ツンデレ貴公子は守備範囲外なので悪役令嬢に押し付けたい

青杜六九

文字の大きさ
19 / 77
乙女ゲーム以前

憧れの人(?)との対面

しおりを挟む
翌々日。
アレセス家の中庭で、私は緊張して待っていた。
「そんなに堅くならなくていいんですよ?」
「はあ……」
テーブルを挟んで向かい側に座っているイルデフォンソは、天使の微笑で私に言う。
だって、二次元でときめいた超絶美形と二人きりなのよ?この状況で緊張しないなんておかしいでしょう?
「リナは間もなく着きますよ。あなたと会うのにどんなドレスを着たらいいかと悩んでいましたので、多少支度に時間がかかっているのでしょう」
「突然お願いして申し訳ありません」
「いいえ。リナが同性に慕われているなどと思いませんでしたから、私も嬉しいのですよ」
にこにこ。
うわあ、超綺麗だわ、この人。
でも、どこか黒いオーラを感じるのは気のせいではないわよね?

「ごめん、イルデ。コルセットが苦しくて」
赤黒い髪を振り乱して、スカートの裾を持ち上げて少女が走ってきた。
走る?
令嬢なのに?
「……リナ。エレナ嬢の前で下着の話など、はしたないですよ?」
「あ、そうだった。……コホン。イルデフォンソ、そちらは?」
「エレナ嬢です。こちらはアレハンドリナ。リエラ伯爵令嬢です」
「メンディサバル伯爵の長女、エレナと申します。初めてお目にかかります」
「よろしくね、エレナ」
あれ?
やけにあっさりして……気のせいよね?
隣でクラウディオが咳払いをする。
「……リナ」
「何よ、イルデ」
私に背を向けて、イルデフォンソはアレハンドリナに何か言っている。
声が丸聞こえなんですけど。
「昨日特訓したでしょう?令嬢らしく挨拶をと」
「えー?覚えてないわよ。イルデ相手に畏まるのなんておかしくて。笑った記憶しかない」
「あなたという人は……いいですか?何を間違ったか、エレナ嬢はあなたを素晴らしい令嬢だと誤解しているんです。ここで噂通り素晴らしい令嬢だと思わせれば……」
「勘違いにつけこむのって、あんまり……私の信条に反するっていうか」
「あなたの信条はこの際どうでもいいんです。彼女はあなたに憧れているのですから、見た目だけでもしっかりしてください」
「面倒だなあ」
「また裾をひっくり返して……私が贈ったドレスが台無しじゃないですか」
「はいはい。悪かったわね。そうそう、イルデからドレスをもらったって言ったら、お母様がびっくりしてたわ。『リナちゃんもそんな年頃なのね』とか言っちゃって」
イルデフォンソの顔が少し赤くなった。

「あの……」
思いきって声をかける。二人の世界に無理やり入るようで気が引けるわ。
「ごめんね、エレナ様」
「リナ。言葉づかいを……」
「うるさい、ちょっと黙ってて」
アレハンドリナの蹴りがイルデフォンソの向こう脛に当たる。彼は声を出さずに屈みこんだ。
「こんな私でがっかりしたでしょ?私、あなたが噂で聞いたみたいな、できた令嬢じゃないの。令嬢ブリッコもできないから……えっと……」
しどろもどろになって視線を彷徨わせる。アレハンドリナは期待した悪役令嬢とは違うようだ。だからと言って、私の計画は変更できないわ。
「アレハンドリナ様!」
胸の前で手を組み、祈るようなポーズで彼女を見上げた。三歳の年齢差があるから、必然的に私はアレハンドリナを見上げてしまう。
「私、感動いたしましたわ!」
「は……ええっ?」
アレハンドリナは気怠そうな瞳を大きく見開いた。
「アレハンドリナ様はとても進歩的な方ですのね。女は一歩引いて男性の後ろを歩けと言うような大人も多いでしょうに、イルデフォンソ様とは対等な関係を築いていらっしゃる」
「え?あ、そうだね、対等……」
「ぜひ、見習わせていただきたいのです。どうか……」
戸惑うアレハンドリナの手を取って、じっと見つめてみた。先ほどから見ている限り、彼女は社交慣れしていない。友達もいないようだし、少し踏み込んだら……。
「お姉様と呼ばせてください!」
「え、ええええ?」
悪役令嬢は顔を真っ赤にして声を上げた。

   ◆◆◆

仲介してくれたイルデフォンソの顔を立てて、アレハンドリナと会う場所は必ずアレセス家だった。お目付け役のイルデフォンソの都合が悪い時は断られる。困ったな。クラウディオを売り込むのに、イルデフォンソの目が光っていたのではやりにくい。
「あの……リナお姉様?」
ちらり、とイルデフォンソに視線を走らせる。
「なあに、エレナ」
アレハンドリナは打ち解けるととてもざっくりした適当な性格だと分かった。その上、いろいろと危なっかしい。イルデフォンソが心配するのも分かる。どこが悪役令嬢なのだろうかと思うほどだ。
「実は……その……」
ちらり。
イルデフォンソがいたら話せない話よ、とそれとなく視線で訴えてみる。
アレハンドリナは何度か瞬きして、瞳を細めてうんうんと頷いた。
「……イルデ、ちょっと席はずしてもらえる?」
「どうしてですか」
「いいから、さっさといなくなってよ」
「ここは私の家です。あなたに居場所をとやかく言われる筋合いはありませんが」
綺麗な顔は怒ると怖いわ。イルデフォンソは軽く私を睨んだ。婚約者の友達を睨むとか、正直どうなのかしら。
「だったら、お邸の周りを一周歩いてきてよ。その間に話は終わる……わよね?」
「はい」
ちょっと短いけどいいわ。要点をまとめて伝えるし。
「……だそうよ。女の子同士の秘密の話を聞こうなんて野暮な真似しないでくれる?」
「はあ……分かりました。くれぐれも恥ずかしい話はしないように」
恥ずかしい話って何だろう?二人は婚約者同士だから、いろいろあるんだろうな……。
イルデフォンソはこちらを気にしながら部屋を出て行った。

「邪魔者は行ったわ。……それで、話って何かしら」
「アレハンドリナ様……実は、私、婚約しているんです」
何だそんなこと?とアレハンドリナは首を傾げた。
「知ってるわ。イルデから聞いたもの」
「私の婚約者をご存知なのですね?」
「……うん。名前を聞いた、と思う。けど、思い出せないわ。確か、公爵家で、ビビアナ様のお兄様よね」
「そうです。リナお姉様は、ビビアナ様とお親しいのですか?」
「全然。……お名前だけよ」
「ビビアナ様は私によくしてくださいます。でも……」
「婚約者は嫌な奴なの?」
鋭い。ぼんやりしているように見えて、意外とついてくるのね。
「……はあ、そう、なんです。……はっ、ち、違いますよ、す、素敵な殿方なんです!」
まずい。
売りこみに来たはずが、恋愛相談みたいになっちゃってるじゃない。
「素敵だと思ってないんでしょ?」
「嫌ですよ、お姉様。クラウディオはとっても……カッコいいんです」
「ふぅん」
薄い反応だな。もうひと押ししないとダメかも。とにかく興味を持ってもらわないことには……。
「頭もよくて、マナーも完璧だし、ダンスも上手で……」
「でも、ときめかないんでしょう?」
「は?」
ときめくとかときめかないとか、思ったこともなかったわ。
「だから、エレナ様はイルデを好きになっちゃった、ってことよね?」
アレハンドリナはぽってりとした唇の端を上げ、楽しそうに微笑んだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生ヒロインは悪役令嬢(♂)を攻略したい!!

弥生 真由
恋愛
 何事にも全力投球!猪突猛進であだ名は“うり坊”の女子高生、交通事故で死んだと思ったら、ドはまりしていた乙女ゲームのヒロインになっちゃった! せっかく購入から二日で全クリしちゃうくらい大好きな乙女ゲームの世界に来たんだから、ゲーム内で唯一攻略出来なかった悪役令嬢の親友を目指します!!  ……しかしなんと言うことでしょう、彼女が攻略したがっている悪役令嬢は本当は男だったのです! ※と、言うわけで百合じゃなくNLの完全コメディです!ご容赦ください^^;

所(世界)変われば品(常識)変わる

章槻雅希
恋愛
前世の記憶を持って転生したのは乙女ゲームの悪役令嬢。王太子の婚約者であり、ヒロインが彼のルートでハッピーエンドを迎えれば身の破滅が待っている。修道院送りという名の道中での襲撃暗殺END。 それを避けるために周囲の環境を整え家族と婚約者とその家族という理解者も得ていよいよゲームスタート。 予想通り、ヒロインも転生者だった。しかもお花畑乙女ゲーム脳。でも地頭は悪くなさそう? ならば、ヒロインに現実を突きつけましょう。思い込みを矯正すれば多分有能な女官になれそうですし。 完結まで予約投稿済み。 全21話。

なりゆきで妻になった割に大事にされている……と思ったら溺愛されてた

たぬきち25番
恋愛
男爵家の三女イリスに転生した七海は、貴族の夜会で相手を見つけることができずに女官になった。 女官として認められ、夜会を仕切る部署に配属された。 そして今回、既婚者しか入れない夜会の責任者を任せられた。 夜会当日、伯爵家のリカルドがどうしても公爵に会う必要があるので夜会会場に入れてほしいと懇願された。 だが、会場に入るためには結婚をしている必要があり……? ※本当に申し訳ないです、感想の返信できないかもしれません…… ※他サイト様にも掲載始めました!

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

【完結】元悪役令嬢は、最推しの旦那様と離縁したい

うり北 うりこ@ざまされ2巻発売中
恋愛
「アルフレッド様、離縁してください!!」  この言葉を婚約者の時から、優に100回は超えて伝えてきた。  けれど、今日も受け入れてもらえることはない。  私の夫であるアルフレッド様は、前世から大好きな私の最推しだ。 推しの幸せが私の幸せ。  本当なら私が幸せにしたかった。  けれど、残念ながら悪役令嬢だった私では、アルフレッド様を幸せにできない。  既に乙女ゲームのエンディングを迎えてしまったけれど、現実はその先も続いていて、ヒロインちゃんがまだ結婚をしていない今なら、十二分に割り込むチャンスがあるはずだ。  アルフレッド様がその気にさえなれば、逆転以外あり得ない。  その時のためにも、私と離縁する必要がある。  アルフレッド様の幸せのために、絶対に離縁してみせるんだから!!  推しである夫が大好きすぎる元悪役令嬢のカタリナと、妻を愛しているのにまったく伝わっていないアルフレッドのラブコメです。 全4話+番外編が1話となっております。 ※苦手な方は、ブラウザバックを推奨しております。

『処刑されるたびに12歳に戻る悪役令嬢、7回目の人生は「何もせず寝て過ごす」ことに決めたら、なぜか周囲が勝手に勘違いして聖女扱いされています

六角
恋愛
公爵令嬢リリアーナは、18歳の誕生日に必ず断罪・処刑されては12歳に戻るという地獄のループを6回も繰り返していた。 真面目に努力しても、剣を極めても、裏社会を支配しても、結局は殺される運命。 心折れた彼女は、7回目の人生でついに決意する。 「もう頑張らない。どうせ死ぬなら、今回はひたすら寝て過ごそう」と。 しかし、安眠を求めて「うるさい」と敵を黙らせれば『王者の覇気』と恐れられ、寝ぼけて放った魔法は『神の奇跡』と崇められ、枕への異常なこだわりは『深遠なる儀式』と誤解されてしまう。 気がつけば、ストーカー気味のヤンデレ王子、パン屋の元ヒロイン、狂犬の如きライバル令嬢、元部下の暗殺者、そして不眠症の魔王までもが彼女の信者となり、リリアーナは意図せずして国を、そして世界を救う「最強の聖女」へと祭り上げられていく。 「お願いだから、私を寝かせて!」 睡眠欲だけで運命(システム)さえもねじ伏せる、無気力悪役令嬢の痛快勘違いサクセス(?)ストーリー!

わがままな婚約者はお嫌いらしいので婚約解消を提案してあげたのに、反応が思っていたのと違うんですが

水谷繭
恋愛
公爵令嬢のリリアーヌは、婚約者のジェラール王子を追いかけてはいつも冷たくあしらわれていた。 王子の態度に落ち込んだリリアーヌが公園を散策していると、転んで頭を打ってしまう。 数日間寝込むはめになったリリアーヌ。眠っている間に前世の記憶が流れ込み、リリアーヌは今自分がいるのは前世で読んでいたWeb漫画の世界だったことに気づく。 記憶を思い出してみると冷静になり、あれだけ執着していた王子をどうしてそこまで好きだったのかわからなくなる。 リリアーヌは王子と婚約解消して、新しい人生を歩むことを決意するが…… ◆表紙はGirly Drop様からお借りしました ◇小説家になろうにも掲載しています

記憶を失くして転生しました…転生先は悪役令嬢?

ねこママ
恋愛
「いいかげんにしないかっ!」 バシッ!! わたくしは咄嗟に、フリード様の腕に抱き付くメリンダ様を引き離さなければと手を伸ばしてしまい…頬を叩かれてバランスを崩し倒れこみ、壁に頭を強く打ち付け意識を失いました。 目が覚めると知らない部屋、豪華な寝台に…近付いてくるのはメイド? 何故髪が緑なの? 最後の記憶は私に向かって来る車のライト…交通事故? ここは何処? 家族? 友人? 誰も思い出せない…… 前世を思い出したセレンディアだが、事故の衝撃で記憶を失くしていた…… 前世の自分を含む人物の記憶だけが消えているようです。 転生した先の記憶すら全く無く、頭に浮かぶものと違い過ぎる世界観に戸惑っていると……?

処理中です...