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第35話 鉄の町

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「おっちゃん、ついたよ!」

少年に起こされ目を覚ますルーク。

太陽の位置からしてそれほど時間は経っていないようだ。

「ここはなんて町なんだ?」

町の中を馬車の上から眺めながらルークが尋ねる。

「ここは『鉄の町』フェスさ」

「ほぉ、ここが『鉄の町』か」

少年の答えにルークは聞いたことがあった町なので、興味深そうに返事をする。

「お、おっちゃん。この町のことを知ってるなんてやるなぁ!おいら気に入っちゃったよ」

「昔の職業柄、鉄には関わることがあったからな。業界では有名だった」

かくいうルークの剣である『鬼剣』もここの鉄と鍛冶師によって拵えられたらしい。

(まだ生きてるなら制作者に会ってみたいものだ)

「ふーん。そうなんだ。もしかしておっちゃん、鍛冶師か?採掘者の方が近い気もするけど」

「ははは、外れだ。俺は使う方だ」

少年が合点がいったとばかりに頷く。

「なるほど、それであんなに力があったんだな。あんなことができるなんてさてはおっちゃんすごいやつなんじゃないの?」

「そうかもな。ところでどこで降ろしてくれるんだ?」

ルークが話題を逸らす。

「せっかくだからおいらおすすめの宿屋でと思ってるけどまずかった?」

「いいや、そんなことはない。助かるよ」

「なら良かった。あ、見えてきた!おーい、エミリー!!」

少年が宿屋の前で掃除をしている少女に声をかける。

少女も少年に気づき、

「あ、マークお帰りなさい!あれ?もしかしてまたお客様を連れてきてくれたの?」

「ただいま!もちろんその通りさ!!」

少年・・・マークが、調子良くそう答えたあと、くるりと御者台から振り返り、

「おっちゃん。そういうことなんで、よろしくな!」

拝んできた。

ルークは肩をすくめ、

「ああ、オススメなんだろ?」

ルークの問いにすかさず頷くマーク。

「なら、問題ない」

(幼馴染か。昔を思い出すな)

淡白そうに返事をしながらもマークとエミリーの間柄をみて少し羨ましいルークであった。

「ここまで送ってくれてありがとう」

ルークは馬車から降り、マークに礼を言う。

「いやいや、おいらの方こそ助かった!ありがとうございます。本当にお礼はいいのかい?」

マークもルークに礼を言い、送るだけで他に何もいらないかを再度確認する。

「ああ、送ってくれただけで充分だ」

ルークは妙に律儀なマークに悪い気はしなかったのでもう一度送るだけでいいと言ってやる。

「そうか、縁があったらまた会おうぜ!エミリー!このおっちゃんはおいらの恩人だから特別待遇で頼む!」

「はぁい!わかったよ!!」

マークはそういうと馬車を反転させて去っていった。

「いらっしゃいませ!宿屋『クロガネ』の看板娘のエミリーです。どうぞこちらへ」

エミリーが名前を名乗り、宿屋の中にルークを案内する。

(自分で看板娘と名乗る娘は初めてだ)

ルークはちょっとした衝撃を受けながらも黙ってエミリーについていった。
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