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32 初仕事⑦覚悟
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――魔物。
そう一口に言うが、その内実は複雑だ。
まず、属性妖がいる。
スプライトやスライムといった魔力の塊。
これが魔物の胚珠だとされる。
属性妖は、魔力を溜め込むことで卵化する。
この卵から、雑竜の幼体が生まれてくる。
属性妖を放置できない理由がこれである。
属性妖は、放置すると雑竜の卵になるのだ。
雑竜の卵が孵化すると、雑竜の幼体が生まれる。
雑竜の幼体はさほど強くはない。
Cランク魔剣士なら数人。
Bランク魔剣士なら一人か二人でやれるだろう。
見た目も、いわゆる「竜」らしくはない。
犀や河馬を大きく凶暴にしたような感じである。
ここまでは、狩人が獲物を狩るのと大差はない。
もちろん、一般人にとっては十分に脅威だが。
その雑竜の幼体は、魔力を吸って成長する。
そして、雑竜の成体となる。
成体になると、その脅威度は跳ね上がる。
討伐には、Bランク魔剣士のチームが必要だ。
爪や牙が発達し、見た目も一歩竜に近づく。
それでもまだ、雑竜は雑竜だ。
雑竜の雑は、雑魚の雑。
魔剣士が束になってかかれば討伐できる。
Aランクに達した魔剣士ならソロでも倒せる。
本当に怖いのはここからだ。
雑竜の幼体は、まれに亜竜の成体へと進化する。
雑竜の成体へ、ではなく、亜竜の成体へ、だ。
この特異な成長を、「進化」と呼ぶ。
亜竜の成体は、雑竜より段違いに強くなる。
首が伸びて、顎が発達する。
四肢が太くなって頑丈になる。
胴には竜鱗が生え始める。
尻尾が伸び、その先に棘が生い茂る。
個体によっては、背中に翼まで生えてくる。
不完全ながら、見た目も竜にぐんと近づく。
だからこそ、亜竜と呼ぶのである。
亜竜の発生は、ほとんど災害に似ている。
対応が遅れれば、簡単に村や街が滅んでしまう。
亜竜の巨大な体躯は、それ自体が脅威である。
だが、亜竜の恐ろしさはそれだけではない。
亜竜は、熾烈な属性現象をも引き起こすのだ。
火炎流、土石流、竜巻、鉄砲水など。
生半可な魔剣士では、近づくことすら困難だ。
Aランクをかき集めてようやく討伐できる。
魔剣士に犠牲が出ることも覚悟する必要がある。
亜竜を倒せずに滅んだ国すら数知れない。
亜竜の成体は、討たれなければやがて老体となる。
老体も脅威ではあるが、行動面では不活発だ。
もはや、自分の領域を侵す者にしか牙を剥かない。
だが。
だからといって、亜竜の成体を放置はできない。
亜竜の成体も、まれに「進化」を遂げるのだ。
亜竜の成体の進化したものは真竜と呼ばれる。
すべてが成体で、老体にはならない。
全身を竜鱗に覆われ、強力な竜の吐息を吐く。
種によっては天空を力強く飛翔する。
さらには、知性の発達も目覚ましい。
人並とまではいかないが、獣の域ではありえない。
誇張抜きで、国を滅ぼすレベルの脅威である。
真竜の前には、Aランク魔剣士すら赤子に等しい。
Sランクですら、命を賭してなお勝てない。
真竜を討つには、実力以上に僥倖が必要なのだ。
ルディアの母親・聖竜ハルディヤ。
彼女も真竜のうちに含まれる。
真竜の中でも飛び抜けて強力な竜だった。
よく勝てたものだと自分でも思う。
……長くなっちまったな。
とにかく、竜も魔物の一種である。
少なくともそう見なされている。
魔剣士の敵は魔物だ。
もちろん、竜もまた、魔剣士の敵だ。
魔剣士は、竜を見つけたら討たねばならない。
放っておけば、竜は進化する。
進化した亜竜や真竜は人間に破滅をもたらす。
その芽は、小さいうちに摘むべきだ。
可能なら属性妖の段階で。
遅くとも雑竜の卵や幼体を。
確実に潰し、雑竜の成体以上を発生させない。
これが魔物対策の基本である。
「竜を……助けたい、か」
ルディアの言葉に衝撃を受けた。
ルディアからすれば当然かもしれない。
竜に育てられ、竜鱗を持つ少女。
彼女にとって竜は同類だ。
「はい。あの奴隷使いたちのことも気がかりです。
竜に、怯えを感じます」
「竜が……怯えてるって言うのか?
あいつらに?」
バフマンはともかく、ギャリスや奴隷に?
いや、バフマンだって、竜が怯えるほどではない。
「わかりません。
でも、どうしても気になるんです。
竜は、時間がないと感じています。
今日、決定的なことが起こるのではないかと」
「……つまり、戻ってる時間はないと」
ルディアがうなずく。
「竜は、とても乱れています。
なにか、とても酷い目に遭ってます。
解放されたいと……願ってます」
「ううん……」
俺は考え込む。
合理的に判断するなら。
この話はなしだ。
ルディアの首根っこ捕まえて街に帰るべきだ。
その竜の運命は、俺たちには関係のないものだ。
「わたしは、行きたいです。
自分の目で確かめます。
これは、ナインに頼んでいるわけではありません。
ホーリーナイトである以前に、わたしは竜です。
守るべき誇りがあるのです」
「……止めても無駄ってことか」
「ナインと戦ってでも行きます」
「勝てるとでも?」
「勝てなくてもです。全力を尽くします」
「…………」
俺はルディアのエメラルドの瞳をじっと見る。
強い光が宿っていた。
俺にルディアを託したハルディヤのように。
「……わかった。
だが、見るだけだ。
危険を冒すようなら、無理矢理にでも連れ帰る。
どんな手を使ってもな。
ハルディヤでもそうしたはずだ」
「そう、ですね……。
わかりました」
「そうと決まったら行くぞ。
見失うと困るからな」
俺は連中の後を追うことにした。
そう一口に言うが、その内実は複雑だ。
まず、属性妖がいる。
スプライトやスライムといった魔力の塊。
これが魔物の胚珠だとされる。
属性妖は、魔力を溜め込むことで卵化する。
この卵から、雑竜の幼体が生まれてくる。
属性妖を放置できない理由がこれである。
属性妖は、放置すると雑竜の卵になるのだ。
雑竜の卵が孵化すると、雑竜の幼体が生まれる。
雑竜の幼体はさほど強くはない。
Cランク魔剣士なら数人。
Bランク魔剣士なら一人か二人でやれるだろう。
見た目も、いわゆる「竜」らしくはない。
犀や河馬を大きく凶暴にしたような感じである。
ここまでは、狩人が獲物を狩るのと大差はない。
もちろん、一般人にとっては十分に脅威だが。
その雑竜の幼体は、魔力を吸って成長する。
そして、雑竜の成体となる。
成体になると、その脅威度は跳ね上がる。
討伐には、Bランク魔剣士のチームが必要だ。
爪や牙が発達し、見た目も一歩竜に近づく。
それでもまだ、雑竜は雑竜だ。
雑竜の雑は、雑魚の雑。
魔剣士が束になってかかれば討伐できる。
Aランクに達した魔剣士ならソロでも倒せる。
本当に怖いのはここからだ。
雑竜の幼体は、まれに亜竜の成体へと進化する。
雑竜の成体へ、ではなく、亜竜の成体へ、だ。
この特異な成長を、「進化」と呼ぶ。
亜竜の成体は、雑竜より段違いに強くなる。
首が伸びて、顎が発達する。
四肢が太くなって頑丈になる。
胴には竜鱗が生え始める。
尻尾が伸び、その先に棘が生い茂る。
個体によっては、背中に翼まで生えてくる。
不完全ながら、見た目も竜にぐんと近づく。
だからこそ、亜竜と呼ぶのである。
亜竜の発生は、ほとんど災害に似ている。
対応が遅れれば、簡単に村や街が滅んでしまう。
亜竜の巨大な体躯は、それ自体が脅威である。
だが、亜竜の恐ろしさはそれだけではない。
亜竜は、熾烈な属性現象をも引き起こすのだ。
火炎流、土石流、竜巻、鉄砲水など。
生半可な魔剣士では、近づくことすら困難だ。
Aランクをかき集めてようやく討伐できる。
魔剣士に犠牲が出ることも覚悟する必要がある。
亜竜を倒せずに滅んだ国すら数知れない。
亜竜の成体は、討たれなければやがて老体となる。
老体も脅威ではあるが、行動面では不活発だ。
もはや、自分の領域を侵す者にしか牙を剥かない。
だが。
だからといって、亜竜の成体を放置はできない。
亜竜の成体も、まれに「進化」を遂げるのだ。
亜竜の成体の進化したものは真竜と呼ばれる。
すべてが成体で、老体にはならない。
全身を竜鱗に覆われ、強力な竜の吐息を吐く。
種によっては天空を力強く飛翔する。
さらには、知性の発達も目覚ましい。
人並とまではいかないが、獣の域ではありえない。
誇張抜きで、国を滅ぼすレベルの脅威である。
真竜の前には、Aランク魔剣士すら赤子に等しい。
Sランクですら、命を賭してなお勝てない。
真竜を討つには、実力以上に僥倖が必要なのだ。
ルディアの母親・聖竜ハルディヤ。
彼女も真竜のうちに含まれる。
真竜の中でも飛び抜けて強力な竜だった。
よく勝てたものだと自分でも思う。
……長くなっちまったな。
とにかく、竜も魔物の一種である。
少なくともそう見なされている。
魔剣士の敵は魔物だ。
もちろん、竜もまた、魔剣士の敵だ。
魔剣士は、竜を見つけたら討たねばならない。
放っておけば、竜は進化する。
進化した亜竜や真竜は人間に破滅をもたらす。
その芽は、小さいうちに摘むべきだ。
可能なら属性妖の段階で。
遅くとも雑竜の卵や幼体を。
確実に潰し、雑竜の成体以上を発生させない。
これが魔物対策の基本である。
「竜を……助けたい、か」
ルディアの言葉に衝撃を受けた。
ルディアからすれば当然かもしれない。
竜に育てられ、竜鱗を持つ少女。
彼女にとって竜は同類だ。
「はい。あの奴隷使いたちのことも気がかりです。
竜に、怯えを感じます」
「竜が……怯えてるって言うのか?
あいつらに?」
バフマンはともかく、ギャリスや奴隷に?
いや、バフマンだって、竜が怯えるほどではない。
「わかりません。
でも、どうしても気になるんです。
竜は、時間がないと感じています。
今日、決定的なことが起こるのではないかと」
「……つまり、戻ってる時間はないと」
ルディアがうなずく。
「竜は、とても乱れています。
なにか、とても酷い目に遭ってます。
解放されたいと……願ってます」
「ううん……」
俺は考え込む。
合理的に判断するなら。
この話はなしだ。
ルディアの首根っこ捕まえて街に帰るべきだ。
その竜の運命は、俺たちには関係のないものだ。
「わたしは、行きたいです。
自分の目で確かめます。
これは、ナインに頼んでいるわけではありません。
ホーリーナイトである以前に、わたしは竜です。
守るべき誇りがあるのです」
「……止めても無駄ってことか」
「ナインと戦ってでも行きます」
「勝てるとでも?」
「勝てなくてもです。全力を尽くします」
「…………」
俺はルディアのエメラルドの瞳をじっと見る。
強い光が宿っていた。
俺にルディアを託したハルディヤのように。
「……わかった。
だが、見るだけだ。
危険を冒すようなら、無理矢理にでも連れ帰る。
どんな手を使ってもな。
ハルディヤでもそうしたはずだ」
「そう、ですね……。
わかりました」
「そうと決まったら行くぞ。
見失うと困るからな」
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