなるんだ。
「ふん……このような術を使うからどんな怪物かと思ってみれば、ずいぶんとお優しいことだな。おまえは人を殺したくないと見える」
「必要があればともかく、他に手段があるのにあえて殺す理由はないよ」
俺の言葉に、ネルズィエンが考え込む。
目をつむって考えようとしたようだが、《不夜城》の効果で目がくらみ、すぐに目を開いて、宙を見つめながら考える。
こっちは、せっかくなので、ネルズィエンの艶姿をしっかり目に焼き付けておく。
こんなことなら紙に光景を焼き付ける写真魔法的なものを開発しておくんだった。
「……わかった。兵を引く」
ネルズィエンが、ついに折れた。
本格的な拷問にかければべつかもしれないが、俺にそういった知識はない。そんな趣味もない。……ほんとだって。
「……それで、どうするのだ? 私を殺すか?」
ネルズィエンが、やけになったように聞いてくる。
「いや、そんなことはしないよ」
俺が答えると、
「ほう、なぜだ?」
「なぜって、おまえを殺せば、赤装歩兵なんていう面倒な連中が制御不能になっちまう。おまえには粛然と軍団を率いて山の向こうにお帰りいただく必要があるんだ」
「私がそんなことをするとでも?」
「するさ。そういう暗示をかけるからな」
「なに?」
「おまえは、この国を一歩出た途端、この国であったことをすべて忘れる。おまえの部下たちもな。ただ、この国で何か途方もなく恐ろしい目に遭ったことだけは覚えてる。二度とこの国に足を踏み入れたいとは思わない。それどころか、こんな国にはいたくない、一刻も早く本国に逃げ帰りたい。そう思うことになる」
「そ、そのようなことまでできるのか!?」
「そうじゃなかったら、ここまでぺらぺらと自分の手の内を明かすはずがないだろ」
最終的には忘れてもらうことになるので、話を引き出す意味で、こっちの種明かしをしたってわけだ。
「ついでに、ネルズィエン皇女殿下には特別な暗示もかけさせてもらう」
「特別な暗示だと? 何をさせるつもりだ?」
汗透けでエロいことになってる鎧下姿で、ネルズィエンが身を震わせる。
「たいしたことじゃない。皇帝がミルデニアに侵攻しようとしたら、『それだけはやめてください』と説得してもらう」
「ふん。父娘とはいえ、皇帝陛下が私の言葉になど耳を貸すものか」
「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。
でも、まったく効果がないわけでもないだろう。いまこの街にいる赤装歩兵たちも、怯えてミルデニアには行きたくないと言い出すからな。皇帝だって、不気味さを感じて、手を出すのを躊躇するかもしれない。
すくなくとも、時間を稼ぐことくらいはできるだろ。いや、おまえには是が非でもそうしてもらう」
「暗示で、か?」
「もしおまえがその努力をサボるようなことがあれば、まぶたの裏にまた太陽が上ることになる」
「うっ……」
「眠れない辛さはわかってるだろ?」
「な、なんの、これしきのことで……」
「言っとくが、徹夜も四日五日と続くと精神に変調をきたすからな。聞こえるはずのない声が聞こえてきたり、全身を蛆が這い回ってるような感覚がしたり……あまり長く続くと、一生元に戻れなくなるぞ」
俺の言葉に、ネルズィエンが青くなった。
(最後は盛ったけどな)
断眠実験の話をテレビで見たことがあるが、精神に変調をきたした人でも、その後ぐっすり眠れば比較的短期間で回復すると言っていた。
「そうだ。ついでに、吸魔煌殻の使用を制限するべきだと皇帝に進言してもらおう。危険が大きすぎるから軽々に扱うべきではないとか言ってな」
「ふん……あの男にそんな情理が通じるものか」
「おまえの立場が危うくなるようなことまではしなくていい。可能な範囲で、そういう世論作りをやってくれ」
「なぜ、そのようなことをする? 戦力低下を狙ってか?」
「それもあるが、個人的に気に入らないからだ」
「なに?」
「人の命を使い捨てにするような発想が、だ。
そんな発想をする人間には、大陸を征服することなんか絶対に無理だと俺は思うね。
自分の命を粗末にされた者が、皇帝のために命を張ろうと思うはずがねえ」
俺の言葉に、ネルズィエンがぽかんとする。
「……まさか、こんな子どもに道理を説かれるとはな」
ネルズィエンが苦笑した。
「そういう反応をするってことは、あんたもこういうやり方には疑問を持ってたわけだな」
「疑問など。父上のお考えに間違いのあろうはずがない……」
「ま、べつに認めなくてもいいけどな。さっき言ったふたつのことは忘れるな。ミルデニア攻めには反対する、吸魔煌殻の使用に異議を唱える。本国に帰ったら、このふたつは確実にやってもらう。拒否権はない」
「……く……」
「ああ、もちろん、その前にこの街の兵を率いてお国にお引き取りいただく必要はあるけどな」
「そのようなこと、できるはずがなかろう。具体的には何ひとつ覚えてないが、何か途方もなく恐ろしい目に遭ったので逃げ帰ってきました、などと……」
「そのマヌケさが、こっちには必要なのさ。こっちが思いのほか手強く、未知の魔法でこてんぱんにされました……なんて報告されたら、皇帝陛下はいきりたってさらなる大軍を送ってくるかもしれないだろ」
「それでは……私のメンツが」
「じゃあ、メンツと引き換えにいますぐ命を失うか? やろうと思えばできるんだぜ。この街にいる兵たちを、影の中から一人ずつ殺してくってことはな。
あんたは殺すより、虜囚にして生き恥をさらさせたほうがいいのかもな。いい女だし、俺のペットにしてやろうか?」
「ふっ……マセガキが。そのようなことは十年経ってから言うのだな。まるで迫力がないぞ」
ううむ。これは言葉を誤ったな。
ネルズィエンに余裕を取り戻させてしまった。
非モテが調子に乗るからこうなるんだ。
「ふん……このような術を使うからどんな怪物かと思ってみれば、ずいぶんとお優しいことだな。おまえは人を殺したくないと見える」
「必要があればともかく、他に手段があるのにあえて殺す理由はないよ」
俺の言葉に、ネルズィエンが考え込む。
目をつむって考えようとしたようだが、《不夜城》の効果で目がくらみ、すぐに目を開いて、宙を見つめながら考える。
こっちは、せっかくなので、ネルズィエンの艶姿をしっかり目に焼き付けておく。
こんなことなら紙に光景を焼き付ける写真魔法的なものを開発しておくんだった。
「……わかった。兵を引く」
ネルズィエンが、ついに折れた。
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