他人の寿命が視える俺は理を捻じ曲げる。学園一の美令嬢を助けたら凄く優遇されることに

千石

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第37話

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コンコンコン

「旦那様。お呼びでしょうか?」

アリシアが応接室から飛び出した後、すぐにバルム家の頼れる老執事がやってきた。

いつもながらの素早い動きにバルム家当主ゾルムは一つ頷き、

「ああ。ムスターよ頼みがある。実は昨日、グレイ君が拉致された。それで『探索』の魔法を使うために必要な大きめの地図を直ぐに食堂に用意してくれ!」

言葉短めに状況説明と指示を行う。

ムスターはゾルムの言葉を聞き、

「!?なんと、ズー様が・・・。畏まりました直ぐに用意致します」

驚いたのは一瞬のことで直ぐにゾルムの指示に従って行動に移す。

「では、後ほど」

ムスターはそう言うと応接室を出て行った。

「・・・相変わらずムスター殿は優秀ですな」

騎士隊長のマリー・キリッジはムスターの理解力と行動力を見て感嘆の声を上げる。

「ふふ、そうだろう」

ゾルムは、ニヤリと笑ってから、

「さぁ、食堂に向かおう」

と応接室を先に出る。

「はい。畏まりました」

マリーは返事をした後にゾルムの後に続きしばらくの間二人で肩を並べて歩く。

「・・・なぁ、キリッジ騎士隊長」

ゾルムが話しづらそうに呟く。

「はい?どうされましたか?」

マリーは今のこの状況でゾルムがどうしてこのように話しかけるのか分からず尋ねる。

「・・・何故、アリシアはグレイ君の唾液や汗がしみ込んだハンカチを持っていたのだろうか?」

ゾルムはあの場では聞くに聞けなかった疑問を呟く。

「・・・恐らくそのハンカチはグレイ・ズー四年生が先日の一件で大けがをしたときにバルムお嬢様が『回復促進の癒し』の魔法で回復させたときに痛みに耐えるために食いしばれるように貸した物でしょう」

マリーがもっともな推測を立てる。

「なるほど。そんなことが・・・」

ゾルムはそこまで細かい話は知らなかったのでハンカチにどうしてグレイの唾液や汗がしみ込んだという理由について納得する・・・が、

「だが・・・あの日からずいぶん経っているのに洗ってないのは何故なんだ?」

どうしても気になって呟いてしまった。

「・・・恐らくバルムお嬢様はグレイ・ズー4年生との劇的な出会いを思い出すために大切にとっておいたのでしょう。バルム様、乙女心というものですよ」

とマリーが自分の予想を話す。

(バルムお嬢様に取ってグレイ・ズー4年生はまさに『英雄』だったろう。私にはそのような経験はないが、もし似たような経験をしていたら私も同じようにしたに違いない)

マリーは恐らくと言ってから話したとはいえ、自分の予想がほぼ間違っていないことを確信していた。

「・・・む、そういうものなのか?」

ゾルムは理解しようとするがよく分からない様子だ。

「はい。そういうものなのです。理由はどうであれ、これで『探索』の魔法が使えます。それでいいではありませんか」

「・・・そうだな」

「バルム様・・・今の話を絶対にバルムお嬢様にしないでくださいね?下手をすると口を聞いてくれなくなるかもしれません」

マリーがこれだけは言っておかないとと思ったことをゾルムに伝える。

「う・・・分かった。肝に銘じよう」

ゾルムはマリーの言葉を心に刻んだのであった。





コンコンコン

「お父様?キリッジ様?」

ゾルムとマリーが食堂に着くと既にムスターが大きめの地図を広げて準備していた。

その後、数分してから食堂のドアをノックしアリシアが入ってくる。

「ああ。アリシア、こっちだ」

ゾルムがアリシアを『探索』の魔法をする場所に呼ぶ。

「バルムお嬢様、そちらが例のハンカチですか?」

マリーがアリシアが両手で大事に持っているハンカチを見ながら尋ねる。

「はい。こちらです」

アリシアがハンカチをマリーに渡す。

マリーは汚してしまわない様に白い布でハンカチを受け取り広げてある大きな地図の隣に置くと懐から小さな赤い石を取り出しハンカチの上に置いた。

「では、早速『探索』の魔法を使いますね」

「よろしく頼む」

「よろしくお願い致します」

ゾルムやアリシアがマリーの言葉に反応し、ムスターは黙って頭を下げる。

それらを見たマリーは一つ頷くと、地図とハンカチ、赤い石に向かって両手の平をかざし、呪文を詠唱していく。

長い呪文だ。

やがて、赤い石が微かに光を放ち始める。

まるでハンカチからグレイの情報を読み取り光ったようだ。

そして、赤い石が浮き上がり、地図の上に移動していく。

(あの赤い石が示す場所にグレイさんがいるのですわね)

アリシアがマリーの行動をじっと見守る。

緊急時でなければあれこれ質問をしていただろうが、今回は全くそんな余裕が無いためただただ成り行きを見守る。

赤い石はまず魔法学園を指す。

そして、地図に対して光の線を描きながら進み始める。

魔法学園から外へ、そして街道を進み森の深い場所へ。

ここまで来て赤い石は意外な動きを見せる。

急に消えたのだ。

そして、地図上の位置をはるかに移動した場所を示した。

その後、しばらくしても動かないことを確認し、マリーは呪文を止める。

「・・・まさか、こんなことが」

赤い石が示した場所は、

「・・・なんて事だ。よりにもよって『とこしえの迷宮』にグレイ君がいるとは」

マリーとゾルムが愕然と呟く。

「・・・お父様、『とこしえの迷宮』ってもしかして」

アリシアが衝撃を受けたように呟く。

「ああ。別名、『帰らずの迷宮』。一度入ったら出て来た者はいないという遥か昔から存在する迷宮だ。・・・残念だが、グレイ君は・・・」

ゾルムが悔しそうにアリシアの質問に答える。

「・・・そんな」

今までなんとか気力を保っていたアリシアは、あまりの結果にその場に膝をつき項垂れてしまう。

「アリシアお嬢様!!」

慌ててムスターが駆け寄りアリシアを支える。

(そんな、グレイさんが・・・。まだ少ししかお話も出来ていませんのに。せっかくこれから楽しい日々が始まるところでしたのに・・・あんまりですわ・・・もうグレイさんに会えないのですわね・・・)

アリシアは悲しみのあまり、静かに涙を流した。

「キリッジ騎士隊長。君はどう見る?」

ゾルムは悲しんでいるアリシアを辛そうに一瞥した後、マリーに尋ねる。

親としてはアリシアに駆け寄って慰めてあげたかったが、今は状況の確認をしておく必要があると考えたからだ。

「・・・はい。ご覧いただけたようにこの石が通った道がグレイ・ズー4年生の昨日辿った道すじです。まずは、魔法学園で拘束され、馬車に積み込まれて移動。そして森に用意していた『転送』の魔法陣で『とこしえの迷宮』に強制移動させられたかと思われます」

「『転送』の魔法陣は消された後だろうな・・・」

「はい。ここまでのことをする実行犯です。その辺りは抜かりはないでしょう。もちろん万が一に掛けて現地に行って見ますがあまり期待をしない方が良いでしょうね・・・」

マリーが残念そうに呟いてから、

「・・・そうか。こうなっては仕方がない。キリッジ騎士隊長は実行犯の捕縛と共に指示を出したはずのナガリアへの糸口を見つけてくれ」

「はい。畏まりました。実行犯に関しては、帰還した者がいないとされる『とこしえの迷宮』に『転送』の魔法陣を設置できたこと。そもそも『転送』の魔法陣を設置することができるということから余程の者でしょう。もしかしたら、ナガリアの方を責めた方が楽かも知れません」

「やり方は任せる。また進捗を教えてくれると助かる」

「畏まりました。では、失礼致します」

マリーはゾルムとそしてただただ涙を流しているアリシアを辛そうに見た後、食堂から出ていく。

すぐさま捜査を開始するのだろう。

「・・・」

マリーが出て行くのを見届けた後、ゾルムはハンカチを手に取り、アリシアの方に近づく。

「・・・アリシア。これは大切なものだろう?大事に取っておきなさい」

「・・・お父様。うぅぅぅ。グレイさん。グレイさんがっ!!」

アリシアはハンカチを受け取ると、精神的に限界が来たのかゾルムに抱き着き大きな声で泣く。

ゾルムはアリシアを抱きしめ返しながら拳にした手を強く握る。

(私は何て愚かなんだ。グレイ君がナガリアの復讐の対象になることくらい予想してしかるべきであったのに・・・ナガリアめ、今度という今度は絶対に許さんぞ)

ゾルムはナガリア家を徹底的に潰すことを決心した。

強く握りしめた手からは血が流れていた。
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