悪役令嬢が四つ子だなんて聞いてません!

青杜六九

文字の大きさ
471 / 794
学院編 10 忍び寄る破滅

299 悪役令嬢は術式を編み出す

しおりを挟む
アリッサと二人で生徒会室に入ったマリナは、集まったメンバーを見て
「あら?」
と小さく声を上げた。
「マクシミリアン先輩、他の皆さんは?」
書類に目を走らせていたマクシミリアンが顔を上げ、感情が読めない顔でこちらを見た。
「キースは明日のために勉強をするそうです。一科目だけ追試になったとか。会長は公務があって行けないと、休み時間に私のところへ来て仰っていました」
「そうなんですか……」
あからさまに残念そうな顔をしたマリナに、マクシミリアンはほんの少し微笑んだ。
「……会長に会いたかったと、顔に書いてありますよ?」
「そ、そうですけど、言わないでください!」
真っ赤になって両手で顔を隠す。
「マリナちゃん……」
隣でアリッサが複雑な気持ちになっていることなど、マリナは知る由もなかった。

   ◆◆◆

「先日話し合った件ですが、会長は承諾するそうです」
「パートナーを探す女子生徒が申し出てくれるように、ですね。理由をもう少し聞かせてください」
マクシミリアンの作戦をアリッサから聞かされていたマリナは、セドリックが客寄せパンダになるのをあまりよく思っていなかった。つい、きつい口調になってしまう。
「はい。パートナーを探す生徒は多くいますが、男子生徒に比べ、女子生徒はパートナーがいなくても申し出ないことが多いようなのです。三年生に詳しく話を聞いて分かったのですが、パートナーを探してもどうせ壁の花だと諦めてしまっていると。生徒会でパートナーを斡旋してもらったり、友達の伝手で紹介してもらっても、ダンスを一回踊ればお役御免とばかりに、パートナーがどこかへいなくなってしまう。壁の花になってみじめな思いをするよりは、最初から参加しない方がいいと」
「それなら、男子生徒だって同じではありませんか」
「パートナーに去られても、男子の間では噂が広がりませんからね。要するに、どうでもいいのですよ。女子は違うでしょう?あの令嬢が壁の花になったと、翌日には噂になる。晒し者もいいところです」

マリナは黙って、いつかのパーティー会場を思い出した。自分自身はパートナーに困ったことはない、というより、セドリック以外とパートナーになったことはないのだが、会場には何人も壁の花と呼ばれる令嬢がいた。パートナーと会場に来ても、彼は友人と話していたり、あろうことか他の女性にアプローチしていたりする。令嬢自身もあまり交友関係が広くなく、会話に加わることもできずにいるのだ。
「……確かに、噂は恐ろしいですわね」
「王立学院は小さな社交界です。ここで傷つけられたら、将来、社交界に出るのが恐ろしくなると思いませんか?」
「あのー」
「アリッサ?」
「皆さんにお相手を見繕ったところで、会場に放って置かれるのは同じだと思うんです。だから、パートナーがいなくても楽しめるように、お話で盛り上がれる場所があればいいのかなって」
「なるほど……サロンですか」
「お友達ができれば……きっと楽しいと思います」
「講堂の控室をいくつか開放しましょう。踊りつかれたら休めるようにと」
マクシミリアンはさらさらとノートに書き留めた。
「今日の話し合いの結果は、後で私から会長に報告しておきます。レイモンド副会長が戻られたら、衣装の件とパートナーの組み合わせを詰めましょう」
「分かりました」

   ◆◆◆

「うわー、何これ、すごくない?」
女子寮の部屋に届けられたドレス一式を見て、ジュリアが大騒ぎをした。エミリーはどうでも良さそうに魔法球を投げては撃ち投げては撃ちを繰り返している。先日のデートでは気合の入ったお洒落をしたが、普段は黒いローブが手放せない。
「ジュリアのじゃないし」
「いいじゃん。こういう豪華なのって、いつ見ても癒されるぅ」
「……けばけばしくて好きじゃない」
「エミリーは地味すぎるんだよ。これ見てよ、織模様が細かいよねえ。よく見ると高級感たっぷりで、マリナが好きそうな感じ。殿下はよく分かってるなあ」
ジュリアが勝手に開けた箱は、セドリックからマリナへのプレゼントだった。よかったら銀雪祭のパーティーで着てほしいと、短いメッセージカードが添えられていた。

「王太子殿下はマリナ様を大切になさっておいでですから、学院の行事にもこのように素晴らしいお品を届けてくださるのですね」
「やっぱ、リリーもそう思う?」
「はい。布地の美しさもさることながら、仕立ての見事なこと。この細かいフリルと糸の始末が……」
リリーが目を輝かせて話しだし、ジュリアはしまったと思った。長くなりそうだ。
「この色、遠くから見ると緑っぽく見えるんだけど、近寄ると青に金なんだよね。殿下の色じゃん?マリナと踊る気してんのかな」
全体的にシンプルなデザインでありながら、光沢のあるロイヤルブルーの布地は、織模様の金糸と相まって、高級感を醸し出している。裾や肩口に控えめについているフリルやリボンも嫌味がない。
「……さあね」

エミリーは魔法球を撃ち、徐に椅子から立ち上がると、リリーが手触りを楽しんでいるドレスに手をかざした。
「……ふう。予想通りだわ。強力な結界が織り込まれてる」
「結界?」
「これに使った糸自体に、防御魔法がかけられているの。私のローブより、魔法防御が高いかも」
「へえー、すっごいな。殿下はこの間のこと気にしてるんだね」
「きっと、マリナには近寄らないようにするつもりだろう。……あ!」
バタバタと机に走って行き、エミリーはノートに何やら書き出した。
「これは……で……ん?でも……ああ、これが……」
「エミリー、何やってんの?」
「話しかけないで、集中してるんだから」
ジュリアが覗き込むと、エミリーは数式のような図のような文章のような何かを書いていた。何を書いているのかさっぱり理解できない。
「……と、ああー、……ダメか」
「魔法?」
「『命の時計』に対抗する術式を考えるの。無効化できないなら、逆の作用をさせればいい」
マリナに教えないでこっそり魔法を解こうとしているのだ。
「エミリーは頑張ってるなあ。私も何かできればいいんだけど」
「……まずは、追試頑張れば?明日でしょ」
「ぐうう……」
胸を押さえてヤラレタと呻き、ジュリアは長椅子に倒れ込んだ。

しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな
恋愛
 オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。 見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!  殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。 ※糖度甘め。イチャコラしております。  第一章は完結しております。只今第二章を更新中。 本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。 本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。 「小説家になろう」でも公開しています。

生まれ変わりも楽じゃない ~生まれ変わっても私はわたし~

こひな
恋愛
市川みのり 31歳。 成り行きで、なぜかバリバリのキャリアウーマンをやっていた私。 彼氏なし・趣味は食べることと読書という仕事以外は引きこもり気味な私が、とばっちりで異世界転生。 貴族令嬢となり、四苦八苦しつつ異世界を生き抜くお話です。 ※いつも読んで頂きありがとうございます。誤字脱字のご指摘ありがとうございます。

村娘になった悪役令嬢

枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。 ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。 村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。 ※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります) アルファポリスのみ後日談投稿しております。

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?

こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。 「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」 そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。 【毒を検知しました】 「え?」 私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。 ※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

【完結】転生したので悪役令嬢かと思ったらヒロインの妹でした

果実果音
恋愛
まあ、ラノベとかでよくある話、転生ですね。 そういう類のものは結構読んでたから嬉しいなーと思ったけど、 あれあれ??私ってもしかしても物語にあまり関係の無いというか、全くないモブでは??だって、一度もこんな子出てこなかったもの。 じゃあ、気楽にいきますか。 *『小説家になろう』様でも公開を始めましたが、修正してから公開しているため、こちらよりも遅いです。また、こちらでも、『小説家になろう』様の方で完結しましたら修正していこうと考えています。

【完結】溺愛?執着?転生悪役令嬢は皇太子から逃げ出したい~絶世の美女の悪役令嬢はオカメを被るが、独占しやすくて皇太子にとって好都合な模様~

うり北 うりこ@ざまされ2巻発売中
恋愛
 平安のお姫様が悪役令嬢イザベルへと転生した。平安の記憶を思い出したとき、彼女は絶望することになる。  絶世の美女と言われた切れ長の細い目、ふっくらとした頬、豊かな黒髪……いわゆるオカメ顔ではなくなり、目鼻立ちがハッキリとし、ふくよかな頬はなくなり、金の髪がうねるというオニのような見た目(西洋美女)になっていたからだ。  今世での絶世の美女でも、美意識は平安。どうにか、この顔を見られない方法をイザベルは考え……、それは『オカメ』を装備することだった。  オカメ狂の悪役令嬢イザベルと、  婚約解消をしたくない溺愛・執着・イザベル至上主義の皇太子ルイスのオカメラブコメディー。 ※執着溺愛皇太子と平安乙女のオカメな悪役令嬢とのラブコメです。 ※主人公のイザベルの思考と話す言葉の口調が違います。分かりにくかったら、すみません。 ※途中からダブルヒロインになります。 イラストはMasquer様に描いて頂きました。

お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない

あーもんど
恋愛
ある日、悪役令嬢に憑依してしまった主人公。 困惑するものの、わりとすんなり状況を受け入れ、『必ず幸せになる!』と決意。 さあ、第二の人生の幕開けよ!────と意気込むものの、人生そう上手くいかず…… ────えっ?悪役令嬢って、家族と不仲だったの? ────ヒロインに『悪役になりきれ』って言われたけど、どうすれば……? などと悩みながらも、真っ向から人と向き合い、自分なりの道を模索していく。 そんな主人公に惹かれたのか、皆だんだん優しくなっていき……? ついには、主人公を溺愛するように! ────これは孤独だった悪役令嬢が家族に、攻略対象者に、ヒロインに愛されまくるお語。 ◆小説家になろう様にて、先行公開中◆

処理中です...