イヴィル・バスターズ ―STEEL LOVES FLOWER―

天宮暁

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第二章 失うことなしには

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◆御削美奈恵/事務所隣美奈恵のマンション、美奈恵の寝室

 ベッドの上で瞬君は、あたしと目を合わせようとすらしなかった。当たり前だ。軽蔑されたに決まってる。でも、することはしなきゃいけないんだよね。
 事務所で話をまとめた後、あたしは瞬君を連れて自分の部屋にやってきた。
 自分の部屋――と言っていいのだろうか。昔の男に買ってもらった部屋だ。内装もあたし好みにあつらえてもらってたんだけど、結局他人のものだという感覚がなくならない。
 男とはとっくに別れて、その際にこの部屋は平和的に譲渡してもらった。内装まであたし向けに変えてしまったので、まさか他の女に使わせるわけにも行かなかったのだろう。だからこの部屋の現在の所有者はまぎれもなくあたしで、そういう意味ではあたしの部屋だと言ってまちがいではない。真琴なんかは顔をしかめるけど、真琴にしてもこのマンションの隣にわざわざ事務所を構えたんだから、ここがあたしの部屋だということは認めてるはずだ。
 3LDKの部屋はあたし一人で暮らすには持てあまし気味だけど、男に棲みつかれるのもめんどくさい。自分の生活圏に他人がいるっていうのは、頼もしい反面、うっとうしくもある。男との同棲は何度か経験があるけど、最後はいつもあたしの方から切り出して、相手との関係ごと解消してしまった。あたしはふつうに恋愛してふつうに結婚してふつうに家庭に入るようなタイプの女には、どうしてもなれそうにない。
 家事は苦手で、この部屋の掃除も時たま家政婦さんを頼んでやってもらうか、それすらめんどうくさくて放っておくと、しびれを切らした真琴が嫌そうな顔をしながら最低限の片付けだけはやってくれる。料理は好きだけど、あまりやらない。毎日旦那さんに手料理をふるまうことを喜びにできるような殊勝な性格はしてないし。いや、そもそも――あたしは子どもが産めないカラダなんだよね。生きている限り男の精を必要とする厄介な身体でもある。
 この部屋の寝室には豪華な革張りのダブルベッドが置かれている。その他の家具もひととおり用意されてるんだけど、使用頻度がいちばん高いのはこのダブルベッドだし、この部屋の家具はこのベッドにあわせる形で選ばれたものだ。極端な話、この部屋を用意してもらった当初の目的はベッドだけでも果たせるものだが、さすがにそれではあまりに露骨だと思ったのだろう、あたしの機嫌を取る意味もかねて、インテリアには相応にこだわってくれていた。
 それでも、このダブルベッドはこの部屋の象徴であり、またあたしという女を象徴するものでもあるのだろう。
 真琴が、ひどく酔ったときに口を滑らせたことがある――これは娼婦の部屋だと。それを口にした後、あたしの表情に何を見たのか、真琴は急に顔を青くして、土下座でもしそうな勢いであたしに謝ってきたんだけど、そのときの真琴の言葉はあたしの心の奥底にすっとなじんでしまった。
 その通りだ、と思った。侮辱されたとは思わなかった。ただ、ああ、それがあたしなんだな、と思っただけだ。
 事実、娼婦のように男たちの間を渡り歩き、その精を食って生きているのが今のあたしだ。気に入った男を手に入れるためなら、どんなことでもできる。相手の気持ちを踏みにじるくらいはなんでもない。自分の気持ちならなおさらだ。
 にもかかわらず、あたしには男が居着かない。この快適な部屋を与えてくれた男も、結局この部屋にはほとんどやってこないままあたしと別れることになった。
 あたしは瞬君をダブルベッドに上げ、枕を背もたれに上体を起こした姿勢になってもらう。
 あたしが瞬君の正面からベッドに上がり、のしかかるように迫りながら顔を近づけると、瞬君はすっと顔をそらした。
「あ~ん。お姉さん、ショックぅ~」
「……っ」
 瞬君は悔しげに奥歯を噛みしめた。
「どうして……」
「ん?」
「どうして、こんなことを?」
 瞬君があたしを見つめてくる。
 ことここに至ってもまだあたしを信じようとしているのだろう。
(この子のまっすぐさには……なにかくるものがあるなぁ)
 でも、だからこそ――
「言ったじゃん。瞬君がおいしそうだからだって♪」
「……本当に、それだけなんですか? だったら真琴さんがこんなこと許すわけが――」
 瞬君はよく見てるな。
 そう思いつつも、あたしは瞬君の頬に手を伸ばす。
 瞬君はびくりと震えたが、抵抗はしなかった。
「真琴はあたしには逆らえないんだよ、昔から。あたしはそれを利用しておいしいところをいただいちゃってるの」
 なるべく悪く見えるように笑ってみせる。
 同情なんて必要ない。もっとあたしを憎んでほしい。その方がずっと――おいしくなるから。
「じゃ、さっそくいただいちゃうね♪」
「くっ……」
 まるで女の子みたいに頬を赤くして顔をそらす瞬君。
 あたしはその顎をつかんでむりやりあたしの方を向かせ、一息に唇を奪った。
「~~~~~~っ!!」
 身じろぎする瞬君の身体に手を足を絡めて抑えつつ、固く閉ざされた唇を舌で執拗にノックする。
 瞬君は目に涙をにじませながら唇をわずかに開いた。その隙間にあたしはすかさず舌を割り込ませる。
 ますます身を固くする瞬君の背中を優しく愛撫しながら、舌では瞬君の口腔内を激しく蹂躙していく。
「っは――」
 空気を求めてあえぐ瞬君。
 もちろんあたしはその隙を見逃さない。
 あたしは唇をいっそう激しく押しつけ、瞬君の舌に自分の舌を絡めていく。
 くちゅくちゅというエッチな水音をことさらに強調しながら、あたしは瞬君の舌の形を自分の舌でじっくりと確かめる。
 そうするうちに、瞬君の身体のこわばりが取れてきた。
 あたしは一度、瞬君から身体を離した。
「うん……。美味♪」
 男の人にとってはたまらないはずの妖艶な笑みを浮かべたつもりだったんだけど、瞬君は歯がみしながらそっぽを向いてしまった。
「あれぇ? 気に入らなかった?」
「こんなことに……なんの意味があるっていうんですか!」
 怒気を隠さずに瞬君が言ってくる。
「意味はあるよ? すっごく気持ちいいもん。瞬君だってよかったでしょ?」
「……っ」
 瞬君がすごい目であたしのことを睨んでくる。
 あ、たまらない――その目。
 もっといじめて、壊してあげたくなっちゃう。
「ひょっとして、さっきのがはじめてのキス? お姉さんが瞬君のはじめてをもらっちゃったのかなぁ?」
「――ッ!」
 瞬君は拳を握りしめて、いまにもあたしに殴りかかってきそうな様子だ。
 いいのに、殴ってくれても。それはそれで興奮するエッチができそうだ。どちらにせよ瞬君はあたしのいいなりにならざるを得ないのだから。
「でも、気持ちよかったんだよねぇ? 好きでもない年上の女にキスされたのに、ほら――ここはこんなになっちゃってる」
「――ぁっ!」
 瞬君の大きくなったそこを撫で上げてあげると、瞬君はこみ上げる快感を堪えるように声を噛み殺した。
「あはは。イっちゃいそうだった? お姉さんの愛撫、気持ちいい?」
 あたしは触れるか触れないかくらいの微妙な加減で瞬君のそこを繰り返しなぞってあげた。
「や、やめて……ください」
「そう? ココはそうは言ってないみたいだよぉ?」
「ほ、ほんとうに――」
 瞬君のそこがびくりと震えた。絶頂の一歩――いや半歩手前。あたしは絶妙のタイミングで手を引いた。
「えっ……」
 瞬君が拍子抜けしたような声を上げた。
「うふふ~」
 満面の笑みを浮かべて瞬君の顔を覗き込む。
「く――ッ! 美奈恵、さん……っ」
 からかわれたことに気づいた瞬君が、悔しそうな、切なそうな声を上げる。
「ねえ、今、何を想像してた?」
「何……を?」
「あたしに愛撫されてイっちゃうとこ? それとも、あたしとエッチしてるとこ? どっちにしても、今さっきの瞬君の頭の中には、愛しい愛しい春姫ちゃんのことはかけらもなかったよねぇ?」
「――ッ!!」
 くふふ、と笑ってみせるあたしを、瞬君は拳を握りしめ、顔を真っ赤にしながら睨みつけてくる。
 あと少し――あと少しだ。
「なんなら、あたしとしてる最中、春姫ちゃんのこと考えててもいいんだよ? 春姫ちゃんはこんなにエッチなことさせてくれないだろうけどね~♪」
「美、奈恵……さん……ッ!」
「でも、案外春姫ちゃんも、そういうのが好きなのかもしれないよぉ? ほら、瞬君の部屋にホイホイついていったのも、ひょっとしたら期待してたのかもしれないねぇ。鬼にやられちゃうまえに、瞬君にやられちゃいたかったのかもね~? あ、でも、かわいい子みたいだし、ひょっとしたらとっくに――」
「く、久瀬倉さんのことを侮辱するなぁ!」
 瞬君が殴りかかってくるのをかるくいなし、あたしは瞬君と体勢を入れ替え、瞬君を組み敷く姿勢になった。
「うふふ~。怒った瞬君、かっわいい~♪ いいよぉ、その顔。お姉さん、よだれが止まらないよぉ」
「くそぉ! 離して! 離してください! やっぱりこんなの――こんな形でなんて――!」
 まるでむりやり襲われてるみたいに暴れる瞬君を、あたしは軽々と押さえ込んで言う。
「あれぇ? 今回のことは、瞬君の方から頼んできたことだよねえ? あたしはぁ……どっちでもいいんだよぉ?」
「ぐ――ッ」
 瞬君の目には涙すら浮かんでいる。
 ちょっと苛めすぎたかな?
 こんなに苛めるつもりはなかったんだけど、瞬君がいちいちいい反応をするもんだからちょっとやりすぎちゃったみたい。
「ま、はじめてがこんなじゃ、かわいそうだよねぇ。それはそれで、お姉さんは燃えちゃうんだけど、瞬君とは今後も長くおつきあいしたいし――」
「ぼくは、こんなことでもなければあなたとなんて――!」
「もう、そんなこと言いっこなしだよぉ。せっかく条件を緩和してあげようと思ったのに」
「……え?」
 言われたことが理解できなかったのか、瞬君が呆けた様子を見せる。
「だ・か・ら。優しい優しい美奈恵お姉さんが、瞬君の依頼を引き受ける条件を緩和してあげようって言ってるの! ……あ、真琴には内緒だからね? 勝手にこんなことしたら怒られちゃうもん」
「条件を……緩和、ですか?」
「そう。いきなり瞬君の童貞をもらっちゃうのも、それはそれでオイシイんだけど、ちょっとかわいそうだから、特別に待ってあげてもいいよ」
「本当ですか!?」
「ホントホント。でも、待ってあげるだけだからね? 瞬君がぁ、春姫ちゃんとにゃんにゃんしたらぁ、必ずあたしのところに来てぇ、あたしに抱かれるんだよぉ? ま、手付けはもらうけどね♪」
「手付け……って、うわ」
 あたしは瞬君の唇を再び奪う。さっきとちがってのしかかるような体勢だから興奮もひとしお。瞬君も少しは慣れたのか、唇を開いて、あたしのなすがままに身を任せている。
「……今日はぁ、こっちだけで勘弁してあげる」
「本当ですか……?」
「ホントだってばぁ! あたしが信じられないのぉ?」
「そりゃ……あ、いえ。とんでもないです」
 瞬君はあたしのジト目に気づいて言葉を濁した。
「お礼はぁ?」
「お礼?」
「対価の支払いを猶予してもらったことへのお礼」
「……その……ありがとうございます」
「違ぁ~うっ!」
「え!?」
 あたしは瞬君に耳打ちして、言うべき言葉を教える。
 瞬君の耳がみるみる赤くなる。その耳をぺろりとなめてからあたしは身を起こす。
「そ、そんなことを――!」
「言って♪」
「……くっ」
 逡巡する瞬君だが、自分の立場を思い出したのだろう、震える声であたしが教えた言葉を口にする。
「……優しい優しい……美奈恵、お姉様に、あ、愛撫……していただいて、ぼくはもう……、た、堪まりません。すぐにでも、は、果てて……しまいそうなので、今日の所はどうか……ぼくの……く、唇の、初めてだけで、勘弁……してくださ……い」
「頭を下げる♪」
「――ッ。お願いします――っ」
「よしよし。そこまで言うならぁ、おクチだけで勘弁してあげてもいいよぉ?」
「あ、ありがとう……ございます、美奈恵お姉様――っ、そ、粗末なものではございますが……こ、今夜は、今夜一晩は、ぼくの、くち、唇を、存分に……ご堪能……ください――っ」
 屈辱に身を震わせながらそう告げる瞬君に、
「ひゃあぁぁぁんっ! ゾクゾクするよぉっ! ああ、もうあたし堪らないのぉっ!」
 あたしはたまらず瞬君に抱きつき、自分の身体をぎゅうぎゅう押しつけながら、瞬君の唇に自分の唇を押しあてる。
「むぐぅ……っ」
 うめく瞬君を貪るように――というか実際に貪っていくあたし。
 怒り、泣き、憤り、憎み、悲しむ瞬君の青い激情を、じっくりと、たっぷりと、あたう限り時間をかけて、あたう限り瞬君の苦痛を引き延ばすようなやり方で、あたしは貪り、自分の血肉と化していく。
 夜はまだまだ長い。
 これから大きなお仕事がはじまるんだもん――しっかり精力を補給しないとね♪
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