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学院編 2 生徒会入りを阻止せよ!

25 悪役令嬢はヒロインを黙らせたい

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魔法科の実技の時間は,担当教官ごとに思い思いの場所で行われる。エミリーはアイリーンと共にマシューに連れられて芝生が広がる庭に来ていた。
アイリーンが風の魔法球を発生させ、遠くの木に向かって放つ。
ボフッ。
芝生に風が当たり、捲れて舞い上がる。
「失敗だな」
少し離れたところで様子を見ていたマシューが冷たく言い放つ。

「えへっ、ちょぉっと間違っちゃった」
舌先を出し、自分で自分の頭を拳で軽く叩く。
――ぐはっ。ナニアレ。
可愛らしさを演出したいようだが、アイリーンの目論見は完全に空振りである。マシューは渋い顔をしている。彼女の魔法を不快な肌触りに感じているのだろう。
「もう一度やってみていいですかぁ?」
マシューは渋い顔のまま軽く頷く。
「よおぉし、頑張っちゃう!」
イラッ。
いちいち宣言するな!
順番を待っているエミリーの堪忍袋の緒は切れっぱなしである。

「……」
無詠唱で風魔法の球を発生させる。木に向かって放つ。
メキメキメキ……ドドド、ドサッ。
背の高い大木が倒れた。
「……終わったから帰っていいですか?」
マシューに歩み寄り、呟くように問いかけた。
「ダメだ」
アイリーンと二人きりにしないでくれ、と耳元に囁かれる。
「私は課題が終わったんで」
頼む、助けてくれ、とマシューが小声でエミリーを引き留める。

「先生なら大丈夫だと思いますが」
「ダメだ。帰るな。お前の魔法は強さのコントロールができていない」
「さっきは思いっきりやれとおっしゃったじゃないですか」
「程度ってもんがあるだろう?木を倒していいとは言っていない」
「課題は終わったんで」
「アイリーンが今の課題を終わり次第、次の課題に取り組む予定だからな」
――そんなこと、一言も言ってなかったくせに!
「センセ、魔法球の飛ばし方を教えてくださぁい」
二人が親密そうにしているのを一瞬睨み、アイリーンが間に割って入る。

「自分で考えろ。あとは放課後練習しろ」
「わあ、放課後も教えてくださるんですかぁ?うれしいなあ」
「教えるとは言っていない。自習だ自習。自主練習ってやつだ」
「ええー?」
「どうしても分からない時はエミリーに聞け」
――はあ?何で私?
エミリーはマシューに冷たい視線を送ったが、元々無表情なのでマシューは気づいていないようだ。
「エミリーさんに教えてもらうのはちょっと……」
マシューのローブの端を掴み、アイリーンはエミリーの方をチラチラ見る。

「私だって教えたくありません」
「きゃ、こわーい」
「私は感覚で魔法を出しているから、言葉で説明できません」
「コツとか教えてくれてもいいじゃない?エミリーさんて意地悪なのね」
イラッ。
いつもなら闇魔法でとっくの昔に黙らせている頃なのに。
ここで魔法を使ってアイリーンに危害を加えれば、ゲームのシナリオ通りになってしまう。
――ここは我慢だ、我慢しかない!
両手を握り締めながら,エミリーは足元に広がる芝生を見つめた。

   ◆◆◆

三年一組の教室にアリッサが現れたのは、三時間目と四時間目の間の休み時間だった。方向音痴で迷ってしまうためマリナが付き添っている。
昼休みと放課後、レイモンドにアイリーンを近づけさせないためには、とにかくレイモンドの予定を把握し、一緒に行動するほかはない。
教室の入口で出てきた男子生徒に声をかける。流石に三年生に声をかけるのは緊張する。
「あ、あの……レ、レイモンド様を……」
「ちょっと待って。……おーい、レイモンド!」
レイモンドが出てくるまでの間、呼び出した男子生徒はにこやかにアリッサと話をしようとしたが、レイモンドが予想外に早く出てきたため、会話にならずに終わった。
「……ありがとう。中に戻っていいぞ」
男子生徒の肩をがしっと掴み、有無を言わせない強い視線で威嚇している。廊下で離れて見ていたマリナは、うわ、と声を漏らした。

「レイ様、あの、えっと……」
アリッサは昼食を一緒に取ろうと誘う予定なのだが、いざ誘い文句を言う段になると、いろいろと考えてしまい口ごもっている。
「何だ」
「う……お、お昼ごはん、ご一緒できたらな、って……ダメですか?」
もじもじするのをやめて視線を上げる。レイモンドがはっとする。
「アリッサ……」
「はい」
「……いや。セドリックの気持ちが少し分かったと」
「はあ……?」
「食堂で待ち合わせよう。先に着いた方が席を取っておく、いいな」
「はい!……レイ様はいつも殿下とご一緒されるのですよね?よろしいのですか?」
「放っておけと言いたいところだが……あいつを一人にするのはよくないからな」

レイモンドは廊下で見守っているマリナに声をかけた。
「おい。そんなところで見ていないで、こっちに来たらどうだ」
自分は付き添いなのに、とマリナは思ったが、上級生には逆らえない。渋々教室の入口に近寄る。
「今日の昼食は、四人でとる。いいか」
「いいか、って決定事項なのでしょう?」
「まあな。セドリックには俺から連絡しておく」
「分かったわ」
昨日のセドリックの振る舞いを思い出し、つい溜息が出てしまう。視線を感じ、教室を眺める。
――あ。
物言いたげな青緑色の瞳と視線が絡む。
ハロルドはいつも以上に愁いを帯びた表情で、マリナ達を見つめていた。
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