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6 守るべき少女④市警
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「待ちなさい!」
頭上から鋭い声が響いた。
(しくったな)
路地の方の気配には気を配っていた。
だが、上のことは忘れてた。
屋根の上を歩く通行人なんていないからな。
(ルディアに気を取られてたか。
俺もまだ未熟だな)
ひそかに苦笑いを噛み殺す。
さいわい、聞こえてきた声には覚えがあった。
「キャシー。俺だ」
俺は、路地の上――屋根を見上げてそう言った。
「その声……ナイン?」
返事とともに、声の主が屋根から飛び降りた。
三階建ての建物だ。
常人なら墜落死しかねない。
もちろん、キャシーはそんな間抜けじゃない。
握った魔剣で風を生み、勢いを殺して着地する。
現れたのは、青い制服姿の女性だった。
制服――セブンスソード市警の制服だ。
年齢は二十歳前後だろう。
栗色の短めの髪。
まなじりの上がった緑の目。
活発な印象の美人である。
左手に、短めの魔剣を握ってる。
柄からU字の長い鍔が伸び、刃は櫛状。
受けた剣を搦めて、折る。
ソードブレイカー。
そう呼ばれるタイプの剣である。
キャシーは、制帽を右手で直しながら俺を見た。
「どうしたのよ、甲冑も着けずに。
そんな格好だからわからなかったわ」
キャシーはそう言って周囲を見る。
「うわ、あんたにしては派手にやったわね」
キャシーは路地裏の様子を見て顔をしかめた。
視線の先には、上下に分かれた死体がある。
「……その子を人質に取られてな」
「なるほど?
でも、あんたならどうとでもできたでしょうに」
「見ての通り、ダークナイトをやめたんだ。
ちょうど魔剣も持ってない」
「は……?
ダークナイトをやめた?
あんたが?」
キャシーが目を丸くして俺を見る。
「たしかに甲冑も着けてないけど……」
ダークナイトの時は、黒い甲冑をつけていた。
だから、俺の素顔を知るものは限られてる。
といっても、顔を隠そうとしてたわけじゃない。
力だけを求めてた俺には知り合いが少ない。
(しかもSランクのダークナイトだからな……。
相手からも避けられる)
結果的に、俺の顔を知る者が少ないだけだ。
それに、ダークナイトのナインには風聞が多い。
いわく、ふた目と見られない醜い顔をしてる。
いわく、ナインは実は女性である。
いわく、ナインは齢百を数える妖人である。
(根も葉もない話ばかり、よく思いつくもんだ)
そうした風聞に反して、俺の容姿はごく普通。
黒髪と黒い瞳、背も高いってほどじゃない。
顔立ちにもあまり特徴はない。
(しいていえば、目つきがややキツいくらいだな)
だから、素顔でナインと名乗っても気づかれない。
同名の別人だと思われるだけだ。
(ありふれてはないが、短い名前だ。
同名でも、不審には思われない)
面倒だから、いちいち誤解も解かないしな。
キャシーには、とある事件の時に顔を見せた
俺の数少ない「顔見知り」の一人ってことだ。
「俺のことはいいだろ。
どうしてキャシーがここに?」
「通報を受けたのよ。
チンピラが女の子を路地裏に連れ込んだって」
「なるほど」
魔剣を持つチンピラに声はかけられなかった。
でも、放っておけなかったので通報した。
なかなか善良な市民がいたようだ。
「正当防衛だ」
「のようね。魔剣まで抜いたみたいだし」
キャシーは目ざとく、地に転がった魔剣を見る。
「火んとこに苦情を入れておいてくれ。
年端もいかない子を拐おうとするようじゃな」
「そうするわ。
まったく、あそこには困ったものね。
で、その子は?
知り合い?」
「訳あって保護してる」
「保護? ダークナイトが?」
「だから、ダークナイトをやめたんだ」
俺の答えに、キャシーが目を開いてのけぞった。
「そ、そりゃ、ダークナイトじゃアレだけど……。
そこまでするってどういうことよ?」
「この子の事情が、この事件に関係あるか?」
「……ないわね。
わかった。聞かないでおいてあげる」
「すまんな」
「それなら行っていいわ。
目撃者もいるから聴取までしなくていいでしょ。
大事にしてもわたしの仕事が増えるだけだしね」
言って、キャシーがウインクする。
「助かるよ。じゃ、行くぜ」
俺は、ルディアを連れて背を向ける。
そこに、キャシーが聞いてくる。
「……まさかとは思うけど……
その子……あんたの恋人?」
「はぁ? まさか。託されただけさ」
「そ、そう……。ならいいわ」
「ん? 何がいいんだ?」
「う、な、なんでもないわよ!」
キャシーの様子に首を傾げる。
(よくわからんが……。
キャシーの気が変わらないうちに行くか)
俺は、ルディアを連れて路地裏を後にした。
頭上から鋭い声が響いた。
(しくったな)
路地の方の気配には気を配っていた。
だが、上のことは忘れてた。
屋根の上を歩く通行人なんていないからな。
(ルディアに気を取られてたか。
俺もまだ未熟だな)
ひそかに苦笑いを噛み殺す。
さいわい、聞こえてきた声には覚えがあった。
「キャシー。俺だ」
俺は、路地の上――屋根を見上げてそう言った。
「その声……ナイン?」
返事とともに、声の主が屋根から飛び降りた。
三階建ての建物だ。
常人なら墜落死しかねない。
もちろん、キャシーはそんな間抜けじゃない。
握った魔剣で風を生み、勢いを殺して着地する。
現れたのは、青い制服姿の女性だった。
制服――セブンスソード市警の制服だ。
年齢は二十歳前後だろう。
栗色の短めの髪。
まなじりの上がった緑の目。
活発な印象の美人である。
左手に、短めの魔剣を握ってる。
柄からU字の長い鍔が伸び、刃は櫛状。
受けた剣を搦めて、折る。
ソードブレイカー。
そう呼ばれるタイプの剣である。
キャシーは、制帽を右手で直しながら俺を見た。
「どうしたのよ、甲冑も着けずに。
そんな格好だからわからなかったわ」
キャシーはそう言って周囲を見る。
「うわ、あんたにしては派手にやったわね」
キャシーは路地裏の様子を見て顔をしかめた。
視線の先には、上下に分かれた死体がある。
「……その子を人質に取られてな」
「なるほど?
でも、あんたならどうとでもできたでしょうに」
「見ての通り、ダークナイトをやめたんだ。
ちょうど魔剣も持ってない」
「は……?
ダークナイトをやめた?
あんたが?」
キャシーが目を丸くして俺を見る。
「たしかに甲冑も着けてないけど……」
ダークナイトの時は、黒い甲冑をつけていた。
だから、俺の素顔を知るものは限られてる。
といっても、顔を隠そうとしてたわけじゃない。
力だけを求めてた俺には知り合いが少ない。
(しかもSランクのダークナイトだからな……。
相手からも避けられる)
結果的に、俺の顔を知る者が少ないだけだ。
それに、ダークナイトのナインには風聞が多い。
いわく、ふた目と見られない醜い顔をしてる。
いわく、ナインは実は女性である。
いわく、ナインは齢百を数える妖人である。
(根も葉もない話ばかり、よく思いつくもんだ)
そうした風聞に反して、俺の容姿はごく普通。
黒髪と黒い瞳、背も高いってほどじゃない。
顔立ちにもあまり特徴はない。
(しいていえば、目つきがややキツいくらいだな)
だから、素顔でナインと名乗っても気づかれない。
同名の別人だと思われるだけだ。
(ありふれてはないが、短い名前だ。
同名でも、不審には思われない)
面倒だから、いちいち誤解も解かないしな。
キャシーには、とある事件の時に顔を見せた
俺の数少ない「顔見知り」の一人ってことだ。
「俺のことはいいだろ。
どうしてキャシーがここに?」
「通報を受けたのよ。
チンピラが女の子を路地裏に連れ込んだって」
「なるほど」
魔剣を持つチンピラに声はかけられなかった。
でも、放っておけなかったので通報した。
なかなか善良な市民がいたようだ。
「正当防衛だ」
「のようね。魔剣まで抜いたみたいだし」
キャシーは目ざとく、地に転がった魔剣を見る。
「火んとこに苦情を入れておいてくれ。
年端もいかない子を拐おうとするようじゃな」
「そうするわ。
まったく、あそこには困ったものね。
で、その子は?
知り合い?」
「訳あって保護してる」
「保護? ダークナイトが?」
「だから、ダークナイトをやめたんだ」
俺の答えに、キャシーが目を開いてのけぞった。
「そ、そりゃ、ダークナイトじゃアレだけど……。
そこまでするってどういうことよ?」
「この子の事情が、この事件に関係あるか?」
「……ないわね。
わかった。聞かないでおいてあげる」
「すまんな」
「それなら行っていいわ。
目撃者もいるから聴取までしなくていいでしょ。
大事にしてもわたしの仕事が増えるだけだしね」
言って、キャシーがウインクする。
「助かるよ。じゃ、行くぜ」
俺は、ルディアを連れて背を向ける。
そこに、キャシーが聞いてくる。
「……まさかとは思うけど……
その子……あんたの恋人?」
「はぁ? まさか。託されただけさ」
「そ、そう……。ならいいわ」
「ん? 何がいいんだ?」
「う、な、なんでもないわよ!」
キャシーの様子に首を傾げる。
(よくわからんが……。
キャシーの気が変わらないうちに行くか)
俺は、ルディアを連れて路地裏を後にした。
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