NO STRESS 24時間耐えられる男の転生譚 ~ストレスから解放された俺は常人には扱えない反属性魔法を極めて無双する~

天宮暁

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第五章 15歳

76 決着

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「何……が……」

 腹を神滅槍ロンギヌスに、胸を冥窮崩天戟ブリューナクに貫かれ、キロフはなお生きていた。
 光に灼かれた腹の周囲と、闇に侵蝕された胸の周囲が硝子化している。
 傷口のまわりを硝子化することで、キロフはかろうじて一命を取り止めたようだ。

 だが、

「核は貫いたぜ」

 闇の十字槍は、キロフの胸を、横一文字に割く形で貫通していた。
 その切っ先は、心臓の位置にあったキロフの核を間違いなく砕いていた。
 魔法の手応え(そんなものがあるのだ)を感じたからな。

「く、ふっ……私、が……負けた、と……?」

「ああ」

 俺はうなずく。

「本当なら、ゼーハイド関連の事情を全部吐かせてから殺したいとこだけどな。そんな余裕はなさそうだ」

「何が……どうな……って」

「おまえに説明する必要はない」

 が、タネは明かしておこう。

 俺は、キロフとの戦いに先立って、自分の体内に、メイベル、ユナ、ラシヴァ、ロゼの魔力を溜め込んでいたのだ。
 それぞれ、左腕、右腕、左足、右足にな。

 要領としては、陰の中に魔力と魔法回路を仕込むのと変わらない。

 だが、他人の魔力を体内に入れるのは、シャレにならない苦痛を伴う。
 回復魔法ですら、ものによっては、患者が暴れ出すほどの苦痛をもたらすのだ。

 なお、以前俺がネルズィエンや帝国兵にかけた暗示は、魔法としては小規模なものだった。勘の鋭い人間なら違和感を覚えるかもしれない、という程度だな。
 前世で言えば、コンセントの中に仕込まれた盗聴器のようなもので、その気になって探さなければ、部屋の住人は気づかない、その程度のものでしかない(ただし、暗示の魔法はかなり精密に組まれている。消費魔力が少ないからといって、魔法として低級なわけではない)。

 だが、攻撃魔法となると話は別だ。
 攻撃魔法の威力は、どうしたって魔力の量に比例する。
 攻撃魔法として威力を発揮できる量の他人の魔力を体内に取り込めば、強烈な副作用が起こるのは避けられない。
 その副作用は、二重属性の相克と比べても、はるかに甚大で直接的だ。
 相克は、大変な苦痛であるとはいえ、命の危険があるわけじゃない。
 だが、他人の魔力を受け入れることには、耐えがたい異物感に加え、暴発のリスクすらつきまとう。
 その上、キロフは間違いなくこちらの魔力を読んでくるから、魔力を隠してることがバレないよう、自分の魔力でコーティングし、預かった魔力を隠しておく必要もあった。
 【無荷無覚】によってストレスを感じないからこそ、かろうじてそんな不安定な状態を保つことができたのだ。

(最初は、サンヌルであるキロフ相手に光属性と闇属性の魔法だけじゃ戦いにくいからって理由だったんだが……)

 何度か実験してみるうちに、不思議な現象に気がついた。
 特定の属性の魔法を使った後に、別の特定の属性の魔法を重ねがけすると、後からかけた方の威力が上がるのだ。
 ウルヴルスラに聞いてみると、彼女はこともなげにこう言った。

 ――それは、「相生そうしょう」と呼ばれる現象。

 と。

(要するに、地水火風光闇の順に魔法を使うと、コンボ補正みたいなものがかかるってことだ)

 俺はサンヌルだから、光→闇の順で魔法を使ったことは、それまでにも何度もあった。
 それなのにこの現象に気づかなかったのは、二連鎖の時点では、まだ補正の倍率が低いからだ。
 ウルヴルスラによれば、二連鎖の段階では+5%の強化だという。
 魔法の威力を測定する方法なんてないから、そのくらいなら補正に気づくことは難しい。たとえ気づいたとしても、誤差だと思って流してしまうだろう。
 実際、幾度となく光魔法と闇魔法を交互に、あるいは同時に使用する訓練を積んできたのに、俺は相生現象に気づいていなかった。

(でも、相生の補正は、連鎖が続くごとに強力になる)

 3連鎖で25%、4連鎖で50%、5連鎖で100%、6連鎖ではなんと250%にも達するらしい。

(べつに、ひとりの術者がすべての術を使う必要はない。協力してもかまわない)

 だからこそ、俺はこの闘戯場にみんなを集めたのだ。
 キロフが相生のことを知っていたかはわからない。
 だが、キロフは、最初の総攻撃の時には、空間硝子化による防御を使わなかった。
 空間硝子化が複数属性の魔法の集中砲火に弱いことを知ってたのだろう。

(そもそも、精霊はゼーハイドと戦うために造られた存在なんだ)

 キロフの言うようにゼーハイドが宇宙開闢以前から存在するのだとしても、黄昏人が封じ込めに成功したこともまた事実である。
 キロフの脅しとは逆で、魔法によってゼーハイドと戦うことはできるってことだ。
 もちろん、楽勝とは言い難い。
 だからこそ、ゼーハイドと戦える優秀な魔術師の育成のために、この学園都市ウルヴルスラが造られた。

(二重属性にはサンヌルみたいなハズレがある。それなのにどうして、相性の悪い精霊が隣り合わせの曜日に設定されてるのか……。ずって疑問に思ってたんだよな)

 「相生」は、そのひとつの答えなのだろう。

 詳しい原理まではわからないが、精霊同士には相克と相生の二つの相性があって、曜日は相生の方に基づいて設定されているのだろう。
 相生のために曜日をその順にしたのか、曜日をその順にしたから相生が発生するのか、そこのところはウルヴルスラも知らないらしいが。

 ついでに言うと、生徒会円卓に入る条件に、各術科内で属性がかぶらないこと、という規定があるのも、相生の余地を残すためのものだったのかもしれない。
 いつのまにか相生の知識が失われ、形骸化したルールだけが残ったということだ。

 さらに言えば、古代デシバル帝国を滅ぼした古の五賢者がそれぞれ別の属性を持ってたことも、相生の面から説明できるのかもな。

 とまあ、そんなわけで俺は自分の属性以外の魔法を身体に仕込んだ状態でキロフとの戦いに臨んだわけだ。

 相生がゼーハイドに有効だってんなら、ウルヴルスラには先に言っておいてほしかった。
 ウルヴルスラはこっちが聞いたことには答えてくれるが、聞かれないことを先回りして教えてくれたりはしないからな。
 自分を規定するプロトコルに引っかかるとかなんとか言ってたが。

 結果としてみれば、相生による全属性攻撃を、切り札としてさぼど強くは意識していなかったことが幸いした。
 もし俺が相生全属性攻撃のことを切り札として意識していたら、キロフは俺のそぶりから何かがあることを見抜いたかもしれない。
 そうした駆け引きは、残念ながらキロフに軍配の上がる領域だ。
 全属性攻撃があることまでは見抜かれないまでも、俺がそこに持ち込もうとしてることくらいは見抜かれただろう。
 もしそうなっていたら、キロフは硝子化空間に閉じこもったりせず、不測の事態に備えようとしたはずだ。

 そんな、薄氷を踏むような勝利だった。
 だがもちろん、そんなことを得意顔でこいつに語ってやるつもりはない。

「くふ、ふ……。どう、やら……あなた、には、何かが、ある、ようですね……闇野、君」

 情報を引き出したい気持ちもあったが、こいつ相手には油断でしかないだろう。
 殺すに先駆けて、言っておきたいこともない。
 言って後悔したり反省したりするような人間でもないからな。

「何があるかわからん。とどめを刺す。
 すべての悪意を穿ち貫きめっし去れ――神滅槍ロンギヌス!」

「クハ、クハハハ……クヒャハハハッッ!」

 光の大槍が、不気味に嗤うキロフの頭を消し飛ばす。
 頭をなくし、胸を割かれ、腹を穿たれたキロフの身体を硝子が覆う。
 俺は一瞬身構えたが、その硝子にはすぐに無数のヒビが走り、全体が曇ったように白くなる。
 次の瞬間、鉱物が破断されるような音を立てて、キロフの身体が砕け散った。






 キロフが死んだ――滅んだと同時に、分身である「キロフ」たちも、硝子となって砕け散った。

「エリア!」

 駆け寄ってきたロゼが、勢いのまま俺に抱きついてくる。

「ロゼ。無事か?」

 頭を撫で、そう聞く俺に、ロゼが身体を離してうなずいた。

「うん。エリアも無事……だよね?」

「ああ。なんとかなった……よな?」

「なんで疑問系なの?」

「いや、ちょっと気になることが……」

 俺がロゼに答えていると、

「エリアック! よくやってくれた!」

 バズパと一緒にやってきたエクセリア会長が、安堵の笑みを浮かべて言ってくる。

「……さすがに、生きた心地がしなかったです」

 声に振り向くと、そこにはメイベルが立っていた。
 いつも沈着冷静のメイベルの顔が青白い。
 戦いの間は落ち着いてみえたが、やはり緊張していたのだろう。

「やりやがったな、エリアック! 俺の手でぶちのめせなかったのは残念だが、これで帝国もおしまいだ!」

 ラシヴァがそう言って、俺の肩を叩いてくる。
 少しの悔しさはあるようだが、ラシヴァのこんな晴れやかな顔を見るのは初めてかもしれない。

「……ラシヴァは自分担当の分身をわたしとロゼになすりつけて楽をしてただけ」

 ラシヴァに、ロゼを追ってきたユナが辛辣な言葉を投げつける。

「うぐっ……結果としてはそうだけどよ。あいつが勝手にそっちに行ったもんだからしかたなく……」

「こちらはラシヴァ君のおかげで数的有利が取れました。ロゼさん、ユナさんは危なげなく戦っていたので、援護は不要だったと思います」

 と、ラシヴァと同じ組だったメイベルが言う。

「それより、上はどうなっている? 大講堂に侵入したゼーハイドは無事殲滅できたのか?」

 遅れてやってきたバズパが言った。
 「キロフ」二人を相手に前衛を務めてたバズパは、見るからにしんどそうな様子である。
 バズパの疑問には、ウルヴルスラが答えた。

『ついさっき片付いた。重傷者が数名出たものの、命に別状はない。怪我も魔法で治る範囲。戦死者はいない』

「……それはよかった」

 エクセリアが胸を撫で下ろす。

『都市を覆うエネルギーフィールドも展開済み。キロフを失った帝国兵は、離れた地点で立ち往生している』

「エネルギーフィールドがある以上、吸魔煌殻兵といえど、この都市に進入することは不可能だ。これで、なんとか終わったか」

「結果的に見れば、敵の大将が自ら突出してきて、討ち取られたような格好ですね」

 エクセリアの言葉にメイベルが言う。
 そうまとめられるとキロフが間抜けなようだが、あいつ自身が最大戦力なのだからしかたがない。
 実際、無策で臨めば、学園騎士団が皆殺しにされていてもおかしくない相手だった。

「現実感を希薄にしか感じられない、だったか。
 あいつは、危険を恐れない。
 というより、あいつが多少なりとも生きてる実感を得るためには、あえて危険に近づくしかないんだろうな」

 奴は頭がキレるから、危険に近づいても、自力で切り抜けることができていたのだろう……今日までは。

「思えば哀れな奴なのかもしれないな。同情する気にはなれないが」

 俺の言葉には、妙な実感が伴ってしまったのか、みんながしばし沈黙する。

(現実感がないキロフと、ストレスを感じない今の俺。非人間的って意味では近いものもある、か?)

 それでも俺は、ロゼが好きだし、他のメンバーにも好意を持っている。最近は、円卓の面々にも親しみを覚えるようになっていた。

 エクセリアがハッとする。

「っと、こうしている場合ではないな。戦いが終わったとはいえ、上は混乱しているだろう。わたしは大講堂に行って事態の収拾を図らねば」

「わたしも手伝います」

 メイベルがエクセリアに言う。

「会長、わたしも……」

「バズパは前衛を務めて疲れているだろう。ひとまずはわたしとメイベルに任せ、先に休みを取ってくれ。もちろん、途中で交代してもらうことになるが」

「はい、わかりました。ありがとうございます」

 疲労の色を隠せないバズパは、エクセリアの言葉に素直に引き下がった。

 実際、みんな疲れ切っている。
 闘戯場のバリアでダメージこそ受けずに済んだものの、格上の「キロフ」相手に神経を削る戦いをしていたのだ。
 バリアが剥がれ、ウルヴルスラの緊急脱出も間に合わなければ、殺されていたとしてもおかしくない。
 文字通り、死線をくぐり抜けた格好だ。

「エリアック、君たちも先に休んでくれ。
 いや、帝国兵の動きにだけは注意する必要があるな。エネルギーフィールドがある以上、撤退する以外に道はないだろうと思うが……」

『帝国兵の動きはわたしが監視する』

 ウルヴルスラが端末から言う。

「すまないが、頼む、ウルヴルスラ」

「俺も一応、偵察してきますよ」

「大丈夫なのか? 君はずっと戦いづめだろう。それとも、帝国兵に追い討ちをかけるつもりか?」

「千もいないってことなら、やってやれないことはないですけどね。キロフ亡き後の帝国との交渉のことを考えると、やりすぎは危険なんじゃないですか?」

「であろうな。丞相を討ち取っただけでも大金星だというのに、その上帝国兵の一部隊を殲滅したとなると、君の力を隠しようがなくなってくる。今さらという気がしないでもないがな」

 そう言ってエクセリア、バズパ、メイベル、円卓の女子は闘戯場のエレベーターに乗って、天井に向かって上昇していく。

「じゃあ、俺も行ってくるよ」

 そう言って、べつのエレベーターに乗る俺に、

「エリア、わたしも行く」

 ロゼがついてきて、隣に立つ。

「疲れてないか?」

「正直しんどいけど、まだ大丈夫」

 エレベーターが上昇する。
 ユナとラシヴァはまだ闘戯場に残っている。
 というか、ラシヴァは地面にへたりこみ、ユナも「地形:湖」に生えている模造の樹木にもたれ、目を瞑っていた。

 【無荷無覚】のある俺は、身体を鍛えるにもストレスがない。
 サンヌルとしての魔法だけじゃなく、基礎体力の面でも、同年代の生徒騎士をしのいでるはずだ。

 もっとも、それは単に鍛えてるというだけなので、天性の運動の才のある奴と比べれば分が悪いかもしれない。
 たとえばラシヴァは、単純な運動神経では俺を上回るはずだ。体格も、ラシヴァの方が恵まれてる。
 バズパの剣術も、鍛錬はもちろん、持って生まれた才能に支えられた面がありそうだ。

 じゃあ、魔法ではどうか。
 俺の隣にいる王女様は別格としても、エクセリアやメイベルの魔力や制御能力もかなり高い。
 ウルヴルスラが本格稼働したこともあり、うかうかしていては追いつかれるおそれもある。
 もちろん、相克の激しいサンヌルで魔法が使えるのは、俺|(とロゼ)にしかない強みなのだが。

(俺も、キロフも、たしかにこの世界では飛び抜けて強いかもしれない。でも、それだけで押し通せるほど甘い世界でもない)

 結局、仲間を集め、戦略を練り、万全を期して自分たちのフィールドへと持ち込んだ、俺たちの用意周到さが勝ったのだ。
 精神論だけで無計画に仕事を始めれば、あっという間にデスマーチ、ブラック企業の完成だ。
 人を大事にすることは甘えなんかじゃない。
 人を大事にするからこそ、無理のない綿密な計画を立てるのだし、実行においても二重三重のバックアップ体制を整える。

(べつに、俺が考えたことじゃない)

 エクセリアを筆頭に、円卓はみな同じものの見方をしていた。

 ――軍事行動の結果は、理念でも気合いでもなく、単に合理的な因果関係の結果として現れる。結果を引き寄せるのに必要なのは、明確な目的を設定し、合理的な計画を立て、それを周知徹底して、計画通りに実行すること。

 メイベルがそう言ってたな。

「だけど、最後の感覚は……」

「ん? 何か言った?」

「ああ、いや……」

 俺のつぶやきを拾ったロゼに、俺は言葉を濁して首を振った。
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