ダークナイトはやめました

天宮暁

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30 初仕事⑤目撃

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 俺とルディアはスプライトを順調に討伐する。
 ルディアは目がいいので発見が早い。
 スプライトを倒して核を取る。
 主な農道沿いのスプライトは倒したはずだ。

「そろそろ飯にするか」

 高くに上った太陽を見て俺が言う。

「はい。お腹が空きました」

「だよな。あの辺りに登ってみようか」

 草原は、街を離れると段丘になっていた。
 俺が指したのは、見晴らしの良さそうな場所だ。

 傾斜のきつい坂があるが、俺たちなら問題ない。
 手を貸しあって高台に登る。
 高台からは、草原とセブンスソードが見渡せた。
 七角形の大きな街が、緑の草原の奥に見える。

「わあっ……」

 ルディアが目を輝かせる。
 柔らかい風が吹き抜けた。
 ルディアの金髪が風になびく。
 高台には小さな花が群生していた。
 その花弁も、ルディアの髪と一緒に風を楽しむ。
 俺は、美しい光景に思わず見惚れる。

「ナイン? どうかしましたか?」

「い、いや、なんでもないよ」

「さっきもぼうっとしてました。
 ひょっとして調子が悪いのでしょうか?」

「体調に問題はないさ。
 それより、弁当にしよう」

 俺とルディアは手頃な岩に腰掛ける。
 セブンスソードで買ってきた弁当を開く。
 樹木の葉で包まれた弁当だ。
 干し肉、チーズ、堅焼きパン、野菜の漬物。
 美味いわけではないが、バランスはいい。

「美味しいです」

「そうか?」

 保存食なので味はそんなでもないと思うが。

「美味しいです。
 人と一緒に、外で食べるのは」

「そう……だな」

 俺たちは、風を感じながら飯を食う。
 黙ってはいるが、気まずくはなかった。

「ハルディヤともよく飯を食ったのか?」

「いえ……それがあまり。
 食べるものも、食べる量も違いますから」

「ああ、そりゃそうか」

 竜は、他の魔物を食ったりもする。
 人間には食えない毒の強い植物を好んだりな。

「竜鱗の調子はどうだ?」

「問題ないみたいです。
 あれ以来むしろ調子がいいくらいです」

「魔剣のせいでバランスが崩れたかと思ったが」

「エリリのせいじゃないですよ。
 むしろ、巡を学んでから楽になった気がします」

 エリリってのは、ルディアの魔剣のことだな。
 屠竜剣エリザベータ。
 ルディアの身の丈以上もある大剣だ。
 峰には、殺意の塊のような鋸刃までついてる。
 
 これを背にして歩くルディアは、よく目立つ。
 ただでさえ目立つ美少女だってのに。
 剣とのギャップでさらに引き立って見えるのだ。

「竜鱗の魔力も人の魔力と同じものだってことか」

 竜が魔剣を落とすのだから当然か。
 俺が考え込んでいると、

「……あ、赤いスプライトが見えます」

 ルディアが南の方を指して言った。

「どれだ?」

「あそこです」

「……よく気づいたな」

 草原が途切れた辺りに赤い点があった。
 草原の向こうは赤茶けた荒野だ。
 その中の赤い点は見分けづらい。

「メリーアンが言ってたな。
 境界付近のスプライトも狩ってくれって」

 荒野側は、ファイアナイトの管轄だ。
 だが、ファイアナイトは今その数を減らしてる。
 聖竜ハルディヤとの緒戦で出た犠牲だな。

 そのせいで荒野の管理が行き届いてないらしい。

「いいんでしょうか、勝手に手を出して」

「もともと、境界線はただの目安だからな。
 ついでに狩っても文句は言われないさ。
 境界争いで魔物を放置する方が問題だからな」

「農民さんのためにも倒した方がいいですね」

「ああ。やっておこう。
 でも、気をつけろよ?
 ファイアスプライトは火を噴くからな」

 と言ってるうちに、赤い点の周囲に火が散った。

「……ん?
 誰かいるな」

 赤い点のそばの岩場に、人が何人か隠れてる。

「魔剣士……にしちゃ多いな」

 属性妖討伐なら、大抵の魔剣士はソロでやる。
 人数が多いと一人頭の報酬が減るからな。
 人数を増やしたところで狩れる数は変わらない。

「さっきの人がいます」

 手をひさしにして、ルディアが言った。

「さっきの?」

「奴隷商に連れられていた魔剣士さんです」

「あいつか!?」

 なんであいつがこんなとこに?

「その後ろに、えっと、五人いますね」

「魔剣は持ってるか?」

「そこまではちょっと……。
 でも、鎧は着てません。
 ボロボロの服を着てます」

「年齢は?」

「うーん……若い、と思います。
 子どもではないですけど。
 女性もいますね」

「奴隷商はいるか?」

「いません」

 言ってる間に、魔剣士がスプライトを倒した。
 スプライトの火を魔剣で吸収、近づいて斬る。
 かなり手慣れた動きである。
 様子を見る限りあいつもファイアナイトだな。

 魔剣士が、岩陰の集団に何かを怒鳴る。
 集団がそろそろと動き出す。

「あっ……!」

 ルディアが驚いた声を上げる。

「どうした?」

「……あの人です。あの人がいます!」

 ルディアが指差す先に、新たな人影があった。
 岩陰になって見えなかったようだ。
 俺も目が慣れてきて、少しだが様子がわかる。

「あいつは他のと様子が違うな。
 魔剣を持ってる」

 俺の言葉に、ルディアが焦ったそうに言う。

「だから、あの人があの人なんです!」

「いや、どの人だよ?
 俺の知ってるやつか?」

「先週、わたしがからまれた相手です」

「なっ……! あいつか!?」

 俺がダークナイトをやめた帰り道。
 ルディアにからんできたチンピラがいた。
 生き残りの方は、キャシーによって逮捕された。
 だが、そいつは仲間の幇助で脱獄した。

 俺は記憶の淵から名前を探す。

「ええっと、ギャリス……だったか」

 キャシーがそう言ってたはずだ。

 ギャリスは、魔剣をちらつかせて何かを叫ぶ。
 集団が、怯えた様子で足を速めた。
 その集団を、例の魔剣士が先導している。

(あいつの名前は……)

「バフマン。あの奴隷商はそう呼んでたな」

 バフマンが先頭。
 ギャリスが最後尾。
 その間に、怯えて歩く五人の男女。
 遠いため、ほとんど蟻の行列のように見えた。

「ギャリスは火の魔剣を持ってたな。
 腕のほうは素人同然だったが、それも納得だ。
 戦いのための魔剣じゃなかったんだ」

 火の魔剣は、戦い以外にも用途がある。
 すなわち、

「奴隷、か」

 俺は顔をしかめてつぶやいた。
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