21 / 34
アレハンドリナ編
殿下の目は節穴ですか?
しおりを挟む
「恥ずかしがり屋さんなんだね、アレハンドリナは」
誰もいなくなった校舎で、生徒会室に二人きり。
セレドニオ・ナントカカントカ……長くて覚えられない名前の殿下は、一人掛けの椅子に悠々と脚を組んで座っている。私は彼の傍の長椅子の端、彼から一番遠いところにちんまりと座った。
イルデと『愛の逃避行』byお母様命名、の次の日。
セレドニオ殿下はルカを使いにして私を生徒会室に呼びつけた。距離をおいたはずなのに隣に座って腰に腕を回されて、すでに逃げ場なし。
「何をお話しすればいいのやら」
「嫌だなあ、私達は同級生じゃないか。もっと気楽に打ち解けてくれてもよさそうなものなのに」
「打ち解けられるとお思いですか?父から婚約打診の話を聞いたのが一昨日です。打診って言えばまだ聞こえはいいですけど、実際は命令ですよね?」
「うん。伯爵家以上で歳が近い令嬢で、私の審美眼に適ったのは君だけだ。君にとってもいい話だと思うよ?私の婚約者になれば、誰も変な噂を流したりしないよ」
ええ、そうでしょうとも。
次期国王の婚約者をビッチ呼ばわりしたら、断頭台が待ってますからね。
はて。
この人、『審美眼』って言った?
「殿下の目は節穴ですか?私のどこが、美しい物を見慣れている殿下のお眼鏡に適うというんです?ビビアナ嬢みたいな美人ならともかく、兄や姉と比べて残念な容姿の醜いあひるの子の私が」
「私の目が節穴だと言うなら、君の眼鏡は曇っているんじゃないか」
セレドニオ殿下は私の瞳を覗き込んだ。息がかかりそうなくらい顔が近い。
「私の顔が見える?」
「はい。はっきりと」
「そう……では、これくらい離れるとどうだい?」
「少しぼんやりします」
「うん……君はかなりの近眼だね。普段は眼鏡をかけていないから、廊下で壁にぶつかっているの?」
「み、見て……」
「面白いから見てたよ。イルデやクラウディオがいる時はぶつからないで歩けても、一人だと眼鏡が必要そうだなと」
殿下はくすくすと笑った。この人、絶対意地悪だ。
「結論から言うとね、君は『傾国の美女』だ」
「ケイコク……」
山を流れる細い川が……ではなさそうね。
「『魔性の女』と言えば分かりやすいかな。リエラ家の先祖に君と同じ髪、同じ瞳で、泣きぼくろのある女性がいたそうだよ。彼女を巡って時の王と王弟、宰相に騎士団長までが骨肉の争いを繰り広げたとか。……言い伝えだけれどね」
「……信じられません」
お父様もお母様もナルシストお兄様も美形だけれど、私だけ顔が違っていて……。
「退廃的な雰囲気とでも言うのかな。放っては置けない頼りなさと、隙だらけで誘われそうになる色気……初めて夜会で君に会った時、これは伯爵が外に出したがらないはずだと思ったよ」
「肖像画の彼女と君はそっくりだ。長い睫毛に縁どられた優しそうな瞳は、常に潤んでいるね」
目が乾くんだよね。コンタクトしてないのに。体質かな。
「泣いてませんよ?」
「泣いていなくても、君の瞳で見つめられたら、大概の男は自分を抑えきれなくなるだろう。婚約者がいるクラウディオも、婚約を解消して君を婚約者にしようかと本気で悩んだようだよ」
マジか!?
クラウディオ、いつそんなことになっていたの?
仲良しのお友達だとばかり思っていたのに。裏切られた気分だわ。
「イルデは神の道に進むと悟りを開いたようだね。ある意味、ずっと君の近くにいて惑わされていないのだから、彼は恐ろしい精神力の持ち主だね」
ここじゃ言えないようなことされましたけど?
神官になると娼館に行けなくなるから、私で済まそうとした最低の奴ですけど?
殿下には立派な人間に見えたのね。
「殿下は、『傾国の美女』でも気にしないんですね」
悪役令嬢でも気にしないんだもんな。気にしてくれないかな。やっぱりやーめた!ってならないかな。
「私はこうして、対等に話し合える女性を妃にと望んでいるんだ。ビビアナも然り、君も私の前で物おじせずに話ができる。貴重な存在なんだ」
「はあ……」
どうしよう。引き返せない感じがする。
胡散臭い笑顔で私の隣に座り、手を握ってきた殿下は、
「最近、私は新しい趣味を見つけてね……」
と私の耳に囁いた。
「趣味……」
ゴクリ。これ、ヤバい奴だよね?
「クス……誰にも教えたことはなくてね。君なら……うまくいきそうな気がする」
王子が変態とか、性的嗜好がアブノーマルなんて誰も言えないし、誰も知らなくて当然よ。
目の前の殿下はじっと私を見つめている。
「ああ、そろそろ……いいかな?」
いいかな?って疑問形にされても困ります!
よくない、全然よくないですからっ!
「あ、あの……?……キャッ!」
長椅子に押し倒されて、柄にもなく可愛い声が出てしまった。
「殿下、落ち着いてください。いけません、こんなことっ!」
「言っただろう?君の瞳で見つめられたら、大概の男は自分を抑えきれなくなるって」
呟いた殿下の唇が近づいてくる。
イケメンだろうが王子だろうが、嫌なものは嫌だ!
――キスされる!
ぎゅっと目を閉じて、私は咄嗟に彼の名を叫んだ。
誰もいなくなった校舎で、生徒会室に二人きり。
セレドニオ・ナントカカントカ……長くて覚えられない名前の殿下は、一人掛けの椅子に悠々と脚を組んで座っている。私は彼の傍の長椅子の端、彼から一番遠いところにちんまりと座った。
イルデと『愛の逃避行』byお母様命名、の次の日。
セレドニオ殿下はルカを使いにして私を生徒会室に呼びつけた。距離をおいたはずなのに隣に座って腰に腕を回されて、すでに逃げ場なし。
「何をお話しすればいいのやら」
「嫌だなあ、私達は同級生じゃないか。もっと気楽に打ち解けてくれてもよさそうなものなのに」
「打ち解けられるとお思いですか?父から婚約打診の話を聞いたのが一昨日です。打診って言えばまだ聞こえはいいですけど、実際は命令ですよね?」
「うん。伯爵家以上で歳が近い令嬢で、私の審美眼に適ったのは君だけだ。君にとってもいい話だと思うよ?私の婚約者になれば、誰も変な噂を流したりしないよ」
ええ、そうでしょうとも。
次期国王の婚約者をビッチ呼ばわりしたら、断頭台が待ってますからね。
はて。
この人、『審美眼』って言った?
「殿下の目は節穴ですか?私のどこが、美しい物を見慣れている殿下のお眼鏡に適うというんです?ビビアナ嬢みたいな美人ならともかく、兄や姉と比べて残念な容姿の醜いあひるの子の私が」
「私の目が節穴だと言うなら、君の眼鏡は曇っているんじゃないか」
セレドニオ殿下は私の瞳を覗き込んだ。息がかかりそうなくらい顔が近い。
「私の顔が見える?」
「はい。はっきりと」
「そう……では、これくらい離れるとどうだい?」
「少しぼんやりします」
「うん……君はかなりの近眼だね。普段は眼鏡をかけていないから、廊下で壁にぶつかっているの?」
「み、見て……」
「面白いから見てたよ。イルデやクラウディオがいる時はぶつからないで歩けても、一人だと眼鏡が必要そうだなと」
殿下はくすくすと笑った。この人、絶対意地悪だ。
「結論から言うとね、君は『傾国の美女』だ」
「ケイコク……」
山を流れる細い川が……ではなさそうね。
「『魔性の女』と言えば分かりやすいかな。リエラ家の先祖に君と同じ髪、同じ瞳で、泣きぼくろのある女性がいたそうだよ。彼女を巡って時の王と王弟、宰相に騎士団長までが骨肉の争いを繰り広げたとか。……言い伝えだけれどね」
「……信じられません」
お父様もお母様もナルシストお兄様も美形だけれど、私だけ顔が違っていて……。
「退廃的な雰囲気とでも言うのかな。放っては置けない頼りなさと、隙だらけで誘われそうになる色気……初めて夜会で君に会った時、これは伯爵が外に出したがらないはずだと思ったよ」
「肖像画の彼女と君はそっくりだ。長い睫毛に縁どられた優しそうな瞳は、常に潤んでいるね」
目が乾くんだよね。コンタクトしてないのに。体質かな。
「泣いてませんよ?」
「泣いていなくても、君の瞳で見つめられたら、大概の男は自分を抑えきれなくなるだろう。婚約者がいるクラウディオも、婚約を解消して君を婚約者にしようかと本気で悩んだようだよ」
マジか!?
クラウディオ、いつそんなことになっていたの?
仲良しのお友達だとばかり思っていたのに。裏切られた気分だわ。
「イルデは神の道に進むと悟りを開いたようだね。ある意味、ずっと君の近くにいて惑わされていないのだから、彼は恐ろしい精神力の持ち主だね」
ここじゃ言えないようなことされましたけど?
神官になると娼館に行けなくなるから、私で済まそうとした最低の奴ですけど?
殿下には立派な人間に見えたのね。
「殿下は、『傾国の美女』でも気にしないんですね」
悪役令嬢でも気にしないんだもんな。気にしてくれないかな。やっぱりやーめた!ってならないかな。
「私はこうして、対等に話し合える女性を妃にと望んでいるんだ。ビビアナも然り、君も私の前で物おじせずに話ができる。貴重な存在なんだ」
「はあ……」
どうしよう。引き返せない感じがする。
胡散臭い笑顔で私の隣に座り、手を握ってきた殿下は、
「最近、私は新しい趣味を見つけてね……」
と私の耳に囁いた。
「趣味……」
ゴクリ。これ、ヤバい奴だよね?
「クス……誰にも教えたことはなくてね。君なら……うまくいきそうな気がする」
王子が変態とか、性的嗜好がアブノーマルなんて誰も言えないし、誰も知らなくて当然よ。
目の前の殿下はじっと私を見つめている。
「ああ、そろそろ……いいかな?」
いいかな?って疑問形にされても困ります!
よくない、全然よくないですからっ!
「あ、あの……?……キャッ!」
長椅子に押し倒されて、柄にもなく可愛い声が出てしまった。
「殿下、落ち着いてください。いけません、こんなことっ!」
「言っただろう?君の瞳で見つめられたら、大概の男は自分を抑えきれなくなるって」
呟いた殿下の唇が近づいてくる。
イケメンだろうが王子だろうが、嫌なものは嫌だ!
――キスされる!
ぎゅっと目を閉じて、私は咄嗟に彼の名を叫んだ。
0
あなたにおすすめの小説
気配消し令嬢の失敗
かな
恋愛
ユリアは公爵家の次女として生まれ、獣人国に攫われた長女エーリアの代わりに第1王子の婚約者候補の筆頭にされてしまう。王妃なんて面倒臭いと思ったユリアは、自分自身に認識阻害と気配消しの魔法を掛け、居るかいないかわからないと言われるほどの地味な令嬢を装った。
15才になり学園に入学すると、編入してきた男爵令嬢が第1王子と有力貴族令息を複数侍らかせることとなり、ユリア以外の婚約者候補と男爵令嬢の揉める事が日常茶飯事に。ユリアは遠くからボーッとそれを眺めながら〘 いつになったら婚約者候補から外してくれるのかな? 〙と思っていた。そんなユリアが失敗する話。
※王子は曾祖母コンです。
※ユリアは悪役令嬢ではありません。
※タグを少し修正しました。
初めての投稿なのでゆる〜く読んでください。ご都合主義はご愛嬌ということで見逃してください( *・ω・)*_ _))ペコリン
【完結】私ですか?ただの令嬢です。
凛 伊緒
恋愛
死んで転生したら、大好きな乙女ゲーの世界の悪役令嬢だった!?
バッドエンドだらけの悪役令嬢。
しかし、
「悪さをしなければ、最悪な結末は回避出来るのでは!?」
そう考え、ただの令嬢として生きていくことを決意する。
運命を変えたい主人公の、バッドエンド回避の物語!
※完結済です。
※作者がシステムに不慣れかつ創作初心者な時に書いたものなので、温かく見守っていだければ幸いです……(。_。///)
※ご感想・ご指摘につきましては、近況ボードをお読みくださいませ。
《皆様のご愛読に、心からの感謝を申し上げますm(*_ _)m》
悪役令嬢だとわかったので身を引こうとしたところ、何故か溺愛されました。
香取鞠里
恋愛
公爵令嬢のマリエッタは、皇太子妃候補として育てられてきた。
皇太子殿下との仲はまずまずだったが、ある日、伝説の女神として現れたサクラに皇太子妃の座を奪われてしまう。
さらには、サクラの陰謀により、マリエッタは反逆罪により国外追放されて、のたれ死んでしまう。
しかし、死んだと思っていたのに、気づけばサクラが現れる二年前の16歳のある日の朝に戻っていた。
それは避けなければと別の行き方を探るが、なぜか殿下に一度目の人生の時以上に溺愛されてしまい……!?
逆行した悪女は婚約破棄を待ち望む~他の令嬢に夢中だったはずの婚約者の距離感がおかしいのですか!?
魚谷
恋愛
目が覚めると公爵令嬢オリヴィエは学生時代に逆行していた。
彼女は婚約者である王太子カリストに近づく伯爵令嬢ミリエルを妬み、毒殺を図るも失敗。
国外追放の系に処された。
そこで老商人に拾われ、世界中を見て回り、いかにそれまで自分の世界が狭かったのかを痛感する。
新しい人生がこのまま謳歌しようと思いきや、偶然滞在していた某国の動乱に巻き込まれて命を落としてしまう。
しかし次の瞬間、まるで夢から目覚めるように、オリヴィエは5年前──ミリエルの毒殺を図った学生時代まで時を遡っていた。
夢ではないことを確信したオリヴィエはやり直しを決意する。
ミリエルはもちろん、王太子カリストとも距離を取り、静かに生きる。
そして学校を卒業したら大陸中を巡る!
そう胸に誓ったのも束の間、次々と押し寄せる問題に回帰前に習得した知識で対応していたら、
鬼のように恐ろしかったはずの王妃に気に入られ、回帰前はオリヴィエを疎ましく思っていたはずのカリストが少しずつ距離をつめてきて……?
「君を愛している」
一体なにがどうなってるの!?
婚約破棄の、その後は
冬野月子
恋愛
ここが前世で遊んだ乙女ゲームの世界だと思い出したのは、婚約破棄された時だった。
身体も心も傷ついたルーチェは国を出て行くが…
全九話。
「小説家になろう」にも掲載しています。
悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。
槙村まき
恋愛
スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。
それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。
挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。
そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……!
第二章以降は、11時と23時に更新予定です。
他サイトにも掲載しています。
よろしくお願いします。
25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!
転生したら悪役令嬢だった婚約者様の溺愛に気づいたようですが、実は私も無関心でした
ハリネズミの肉球
恋愛
気づけば私は、“悪役令嬢”として断罪寸前――しかも、乙女ゲームのクライマックス目前!?
容赦ないヒロインと取り巻きたちに追いつめられ、開き直った私はこう言い放った。
「……まぁ、別に婚約者様にも未練ないし?」
ところが。
ずっと私に冷たかった“婚約者様”こと第一王子アレクシスが、まさかの豹変。
無関心だったはずの彼が、なぜか私にだけやたらと優しい。甘い。距離が近い……って、え、なにこれ、溺愛モード突入!?今さらどういうつもり!?
でも、よく考えたら――
私だって最初からアレクシスに興味なんてなかったんですけど?(ほんとに)
お互いに「どうでもいい」と思っていたはずの関係が、“転生”という非常識な出来事をきっかけに、静かに、でも確実に動き始める。
これは、すれ違いと誤解の果てに生まれる、ちょっとズレたふたりの再恋(?)物語。
じれじれで不器用な“無自覚すれ違いラブ”、ここに開幕――!
本作は、アルファポリス様、小説家になろう様、カクヨム様にて掲載させていただいております。
アイデア提供者:ゆう(YuFidi)
URL:https://note.com/yufidi88/n/n8caa44812464
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる