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14.メメンサーラ
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「――鎮まれ! おまえたちの王は討ち取ったぞ!」
アリスの堂々たる声が謁見の間に響き渡る。
逃げ惑っていた兵たちが徐々に落ち着きを取り戻していく。
「鈴彦。お姫様を確保しておけ」
「あっ、そうだった」
すっかり忘れていた。
俺たちは人質として姫を連れてきていた。
結局、ファラオが交渉を撥ね付けたため、切り札としては使わずじまいになったが。
「その必要はありません」
アリスの前に、姫が進み出る。
「アリスと言いましたね。あなたは、わたしを――プレデスシェネクをどうなさるおつもりですか?」
凛とした口調で、姫が言う。
どちらかというと温室育ちの印象のある姫だったが、今の態度は堂々としている。
アリスは、姫を探るようにまじまじと見た。
「あまり、ショックを受けていないな」
アリスがぽつりと言った。
「……そ、そんなことはありません。父を喪って悲しまない者がいますか」
「だがあなたは、王はあなたを人質にしても譲歩しないだろうと言った。父にそのような情はないとも言ったな」
「事実、そのとおりだったでしょう」
「ああ、そのとおりだった。そのとおりすぎた。あなたと王の間には、親子の情がまるでないように見えた」
「……そういう親子もいます」
姫が唇を引き締める。
(アリスは何を言ってるんだ?)
父を亡くしたばかりの姫の傷口に、塩を塗るようなことを言っている。
まったくアリスらしくない。
しかし、だからこそ、アリスが何かを考えていることはわかる。
アリスが続ける。
「最初から思っていたが……姫は父親に似ていないな」
「目元、口元は似ていると言われます」
「そうか? やはり似ていないと思う。家族らしい要素がまったくない。だいいち、褐色の肌と黒い髪のファラオと、金髪碧眼のあなたが親子だと?」
「は、母に似たのです」
「程度というものがある」
アリスが姫に近づく。
そして言う。
「――何者だ?」
姫が息を呑んだ。
「わたしは……父の……アメンロート王の娘です」
「違うのだろう? なぜ、他の者が疑う素振りも見せないのか不思議でしかたがなかった。だが、それこそがヒントでもあった。あなたは他の者に、王の娘だと信じさせていたのだ。何か不可思議な力で、な」
「…………」
姫が沈黙する。
「ち、ちょっと! アリス、どういうことなんですか?」
俺は、アリスと姫を見比べながら聞く。
「どうもこうもない。そんなことができるのは、よほど特殊なギフトの持ち主か、あるいはギフトのような特別な力を人間に授けられるような存在だけだろう」
「えっ……それって、まさか……」
莉奈が目を見開いた。
「――ああ。この姫は、神なのではないか?」
謁見の間に沈黙が落ちた。
沈黙を破ったのは、場違いな含み笑いだった。
「くっふふふ……」
姫だ。
姫がうつむいて、肩を震わせている。
「ひ、姫……?」
俺が聞く。
姫がガバッと顔を上げた。
「あーっはっはっは! これはすごい! あたしもいろんな人間を見てきたけど、ここまでの人は初めてだよ! アリス、あんたは間違いなく天才だ!」
姫が、腹を抱えて笑いながら、明るい声でそう言った。
「では、やはりそうなのか?」
アリスが聞く。
「んー、まあ、正解の範囲ではあるのかな? でも、あたしが神なんて畏れ多いから、その点だけは不正解。かといって的はずれなわけじゃないんだけど、ね」
今度は莉奈が口を開く。
「ということは、神ではないまでも、神側の存在だということですか? んん? 神側の存在……? ひょっとして、『天使』だったりします?」
「おー、大正解! リナも天才だね!」
「莉奈はたしかに天才ですが、それではあなたは本当に天使なのですね」
「もちもち。もっちのロン! 一盃口タンヤオドラ3! 数え役満だ!」
「莉奈は振り込んだりしませんよ。それから、その手は満貫です」
「……おまえたちは何の会話をしてるんだ」
アリスがため息をつく。
「で、説明してくれるのだろう?」
「いいですよー。あたしは女神イジス・ラーにお仕えする天使様なのでしたっ!」
姫がその場でくるりと回る。
目を離したわけではないのに、いつのまにか衣装が変わっている。
レースのついたプリンセスライクなドレスから、古代ギリシアのトーガのような姿へ。
そして、その背中には片翼の翼がついていた。
「きゅぱっ!」
姫――いや、天使が頭の上でピースをすると、頭の上に天使の輪っかが現れた。
「どう? これでそれらしいでしょ?」
「天使のイメージではありますね。もっとも、キリスト教では天使は光の塊のようなものだったと思いますが」
「形而下の物質で神や天使を表現することはできないよん」
天使がウインクして言った。
もとが美少女の姫なのでかわいいことはかわいいのだが、そこはかとなくイラッとする。
「おまえのことはなんと呼べばいい?」
アリスが聞くと、
「ジャブランティス・ドレ・メメンサーラ」
「ジャブ……?」
「メメンでもサーラでもいいよ」
「じゃあメメンと呼ばせてもらおう。それで、メメン。なぜ天使であるおまえが姫のフリをしていたのだ? おまえは今回の事態にどう関与している?」
「容疑者みたいに言わないでよう」
メメンがぷくーっと頬を膨らませる。
「……萌えます?」
「萌えないな」
顔を寄せて聞いてきた莉奈にそっと答える。
「あたしが姫のフリをしてたのは、プレデスシェネク王アメンロートの監視のためだよー」
「ほう」
「人間が地上で何をやろうと、それは人間の勝手なのさ。それは、古からの神と人との契約事項。神人不干渉契約。でもね、アメンロートはやりすぎた」
「神になろうとしていたのだったな」
「それも、われらが女神様を嫁にしたいなんて理由なんだもんねー。女神様も罪なお人だ。アメンロート王に一度お姿を垣間見られてしまって、それ以来王様は女神様にぞっこん。地上の酒池肉林では飽き足らずに、女神様を求めてプレデスシェネクを破滅へと追い込もうとしていた」
「放っておけばよかったのではないか? ……いや、違うか。王は本当に神に近づいていたのだな」
「そうそう。もともとこのプレデスシェネクは神代の遺跡だからさー。神へのアクセス経路が残っちゃってて……って、これは秘密なんだった! オフレコってことでよろぴこ!」
メメンがてへっと舌を出す。
「……萌えます?」
「萌えないってば」
また聞いてきた莉奈に即答する。
「あとは、今回の事態にあたしがどれだけ関与してたか、だったね? その答えは……ノット・アット・オール!!」
「まったく関係ないだと?」
「本当は、ちょっとだけ関与してるよー。具体的には、君たちが召喚された時に、所持している星の数の算定に、元の世界での活躍を加算したのは、慈悲深き女神様のおはからいだったのです!」
「ふむ。それが本当だとしたら、だいぶ助けられたことになるな。いや、待て。そうか、おまえたちはわたしたちを利用したのだな?」
アリスがメメンを睨む。
「や、やだなー。利用したなんて口聞きの悪い……この国風に言えば、『使ってやるのだから光栄に思え!』ってやつでさー」
「おまえのほうが口聞きが悪ぃよ!」
やべ、思わずつっこんでしまった。
「いいねいいねーそのつっこみ! 百戦錬磨の磨き抜かれたつっこみだ!」
褒められた。
「……萌えます?」
「いやあんまり」
だからなんで俺に聞く。
「でもぶっちゃけ、君たちは巻き込まれてしまったわけじゃない? それをなかったことにはできないから、それなりに援助の手を与えつつ、その見返りとして厄介なことになってる現地の政権を打倒してもらおうと画策したというわけでして」
「……われわれにも利があったというのだな。まあ、それはそのとおりではあるのだが」
アリスが複雑そうに言う。
俺が聞く。
「なんで自分でファラオを倒さなかったんだ? 天使なんだろ?」
「天使っつってもー? あたし自身はそんなにすごいことができるわけじゃないっていうかー。所詮、神だの天使だのは形而上的な存在なわけでしてー、できることとできないことがあるのです。神人不干渉契約の縛りもあるしねー」
「そういうもんか」
「そういうもんなんですー。世の中って、人間のアタマでわかるようにはできてないっす! 自分基準で考えちゃうのは人間の悪いクセなんだよー。世の中、人間のために回ってるわけじゃないっての!」
ぶんぶんと手を振って力説するメメン。
「興味深い話だが……その前に聞いておきたい。この状況はなんだ?」
アリスが、周囲を示しながら言う。
(この状況?)
周囲を見て、気づく。
兵たちがみな、虚脱して突っ立っている。
時間が止まっているのかと一瞬思ったが、わずかに揺れているところを見ると、ちゃんと呼吸はしているらしい。
「時間停止プレイができなくて残念でしたね?」
「そ、そんなことかけらも思ってないヨ?」
莉奈の言葉に目をそらす。
「天使の存在感に普通の人間は耐えられぬ! ってわけで、意識がハレーション起こして虚脱しちゃってるのです! ああ、神々しいあたしが悪いのかー」
「なぜわたしたちは平気なんだ?」
「それはとくべつに、あたしが光を絞ってるからなのさ」
「光というのは、どうやら星のようですよ。メメンを神算鬼謀で分析すると、星の数がオーバーフローして表示がバグります。☆65535は超えてますね」
「あたしレベルになると、星がまばゆすぎて目がくらむのさ。さっきリナが言ってたキリスト教の天使の概念は、案外ウソでもないね!」
メメンが胸を張る。
「それで? アリス。君はあたしの正体を見事暴いたわけだけど、それには当然目的があるよね? 大体察しはついてるけど言ってみなさい。悪いようにはしないから」
「……悪いようにはしないというセリフには気をつけるようにしているのだが」
「もう、疑り深いなー。ぶっちゃけると? アメンロートを倒してくれたから、あたしにできる範囲のことなら協力するよ、って言ってるのよー?」
メメンの言葉に、アリスがぴくりと身を震わせる。
「本当か?」
「本当ですー。天使が嘘つくと思ってんの? 『いや疑ひは人間にあり、天に偽りなきものを』って知らないの?」
「知ってます。『羽衣』ですね。メメンがどうして知ってるのかは知りませんが」
莉奈が博識なところをアピールする。
アリスがため息をつく。
「わかった。率直に言おう。わたしたちを元の世界に帰してくれ、メメン」
メメンがアリスに返事をする。
「――ヤダぷー」
アリスの堂々たる声が謁見の間に響き渡る。
逃げ惑っていた兵たちが徐々に落ち着きを取り戻していく。
「鈴彦。お姫様を確保しておけ」
「あっ、そうだった」
すっかり忘れていた。
俺たちは人質として姫を連れてきていた。
結局、ファラオが交渉を撥ね付けたため、切り札としては使わずじまいになったが。
「その必要はありません」
アリスの前に、姫が進み出る。
「アリスと言いましたね。あなたは、わたしを――プレデスシェネクをどうなさるおつもりですか?」
凛とした口調で、姫が言う。
どちらかというと温室育ちの印象のある姫だったが、今の態度は堂々としている。
アリスは、姫を探るようにまじまじと見た。
「あまり、ショックを受けていないな」
アリスがぽつりと言った。
「……そ、そんなことはありません。父を喪って悲しまない者がいますか」
「だがあなたは、王はあなたを人質にしても譲歩しないだろうと言った。父にそのような情はないとも言ったな」
「事実、そのとおりだったでしょう」
「ああ、そのとおりだった。そのとおりすぎた。あなたと王の間には、親子の情がまるでないように見えた」
「……そういう親子もいます」
姫が唇を引き締める。
(アリスは何を言ってるんだ?)
父を亡くしたばかりの姫の傷口に、塩を塗るようなことを言っている。
まったくアリスらしくない。
しかし、だからこそ、アリスが何かを考えていることはわかる。
アリスが続ける。
「最初から思っていたが……姫は父親に似ていないな」
「目元、口元は似ていると言われます」
「そうか? やはり似ていないと思う。家族らしい要素がまったくない。だいいち、褐色の肌と黒い髪のファラオと、金髪碧眼のあなたが親子だと?」
「は、母に似たのです」
「程度というものがある」
アリスが姫に近づく。
そして言う。
「――何者だ?」
姫が息を呑んだ。
「わたしは……父の……アメンロート王の娘です」
「違うのだろう? なぜ、他の者が疑う素振りも見せないのか不思議でしかたがなかった。だが、それこそがヒントでもあった。あなたは他の者に、王の娘だと信じさせていたのだ。何か不可思議な力で、な」
「…………」
姫が沈黙する。
「ち、ちょっと! アリス、どういうことなんですか?」
俺は、アリスと姫を見比べながら聞く。
「どうもこうもない。そんなことができるのは、よほど特殊なギフトの持ち主か、あるいはギフトのような特別な力を人間に授けられるような存在だけだろう」
「えっ……それって、まさか……」
莉奈が目を見開いた。
「――ああ。この姫は、神なのではないか?」
謁見の間に沈黙が落ちた。
沈黙を破ったのは、場違いな含み笑いだった。
「くっふふふ……」
姫だ。
姫がうつむいて、肩を震わせている。
「ひ、姫……?」
俺が聞く。
姫がガバッと顔を上げた。
「あーっはっはっは! これはすごい! あたしもいろんな人間を見てきたけど、ここまでの人は初めてだよ! アリス、あんたは間違いなく天才だ!」
姫が、腹を抱えて笑いながら、明るい声でそう言った。
「では、やはりそうなのか?」
アリスが聞く。
「んー、まあ、正解の範囲ではあるのかな? でも、あたしが神なんて畏れ多いから、その点だけは不正解。かといって的はずれなわけじゃないんだけど、ね」
今度は莉奈が口を開く。
「ということは、神ではないまでも、神側の存在だということですか? んん? 神側の存在……? ひょっとして、『天使』だったりします?」
「おー、大正解! リナも天才だね!」
「莉奈はたしかに天才ですが、それではあなたは本当に天使なのですね」
「もちもち。もっちのロン! 一盃口タンヤオドラ3! 数え役満だ!」
「莉奈は振り込んだりしませんよ。それから、その手は満貫です」
「……おまえたちは何の会話をしてるんだ」
アリスがため息をつく。
「で、説明してくれるのだろう?」
「いいですよー。あたしは女神イジス・ラーにお仕えする天使様なのでしたっ!」
姫がその場でくるりと回る。
目を離したわけではないのに、いつのまにか衣装が変わっている。
レースのついたプリンセスライクなドレスから、古代ギリシアのトーガのような姿へ。
そして、その背中には片翼の翼がついていた。
「きゅぱっ!」
姫――いや、天使が頭の上でピースをすると、頭の上に天使の輪っかが現れた。
「どう? これでそれらしいでしょ?」
「天使のイメージではありますね。もっとも、キリスト教では天使は光の塊のようなものだったと思いますが」
「形而下の物質で神や天使を表現することはできないよん」
天使がウインクして言った。
もとが美少女の姫なのでかわいいことはかわいいのだが、そこはかとなくイラッとする。
「おまえのことはなんと呼べばいい?」
アリスが聞くと、
「ジャブランティス・ドレ・メメンサーラ」
「ジャブ……?」
「メメンでもサーラでもいいよ」
「じゃあメメンと呼ばせてもらおう。それで、メメン。なぜ天使であるおまえが姫のフリをしていたのだ? おまえは今回の事態にどう関与している?」
「容疑者みたいに言わないでよう」
メメンがぷくーっと頬を膨らませる。
「……萌えます?」
「萌えないな」
顔を寄せて聞いてきた莉奈にそっと答える。
「あたしが姫のフリをしてたのは、プレデスシェネク王アメンロートの監視のためだよー」
「ほう」
「人間が地上で何をやろうと、それは人間の勝手なのさ。それは、古からの神と人との契約事項。神人不干渉契約。でもね、アメンロートはやりすぎた」
「神になろうとしていたのだったな」
「それも、われらが女神様を嫁にしたいなんて理由なんだもんねー。女神様も罪なお人だ。アメンロート王に一度お姿を垣間見られてしまって、それ以来王様は女神様にぞっこん。地上の酒池肉林では飽き足らずに、女神様を求めてプレデスシェネクを破滅へと追い込もうとしていた」
「放っておけばよかったのではないか? ……いや、違うか。王は本当に神に近づいていたのだな」
「そうそう。もともとこのプレデスシェネクは神代の遺跡だからさー。神へのアクセス経路が残っちゃってて……って、これは秘密なんだった! オフレコってことでよろぴこ!」
メメンがてへっと舌を出す。
「……萌えます?」
「萌えないってば」
また聞いてきた莉奈に即答する。
「あとは、今回の事態にあたしがどれだけ関与してたか、だったね? その答えは……ノット・アット・オール!!」
「まったく関係ないだと?」
「本当は、ちょっとだけ関与してるよー。具体的には、君たちが召喚された時に、所持している星の数の算定に、元の世界での活躍を加算したのは、慈悲深き女神様のおはからいだったのです!」
「ふむ。それが本当だとしたら、だいぶ助けられたことになるな。いや、待て。そうか、おまえたちはわたしたちを利用したのだな?」
アリスがメメンを睨む。
「や、やだなー。利用したなんて口聞きの悪い……この国風に言えば、『使ってやるのだから光栄に思え!』ってやつでさー」
「おまえのほうが口聞きが悪ぃよ!」
やべ、思わずつっこんでしまった。
「いいねいいねーそのつっこみ! 百戦錬磨の磨き抜かれたつっこみだ!」
褒められた。
「……萌えます?」
「いやあんまり」
だからなんで俺に聞く。
「でもぶっちゃけ、君たちは巻き込まれてしまったわけじゃない? それをなかったことにはできないから、それなりに援助の手を与えつつ、その見返りとして厄介なことになってる現地の政権を打倒してもらおうと画策したというわけでして」
「……われわれにも利があったというのだな。まあ、それはそのとおりではあるのだが」
アリスが複雑そうに言う。
俺が聞く。
「なんで自分でファラオを倒さなかったんだ? 天使なんだろ?」
「天使っつってもー? あたし自身はそんなにすごいことができるわけじゃないっていうかー。所詮、神だの天使だのは形而上的な存在なわけでしてー、できることとできないことがあるのです。神人不干渉契約の縛りもあるしねー」
「そういうもんか」
「そういうもんなんですー。世の中って、人間のアタマでわかるようにはできてないっす! 自分基準で考えちゃうのは人間の悪いクセなんだよー。世の中、人間のために回ってるわけじゃないっての!」
ぶんぶんと手を振って力説するメメン。
「興味深い話だが……その前に聞いておきたい。この状況はなんだ?」
アリスが、周囲を示しながら言う。
(この状況?)
周囲を見て、気づく。
兵たちがみな、虚脱して突っ立っている。
時間が止まっているのかと一瞬思ったが、わずかに揺れているところを見ると、ちゃんと呼吸はしているらしい。
「時間停止プレイができなくて残念でしたね?」
「そ、そんなことかけらも思ってないヨ?」
莉奈の言葉に目をそらす。
「天使の存在感に普通の人間は耐えられぬ! ってわけで、意識がハレーション起こして虚脱しちゃってるのです! ああ、神々しいあたしが悪いのかー」
「なぜわたしたちは平気なんだ?」
「それはとくべつに、あたしが光を絞ってるからなのさ」
「光というのは、どうやら星のようですよ。メメンを神算鬼謀で分析すると、星の数がオーバーフローして表示がバグります。☆65535は超えてますね」
「あたしレベルになると、星がまばゆすぎて目がくらむのさ。さっきリナが言ってたキリスト教の天使の概念は、案外ウソでもないね!」
メメンが胸を張る。
「それで? アリス。君はあたしの正体を見事暴いたわけだけど、それには当然目的があるよね? 大体察しはついてるけど言ってみなさい。悪いようにはしないから」
「……悪いようにはしないというセリフには気をつけるようにしているのだが」
「もう、疑り深いなー。ぶっちゃけると? アメンロートを倒してくれたから、あたしにできる範囲のことなら協力するよ、って言ってるのよー?」
メメンの言葉に、アリスがぴくりと身を震わせる。
「本当か?」
「本当ですー。天使が嘘つくと思ってんの? 『いや疑ひは人間にあり、天に偽りなきものを』って知らないの?」
「知ってます。『羽衣』ですね。メメンがどうして知ってるのかは知りませんが」
莉奈が博識なところをアピールする。
アリスがため息をつく。
「わかった。率直に言おう。わたしたちを元の世界に帰してくれ、メメン」
メメンがアリスに返事をする。
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