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第8話 処罰

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「ふぅ・・・」

薄暗い牢屋の中、ルークは深いため息をつく。

ザラスを殴った後、逃げることもできたがそうはしなかった。

自分の仁義を通しただけなので、逃げたらやましいことがあったと思われるのは嫌だった。

あとは、何にも無くなってしまった自分には逃げる気力もなかった。

なので、アジスとともにやってきた兵士たちに大人しく捕まった。

今は、あれから一日が過ぎていた。

「ザラスはあれでも副大隊長だからな、それを殴った俺は良くて終身刑。悪くて銃殺刑だろうな」

これから自分の身に起こるであろう事態を想像してもなんとも思わない。

ルークはただただ、じっと裁定が下るのを待っていた。

その後、どのくらい経過したか分からないが、牢屋に近づいてくる気配がした。

2人組の兵士だ。ルークの牢屋の前に立ち止まると鍵を開ける。

「ルーク様。ついて来てください」

そう声を掛けてくる。

フッと笑うと、ルークは素直に従いながら、指摘する。

「今やもう俺は犯罪者だぞ、様付けはやめた方が良い」

2人組の兵士はお互いを見てから頷くと、

「「いえ、ルーク様が理由もなくあのようなことをするとは思えません。兵士一同そう認識しております。ですので、誰が何と言おうと我々のルーク様に対する態度は変わることはございません」」

練習でもしたのか、2人が同じ言葉を同時に言ってきた。

ルークは一瞬唖然としてから、

「そうか・・・好きにしろ」

感激の余り、ぶっきらぼうにそういうしかなかった。

兵士二人もルークが照れ隠しをしていることが分かったのか、少しだけ苦笑して、

「「はい。勝手にします」」

そう答えるのだった。

(まさかここまで兵士に好かれていたとは思ってもみなかった。そういえば入口の兵士たちも似たような反応をしてくれていたな。・・・少なくともここで戦ってきた20年間は全く無駄だったというわけでは無かったかもしれない)

ルークは少しだけ報われた気分になった。




2人の兵士に連れられて、ある部屋についた。

ルークの予想通り、そこは軍法裁判所であった。

中に案内されると、大勢の兵士がいた。

200以上ある傍聴席が満席である。

(なんだこれは、ありえないだろう)

ルークも同僚が裁かれてしまうときがあり、傍聴したことはあったがせいぜい十数人いたくらいであった。

異常である。

傍聴席の兵士はルークの方を注目し移動を見守っている。

皆がみんな不安そうな顔をしている。

(・・・アジス)

ルークはその中で、アジスの姿を見つけた。

傍聴席の最前列でルークを見守っている。

「こちらのお座りください」

2人組の兵士に促され、座るルーク。

しばらくすると、

「全員、起立!」

号令があり、一斉に立ち上がる。


コツ  コツ  コツ


堂々と一人の女性が歩いてきた。

彼女こそ、この強国対策支部の支部長兼大隊長エルザ―ド・カイザスその人である。

赤い長髪を一本に結わえた美人である。既に40歳を超えているはずだが、20代にも見える。

そんな外見的特徴など関係なくあるのが存在感だ。

覇気ともいうべきオーラを纏っており、誰もが彼女の前だと萎縮してしまう。

エルザードが中央の俺の前に辿り着いたときに再び号令が出る。

「全員、着席!」

皆が一斉に座った。

それを見計らってエルザ―ドが号令官に合図する。

「被告人ルークさ・・・ルーク。前へ」

ルークは、指示に従いエルザ―ドの前まで歩いていく。

「久しいな、ルーク」

ルークが立ち止まったことを見計らってエルザ―ドが普通に話しかけてきた。

この支部では彼女が法律だ。誰も文句は言わない。

「ええ」

いくら元副隊長だとしても大隊長に会う機会はほとんどない。

ルークがエルザ―ドに最後に会ったのは数年も前の話である。

「さて、早速だがお前の処断を始める」

エルザ―ドの言葉に黙って頷くルーク。

「第7部隊元副隊長ルークよ。強国対策支部副大隊長ザラスを暴行したとのことは誠か?」

「はい」

「何か申し開きはあるか?」

「ありません」

「このままだと銃殺刑だぞ。それでも何もないか?」

「ありません」

「・・・そうか。後悔はしているか?」

「しておりません」

「・・・わかった」

簡潔なやり取りを終え、エルザ―ドが処罰を告知する。

「第7部隊元副隊長ルークを『銃殺刑』にする」

「「「待ってください!!!」」」

エルザ―ドが絶対者がそういった瞬間、傍聴席の兵士全員が一斉に立上り異議を唱える。

「納得いきません。事情ならお話ししたじゃないですか!!」

アジスが大声を上げる。

(そうか・・・アジスは話していたのか)

「クックックッ、ハーハッハ!!」

大騒動になった軍法裁判所でエルザ―ドが大爆笑した。

「「「・・・」」」

異様な雰囲気に誰もが沈黙する。

「ルークよ。よくもまあこんなのも好かれたものだな。まぁそれも当然と言えば当然だが」

戦場でのルークは敵にとっては悪鬼羅刹であったが、味方にとっては全く正反対であった。

ルークによって命を救われたものは数多い。

そればかりか、そのことを恩に着せたり、自慢したりすることもなかった。

その上さらに部下の面倒見がよく、その所為で自分の仕事を後回しにして夜遅くまで残業していることが多々あった。

そんなルークを皆が慕うのは当然のことであった。

「・・・ありがたい限りです」

「ふ、そうだな。私もあやかりたいものだ。さて、皆の者。私の言葉はまだ途中だ。黙って座っていろ」

エルザ―ドの言葉に渋々ながら従う兵士たち。

「第7部隊元副隊長ルークを『銃殺刑』にする・・・と言いたいところだが、まず、副大隊長は銃殺刑を望まなかった。さらに皆が知っているようにルークの功績は数多い。そして何よりもルークが死んだとなれば、ジークムント王国がまた攻めてくるだろう。従って、第7部隊元副隊長ルークをの罪を『不問』とする!!ただし、全ての功績は抹消、さらに年金も白紙とする」

わぁぁぁぁぁぁ!!

エルザ―ドの裁定に地割れのような歓声が起こったのだった。
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