私を見つけた嘘つきの騎士

宇井

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53 部屋

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 遅い時間だったこともあり、私はすぐにシャワーを済ませ寝支度をした。
 お腹は空いていないけれど、満たされてもいない。足元だけがふわふわとしている。
 慌てて着替えて出って言ったのもあって、ベッドに放ったままだった制服を今になって吊るしておく。皺もなく明日も問題なく切られそうだ。

 冷える夜でも朝から一日中窓のカーテンを引かないのはルルがいつ遊びにきてもいいように。今そこに姿もないし、ルルはもう今夜は来ないのだろう。
 ここは集中空調で寮母さんが一括管理していて、私たちは部屋の壁にあるルーバーを調整して温度調整する。
 女性近衛OGからの寄付金で導入された最新設備。
 寝る前は普段より低めがいいから、ルーバーは閉じ気味にしていてある。
 その操作性の悪いツマミと格闘していると、後ろでコンコンとガラスを叩く音がした。
 ルル……?
 とは違う気がした。
 ベッドサイドの小さな灯りの中で、たったひとつの窓の外に、大きな影が揺れる。闇と同化したシルエットだけで、それが今晩、別れたばかりの人だと気付く。

 ファーガス様!?

「もしかして、ファーガス様、どうしてこんな所に、こ、こ、ここって二階」

 なのにどうして窓の外にいるの。
 どくどくする胸を押さえて、駆け寄り窓を開けると、そこには悠然と構えているファーガス様。
 空中浮遊、ではなくて、足元にはしっかりと彼の体重を支える事ができる、葉を落とした立派な木の枝があった。

「恋する僕には全ての物が味方するようだ。入っていい?」

 ここで追っ払う選択もありなのだろうかと、私は少しだけ悩んだ。けれど、返事を待たずにファーガス様はトンと軽い音だけをたて、部屋の中に入ってしまっていた。
 窓を閉める時に外を見渡してみると、寮の周りにある木はこの部屋と隣の部屋にかかるこの一本だけで、確かに都合が良すぎるくらいにいいのだった。


「そのままにしておこう」

 眠りにはいりやすいよう、ギリギリまで絞ってある照明。暗すぎるために調光しようと近寄った所でその声に足を止めた。
 自分の服装が頼りない寝間着だということに気付いて、私はそれに賛成した。驚くことに、ファーガス様は近衛の制服をきっちり着こんでいる。しかも肩章まである正式のものだ。
 店で会い送ってもらった時は私服だった、あの後、仕事でもあったのだろうか。
 夜なのに? 正装で?
 まあ、いい。
 もう少し部屋が暖かい方がいいだろうと、私は首をひねりつつルーバーの間隔を広めた。
 魔石ランプの揺らめきが、着ている寝間着に波紋を映し出している。影にいるファーガスの顔は見えない。
 私の髪は乾ききっておらず、いつもより髪のウェーブがきつい。
 寝間着は母が送ってくれたもので、冬だというのに半袖、ピンク色の布をたっぷり使っている、もこもこした生地のワンピースはくるぶしまである丈だ。
 彼と会う時はいつも制服のズボン姿だけに、こんな私的な場面だけ乙女な姿というのはかなり恥ずかしい。
 私に限らず女性近衛は私服では思いっきり乙女スタイルを好む人は多い。
 普段のストイックさからの反動となるのだから、それは巨大リボンや贅沢なレースなどとぶっとんでしまうのだ。私の場合は母の選択であって選ぶ余地はないのだけれど。
 ファーガスはベッドに腰を下ろし、隣にくるようにと楽しそうにベッドをぽんぽん叩いた。
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