その女剣士は世界を救い、英雄となる。

千石

文字の大きさ
73 / 83

第73話

しおりを挟む
(横だ!)

『審査するもの』の言葉に反応して横を向く。

眼前にあたしの頭ほどある黒い物体が迫っていた。

やばい!なんとか剣を怪物の拳とあたしの間に入れる。

しかし態勢が悪く、なすすべもなく吹き飛ばされた。

「がはっ!」

以前の『審査するもの』のように壁に叩きつけられた。

(大丈夫か!?)

(だ・・・大丈夫よ。攻撃を食らう瞬間になんとか自分で後ろに飛んだから見た目よりはダメージは少ないわ)

怪物は止めを刺しにゆっくりとあたしのほうに向けて歩いて来る。

(早く立ち上がれ、やつが来るぞ!)

(・・・だめだわ。ちょっと間抜けなぶつかり方しちゃったみたいでしばらく身体が動きそうにないの)

(なんだと!?なんとかならんか?)

無茶なことをいうわね・・・。そうこうしている間にもどんどん怪物が迫ってくる。

ゆっくり、ゆっくりと。

まるであたしのあわてぶりを楽しむかのように。

いい趣味してないわね、こいつ。

身体が動くのにはあと、20秒ってところか。

何とかそのくらいの時間を掛けてここまで来てほしいとこだけど、残念ながらその半分の時間であたしはこの世にはいないわね。

(お手上げよ。何ともならないわ)

自嘲するあたし。

(・・・でも、諦めるつもりはないわ!)

そう言ったときにはずいぶんと時間をかけていた怪物が目の前に来ていた。

両手を組んで両腕を大きく振りかぶる。

目だけは動くので怪物をにらみつける。

絶対に目を逸らせてやるものか!怪物が腕を振り下ろした。

あたしには腕が迫るのをスローモーションに見えていた。

あたる瞬間、横から黒い影が飛び込んできた。

バサァー

すごい衝撃の代わりに風があたしの髪を揺らした。

「大丈夫か?お嬢さん」

何の気負いも焦りもなく尋ねてきたのは、あたしの予想した人物とはかけ離れていた。

「バガルト・・・スターリン・・・」

「どうやら何とか動けそうだな」

相変わらず相手を見据えたまま、振り向きもせずに行ってくる。

「・・・ええ、なんとかね」

声が出せたということは、身体も動かせるだろう。

「ちょっと待ってな」

ドガァァァン

バガルトがそう言った途端、怪物が横に吹き飛ばされた。

「・・・ずいぶん早かったな、小僧」

「そうかな?これでも時間食っちゃったんだけど」

そう無邪気に答えたのはまさにあたしが予想していた人物・・・レベン・アインターブその人であった。

何故か手にはやけに分厚い鋼鉄製の盾をもっている。

「レベン、何であなたがこの人と?」

多少ぎこちなさを感じつつ何とか立ち上がりレベンに問い掛ける。

レベンはあたしの方に向き、

「怪物を何とかしようと来たときに、ばったり会ったんだよ」

「なるほど・・・ね。それでリリヤや他の選手たちは?」

レベンが手にもっていた盾をよく見ると、無数のへこみがあった。

・・・さっきはこれで殴ったんだ。

素手だと痛いからって無茶なことを・・・。

「んとね、リリヤは国都の人たちに被害が及ばないようにこの事を伝えて、避難させるっていってた。他の選手はここにいないってことはあいつにびびって逃げちゃったんじゃない?」

面白そうにレベンがいってくる。

・・・何でそこで楽しそうな顔をするんだ・・・この子は。

まあ、たぶん他の選手もきっとリリヤと同じようなことをしているのだろう。

逃げた人もいるだろうけど・・・。

「そうなの・・・つまり、あたしたちでこいつを何とかしないといけないってわけね」

未だ倒れたままの怪物を見て、不敵に言った。

「んでさ、具体的にどうする?まだ倒れてはいるけど手応えなかったから・・・」

レベンがあたしとバガルトに尋ねる。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ

シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。  だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。 かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。 だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。 「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。 国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。 そして、勇者は 死んだ。 ──はずだった。 十年後。 王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。 しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。 「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」 これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。 彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。

後日譚追加【完結】冤罪で追放された俺、真実の魔法で無実を証明したら手のひら返しの嵐!! でももう遅い、王都ごと見捨てて自由に生きます

なみゆき
ファンタジー
魔王を討ったはずの俺は、冤罪で追放された。 功績は奪われ、婚約は破棄され、裏切り者の烙印を押された。 信じてくれる者は、誰一人いない——そう思っていた。 だが、辺境で出会った古代魔導と、ただ一人俺を信じてくれた彼女が、すべてを変えた。 婚礼と処刑が重なるその日、真実をつきつけ、俺は、王都に“ざまぁ”を叩きつける。 ……でも、もう復讐には興味がない。 俺が欲しかったのは、名誉でも地位でもなく、信じてくれる人だった。 これは、ざまぁの果てに静かな勝利を選んだ、元英雄の物語。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

ハズレスキル【地図化(マッピング)】で追放された俺、実は未踏破ダンジョンの隠し通路やギミックを全て見通せる世界で唯一の『攻略神』でした

夏見ナイ
ファンタジー
勇者パーティの荷物持ちだったユキナガは、戦闘に役立たない【地図化】スキルを理由に「無能」と罵られ、追放された。 しかし、孤独の中で己のスキルと向き合った彼は、その真価に覚醒する。彼の脳内に広がるのは、モンスター、トラップ、隠し通路に至るまで、ダンジョンの全てを完璧に映し出す三次元マップだった。これは最強の『攻略神』の眼だ――。 彼はその圧倒的な情報力を武器に、同じく不遇なスキルを持つ仲間たちの才能を見出し、不可能と言われたダンジョンを次々と制覇していく。知略と分析で全てを先読みし、完璧な指示で仲間を導く『指揮官』の成り上がり譚。 一方、彼を失った勇者パーティは迷走を始める……。爽快なダンジョン攻略とカタルシス溢れる英雄譚が、今、始まる!

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

処理中です...