NO STRESS 24時間耐えられる男の転生譚 ~ストレスから解放された俺は常人には扱えない反属性魔法を極めて無双する~

天宮暁

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第五章 15歳

37 遠足はギスギスとともに

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 翌日、エレイン先生が朝のホームルームで言った。

「今日は遠足です」

 学術科第一教室の俺たちは、揃って首を傾げていた。
 事情通のハントだけはわかってるみたいだけどな。

「遠足っていうのは、新入生同士でチームを組んで、学園都市周辺の巡回任務をこなしてもらうことです。
 任務といっても、本当に出かけて帰ってくるだけだから心配しないで。
 各術科ごとにランダムにペアを作って、他の術科のペアと組み合わせて六人チームにします。他の術科の子たちと仲良くしてね」

「あの……ペアを組む相手や、他の術科のペアを選ぶことは……」

「できません」

「ですよねー」

 質問しかけたミリーが引き下がる。

「騎士団の任務で、知らない人と組むなんてよくあることだから。
 たとえ即席のチームでも、それなりに意思疎通しながら動けるようになってほしいのよ。そのための訓練だと思ってね」

 そりゃまた、ストレスの溜まりそうな訓練だ。
 【無荷無覚】があって助かった。
 前世のままだったら、遠足があるたびに胃が痛くなりそうだ。

「じゃあ、この教室内でペアを作るわ。
 くじを作ってきたから順番に引いて」

 エレイン先生が席を回り、生徒たちにくじを引かせた。

「くじの番号が同じ同士でペアね」

 俺たちは、隣近所で番号を確認し合う。

「えっと、3番は?」

 俺が聞くと、

「わたしだよ! エリアック君とペアなら安心だね」

 俺のペアはミリーだった。
 受験でも一緒だった、金髪巻き毛の女子生徒だな。
 フルネームでは、ミリー=サン=ミグレットというらしい。
 十人しかいないクラスだけに、人の名前を覚えるのが苦手な俺でも、もう全員を把握してる。
 もちろん、向こうでも俺のことを把握してる。
 入学式の一件で有名なラシヴァと闘戯をして、武術だけであっさり下した学術科のサンヌルがいる。
 試験で派手にやらかしたロゼほどではないが、新入生の中では実力がありそうと噂になってるらしかった。

 なお、ミリーはクラスでは人気の女子生徒だ。
 他の男子生徒からの視線が痛い。
 ただでさえ、ロゼが押しかけてきたことで敵視されてるというのに。

 闇魔法で認識阻害することも考えたが、ラシヴァの例があって、俺は慎重になっていた。
 ちゃんと人望を得るって意味では、認識阻害頼みではいけないと思うしな。
 それに、クラスの男子からの視線で針のむしろになったとしても、少なくともストレスは感じないわけだ。例によって例のごとく。

「よろしく、ミリー」

「うん、よろしくね」

 ロゼみたいな美少女というわけじゃないが、この明るさと人懐っこさがミリーの人気の理由だ。
 リアルに付き合えそうな範囲の女の子で、付き合ったら楽しい毎日が過ごせそう。
 それが男子たちの共通した見解だった。

(まあ、ミリーなら気楽か)

 クラスでとくに苦手な相手もいないが、親しさでいえばハントかミリーが気楽だった。

(あとは魔術科と武術科のペアがどうなるかだけど)

 ロゼとぶつかったらラッキーだな。

 ……そんなふうに思ってた時期が私にもありました。





「ね、ねえ……仲良くしようよ? ね?」

 ミリーが、泣きそうな顔でそう言った。

 魔術科、武術科、学術科からそれぞれペアが抽選で組み合わされ、今回の遠足のチームとなる六人が顔を合わせることになった。

 魔術科からは、ホドとヌルの男子が二人。
 武術科からは、ヒュルの女子と……ラシヴァが来た。

 ヒュルの女子は、ラシヴァ相手に緊張気味だ。

 魔術科の男子二人も、組むのがラシヴァと知って青い顔をしてた。

 唯一、ミリーだけが、

「あ、ラシヴァ君だ! やっほー! 受験ぶり!」

 などと挨拶してたが、

「……誰だおまえ?」

 というラシヴァの冷たい一言に撃沈した。
 学術科第一教室の男子がいたら、俺たちのアイドルにその態度はなんだとイキリたつに違いない。もっとも、相手がラシヴァと知ったら怖気付くだろうけどな。

 ペアの抽選は、校庭でイベント感覚で進められ、あちこちで初対面の六人が自己紹介をしあってる。
 中には、もう楽しそうに談笑してるチームもあった。どんなコミュ力お化けだと俺は思うが、世の中にはああいう手合いはけっこういる。

「じゃあ、各チームでリーダーを決めて!」

 仕切りをやってるわれらがエレイン先生が、手をメガホンにして生徒たちにそう言った。

「り、リーダーだってよ」

 魔術科の男子の一人がおそるおそる口を開く。

 その視線は、あからさまに俺のほうを向いていた。
 魔術科のもう一人も俺を見てる。
 武術科の女子も俺、ミリーも俺……と。
 要するに、ラシヴァ以外は俺をリーダーにしたいらしい。

(ラシヴァをリーダーにするくらいなら、自分でやったほうがマシか)

 どうせ、行って帰ってくるだけの簡単なお仕事なんだしな。

「俺がやるよ」

 自分でも渋々に聞こえる声でそう言うと、他のメンバーがほっとした顔をする。
 ラシヴァも反対はしなかった。
 他のメンバーはラシヴァを怖がって聞かないし、俺もどう声をかけたものかわからなくて聞かなかったけどな。

 そこで、エレイン先生が声を上げた。

「リーダーになった人は、わたしのところに集まって!」

 各チームのリーダーが、エレイン先生たち担任生徒の周りに集まった。

「お、エリアックもリーダーか。ま、そりゃそうだよな」

 ハントが俺に言ってくる。

「ハントのチームはどこだ?」

「あそこあそこ。まあ、可もなく不可もない感じだな」

 たしかに、大人しそうな生徒が揃ってる。
 あの中なら、ハントがリーダーでもよさそうだ。
 戦闘力でいえば、魔術科か武術科のリーダーが多いみたいだけどな。

 集まったリーダーの中にロゼがいるかと思ったが、見当たらない。

(リーダーにはならなかったみたいだな)

 校庭の隅の方に、よく馴染んだヒュルサンヌル特有の気配がある。
 リーダーは誰かに譲ったらしい。
 俺だって、できるものならそうしたかった。

「そう言うエリアックの班はどれなんだ?」

 俺は無言のまま、自分のチームを目で示す。

「うげっ、マジかよ」

 ハントがラシヴァを見て、予想通りの反応をした。
 俺の肩に手を置いて、

「……ご苦労さん」

 心底から同情した声で言ってくる。

「勘弁してほしいぜ……昨日の今日だってのに」

「リーダーの生徒は、この中から地図を引いて!」

 エレイン先生の声に目を向けると、木箱の中に、丸めた地図がチームの数だけ入ってる。

「任務って言ってたけど……イベントだよな」

 俺が言うと、

「だな。学園騎士団の雰囲気をつかませるための準備みたいなもんらしいぜ」

 ハントはそう答えながら進み出て、さっさと地図を引いていた。

 それに負けじと、他のリーダーたちも我先に地図を取っていく。

(いや、くじなんだから何番目に引いても同じだろ)

 と思いつつ、俺は最後に地図を取った。

 広げてみると、ウルヴルスラを中心とした、かなり大雑把な地図だった。
 いくつかのチェックポイントがマークされている。
 宝探しの地図よりはマシだが、ちゃんとした地図とも言いがたい。
 これ以上の情報は現地で収集せよってことだな。

「へえ、おまえはそっちか」

 ハントが、俺の地図を覗き込みながら言ってくる。
 俺もハントの地図を見せてもらう。
 地図ごとにだいぶルートが違うようだ。

「チェックポイントには、色のついた石が置いてあるわ。ちゃんと持って帰ってくるように。
 それだけじゃつまらないと思って、今年はチームでできるお題も用意してあるの。仲良くなるきっかけにしてね」

 エレイン先生が、さもいい思いつきのように補足する。

「うげっ」

 思わず声が漏れた。
 空気の凍りついた俺のチームで、楽しげなお題なんてやりたくない。

「くくっ……ご愁傷様、エリアック」

「勘弁してくれよ……」

 ハントにからかわれ、俺は顔をしかめてため息をつく。

 とまあ、そんないきさつで、俺たちは遠足に出発した。

 俺とラシヴァ――というより、ラシヴァが一方的に発してる不機嫌な空気のせいで、俺のチームにはどんよりと淀んだ空気が立ち込めていた。

 それをなんとかしようと、ミリーがラシヴァに話しかけるが、ラシヴァはろくに返事もしない。

 結局、俺とミリー、魔術科の男子二人、武術科の女子の五人で、細々と会話をつなぐことになっていた。
 ラシヴァは最後尾からついてきてる。

「この地図わかりにくいよー」

 ミリーが地図を見ながらそうこぼす。

「たぶん、わざとだな。自分の目で地形を確認して覚えろということだろう」

 武術科の女子が相槌を打った。
 さばさばした感じの、やや男っぽい女の子だ。
 ヒュルらしい緑の髪をポニーテールにまとめてる。

「これから六年お世話になる地域だもんな。自分の足で把握しろってことか」

 魔術科の男子がそう付け加える。
 この男子は、武術科の女子が気になってるみたいだな。
 もうひとりの男子はミリー狙い。
 ミリーは俺に話しかけてくることが多いので、男子は俺とミリーの関係を邪推してるかもしれない。ミリーはいまひとつわかってないようだが。
 魔術科のペアは、ロゼとは別のクラスだそうだ。

 最初のチェックポイントには、数十分ほどでたどり着いた。
 ウルヴルスラの周辺は山の中で、アップダウンがけっこう多い。
 死角も多く、地形の把握は大変だ。
 地図にいくつか描かれてる微妙な感じのランドマーク(「亀さん岩」など)を目安に現在地を割り出し、チェックポイントを探し出す。
 大変ではあるが、面白いといえば面白い。

 ラシヴァ以外は、まあまあ話も弾んできた。

 とくに、ミリーと武術科の女子は、早くも意気投合してるように見えた。
 まあ、男からすると、女子はすぐに仲良くなってるように見えるもんだけどな。実際はそんなでもないのか、それとも本当に仲良くなったのか、外野からはよくわからん。

 魔術科男子二人も、同じクラスのペアだから、それなりに話は交わしてる。
 どっちの顔にも、こいつじゃなくて武術科の女子orミリーと話したい! と大書きになってるのだが。

 女子ペアにあまりからむのも気が引けるし、かといって魔術科ペアに混ざるのもやりにくい。もちろん、ラシヴァともからめない。
 ラシヴァほどではないが、俺も徐々に孤立しかけてきた。
 リーダーという役割があるおかげで、なんとか面目を保ててはいるけどな。

「あ! チェックポイントってあれじゃない!?」

 ミリーが駆け出した。
 「屏風岩」と説明があるチェックポイントの前には、赤く塗られた石が置かれていた。その下に一枚の紙が置かれてる。

「なになに……次のチェックポイントまで、まだお話ししてない人と話してみましょう……だって……」

 お題を読み上げるミリーの声が、尻すぼみになった。

「じゃあ、わたしはリーダーと話そう」

 機先を制したのは、武術科の女子だった。
 魔術科男子二人が、「やられた!」という顔をする。
 魔術科男子二人のお目当ては、それぞれ武術科女子とミリーである。
 武術科女子が俺についたショックで、男子の片方が出遅れた。
 そのあいだに、もう片方の男子が、

「ミリーさん、俺でもいい?」

「あ、うん。もちろんだよ!」

 快諾するミリーに、男子がこっそりガッツポーズを決めた。

「あ、てめっ……」

 今さら気づいてももう遅い。
 男子の相手は、一人しか残っていなかった。
 男子が、おそるおそるラシヴァに目を向ける。

「ふん、べつにお題はやらなくてもいいんだろう? 聞かれたらやったと答えりゃいい」

「そ、そうだね、ラシヴァ君……」

 お通夜状態の男子とラシヴァを最後尾にして、難を逃れた四人で、次のチェックポイントを目指していく。
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