悪役令嬢が四つ子だなんて聞いてません!

青杜六九

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学院編 5 異国の王子は敵?味方?

130 悪役令嬢の作戦会議 9

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寝る支度を整え、マリナのベッドに集合した四姉妹は、全員落胆していた。
「……アクセサリーが三つ、敵の手に渡った」
エミリーが渋い顔で呟く。マシューが渡した腕輪は、エミリーを守るためのものだとしても、『攻略対象からもらったアクセサリー』には変わりない。見た目もゲームの中のそれと同じに見えた。先日から、レイモンドがアリッサに贈ったイヤリングは行方不明になっている。セドリックからもらったサファイアの髪飾りは、何度確認しても宝石箱の中にはなかった。寝室にある鍵のかかる引き出しに入れておいたのだが、ロイドが持ち出してしまったのだ。
「リリーがロイドの浮気を疑っていた頃、もっときちんと対策を練るべきだったのよ。ああ、どうしたらいいのかしら……」
ネグリジェ姿で膝を抱えたマリナは、俯いて溜息をついた。
「アイリーンは四つ、アクセサリーを揃えようとしてる。全部集めたら逆ハーレムエンドになるのかな。あんなに皆に嫌われてるのに?」
腕組みをしてジュリアは頬をぽりぽりと掻いた。
「どうかなあ……。集めると強制的に逆ハーレムエンドに向かう仕組みになってたら、レイ様達はヒロインを好きになっちゃうの?私、そんなの嫌……」
「はい、泣かない、泣かない。普通に考えて、アイリーンがこれから好かれるなんてありえないから」
「そうかなあ……ぐすん」
ジュリアはアリッサの頭を撫でた。

「ねえ、ジュリアちゃんはもらったの?」
「そうよ。アレックスがアクセサリーを贈るなんて想像がつかないけど」
「……ないね。ジュリアも失くしそう」
アレックスにアクセサリーは何がいいかと打診されたと話した。
「ペンダントねえ……」
「ゲームの通りだわ」
「練習をするには指輪や腕輪は邪魔なんだよ。髪を下ろさないから、マリナみたいな髪飾りはつけないし」
「アレックス君が用意をしていなければいいけど、渡そうと思って寮に置いていたら危ないよね。アイリーンは侍女に変装してるんでしょう?」
「昨日は頭に三角巾を被ってた。髪の色もピンクには見えなかったなあ」
夜だったからなのか、魔法で変えていたのか。魔法に疎いジュリアには定かではない。
「リリーが見た時は、ピンクの髪だったって」
「髪の色が目立つから、きっと光魔法で見る人に錯覚を起こさせているのよ」
「あり得る」
「ロイドを魅了の魔法で操ったように、ヴィルソード家の使用人を操る可能性もあるわね。アレックスに用心するようにって、ジュリアから言っておくのよ」
「勿論!……っつーか、本当にくれる気あるのかな……」

   ◆◆◆

学院祭実行委員の人選は、四人をさらに悩ませることとなった。
「アイリーンは生徒会長のセドリック様を狙いに来たわ」
「副会長のレイ様を狙ってるに決まってる!」
「どっちでも同じだよ。逆ハーレムエンドには、悪役令嬢を断罪しなきゃなんない。そのためには王太子と宰相子息の権力は欲しいもん」
「……アレックスは雑魚だからな」
エミリーがにやりと笑い、ジュリアがキッと睨んだ。
「悪かったね。アレックスは権力とはまだ遠いからさ。殿下やレイモンドに従えって言われたら従っちゃうとこあるし?断罪にはマシューは関わらない」
「そう」
「……となれば、絶対に味方につけたいのは二人だけじゃん。学年が違うから生徒会に関わらないと会うチャンスがない」

「アイリーンは、くじを不正に作って、委員になった」
「本当なの?エミリー?」
「うやむやにされたけど、絶対そう。……私も委員だから、あいつの企みを潰す」
前世のエミリーは、委員になることは勿論、人前に出るのも億劫がるような面倒くさがりであった。現世で王立学院に入っても、極力目立たないように心掛けてきたのだが、魔法の才能と容姿のせいで良くも悪くも注目されている。学院祭委員になれば、注目されるのは確実だが、アイリーンの横暴を許せなかった。
「私はちゃんとくじで当たった」
「正当に当たったのはエミリーちゃんだったのね」
「エミリーは小っちゃい頃から、無駄に運が良かったものね。ほら、商店街のくじ引きでも、皆で一回ずつ引いて私達は外れても、エミリーは必ず何か持って帰って来たでしょう」
マリナは懐かしそうに話すが、エミリーは自分の運がいいとは思えなかった。運が良かったらそもそも悪役令嬢などに転生しないのではないか。

「アイリーンが学院祭の準備をしている間に、取られたアクセサリーを取り返そうよ。委員の仕事が忙しくなれば、部屋を留守にするよね」
前のめりで話し出したジュリアは、学院祭より宝物奪還作戦に興味津々だった。
「そうね。伯爵家以上でないと使用人を連れて来られないもの。彼女がいない間は誰もいないはずよ」
「じゃあさ、忍び込んだらさっと取って来れる?エミリーが転移すれば」
「……無理」
はあ、とエミリーは溜息をついて肩を竦めた。
「何もしないで置いておくと思う?絶対罠がある」
「ジュリアちゃんが窓から入れないの?」
「罠があるんでしょ?罠って、トラバサミとか?うわ、超痛そう……」
「魔法で何か仕掛けてあっても不思議はないわ。危険よ。そうでなくても、私達が侵入したと分かったら、アイリーンのことですもの、嫌がらせにあったと被害者ぶるでしょう」
悪役令嬢がヒロインをあの手この手でいじめるのは鉄則である。少しでも自分達に不利な状況を作り出してはならない。マリナは押し黙ってしまった。
「……マリナちゃん?」
「しっ、アリッサ。マリナは何かいい考えがあるんだよ」
「……期待できない」
エミリーは半目で姉を見た。そろそろ睡魔に囚われそうだ。
「同じやり方でいきましょうか」
「同じって、何と?」
「はっ……もしかして!」
アリッサはぐらぐらと左右に揺れ始めていたエミリーを、がくがくと揺さぶった。
「起きて!エミリーちゃん」
「……んん。な、に……」
「使用人が来ていない生徒の世話は、寮付きの侍女と従僕が月替わりで受け持っているでしょう?アイリーンが『魅了』したように、エミリーに『隷属』させる魔法をかけてほしいの」

マリナがエミリーの耳元で話し、起きているのか寝ているのか不明なエミリーが何となく頷いている横で、ジュリアは難しい話に頭が混乱していた。
「よく分かんないや。魔法の話?」
「ジュリアちゃんは分からなくてもきっと大丈夫よ。『魅了』はアイリーンがアレックス君にかけた光魔法で、『隷属』はその対になる闇魔法ね。エミリーちゃんなら魔法を使えると思うけど、問題は……」
眉を寄せて口ごもった。
「マシュー先生が怪しまないで教えてくれるかしら……」
マシューはエミリーに対して過保護な面がある。危険な魔法を使うと知り、何が何でも止めるのではないか……アリッサはマリナの作戦に不安を覚えたのだった。
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