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ゲーム開始前 3 攻略対象の不幸フラグを折れ!
46 悪役令嬢は廊下を走る
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王都の近くの森で、騎士団の実践演習を指揮していたヴィルソード侯爵の元に、邸から急使が来たのは、日が大分傾いた頃のことだった。
「アレックス様がお戻りにならず、市場を探したところ、どうやら人攫いにあったらしいと。先ほど当家に身代金を要求する手紙が届けられました」
「従者はどうした。誰かついて行ったのだろう」
「はい。先月から働いておる男でありましたが……残念ながら行方は分かりませんでした」
「そいつが手引きしたのでは」
「今は何とも。市場の外れに多量の血痕があったところから、従者はもう生きてはいないかと」
「血、か……それがアレックスのものではないと、どうして言い切れる?」
ヴィルソード侯爵は大きな手で使いの男の二の腕を掴むと、激しく揺さぶった。ガクンガクンと頭が揺れる。
「隊長!お止め下さい!」
危険を察した騎士が彼を止め、使いの男は解放された。腕を摩りながら大きく息をしている。
「……旦那様。既に邸の者が捜索に当たっております。一緒に攫われたと思われるジュリア様の、ハーリオン侯爵家へも連絡が行っております」
「私達も捜索に加わります。必ずご子息を見つけてみせます。隊長、ご指示を!」
騎士達が一列に並び隊長を見つめている。
「……お前達……俺は、いい部下に恵まれたなっ」
感動の涙と鼻水を流しながら、ヴィルソード侯爵は全員に騎馬の用意をさせた。
◆◆◆
ヴィルソード家からの使いが到着し、ジュリアが誘拐されたと知ったハーリオン侯爵夫妻は、主要な街道の検問を行うよう国内の領地全てに発信すべく、魔法便伝令所へ使用人を走らせた。ハーリオン家の領地は北部の丘陵地、南部の港町の他にも、各地に散らばっていた。どれも主要な街道が通っており、二人が王都から連れ出されたとすればどこかで検問に引っかかるに違いなかった。
「報せはまだないのか!」
侯爵は苛立ち、書斎の机を叩いた。
「どうか落ち着かれてください、旦那様。魔法便は既に発信されております。街道沿いでお嬢様が見つかるのも、時間の問題でしょう」
ジョンが侯爵を宥める。
「落ち着いてなどいられるか。あの無鉄砲なジュリアが、誘拐犯相手にかかっていかないとは思えん」
金茶の髪を掻き毟る。握りしめた拳に力が入る。
「ヴィルソード家に身代金を要求する手紙が届いたそうです。金を用意して指定された場所に向かい、犯人に金を渡して油断させたところを掴まえると」
「そうか。あいつならそうするだろうな。……犯人を殺しかねない」
侯爵は友人の騎士団長の性格を思い、二人の所在につながる手がかりが消滅するのではないかと不安を覚えた。
「こちらは別の手段を用意しよう……ジョン」
「はい、旦那様」
「コーノック先生に連絡を取れ。邸に来てほしいと。教え子の危機だと伝えろ」
「承知いたしました」
◆◆◆
騎士団長令息とハーリオン侯爵家令嬢が誘拐されたという報せは、日没前に王宮にも届いた。例によって王宮へ呼び出されていたマリナの元にである。一緒にいた王太子セドリックは、今日は二人が街へ行ったとマリナから聞かされていたので、すぐに街を捜索するよう父国王に頼みに行った。
「邸に戻ります。殿下は……しばらくお戻りにならないと思うから、言伝を」
侍従に王太子への伝言を頼み、マリナは急いで車寄せに走る。
――ジュリア、無事でいて!
ハーリオン家の紋章がついた馬車を探すと、見覚えのある背中が見えた。
「コーノック先生?」
何やら慌てた様子の魔法家庭教師が、徒歩で王宮から出て行こうとしているところだった。
「マリナ!ああよかった、君は無事だったんだね」
「先生も、うちから報せを?」
「うん。教え子の危機と言われては、急いで行くしかないだろう」
「当家の馬車があそこにあります。ご一緒していただけますか」
「勿論。ありがとう、長距離の転移魔法は魔力の消費が大きいからね。助かったよ」
二人は馬車に飛び乗り、ハーリオン邸に向かった。
「では、誘拐されたのはジュリア?」
「はい。今日はアレックスと一緒に出かけたんです。ほら、旅芸人の一座が芝居小屋を出しているでしょう」
「ああ、随分と賑わっているとか」
「芝居を見て、市場に行ったようだと。ヴィルソード家の捜索隊の話では、一緒にいたはずの従者の姿が見えず、血だまりがあったと……」
「それは……穏やかではないね。怪我が心配だな」
コーノック先生は顎に手を当てて考え込んだ。
「父は、先生のお力で、魔法でジュリアを探そうとしているのだと思います」
「私にはそんな力はないよ。せいぜい伝令所の代わりを務めるくらいだ……それより」
「何か、いい方法が?」
「遠見魔法を使える者を知っている」
「遠見魔法?」
マリナは聞き覚えのある言葉に引っ掛かりを覚えた。
――何だったかな、エミリーから聞いたことがあるような。
「実際には近寄れない場所の捜索にはもってこいの魔法なんだ」
「どれほど遠くまで探せるのですか」
「魔導士の力量次第だな……うん、あいつなら王都周辺くらいは楽勝だ」
コーノック先生の口から、あいつ、と聞かされ、マリナは直感した。
――マシューが来る?
「マリナ。急いでいるところ悪いが、王立学院へ寄ってもらえないか」
そう言うと先生は、風魔法で何処かへ便りを飛ばした。
「アレックス様がお戻りにならず、市場を探したところ、どうやら人攫いにあったらしいと。先ほど当家に身代金を要求する手紙が届けられました」
「従者はどうした。誰かついて行ったのだろう」
「はい。先月から働いておる男でありましたが……残念ながら行方は分かりませんでした」
「そいつが手引きしたのでは」
「今は何とも。市場の外れに多量の血痕があったところから、従者はもう生きてはいないかと」
「血、か……それがアレックスのものではないと、どうして言い切れる?」
ヴィルソード侯爵は大きな手で使いの男の二の腕を掴むと、激しく揺さぶった。ガクンガクンと頭が揺れる。
「隊長!お止め下さい!」
危険を察した騎士が彼を止め、使いの男は解放された。腕を摩りながら大きく息をしている。
「……旦那様。既に邸の者が捜索に当たっております。一緒に攫われたと思われるジュリア様の、ハーリオン侯爵家へも連絡が行っております」
「私達も捜索に加わります。必ずご子息を見つけてみせます。隊長、ご指示を!」
騎士達が一列に並び隊長を見つめている。
「……お前達……俺は、いい部下に恵まれたなっ」
感動の涙と鼻水を流しながら、ヴィルソード侯爵は全員に騎馬の用意をさせた。
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ヴィルソード家からの使いが到着し、ジュリアが誘拐されたと知ったハーリオン侯爵夫妻は、主要な街道の検問を行うよう国内の領地全てに発信すべく、魔法便伝令所へ使用人を走らせた。ハーリオン家の領地は北部の丘陵地、南部の港町の他にも、各地に散らばっていた。どれも主要な街道が通っており、二人が王都から連れ出されたとすればどこかで検問に引っかかるに違いなかった。
「報せはまだないのか!」
侯爵は苛立ち、書斎の机を叩いた。
「どうか落ち着かれてください、旦那様。魔法便は既に発信されております。街道沿いでお嬢様が見つかるのも、時間の問題でしょう」
ジョンが侯爵を宥める。
「落ち着いてなどいられるか。あの無鉄砲なジュリアが、誘拐犯相手にかかっていかないとは思えん」
金茶の髪を掻き毟る。握りしめた拳に力が入る。
「ヴィルソード家に身代金を要求する手紙が届いたそうです。金を用意して指定された場所に向かい、犯人に金を渡して油断させたところを掴まえると」
「そうか。あいつならそうするだろうな。……犯人を殺しかねない」
侯爵は友人の騎士団長の性格を思い、二人の所在につながる手がかりが消滅するのではないかと不安を覚えた。
「こちらは別の手段を用意しよう……ジョン」
「はい、旦那様」
「コーノック先生に連絡を取れ。邸に来てほしいと。教え子の危機だと伝えろ」
「承知いたしました」
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「邸に戻ります。殿下は……しばらくお戻りにならないと思うから、言伝を」
侍従に王太子への伝言を頼み、マリナは急いで車寄せに走る。
――ジュリア、無事でいて!
ハーリオン家の紋章がついた馬車を探すと、見覚えのある背中が見えた。
「コーノック先生?」
何やら慌てた様子の魔法家庭教師が、徒歩で王宮から出て行こうとしているところだった。
「マリナ!ああよかった、君は無事だったんだね」
「先生も、うちから報せを?」
「うん。教え子の危機と言われては、急いで行くしかないだろう」
「当家の馬車があそこにあります。ご一緒していただけますか」
「勿論。ありがとう、長距離の転移魔法は魔力の消費が大きいからね。助かったよ」
二人は馬車に飛び乗り、ハーリオン邸に向かった。
「では、誘拐されたのはジュリア?」
「はい。今日はアレックスと一緒に出かけたんです。ほら、旅芸人の一座が芝居小屋を出しているでしょう」
「ああ、随分と賑わっているとか」
「芝居を見て、市場に行ったようだと。ヴィルソード家の捜索隊の話では、一緒にいたはずの従者の姿が見えず、血だまりがあったと……」
「それは……穏やかではないね。怪我が心配だな」
コーノック先生は顎に手を当てて考え込んだ。
「父は、先生のお力で、魔法でジュリアを探そうとしているのだと思います」
「私にはそんな力はないよ。せいぜい伝令所の代わりを務めるくらいだ……それより」
「何か、いい方法が?」
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「遠見魔法?」
マリナは聞き覚えのある言葉に引っ掛かりを覚えた。
――何だったかな、エミリーから聞いたことがあるような。
「実際には近寄れない場所の捜索にはもってこいの魔法なんだ」
「どれほど遠くまで探せるのですか」
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コーノック先生の口から、あいつ、と聞かされ、マリナは直感した。
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