ダークナイトはやめました

天宮暁

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28 初仕事③依頼

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 俺は拝剣殿の中の様子を見て言った。

「なんだか、忙しそうだな」

 ホーリーナイトたちが慌ただしく出入りしてる。
 しかも、完全武装のホーリーナイトが多い。
 拝剣殿の空気もピリピリしていた。

「ええ、まったく……この忙しい時に」

 サリーはまだ奴隷商への怒りが治らないようだ。

(こんだけいるならお節介するまでもなかったか)

 あの剣士が暴れたとしても、鎮圧はできたろう。

(まあ、場を収めたと思っておこう)

 奴隷剣士には目をつけられたかもしれないが。

「何かあったのか?」

 と、聞きながら、キャシーの警告を思い出す。

(脱走したチンピラ――ギャリスだったか)

 市警の拘置所を襲ったとなれば大事おおごとだ。
 
 だが、サリーからは別の答えが返ってきた。

堕剣だけんです」

「……どこの剣だ?」

「アクアナイトとウィンドナイトだそうです」

「二人同時にか?
 しかも、アクアナイトとウィンドナイト?」

「珍しいことですね」

 俺とサリーが話していると、

「……あの、堕剣、とは?」

 ルディアがおずおずと聞いてくる。

「そうか、説明がまだだったな」

 俺はうなずいて、頭の中で説明をまとめる。

「堕剣ってのは、堕ちた魔剣士のことだ。
 魔剣の力に呑まれ、正気を失った魔剣士だな。
 堕ちる、堕落する、という言い方をする」

「堕剣士、ですか……」

「いや、堕剣だ。
 堕剣に『士』はつけない。
 そいつはもはや人じゃないからだ。
 魔剣は握るものであって握られるものじゃない。
 握られた時点で、そいつは人じゃなくなるんだ」

「正気を失う、というのは?」

「場合によるな。
 暴走して暴れまわることが一番多いか。
 だが、冷静なままで凶行を重ねることもある」

 俺の言葉を、サリーが補う。

「魔剣の種類によって大まかな傾向があるんです。
 たとえば、ファイアナイトやダークナイト。
 彼らが堕ちると、暴走することが多いです。
 アクアナイトやウィンドナイトは逆ですね。
 妄念に操られながらも、冷静さを失いません」

「妄念というのは?」

「誰もが自分の命を狙ってる。
 そんな風に思い込んでるみたいだな。
 身を隠し、計画的に『敵』を殺そうとする。
 この場合の敵ってのは自分以外の全ての人間だ」

「暴走されるより厄介なことも多いです」

「だな。
 だが、水や風は堕ちにくい。
 断然堕ちやすいのはダークナイトだ。
 ダークナイトだけで堕剣の半数近くを占める。
 次点がファイアナイトだな」

「ダークナイトは堕落と隣り合わせと聞きますが」

「実際その通りだ。
 強くなるほどに、その危険に近づいていく。
 困ったことに、強くなっても制御はできない。
 どころか、いっそう制御が難しくなる」

 聖竜の忠告も、根拠のないことではないのだ。
 俺は、たしかに破滅に至る道を歩んでいた。

「でも、今回は水と風が同時にだって?」

「そうです。
 おかげでどの拝剣殿も大混乱ですよ。
 身を潜める堕剣を探し出し、狩る。
 大変な労力と魔剣士の数が必要です」

「堕剣となると、半端な魔剣士じゃ危険だしな」

「それこそ、Sランクの魔剣士がいれば、ですね」

「リィンがいるなら大丈夫だろ」

 俺は肩をすくめた。

「そういうわけで、お二人の相手ができません。
 新人の訓練どころではない状況でして」

「だろうなぁ。
 しょうがない、今日は諦めて出直すか」

「いえ、待ってください。
 メリーアン代表がお二人を呼んでいます」

「……ダークナイトのナインを、か?」

「違うと思います。
 ナインは全ての魔剣を奉納したと聞いてますし。
 拝剣殿の規則で五年は闇の魔剣を握れません」

 魔剣がなければ、魔剣士はただの人だ。
 魔剣がなければ、纏も巡も使えない。

 俺はかつて、Sランクのダークナイトだった。
 だが今は、駆け出しのホーリーナイトである。

「代表がそんな勘違いもしてないだろうけどな。
 でも、それならなんだろうな?」

「詳しくは直接ということです」

「わかった。すぐ行く」

 俺とルディアは拝剣殿の奥に進む。
 代表の執務室の場所は前回で覚えた。
 ほどなくして立派な扉の前に着く。

 俺はノックして声をかける。

「ナインとルディア、出頭しました」

「開いてるわ。入ってちょうだい」

 扉を押し開け、ルディアとともに中に入る。
 左右に書棚、中央に白い執務机。
 大きな机の奥に、メリーアンがいた。
 つややかで長いダークヘア。
 神秘的な紫の瞳。
 切れ長の目はいかにもやり手という雰囲気だ。

 机に向かって、書類にサインを記している。
 机の左右には書類の束。
 さすがの美人も、やや疲れた様子を隠せない。

「忙しいから、単刀直入に言うわ」

「ええ」

「属性妖の討伐を頼みたいの」

 書類から目を上げ、メリーアンがそう言った。
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