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学院編 6 演劇イベントを粉砕せよ!
165 悪役令嬢は闇に吼える
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エミリーとロンが連れて来られたのは、物置として使用された後、使わずに放置されていた旧校舎だった。兵士達に歩かされて建物の一室に着いた時、真新しい鉄格子の前に黒衣の男が立っていた。
「……ドウェイン、お前……」
ロンは低い唸るような声で呟いて睨みつけた。ドウェインは気にも留めず、兵士達に二人を鉄格子の向こうへ入れるよう指示する。
ガシャン。
牢の入口が閉められる。ドウェインは魔法を発動させながら戸口を指でなぞり、にやりと笑った。
――火魔法!?
骸骨のように細い指先から迸る炎が牢の入口を溶かし、出られないように溶接している。
「学院には時々、コソ泥が入り込むのでね。こうして簡易な牢が用意されているんだ。まさか、ここに学院の関係者が入ることになるとは……いやはや、何があるか分からないものだな」
と白々しく言い、魔法が使えないロンを目がけて、強力な風魔法を放った。
バウッ!
突風が起こり、跳ね飛ばされたロンは石造りの壁に背中を強打し、ぐふぅ、と呻いた。髪を結っていた紐が解け、赤紫色の髪が冷たい床に広がった。
「反抗的な容疑者は、おとなしくさせないとな」
――酷い。許せない!
「私達、何もしていません!」
「言うな、エミリー!」
反論しようとしたエミリーを、息も絶え絶えなロンが制する。
「いい心がけだ。何も言わなくとも、お前達は裁かれる。……そうだな、間もなく始まる学院祭の期間中は、外から来る客も多い。終わったら、本物の刑務所に連れて行かれるだろうな」
三日後から学院祭が始まる。少なくとも五日間は、この暗くて冷たい牢に入れられたままなのだろうか。すぐに戻れると思って姉達には行先を告げて来なかった。エミリーは酷く後悔した。
「心配するな。あのスタンリーには俺が付き添ってやる。つらい記憶を忘れられるように、しっかり治療してやるさ」
治癒魔法を使えないドウェインに治療などできるはずがない。恐らく、記憶を消す、忘却魔法をかけるつもりなのだ。自分達の無実を証明できるのは、彼の証言しかないのに。
「新しい制服も用意してやらなければな。所々焼けていたそうじゃないか」
ドウェインはクックッと笑った。そして、壁に凭れて荒い息をしているロンに、
「雷撃はお得意ですよね、ロン先生?」
と白目の多い瞳を見開き、口の端を歪めて問いかけると、返答を聞かずに部屋を出て行った。
◆◆◆
ドウェインの足音が遠ざかったのを確認し、エミリーはロンに駆け寄った。
白い石壁に背を預け、斜め上をぼんやりと見つめて、ハアハアと苦しそうに息を荒げている。
「風、魔法……を、腹に食らっちゃった」
ウインクをしているのか、片目を瞑りエミリーに笑いかける。
「……無理に笑わなくていい」
「ふふっ。……っく、……うう。……魔法、使えたら、いい、のに……」
「……私の居場所はマシューが見つけるから」
「マシューが?……いいな、愛し、あって、るんだ?」
「苦しいなら話さないで」
白い指先がロンの唇に触れる。水色の瞳が優しく細められ、そのままロンは目を閉じた。
廊下を走る音がする。エミリーが部屋の入口を振り返ると、黒い人影が見える。牢として改造された大きな窓のない部屋は、天井付近に小さな窓があるだけで、ドウェインが持っていた魔法灯がない今はほぼ真っ暗だった。
――またドウェインが来たの!?
ロンは瀕死の状態だ。次に魔法をまともに食らったら、確実に命にかかわるだろう。
「来ないで!ロン先生に手を出さないで!」
エミリーにはもう、声を出すしか抗う術がなかった。普段は滅多に大声を出さないが、大きく息を吸い込んで叫んだ。
「エミリー!そこにいるんだな!」
――!!
声にならない。
牢の鉄格子に向かってエミリーが走り出すと、それより早く鉄格子にぶつかったマシューが声を上げた。
ガシャン!
「ちっ、強化魔法をかけてあるな……っぐう!」
呻いたのは魔法を解くためではない。走り寄ったエミリーが首に抱きついたからだ。
「……来てくれて、嬉しい」
「少し離れていろ。ロンの傍に」
「……うん」
抱きついてもマシューは何とも思わなかったのだろうか。エミリーは壁際まで後退し、ロンの隣に座った。牢の鉄格子が赤く光を放ち、溶けてやがて消滅した。物凄いエネルギーだった。
「……エミリーは歩けるか?」
歩み寄ってきたマシューは、傷ついたロンの様子を確認し、眉間に皺を寄せた。
「歩ける」
「俺はロンを運ぶ。……そうだな、二人ともここを脱出したと気づかれては、また狙われるかもしれない」
エミリーが首を傾げた瞬間、マシューは壁に向かって魔法を放った。
「……今の何?……あっ!」
今までロンが凭れていたところに、意識を失っている二人の幻影が浮かんだ。
「……幻覚魔法だ。そこに『ない』ものを『ある』ように感じさせる。ドウェインは闇属性持ちだが、奴の実力では『ない』ものからは幻覚を生み出せない。『ある』ものが形を変えて見えるだけだ」
「……私達がいないと思われない?」
「ああ。……急ごう。ロンを治療させる」
「どこへ?学院内は……」
ローブの袖を掴んだエミリーに、マシューはフッと笑いかけた。手から放たれた魔法が鉄格子をみるみるうちに元通りに修復していく。
「……木は森に隠せ、だ」
ロンを肩に担ぎ、片手でエミリーを抱き寄せると、彼らの周りを白い光が包んだ。
「……ドウェイン、お前……」
ロンは低い唸るような声で呟いて睨みつけた。ドウェインは気にも留めず、兵士達に二人を鉄格子の向こうへ入れるよう指示する。
ガシャン。
牢の入口が閉められる。ドウェインは魔法を発動させながら戸口を指でなぞり、にやりと笑った。
――火魔法!?
骸骨のように細い指先から迸る炎が牢の入口を溶かし、出られないように溶接している。
「学院には時々、コソ泥が入り込むのでね。こうして簡易な牢が用意されているんだ。まさか、ここに学院の関係者が入ることになるとは……いやはや、何があるか分からないものだな」
と白々しく言い、魔法が使えないロンを目がけて、強力な風魔法を放った。
バウッ!
突風が起こり、跳ね飛ばされたロンは石造りの壁に背中を強打し、ぐふぅ、と呻いた。髪を結っていた紐が解け、赤紫色の髪が冷たい床に広がった。
「反抗的な容疑者は、おとなしくさせないとな」
――酷い。許せない!
「私達、何もしていません!」
「言うな、エミリー!」
反論しようとしたエミリーを、息も絶え絶えなロンが制する。
「いい心がけだ。何も言わなくとも、お前達は裁かれる。……そうだな、間もなく始まる学院祭の期間中は、外から来る客も多い。終わったら、本物の刑務所に連れて行かれるだろうな」
三日後から学院祭が始まる。少なくとも五日間は、この暗くて冷たい牢に入れられたままなのだろうか。すぐに戻れると思って姉達には行先を告げて来なかった。エミリーは酷く後悔した。
「心配するな。あのスタンリーには俺が付き添ってやる。つらい記憶を忘れられるように、しっかり治療してやるさ」
治癒魔法を使えないドウェインに治療などできるはずがない。恐らく、記憶を消す、忘却魔法をかけるつもりなのだ。自分達の無実を証明できるのは、彼の証言しかないのに。
「新しい制服も用意してやらなければな。所々焼けていたそうじゃないか」
ドウェインはクックッと笑った。そして、壁に凭れて荒い息をしているロンに、
「雷撃はお得意ですよね、ロン先生?」
と白目の多い瞳を見開き、口の端を歪めて問いかけると、返答を聞かずに部屋を出て行った。
◆◆◆
ドウェインの足音が遠ざかったのを確認し、エミリーはロンに駆け寄った。
白い石壁に背を預け、斜め上をぼんやりと見つめて、ハアハアと苦しそうに息を荒げている。
「風、魔法……を、腹に食らっちゃった」
ウインクをしているのか、片目を瞑りエミリーに笑いかける。
「……無理に笑わなくていい」
「ふふっ。……っく、……うう。……魔法、使えたら、いい、のに……」
「……私の居場所はマシューが見つけるから」
「マシューが?……いいな、愛し、あって、るんだ?」
「苦しいなら話さないで」
白い指先がロンの唇に触れる。水色の瞳が優しく細められ、そのままロンは目を閉じた。
廊下を走る音がする。エミリーが部屋の入口を振り返ると、黒い人影が見える。牢として改造された大きな窓のない部屋は、天井付近に小さな窓があるだけで、ドウェインが持っていた魔法灯がない今はほぼ真っ暗だった。
――またドウェインが来たの!?
ロンは瀕死の状態だ。次に魔法をまともに食らったら、確実に命にかかわるだろう。
「来ないで!ロン先生に手を出さないで!」
エミリーにはもう、声を出すしか抗う術がなかった。普段は滅多に大声を出さないが、大きく息を吸い込んで叫んだ。
「エミリー!そこにいるんだな!」
――!!
声にならない。
牢の鉄格子に向かってエミリーが走り出すと、それより早く鉄格子にぶつかったマシューが声を上げた。
ガシャン!
「ちっ、強化魔法をかけてあるな……っぐう!」
呻いたのは魔法を解くためではない。走り寄ったエミリーが首に抱きついたからだ。
「……来てくれて、嬉しい」
「少し離れていろ。ロンの傍に」
「……うん」
抱きついてもマシューは何とも思わなかったのだろうか。エミリーは壁際まで後退し、ロンの隣に座った。牢の鉄格子が赤く光を放ち、溶けてやがて消滅した。物凄いエネルギーだった。
「……エミリーは歩けるか?」
歩み寄ってきたマシューは、傷ついたロンの様子を確認し、眉間に皺を寄せた。
「歩ける」
「俺はロンを運ぶ。……そうだな、二人ともここを脱出したと気づかれては、また狙われるかもしれない」
エミリーが首を傾げた瞬間、マシューは壁に向かって魔法を放った。
「……今の何?……あっ!」
今までロンが凭れていたところに、意識を失っている二人の幻影が浮かんだ。
「……幻覚魔法だ。そこに『ない』ものを『ある』ように感じさせる。ドウェインは闇属性持ちだが、奴の実力では『ない』ものからは幻覚を生み出せない。『ある』ものが形を変えて見えるだけだ」
「……私達がいないと思われない?」
「ああ。……急ごう。ロンを治療させる」
「どこへ?学院内は……」
ローブの袖を掴んだエミリーに、マシューはフッと笑いかけた。手から放たれた魔法が鉄格子をみるみるうちに元通りに修復していく。
「……木は森に隠せ、だ」
ロンを肩に担ぎ、片手でエミリーを抱き寄せると、彼らの周りを白い光が包んだ。
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