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第48話
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「・・・」
ゾルムはアリシアの問いに腕を組んで考える。
これは何度も考えてきたが答えが出なかった問であった。
「・・・正直、結論が出ない。アリシアを狙った場合には魔法学園ごと狙うことになる。戦力的にも犠牲者が多くなることからしても常識的に考えたらそこまでの暴挙はしないはずだ。しかし、今の奴には後が無い。そういうことを行ってもおかしくはない」
ゾルムが苦い顔をしながら言う。
「・・・お父様の仰る通りですわね。でしたら、最長で18日間私もこちらにおりますわ」
「・・・すまんな」
「では、一度魔法学園に戻って許可を取ってきた方がよろしいでしょうか?」
アリシアがゾルムに確認を取る。
「いいや。それには及ばない。既に学園長には伝えてある」
ゾルムが微笑みながら言う。
「えっ!?・・・お父様、私《わたくし》をお試しになられたのですか?」
アリシアがゾルムを疑いの眼でじっと見る。
「・・・アリシアが魔法学園に戻ると言った場合には説得が必要だろう?だから、先にアリシアの考えを聞いただけで他に意味はないよ」
ゾルムが焦らず、アリシアの疑問に答える。
アリシアは一つため息をついてから、
「はぁ、まあ良いですわ。ナガリアは私《わたくし》が学生寮に入ったことを知らないはずなので本日戻るのも危険でしたでしょうから助かりましたわ」
「そうだね。アリシアがここに来る道中に狙われる危険性もあったが無事に来られて本当に良かったよ」
ゾルムが先ほどまで隠していたのだろう。ほっとした表情で答える。
アリシアは肩を竦め、
「本当ですわね。かといって何も事情を知らずに魔法学園にいるのは嫌ですし、事情の連絡を貰ってもその時はこちらに戻るのリスクが高くなって動けなくなるでしょうから良かったですわ。私《わたくし》以外の人も巻き込むことにも耐えられませんですしお呼びくださって助かりましたわ」
「そう言ってくれてよかったよ」
ゾルムはアリシアの同意が得られてほっとした。
ナガリアの所為で家族がバラバラになるのは嫌だったので今のところ良い方向に向かっているとゾルムは考える。
守るべき箇所が2か所に分かれているのも攻撃を受ける側としても守りづらい。
そういった意味でも順調であった。
「あとは、戦力でしょうか?」
アリシアが呟く。
恐らく、こちら側の戦力だけでなく、ナガリア側のも含めて両方のことを言いたいのだろう。
「・・・正直、ナガリアの手の者がどれだけいるのか把握しきれない。しかも奴の隠居のことは秘密裏で進んでいるため公表されていない。そのため、知っているものも殆どいないだろう。ということは、今のところナガリアの手の者は減ることなくそのまま招集することができるということだ。さらに言えば、今のところまだ使える金を使って傭兵を大量に雇う可能性もある。数千人単位でこちらに向かって来る可能性は大いにある」
「!?それほど、なのですか・・・」
アリシアは今の年齢にしては頭がかなり切れる方ではあったが、争いごとに関しての知識は殆どない。
せいぜい、数百人程度と思っていたのだ。
ゾルムは、ゆっくりと立ち上がり、窓際まで歩いて行く。
「ああ・・・だが、安心すると言い。私も出来る限りの戦力を揃えた。こっちへ来てご覧」
「?」
アリシアが疑問符を浮かべ、ゾルムの方に向かって歩く。
(どういうことかしら?そちらには中庭しか無いはずですのに)
ゾルムはアリシアが近くに来たことを見計らい、
「驚き過ぎて倒れないでくれよ!」
ゾルムはこう前置きをすると、一気にカーテンを開ける。
「なっ!!これは」
アリシアが驚きの声を上げる。
中庭には埋め尽くさんばかりの戦闘員が待機していたのだった。
「いつの間にこのような人員をお集めになられたのですか?」
アリシアは中庭にひしめく戦闘員を見てゾルムに尋ねる。
「ここでグレイ君の拉致についての話を聞いてからだ」
「・・・凄すぎますわ、お父様」
ゾルムの言葉に驚嘆するアリシア。
ゾルムにはあの時点でここまでの構想があったということだ。
少しずつ集めたのだろう。
そして、家族に不安を与えないよう、集めていることも知られないように気を使ったに違いない。
「おおよそ二千人集めた」
「二千人ですの!?」
数を聞いてアリシアは驚く。
中庭に入り切らない者達は他のところにいるのだろう。
(お父様の力をしっかりと理解しておりませんでしたわ。十日足らずでこれほどの人数をお集めになるなんて)
アリシアはゾルムの凄さに改めて驚いたのだった。
「バルム家の様子はどうだ?」
ナガリアが執事に向かって問いかける。
「周りに気づかないように上手く誤魔化しているようですが戦闘員を集めているようです。旦那様が向かってくることを想定しているようですね」
「ははは!やはりな、そうこなくては」
ナガリアは意外にも機嫌良さそうに笑う。
「三大貴族なぞと持て囃されていい気になっているバルム家に本当の貴族が誰であるかを思い知らせた上で要求を呑んでもらわねば気が済まんからな」
ナガリアは酒をグラスに注ぎ、一口に飲み干す。
「ふぅ。高揚しておるのか格別じゃな。それで、バルム家の長女を拐ってくることは可能そうか?」
他の人が聞けば卑怯というのは明らかだが、ナガリアは気にもせず執事に問う。
「・・・残念ながら、私が探りを入れた時には既にバルム家の屋敷に入っておりました」
執事が申し訳無さそうに答える。
「・・・ふむ。まぁ、良い。今回の件はバルム家の方が早く動けたものな。流石にその辺りの対策はしていて当然か」
ナガリアは執事の報告に気にもせず納得する。
執事はそのようなナガリアの様子を見て、
(・・・昔の旦那様に戻られたようだ)
と過去の勇姿を思い出す。
ナガリアは今でこそ恰幅が良い老人手前の中高年で金と権力に魅せられた融通のきかないどうしようもない男ではあるが、昔は戦の指揮者として勇名を馳せた代表的な貴族の一人であった。
貰った勲章も一つや二つではない。
戦場を退いてからは私腹を肥やすことに夢中になり、成り上がるため犯罪ギリギリのことをしてきたためここ十数年ずっと以前の面影は全く無かった。
しかし、後がない状況の今は全ての力をバルム家との全面対決に向けているため、少しずつ昔のナガリアが出てきているようだった。
執事が昔のことを思い出していると、無言になっていたナガリアが話を再開する。
「バルム家の手勢はどのくらいの規模だと思う?」
「・・・分かりませぬ。が、百や二百ではきかないでしょう」
執事が正直に答える。
「ふむ。なら少なくとも千人はいると見たほうがよいじゃろうな」
「!?・・・流石にそこまでいるとは思えませぬが」
執事が驚きの声を上げる。
「・・・いや、相手はバルム家史上最も優れていると言われたゾルム・エト・バルムだぞ。千人集めたというのも少ないくらいじゃろう」
ナガリアは確信してそう言う。
ナガリアとゾルムは全盛期の時期が異なるため同じ時代で比較されることは無かったが年長者であるナガリアは三大貴族というもはやお飾りのような連中(やっかみもあったが少なくともナガリアはそう思っていた)の中にあってゾルムのことだけは高く評価していた。
最も表向きはそんな様子を一切見せ無い用にしていたが相手が気心のしれた執事であり、直接対決となると話は別であった。
「旦那様が、おっしゃるのでしたら是非もありません。これからどう動きましょうか?」
執事がナガリアに尋ねる。
ナガリアは執事の問いかけにすぐには答えず、グラスに酒を注ぎ直す。
今度は一気に飲み干したりせず、少し口をつけ酒をゆっくりと味わう。
「・・・そうだな。では、こうしよう」
ナガリアがニヤリと笑うと作戦を話し始めた。
執事はナガリアの作戦に驚き、自分の主人ながら恐ろしい方だと改めて理解するのであった。
ゾルムとの会話を終えたアリシアは自室に戻ると着替えもせず制服のままベッドの上に腰掛けた。
「ふぅ」
アリシアの整った口元から自然と深いため息が出る。
あれからずっと自分を追い込んでほとんど休んでいなかったのだから無理もない。
まだ決着はついていないがゾルムの言葉を聞いてようやくひと息つける気分になったのだ。
「・・・これでナガリア相手の一連の決着がつきますわね」
ぽすん
アリシアがベットに倒れ込み、ぼーっと天井を眺める。
「・・・グレイさん」
我武者羅になることで考えるのを先送りしてきたが、精神的に少し落ち着いたアリシアはグレイのことを改めて考える。
一度口に出すと後はもう溢れるようにグレイのことが頭を過ぎってきた。
急に手紙をもらった時のこと、
初めて会話をした時のこと、
命を救ってもらった時のこと、
再会した時のこと、
ドキドキしながら家に呼びだした時のこと、
グレイの自分に対する気持ちを聞いた時のこと、
付き人になって行動した数日のこと、
思っても見なかったが最後の会話になってしまった別れの時のこと、
グレイという男はまだ出会ってから大した日数を過ごしたわけではないというのにこんなにも自分の中に入り込んでいる。
アリシアはグレイのことを想い、自然と涙が溢れるのを感じていた。
「・・・ご無事ですわよね?」
アリシアは思わず呟いてしまった。
「う、ううう」
一度呟いたが最後。
不安はどんどん大きくなり、アリシアはグレイのことを想い、涙を流し続ける。
アリシアも分かっているのだ。
かの迷宮に送られたグレイが無事なわけがないと言うことを。
今までのとてつもない年数の間、踏破した記録が無いのだ。
一介の魔法学園の生徒が放り込まれたならただで済むわけがないのだ。
「・・・グレイさんが死んでしまったなんて信じたくありませんわ・・・出来るのならもう一度でもお会いしたい・・・」
アリシアは無茶な願い事を呟いたまま最近の疲れがピークとなり、そのまま眠ってしまったのであった。
グレイのことを考え続けて嘆き泣き続けるよりは良かったのかもしれない。
「う、うーん」
アリシアが目を覚ましたのは夜中であった。
ベッドに腰掛けた状態から横になって眠ってしまったはずだがしっかりと布団の中に入って眠っている。
「どなたかが風邪を引かないように寝かせてくださったのですわね」
状況を理解したアリシアは明日にでも礼を言おうと思いながらベッドから出る。
喉が乾いたからだ。
アリシアは水差しから水をコップに注ぐと喉を潤す。
そして窓に向かって歩いていく。
「綺麗なお月さまですわ」
こんなにも自分の周りで色々な事が起きているというのに夜空に浮かぶ月はそんなことは知らぬと鮮やかに輝いていた。
アリシアが少し恨めしそうに月を眺めていると黒い点が見えてきた。
「あら、何かしら?」
気になって見ていると段々とその黒い点が大きくなってくる。
「!?まさか!」
尋常ならざる事が起きている。
アリシアはそれを理解すると急いで部屋から飛び出した。
その瞬間であった
ドッゴーーーン
アリシアのいた部屋が吹き飛ばされたのは。
ゾルムはアリシアの問いに腕を組んで考える。
これは何度も考えてきたが答えが出なかった問であった。
「・・・正直、結論が出ない。アリシアを狙った場合には魔法学園ごと狙うことになる。戦力的にも犠牲者が多くなることからしても常識的に考えたらそこまでの暴挙はしないはずだ。しかし、今の奴には後が無い。そういうことを行ってもおかしくはない」
ゾルムが苦い顔をしながら言う。
「・・・お父様の仰る通りですわね。でしたら、最長で18日間私もこちらにおりますわ」
「・・・すまんな」
「では、一度魔法学園に戻って許可を取ってきた方がよろしいでしょうか?」
アリシアがゾルムに確認を取る。
「いいや。それには及ばない。既に学園長には伝えてある」
ゾルムが微笑みながら言う。
「えっ!?・・・お父様、私《わたくし》をお試しになられたのですか?」
アリシアがゾルムを疑いの眼でじっと見る。
「・・・アリシアが魔法学園に戻ると言った場合には説得が必要だろう?だから、先にアリシアの考えを聞いただけで他に意味はないよ」
ゾルムが焦らず、アリシアの疑問に答える。
アリシアは一つため息をついてから、
「はぁ、まあ良いですわ。ナガリアは私《わたくし》が学生寮に入ったことを知らないはずなので本日戻るのも危険でしたでしょうから助かりましたわ」
「そうだね。アリシアがここに来る道中に狙われる危険性もあったが無事に来られて本当に良かったよ」
ゾルムが先ほどまで隠していたのだろう。ほっとした表情で答える。
アリシアは肩を竦め、
「本当ですわね。かといって何も事情を知らずに魔法学園にいるのは嫌ですし、事情の連絡を貰ってもその時はこちらに戻るのリスクが高くなって動けなくなるでしょうから良かったですわ。私《わたくし》以外の人も巻き込むことにも耐えられませんですしお呼びくださって助かりましたわ」
「そう言ってくれてよかったよ」
ゾルムはアリシアの同意が得られてほっとした。
ナガリアの所為で家族がバラバラになるのは嫌だったので今のところ良い方向に向かっているとゾルムは考える。
守るべき箇所が2か所に分かれているのも攻撃を受ける側としても守りづらい。
そういった意味でも順調であった。
「あとは、戦力でしょうか?」
アリシアが呟く。
恐らく、こちら側の戦力だけでなく、ナガリア側のも含めて両方のことを言いたいのだろう。
「・・・正直、ナガリアの手の者がどれだけいるのか把握しきれない。しかも奴の隠居のことは秘密裏で進んでいるため公表されていない。そのため、知っているものも殆どいないだろう。ということは、今のところナガリアの手の者は減ることなくそのまま招集することができるということだ。さらに言えば、今のところまだ使える金を使って傭兵を大量に雇う可能性もある。数千人単位でこちらに向かって来る可能性は大いにある」
「!?それほど、なのですか・・・」
アリシアは今の年齢にしては頭がかなり切れる方ではあったが、争いごとに関しての知識は殆どない。
せいぜい、数百人程度と思っていたのだ。
ゾルムは、ゆっくりと立ち上がり、窓際まで歩いて行く。
「ああ・・・だが、安心すると言い。私も出来る限りの戦力を揃えた。こっちへ来てご覧」
「?」
アリシアが疑問符を浮かべ、ゾルムの方に向かって歩く。
(どういうことかしら?そちらには中庭しか無いはずですのに)
ゾルムはアリシアが近くに来たことを見計らい、
「驚き過ぎて倒れないでくれよ!」
ゾルムはこう前置きをすると、一気にカーテンを開ける。
「なっ!!これは」
アリシアが驚きの声を上げる。
中庭には埋め尽くさんばかりの戦闘員が待機していたのだった。
「いつの間にこのような人員をお集めになられたのですか?」
アリシアは中庭にひしめく戦闘員を見てゾルムに尋ねる。
「ここでグレイ君の拉致についての話を聞いてからだ」
「・・・凄すぎますわ、お父様」
ゾルムの言葉に驚嘆するアリシア。
ゾルムにはあの時点でここまでの構想があったということだ。
少しずつ集めたのだろう。
そして、家族に不安を与えないよう、集めていることも知られないように気を使ったに違いない。
「おおよそ二千人集めた」
「二千人ですの!?」
数を聞いてアリシアは驚く。
中庭に入り切らない者達は他のところにいるのだろう。
(お父様の力をしっかりと理解しておりませんでしたわ。十日足らずでこれほどの人数をお集めになるなんて)
アリシアはゾルムの凄さに改めて驚いたのだった。
「バルム家の様子はどうだ?」
ナガリアが執事に向かって問いかける。
「周りに気づかないように上手く誤魔化しているようですが戦闘員を集めているようです。旦那様が向かってくることを想定しているようですね」
「ははは!やはりな、そうこなくては」
ナガリアは意外にも機嫌良さそうに笑う。
「三大貴族なぞと持て囃されていい気になっているバルム家に本当の貴族が誰であるかを思い知らせた上で要求を呑んでもらわねば気が済まんからな」
ナガリアは酒をグラスに注ぎ、一口に飲み干す。
「ふぅ。高揚しておるのか格別じゃな。それで、バルム家の長女を拐ってくることは可能そうか?」
他の人が聞けば卑怯というのは明らかだが、ナガリアは気にもせず執事に問う。
「・・・残念ながら、私が探りを入れた時には既にバルム家の屋敷に入っておりました」
執事が申し訳無さそうに答える。
「・・・ふむ。まぁ、良い。今回の件はバルム家の方が早く動けたものな。流石にその辺りの対策はしていて当然か」
ナガリアは執事の報告に気にもせず納得する。
執事はそのようなナガリアの様子を見て、
(・・・昔の旦那様に戻られたようだ)
と過去の勇姿を思い出す。
ナガリアは今でこそ恰幅が良い老人手前の中高年で金と権力に魅せられた融通のきかないどうしようもない男ではあるが、昔は戦の指揮者として勇名を馳せた代表的な貴族の一人であった。
貰った勲章も一つや二つではない。
戦場を退いてからは私腹を肥やすことに夢中になり、成り上がるため犯罪ギリギリのことをしてきたためここ十数年ずっと以前の面影は全く無かった。
しかし、後がない状況の今は全ての力をバルム家との全面対決に向けているため、少しずつ昔のナガリアが出てきているようだった。
執事が昔のことを思い出していると、無言になっていたナガリアが話を再開する。
「バルム家の手勢はどのくらいの規模だと思う?」
「・・・分かりませぬ。が、百や二百ではきかないでしょう」
執事が正直に答える。
「ふむ。なら少なくとも千人はいると見たほうがよいじゃろうな」
「!?・・・流石にそこまでいるとは思えませぬが」
執事が驚きの声を上げる。
「・・・いや、相手はバルム家史上最も優れていると言われたゾルム・エト・バルムだぞ。千人集めたというのも少ないくらいじゃろう」
ナガリアは確信してそう言う。
ナガリアとゾルムは全盛期の時期が異なるため同じ時代で比較されることは無かったが年長者であるナガリアは三大貴族というもはやお飾りのような連中(やっかみもあったが少なくともナガリアはそう思っていた)の中にあってゾルムのことだけは高く評価していた。
最も表向きはそんな様子を一切見せ無い用にしていたが相手が気心のしれた執事であり、直接対決となると話は別であった。
「旦那様が、おっしゃるのでしたら是非もありません。これからどう動きましょうか?」
執事がナガリアに尋ねる。
ナガリアは執事の問いかけにすぐには答えず、グラスに酒を注ぎ直す。
今度は一気に飲み干したりせず、少し口をつけ酒をゆっくりと味わう。
「・・・そうだな。では、こうしよう」
ナガリアがニヤリと笑うと作戦を話し始めた。
執事はナガリアの作戦に驚き、自分の主人ながら恐ろしい方だと改めて理解するのであった。
ゾルムとの会話を終えたアリシアは自室に戻ると着替えもせず制服のままベッドの上に腰掛けた。
「ふぅ」
アリシアの整った口元から自然と深いため息が出る。
あれからずっと自分を追い込んでほとんど休んでいなかったのだから無理もない。
まだ決着はついていないがゾルムの言葉を聞いてようやくひと息つける気分になったのだ。
「・・・これでナガリア相手の一連の決着がつきますわね」
ぽすん
アリシアがベットに倒れ込み、ぼーっと天井を眺める。
「・・・グレイさん」
我武者羅になることで考えるのを先送りしてきたが、精神的に少し落ち着いたアリシアはグレイのことを改めて考える。
一度口に出すと後はもう溢れるようにグレイのことが頭を過ぎってきた。
急に手紙をもらった時のこと、
初めて会話をした時のこと、
命を救ってもらった時のこと、
再会した時のこと、
ドキドキしながら家に呼びだした時のこと、
グレイの自分に対する気持ちを聞いた時のこと、
付き人になって行動した数日のこと、
思っても見なかったが最後の会話になってしまった別れの時のこと、
グレイという男はまだ出会ってから大した日数を過ごしたわけではないというのにこんなにも自分の中に入り込んでいる。
アリシアはグレイのことを想い、自然と涙が溢れるのを感じていた。
「・・・ご無事ですわよね?」
アリシアは思わず呟いてしまった。
「う、ううう」
一度呟いたが最後。
不安はどんどん大きくなり、アリシアはグレイのことを想い、涙を流し続ける。
アリシアも分かっているのだ。
かの迷宮に送られたグレイが無事なわけがないと言うことを。
今までのとてつもない年数の間、踏破した記録が無いのだ。
一介の魔法学園の生徒が放り込まれたならただで済むわけがないのだ。
「・・・グレイさんが死んでしまったなんて信じたくありませんわ・・・出来るのならもう一度でもお会いしたい・・・」
アリシアは無茶な願い事を呟いたまま最近の疲れがピークとなり、そのまま眠ってしまったのであった。
グレイのことを考え続けて嘆き泣き続けるよりは良かったのかもしれない。
「う、うーん」
アリシアが目を覚ましたのは夜中であった。
ベッドに腰掛けた状態から横になって眠ってしまったはずだがしっかりと布団の中に入って眠っている。
「どなたかが風邪を引かないように寝かせてくださったのですわね」
状況を理解したアリシアは明日にでも礼を言おうと思いながらベッドから出る。
喉が乾いたからだ。
アリシアは水差しから水をコップに注ぐと喉を潤す。
そして窓に向かって歩いていく。
「綺麗なお月さまですわ」
こんなにも自分の周りで色々な事が起きているというのに夜空に浮かぶ月はそんなことは知らぬと鮮やかに輝いていた。
アリシアが少し恨めしそうに月を眺めていると黒い点が見えてきた。
「あら、何かしら?」
気になって見ていると段々とその黒い点が大きくなってくる。
「!?まさか!」
尋常ならざる事が起きている。
アリシアはそれを理解すると急いで部屋から飛び出した。
その瞬間であった
ドッゴーーーン
アリシアのいた部屋が吹き飛ばされたのは。
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