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1話…始まりの始まり
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俺の退屈の毎日に終止符が打たれた。夏休み前のことだ。俺はいつも通り昼休みに体育館裏でクラスの陰キャをカツアゲしていた。
「オイ!金出せ!鶴本くん?!俺たち友達だろ?」
「は、はい…今日はこ、これしかなくて…」
「チィ!三千円か。しけてんな!ぶっ殺すぞ!」
その時、先生がに見つかりとっさに逃げる。なんとか逃げ切ったレンヤは、神社の裏でポケットに入れていたタバコを吸い、学校が終わるまで授業をサボった。
学校が終わると置いてきた財布を取るために、教室へ戻り荷物を整理していると俺を探していた先生に捕まった。俺は面談室に連れていかれ昼休みの事情を聞き出された。
「お前が鶴本から金を巻き上げたのか!?まったくお前って奴は…ろくな人間じゃないな!社会には二種類の人間がいる…国のために働き人々の生活をより良い物にする人間、それとお前みたいな、人に迷惑ばかりかけて人を傷つける人間。つまりお前は、社会やこの国のマイナスポイントなんだよ。わかったか?よく頭を冷やすことだな。」
「あっ長すぎて聞こえなあったなぁ?!…家畜が!…」
バァン!!
先生は机を思いっきり叩き、それから長い説教が続いた。脅迫及び窃盗、結果一ヶ月の停学だった。本当は警察沙汰になるのだが学校の評判が落ちる事もあり、学校側は必死に隠している。今日で何回目の停学か分からない。
家に帰ると、また親が違う男を家にあげている。まぁいつもの事だ。ベットに寝そべりポッケトのタバコを吸おうとするが見当たらない。
「あークソ!学校の引き出しに入れっぱかよ。まぁ明日でいいか!」
タバコを吸えずにイライラしながら眠りにつく。
目が覚めると八時前だった。昨日は寝たのは三時くらいだったけどタバコが吸いたくて目が覚めたのだ。コンビニで買えばいいのだか最近、規制が強化され身分証明書がないと買えない。もちろん俺はまだ十七だ。だから窃盗や先輩から高値で買っている。何度か強盗に入ったが警察に捕まるがオチだった。
学校に向かい教室の扉を開ける。
ガシャン!
静まり返るクラス、来るはずのない不良が来たからだ。皆が目を合わせないようにこちらを見ている。いつもこの家畜共はジロジロの俺を見ている。目障りだ!
腹が立ち机を蹴飛ばす。つぎの瞬間!
ガシャン… バターン!
机を蹴り飛ばす音ではなく、教室の扉が激しく倒れるだ。すると教室に仮面を被った男が入ってくる。
「あーなんだー?!お前どこのどいつだ?ふざけた格好しやがって!アッ!」
「席に座れ!君たちは選ばれた、今から私の世界に招待しよう、それと武器と能力やるから生き残ってくれ?!」
訳の分からない状況だ、さすがに誰も反応しない。
「あーお前わいてんのか?ぶっ飛ばしてやるよ!」
レンヤはイライラしていたせいか、謎の男に殴り掛かる。
が、攻撃は全てかわされ投げ飛ばされる。一瞬何が起こったかわからない、レンヤは固まる。
「なかなかいい動きだよ。ヤンキーくん!あと少しだけ相手を見よう」
軽くバカにされたレンヤは、再び襲いかかるが、そこにはもう男はいなかった。
「アイツ!どこ行きやがった!クソォ!出てこい殺すぞ!」
「う、うぁーーあぁ!」
クラス皆が声を上げる。
「今度はなんだ!」
教室を見ると机の上に青白く光った魔法陣が書かれていた。皆は無意識に手をかざし始め、なんと手には様々な武器が握られていた。
「ああ、何が、おこってんだー?」
そんな中奥の席から悲鳴が聞こえてきた。舞い上がる血吹雪、次々に倒れていく家畜共、荒れ狂う一人の男、その手には大きな剣が握られていた。何が起こっているか分からないレンヤの目に映った物は、体育館の裏でカツアゲした鶴本だった。
「はぁはあぁぁっ!殺す…皆殺す今まで僕の事……馬鹿にしてきたやつ全員!あーーーっ!おまえだ!お前が一番憎い!殺す…誰も僕にさからうなぁ!」
「武器持ったくらいで…いい気になるなよ…家畜!」
鶴本の手には身長よりも遥かに大きい剣が握られている片手で持てる重さでは無い!教室にレンヤと鶴本だけ睨み合い他の数人は教室を飛び出るように出ていく。
「あつっぁなは!しぃねぇ…!お前さえいなければ…うぁー!」
鶴本は大きな剣を横に振るがレンヤは軽々と避け、鶴本の顔面に一発渾身の右ストレートをぶちかます!大きな剣が地面に落ち、凄い音が鳴り響く。
落ちた剣を持ち上げようとするレンヤだが剣があまりに重く持ち上がらなかった。仕方なく横に落ちていた、尖った鉄パイプで鶴本の心臓部をジワジワ突き刺す。最初は声を上げていた鶴本だが、やがてピクリとも動かなくなった。
その時のレンヤの目は酷く濁っていた。
*
血みどろになった教室で一人、タバコを吸っていたレンヤにあの男の声が、そう仮面の男だ。すぐにタバコを投げ捨てた。
「おい…どこだ!出てこいよぉ!殴ってやるからぁ!」
「まぁまぁ…そんなに熱くならなくても…まぁ、俺もこんなに直ぐに死ぬとは思わなかったんだ、他の能力が見たかったのに…そう言えば、君を入れてあと九人残ってるよ」
「はぁ!何の話だ」
「つぎは、仲良くね…あともう一つ力や権力を持った人間はその力を試したくなるから気をつける事だね」
「お、おい!」
その言葉を置いていき、男の声はしなくなった。周りには死体の山と肉塊が散らばっていた。その匂い不快には思わず現実だと自覚するいい匂いだった。
レンヤは外の異変に気づき学校を出る、目の前に広がっていたのは大きな城だった。
今さら驚いても仕方ねーか…つかここ何処だよ!日本じゃねぇーしな。そう言えばあの陰キャクソでけぇ剣振り回してたな、何で俺が持てねぇーんだよ。気持ちわりぃーな…それより…。
「おい、誰だ俺の後ろでコソコソしてる奴!出てこい!」
「は~あ、バレてんのかよ。それじゃ~しょうがねぇーな、結構アンタ強いんだね」
後ろの物陰から出てきたのは一人の女。その瞳はとてもなく鋭く強い瞳。それに左手に付けてるのは盾か。
「お前…不良か?いや、不良だろ?その短い金髪と言いその人を殺すような眼。ぜってぇー不良だろ」
「は、何それ?アンタ…バカなの!そんな事より迷わず人を殺すって…結構ぶっ飛んでるな。笑えるわ、何そのジャラジャラ付けてる鎖は厨二病ですか?もしかて…かっこいいと思っちゃてる痛い人ですか?アンタの全部笑えるわ。ぷー面白すぎ」
「あぁっ!喧嘩売ってんのかっ…殴ってやるよ!」
バァン!
「はぁ!?…」
女の顔面に渾身の一撃を入れたはずだが、ダメージを食らったのは俺を方か。まるで厚い鉄の板を殴った気分だ。殴った右手は血が滲み出ている。原因は分かっている、俺が殴る瞬間にあの家畜の目の前に薄いガラスのようなものが出てきた。
「何したんだ!またお前も小細工か?どいつもこいつも気持ちわりぃーんだよ、クソ家畜がぁ!」
「やっぱりアンタの最高だよ、バカはわかんないかぁ。こっちの方が早いと思ったんだけどなぁ」
「ムカつく家畜だな…俺の蹴りは効くぜ」
バァン!
「またかよ…何だよそのガラスは!」
「え!バレてんのかよ…分かりにくいように、あたしの輪郭に合わせて壁張ってたのに。アンタ…最高だよ。」
「はぁ!家畜如きが出しゃばりやがって…」
「ごめんよ…少し前からアンタに少し興味があってな。この壁はこの盾のおかげなんだ、アンタも取っただろ?机の上の武器」
「あぁ…俺には必要ねぇー、ん!それでここはどこだ?あの仮面は何者だ?一体何が起こっている!」
「ん~…結果を言うと何にも知らない。あたしが学校に来たらこんな感じ…て言うかあたしは今日、転入する予定だったんだけど。このアリ様……でも一つ知ってる事があるこの盾…武器は大切だって事」
「いらねぇーよ…じぁな」
レンヤは女に背を向けて城へ歩いていく。
バァーン!
後ろのげた箱が一気に吹っ飛ぶ。砂煙が上がる中、キュッパキパキと気味の悪い音を立てながらこちらに何かが近ずいてくる。その影はだんだんと大きくなり姿を現した。その姿とはさっき胸にパイプをぶっ刺した鶴本の姿だ。
「なにこれ!さっき殺したはずじゃ…思いっきり心臓にパイプ刺さってんじゃん。何でうごいてんの?まるでゾンビだな」
「はぁ!まだ生きてんのかクソ家畜がっ!いきがんなよっ!」
楽しそうに女は動いた鶴本から距離を置く。
レンヤは無造作に剣を振る鶴本の攻撃を避け鶴本に何発も打ち込む、がよろめく様子も見せずにレンヤを攻撃する。
スパァ!
「はぁ?!何だよ、コイツ打っても打っても死なねぇ…どうなってやがる!家畜のくせに…俺に歯向かってんじゃねぇ!」
レンヤは鶴本の肩の上に乗り、首を両手で掴み捩じりとった。
「うわぁ、グロい…あたし見てられん…うぅ気分が…なんてね!かわいい女の子はここでキャーって叫ぶんだぜ」
「何一人で喋ってんだー、お前も殺すぞ!」
鶴本の体はバタリと倒れ込み血がさらに吹き出る。レンヤはもぎ取った首を紙面に投げつけた。
「二度と起き上がるな!」
「ふぅー!かっこいい!パチパチパチ~」
「うぜぇー、マジで殺すぞ!」
キュ…パキパキ!再び身体が動き出す。
「しつけぇんだよ!まじなんなんだよ!」
首のなくなった鶴本の体は弱々しく動いている、それを見た女が前に出た。
「出しゃばんじゃねぇよ…俺がや…」
すると弱々しく動いていた鶴本の体がピタリ止まった。
「何したんだおめぇー!また、その盾か!」
「そーだよ…あたしの能力の空気操作だよ。便利だよね~、あたしの周りに壁作れるんだから、ほらこんな感じで空中散歩とかも出来ちゃう。あの死体の周りの空気を圧縮して体に沿って空気の壁を作れば『金縛り』みたいな!動き止めたんだから、感謝しろよな!でもなんでゾンビみたいになったんだろーな」
「知らん、お前…よく喋るな。今度こそじぁな、ついてくんなよ」
レンヤは城ではなく学校へ戻っていた。
*
俺の机は、どこだ。血と肉塊で自分の机がよく分からなくなっている。確かここじゃねぇーか。
ガラン…!
あったあった。意味わかんねぇー事ばっか起こるし、武器…あった方が役に立つか。
机を立て直したレンヤは青く光っていた机の上の魔法陣に手をかざした。
レンヤの手には巻物と一本の筆が握られていた。
「はぁ!武器じゃねぇーじゃねーか!アイツ嘘つきやがった…殴ってやる」
「ほー、アンタの武器は巻物と筆か!ぷーまじで笑えるわ、プハハハハッ!はぁーホントにツボるわ!そんなに落ち込むなよ……まぁ教室前で聞いたんだけどよー武器には能力があるって、私で言う空気操作みたいなのだろ、で巻物開いてみたら?」
「あー分かってんよ」
『多数決』
「なんだこれ?多数決?やっぱゴミか」
レンヤの開いた一メートルの巻物には左端に多数決としか書かれていなかった。レンヤはわけも分からずポケットにしまい込み城を目指すことにした。
*
「申し訳ございませんが城壁内に入れることは出来ません!入りたいのであれば身分の証明をしてください」
「そんなんどーでもいいだろ。なんで入れねぇーだよ!ふざけんなよ…!」
「当たり前でしょ…アンタは身元不明の血みどろの怪しい人間なんだから」
「はぁ!なんでついてきてんだよ家畜が!お前もあの陰キャみたいに首もぎ取られたいのか?マジで殺すぞ」
「また家畜呼ばわりか!私の名前は神島 空音その小さな脳みそに詰め込んでおけ!んで、あんたの名前は?!」
「…………」
「無視かよ…」
今コイツに喧嘩売っても勝てる気がしねぇ、どうにかしてあの壁をどうにかしないとな。俺の武器はつぅーかこの変なものどう使うんだよ。多数決…『物事を決める時に、多数意見の方を採決とする』だっけな。ガキの時、俺の案が通らなくて多数の方を全員ボコッたけな。…そんな事より巻物になんか書けばいいのか?じゃー。
『俺はこの城壁内に入れるか』
「こんなんでいいのか…で何すれば?」
「アンタ何してんのよ、ちょっと教えろよ」
レンヤがそう書くとその文字の隣に『入れる』・『入れない』と浮き出てきた。なるほど…そう言うー事か。
「今から、多数決をとる…『俺はこの城壁内に入れるか』?はい!答えろ!」
巻物の右下には三分の〇の数字が浮かび上がる。
「は、何言ってんのアンタ?いきなりなんなんだよ」
「うるせぇーよ…答えろ女!お前もだ、門番!」
「入れる?」
「入れません」
「入れる…いや、入る」
レンヤとソラネは『入れる』、門番は『入れない』と答えた。二対一....次の瞬間、レンヤの持っていた巻物に赤文字で『可』浮き上がった。
「で、これでどうなんだ、巻物さんよ!ただ俺がバカしただけか?おい!なんかやれ…」
「レンヤ様…どうぞ城壁内へ城の方からから許可が出ました」
門番の顔は無表情で目は虚ろだった。まるで何かに操られてる様だ。
「はぁ!アンタ何したんだよ…………………………そう言う事か、クソ!」
「じゃあーな女!そこでワンワン吠えてろ。家畜は外がお似合いだ、ついてきたら殺すから…」
「は!ふざけんなよ!」
ソラネは城壁内に入れてもらえずレンヤだけが城壁内に入っていった。城壁の中には大きな街が広がっている、中に入った血みどろのレンヤは民衆の視線を集めた。
何だここ?発展してんかしてねぇーのか、分かんねーとこだな。言葉は日本語だが顔は色んな奴がいるな…まぁ取り合いず服がいるか、しかしジロジロの見てくるなこの家畜共。
レンヤは服を売ってそうな店へ向かった。
「へい!いらっしゃい血みどろの兄ちゃん、珍しい服着てるね。どんなもの探してんの?うちは色々あるから何でもあるぜ」
「あーそうか、何でもいいから俺にあった服をくれ!」
「兄ちゃんこれなんてどうだ一角うさぎの素材を使ったやつだ、それとも頑丈なリザードマンのやつがいいか?これはさっき入ったんだ」
「こっちでいい」
「そうか、五千ギルになるよ。それにしてもすげー血の量だな何かあったのか兄ちゃん?獣人でもねぇーのに武器も持たずにクエストかい?根性あるねぇー」
バサァ!
レンヤは無言では二つの服を奪い走り出した。もちろんお金は持っておらず奪うしか方法が無いと考えたからだ。
「おい!待てっ…誰か泥棒だ!捕まえてくれっ!あぁあぁ、そこの傭兵さん泥棒だ捕まえてくれー!あの血みどろの男だよ」
「チィ、捕まって溜まるかよ!こっちは何年やってると思っている。さっき街に入った時に逃走経路は確認済みだ!遅ぇーな…家畜共!」
レンヤは、あらかじめ逃走経路を確認して窃盗を働いていた。やがて傭兵は見えなくなり街の裏路地に入り込み、奪った服を着る。服のサイズはピッタリと合っておりこの街の住民と同じような服装だ。
やはり、変な能力だのさっきの服屋の人が一角うさぎだのリザードマンだの言っていたがここは元いた世界とは別の世界と考えられるな。さて、飯でも食うか。
レンヤの手の中には金の入った袋が握られていた。逃走の際にわざと人とぶつかり、財布らしき物を奪っていたのだ。レンヤはフードを深く被り立ち上がった。
カラン…カラン
「いらっしゃいませ!奥の席におすわり下さい」
「あー、この金で食えるもん全部持ってこい」
「ご注文ですね、少々お待ちください」
そう言い、言われるがままに奥の席のカウンターに座った。店の中は人が何人かいるがこちらを見る人間はいない、上手くこの店に馴染めているようだ。注文した大量の料理を口に運んでいると。
「一つ聞きたいことあんだけどよ?なぁ、お前今騒ぎになっている、泥棒だろ!見たぜあの見事のな逃走劇…お前手練だろ」
「だから何だ…誰だ、お前?ここでみんなに言いふらすのか?好きにしろ…たがそのあとは知らねぇーぞ」
「そんな気はねぇ、俺の名はベン…ここら辺で盗賊をやっている。お前も俺の仲間に入らねぇーか?今に人集めてんだよ。俺たちの夢は世界一の自由な盗賊団、最強で最恐の集団さ、どうだ?」
「仲間?んなもん入んねぇーよ…」
「そこを何とか!困ってんなら何でもするからさぁ、なっなっお願い?!」
「じぁー有り金…全部置いていけ!」
カラン…カラン
「ありがとうございました…またのご来店を!」
レンヤはあの後、ベンを一発ぶん殴り気絶させ金とナイフ1本を奪っていた。一瞬、店は静まったがすぐに元の雰囲気に戻ったから別に珍しい事じゃねぇーてことか。しかしこんな目立っていたらすぐに捕まっちまう、もっと目立たねぇー事で金を稼がねぇーと。
「あー!しけてるな、二千えん…じゃ無くて二千ギルかよ。この世界もゴミばっかだなぁ!…………あ、いい事考えた」
バサ!
「おい!ちょっと来い!」
レンヤは明らかに金を持ってそうな奴を裏路地に引っ張りこんだ。
「わ、私はお金など持っていないぞ!だからそんな物騒な事は考えるなよ、も、もし仮に俺様を脅すって言うなら私の部下、百人の傭兵が許さんぞ!」
「おっと、待ってくれよ…そんな事しないよおじさん?
ただアンケートに答えて欲しくて、ちょっとだけだからさぁー」
「あ、アンケート?そ、それなら分かった」
「じぁー、いくよ!多数決を取ります『あなたは持ち金を全てここに置き、その事を誰かに言うか?』さぁーおじさんはどっち?」
『誰かに言う』・『誰にも言わない』
「さぁ、おじさんどっちかな?早く答えてよ!」
「い、一体何なんだ!わ、わわ、私は!ぶ、『部下全員に全てを話す』!お、お前の様な奴は成敗せにゃ、ならんのだ!」
「あらー…残念!俺はねー『誰にも言わない』方がいいと思うよ。おじさ~ん…ハハァ!」
「な、さっきから何を言っておる。それに多数決って一対一で決まらないじゃないか!多数決を知っておるのか?」
「うん!知ってるよおじさん…だからもう一人参加者いるんだよね…ここにねー」
レンヤは、裏路地の木箱の中からボコボコになった女性を出してきた。
「ほら、言ってみてよ…ミシェルさん?ほら早く!どっちだい?『誰かに言う』それとも『誰にも言わない』君ならどっち?」
「『だれにも…いわない』」
「はい、よく出来ました!おじさんこれで二対一だね」
「だから、なんなんだ!こんなことをしても何も意味なんて…………あ!」
レンヤの予想道理におじさんの目はだんだんと光を失っていき、お金が入った大きな袋を置いて街の方に消えていった。
「うわ!今回は、重てぇーな!家畜はさっさと俺に金を渡せばいいんだよ…ジジイがよ!あ、そう言えばミシェルさん…ご協力ありがとうございました、これはお礼です!」
「…た…す…け…」
レンヤは、思ってもいないことを口から吐き、コインを一枚だけ倒れた女性の前に置いて宿を探すことにした。レンヤの腰元には沢山の金の入った袋がぶら下がっていた。
カラン…
「この宿いくらで泊まれる?」
「1泊食事付きで七千ギルです、銭湯は料金別だから気をつけてください」
「じゃーそれで…」
「はい、こちらが二〇二号室の鍵になります。お出かけの際は私かスタッフの方に渡してください、お食事は八時半頃から一階の方でバイキングとなりますのでご自由にお食べ下さい、朝の………あ、あのお客様!」
「……」
レンヤは返事もせずに鍵をとり部屋に向かいベットの上に倒れ込んだ。
*
目を覚ますと外はもう朝だった。レンヤは昨日、宿を借りた後直ぐに眠ってしまったのだ。ベット横に脱ぎ散らかしていた服はピシャと畳まれていた。それに昨日たくさんの人たちから奪ったお金は余るほどあり、ここで一ヶ月ほど暮らせそうだがそうはいかない。
あの仮面野郎に一発、喰らわせねぇーと。
「レンヤ様…朝のお食事の準備が出来ました。準備ができ次第一階にお越しくださいませ」
「あぁ…ああ」
レンヤ言われた通りに服を着て一階におり、食事をするために椅子へと腰をおろした。
「今日の朝食はハムサンド、サラダ、一角うさぎののスープになります。スープは私からの特別メニューです。ごゆっくりと」
朝から一角うさぎのスープとか言うよくわかんねぇーもん食わされると思わなかったな。一体どんな味がするんだ。
レンヤはハムサンド、サラダと食べていき一角うさぎのスープに手を出した。
ゴクンッ!
うまい…とは言えないなんとも言えない味だった。
「おい…」
「お口に合いませんでしたか?」
「いや…」
「あ!体調はどうですか?レンヤ様、昨日はだいぶお疲れに見えましたが?そのスープは疲労回復にいいとされています、お代わりもありますのでぜひ沢山の召し上がって下さいね」
「あ…あぁ、んな事より、お前か俺の服、畳んだの?」
「すいません…勝手に、迷惑でしたのなら深くお詫び申し上げます。あ、あの夕食の時にお見えにならなかったので部屋を覗くと……誠に申し訳ございませんでした!」
「…」
それから、レンヤはスープを残し自分の部屋二〇二号室へ戻った。
クソ何なんだよ!ああ言う事が一番頭にくる。何が疲労回復、それに俺は疲れてなんかねぇー仕事さえすればいい事を…あーイラつくなあの女!
気を悪くしたレンヤはポケットに入っていた残り少ないタバコを口に咥えた。
*
一日前…
「はぁーあ!アイツどこいったんだよ。別に門番がいてもいなくてもあたしは関係無いんだけどね?空中歩けるかからさ。それにしてもデケェ街だな!」
「おっと、そこのね金髪のねぇーちゃん珍しい服きてるね。実は少し前ねぇーちゃんと似た服を着た男が店を泥棒しに来たんだよ。なんか知らないか?」
やっぱりか…アイツのしそうな事だな。
「それなら知っていますがタダでは話さないよ。あたしの着ている服と犯人の情報あげるから、あたしに合った服をくれ!」
ソラネは交渉の挙句、制服、レンヤの情報と引替えに店の人からこの世界に合った服を貰った。
「なかなか似合うじゃん、よーしこれで目立つことも無くアイツを探せるぞ!まずは高い所から見るか!」
へー結構街キレイじゃん。日本とは大違いだな、電車もなきゃ、車も一台も走ってねぇ。文化的に遅れてんなこの世界。傭兵は銃じゃなくて剣かよ!あんなもんで何ができんだよ。
それからソラネは、数時間レンヤを探し続けた。
しっかし…いねぇーな…どこにいるんだ!もう何時間探してるんだよ!あー腹減ったな、少し休むか?!。
「おーい、お嬢ちゃんどうかしたのか!困ってんなら助けるぞー!」
アマネは家の屋根から下り、話しかけてきたお爺さんの元へ飛んでいく。
「どうかしたのか?お嬢ちゃん、もう辺りも暗くなって来てるし、もうソロソロ帰らんと行かん!あーそう言えば困った顔しておったな…どうしたんじゃ」
「実はある男とはぐれちまってよ…こそで――ってことだ」
ソラネはレンヤを探していることを伝えた。
「そうかそうか、もう今日は危ないよ暗くなると街の治安は悪くなるからさぁー。今日はウチに泊まっていきーよ」
アマネはお爺さんの言われた通りに泊まらせてもらうことにした。
「ほら、ごはんできたさぁー。ほれほれ沢山食べい!遠慮なんていらんぞ!それよりお嬢ちゃんほ『魔法使い』かなんかかい?フワフワ空を散歩しとるように見えたんだか?」
「うん?あたしのは魔法とかじゃなくて超能力って言うのさ!この世界には『魔法使い』がいるのか?じーさん?」
「古い昔にはおったとされとるが、近代じゃーほとんど見ない。生きているウチに会うことが出来れば…それはもう奇跡じゃ。まぁ、超能力を使う人も見たことないが」
「古い昔?」
「そうじゃ、そうじゃ!それは人間のほとんどが『魔法』を使えたらしい。魔法はとても便利なもので生活には欠かせないものだったとか…しかしある日、神の呪いにより魔法が使えなくなり人類が滅んだ。そして新たな生命が芽生えて今があるのじゃ。まぁ、伝説じゃがな」
「神の呪い?」
アマネは親切なお爺さんからいろいろな事を聞いた。この世界には気が遠くなるような長い歴史があると分かった。
「ふーん、ありがとよ。いろいろ教えてくれて。実はこの世界に来てまだ一日目なんだよ。つまり異世界人って事になるな」
「そうか、そうか、不思議な事もあるもんじゃな。お嬢ちゃん?明日はどうせ朝から男を探しに行くんじゃろ?早く寝とかんと。ワシは先に寝るとするよ…」
「あんよ!」
アマネは食事をとった後、この世界の事を考えながら眠りについた。この世界は……。
「オイ!金出せ!鶴本くん?!俺たち友達だろ?」
「は、はい…今日はこ、これしかなくて…」
「チィ!三千円か。しけてんな!ぶっ殺すぞ!」
その時、先生がに見つかりとっさに逃げる。なんとか逃げ切ったレンヤは、神社の裏でポケットに入れていたタバコを吸い、学校が終わるまで授業をサボった。
学校が終わると置いてきた財布を取るために、教室へ戻り荷物を整理していると俺を探していた先生に捕まった。俺は面談室に連れていかれ昼休みの事情を聞き出された。
「お前が鶴本から金を巻き上げたのか!?まったくお前って奴は…ろくな人間じゃないな!社会には二種類の人間がいる…国のために働き人々の生活をより良い物にする人間、それとお前みたいな、人に迷惑ばかりかけて人を傷つける人間。つまりお前は、社会やこの国のマイナスポイントなんだよ。わかったか?よく頭を冷やすことだな。」
「あっ長すぎて聞こえなあったなぁ?!…家畜が!…」
バァン!!
先生は机を思いっきり叩き、それから長い説教が続いた。脅迫及び窃盗、結果一ヶ月の停学だった。本当は警察沙汰になるのだが学校の評判が落ちる事もあり、学校側は必死に隠している。今日で何回目の停学か分からない。
家に帰ると、また親が違う男を家にあげている。まぁいつもの事だ。ベットに寝そべりポッケトのタバコを吸おうとするが見当たらない。
「あークソ!学校の引き出しに入れっぱかよ。まぁ明日でいいか!」
タバコを吸えずにイライラしながら眠りにつく。
目が覚めると八時前だった。昨日は寝たのは三時くらいだったけどタバコが吸いたくて目が覚めたのだ。コンビニで買えばいいのだか最近、規制が強化され身分証明書がないと買えない。もちろん俺はまだ十七だ。だから窃盗や先輩から高値で買っている。何度か強盗に入ったが警察に捕まるがオチだった。
学校に向かい教室の扉を開ける。
ガシャン!
静まり返るクラス、来るはずのない不良が来たからだ。皆が目を合わせないようにこちらを見ている。いつもこの家畜共はジロジロの俺を見ている。目障りだ!
腹が立ち机を蹴飛ばす。つぎの瞬間!
ガシャン… バターン!
机を蹴り飛ばす音ではなく、教室の扉が激しく倒れるだ。すると教室に仮面を被った男が入ってくる。
「あーなんだー?!お前どこのどいつだ?ふざけた格好しやがって!アッ!」
「席に座れ!君たちは選ばれた、今から私の世界に招待しよう、それと武器と能力やるから生き残ってくれ?!」
訳の分からない状況だ、さすがに誰も反応しない。
「あーお前わいてんのか?ぶっ飛ばしてやるよ!」
レンヤはイライラしていたせいか、謎の男に殴り掛かる。
が、攻撃は全てかわされ投げ飛ばされる。一瞬何が起こったかわからない、レンヤは固まる。
「なかなかいい動きだよ。ヤンキーくん!あと少しだけ相手を見よう」
軽くバカにされたレンヤは、再び襲いかかるが、そこにはもう男はいなかった。
「アイツ!どこ行きやがった!クソォ!出てこい殺すぞ!」
「う、うぁーーあぁ!」
クラス皆が声を上げる。
「今度はなんだ!」
教室を見ると机の上に青白く光った魔法陣が書かれていた。皆は無意識に手をかざし始め、なんと手には様々な武器が握られていた。
「ああ、何が、おこってんだー?」
そんな中奥の席から悲鳴が聞こえてきた。舞い上がる血吹雪、次々に倒れていく家畜共、荒れ狂う一人の男、その手には大きな剣が握られていた。何が起こっているか分からないレンヤの目に映った物は、体育館の裏でカツアゲした鶴本だった。
「はぁはあぁぁっ!殺す…皆殺す今まで僕の事……馬鹿にしてきたやつ全員!あーーーっ!おまえだ!お前が一番憎い!殺す…誰も僕にさからうなぁ!」
「武器持ったくらいで…いい気になるなよ…家畜!」
鶴本の手には身長よりも遥かに大きい剣が握られている片手で持てる重さでは無い!教室にレンヤと鶴本だけ睨み合い他の数人は教室を飛び出るように出ていく。
「あつっぁなは!しぃねぇ…!お前さえいなければ…うぁー!」
鶴本は大きな剣を横に振るがレンヤは軽々と避け、鶴本の顔面に一発渾身の右ストレートをぶちかます!大きな剣が地面に落ち、凄い音が鳴り響く。
落ちた剣を持ち上げようとするレンヤだが剣があまりに重く持ち上がらなかった。仕方なく横に落ちていた、尖った鉄パイプで鶴本の心臓部をジワジワ突き刺す。最初は声を上げていた鶴本だが、やがてピクリとも動かなくなった。
その時のレンヤの目は酷く濁っていた。
*
血みどろになった教室で一人、タバコを吸っていたレンヤにあの男の声が、そう仮面の男だ。すぐにタバコを投げ捨てた。
「おい…どこだ!出てこいよぉ!殴ってやるからぁ!」
「まぁまぁ…そんなに熱くならなくても…まぁ、俺もこんなに直ぐに死ぬとは思わなかったんだ、他の能力が見たかったのに…そう言えば、君を入れてあと九人残ってるよ」
「はぁ!何の話だ」
「つぎは、仲良くね…あともう一つ力や権力を持った人間はその力を試したくなるから気をつける事だね」
「お、おい!」
その言葉を置いていき、男の声はしなくなった。周りには死体の山と肉塊が散らばっていた。その匂い不快には思わず現実だと自覚するいい匂いだった。
レンヤは外の異変に気づき学校を出る、目の前に広がっていたのは大きな城だった。
今さら驚いても仕方ねーか…つかここ何処だよ!日本じゃねぇーしな。そう言えばあの陰キャクソでけぇ剣振り回してたな、何で俺が持てねぇーんだよ。気持ちわりぃーな…それより…。
「おい、誰だ俺の後ろでコソコソしてる奴!出てこい!」
「は~あ、バレてんのかよ。それじゃ~しょうがねぇーな、結構アンタ強いんだね」
後ろの物陰から出てきたのは一人の女。その瞳はとてもなく鋭く強い瞳。それに左手に付けてるのは盾か。
「お前…不良か?いや、不良だろ?その短い金髪と言いその人を殺すような眼。ぜってぇー不良だろ」
「は、何それ?アンタ…バカなの!そんな事より迷わず人を殺すって…結構ぶっ飛んでるな。笑えるわ、何そのジャラジャラ付けてる鎖は厨二病ですか?もしかて…かっこいいと思っちゃてる痛い人ですか?アンタの全部笑えるわ。ぷー面白すぎ」
「あぁっ!喧嘩売ってんのかっ…殴ってやるよ!」
バァン!
「はぁ!?…」
女の顔面に渾身の一撃を入れたはずだが、ダメージを食らったのは俺を方か。まるで厚い鉄の板を殴った気分だ。殴った右手は血が滲み出ている。原因は分かっている、俺が殴る瞬間にあの家畜の目の前に薄いガラスのようなものが出てきた。
「何したんだ!またお前も小細工か?どいつもこいつも気持ちわりぃーんだよ、クソ家畜がぁ!」
「やっぱりアンタの最高だよ、バカはわかんないかぁ。こっちの方が早いと思ったんだけどなぁ」
「ムカつく家畜だな…俺の蹴りは効くぜ」
バァン!
「またかよ…何だよそのガラスは!」
「え!バレてんのかよ…分かりにくいように、あたしの輪郭に合わせて壁張ってたのに。アンタ…最高だよ。」
「はぁ!家畜如きが出しゃばりやがって…」
「ごめんよ…少し前からアンタに少し興味があってな。この壁はこの盾のおかげなんだ、アンタも取っただろ?机の上の武器」
「あぁ…俺には必要ねぇー、ん!それでここはどこだ?あの仮面は何者だ?一体何が起こっている!」
「ん~…結果を言うと何にも知らない。あたしが学校に来たらこんな感じ…て言うかあたしは今日、転入する予定だったんだけど。このアリ様……でも一つ知ってる事があるこの盾…武器は大切だって事」
「いらねぇーよ…じぁな」
レンヤは女に背を向けて城へ歩いていく。
バァーン!
後ろのげた箱が一気に吹っ飛ぶ。砂煙が上がる中、キュッパキパキと気味の悪い音を立てながらこちらに何かが近ずいてくる。その影はだんだんと大きくなり姿を現した。その姿とはさっき胸にパイプをぶっ刺した鶴本の姿だ。
「なにこれ!さっき殺したはずじゃ…思いっきり心臓にパイプ刺さってんじゃん。何でうごいてんの?まるでゾンビだな」
「はぁ!まだ生きてんのかクソ家畜がっ!いきがんなよっ!」
楽しそうに女は動いた鶴本から距離を置く。
レンヤは無造作に剣を振る鶴本の攻撃を避け鶴本に何発も打ち込む、がよろめく様子も見せずにレンヤを攻撃する。
スパァ!
「はぁ?!何だよ、コイツ打っても打っても死なねぇ…どうなってやがる!家畜のくせに…俺に歯向かってんじゃねぇ!」
レンヤは鶴本の肩の上に乗り、首を両手で掴み捩じりとった。
「うわぁ、グロい…あたし見てられん…うぅ気分が…なんてね!かわいい女の子はここでキャーって叫ぶんだぜ」
「何一人で喋ってんだー、お前も殺すぞ!」
鶴本の体はバタリと倒れ込み血がさらに吹き出る。レンヤはもぎ取った首を紙面に投げつけた。
「二度と起き上がるな!」
「ふぅー!かっこいい!パチパチパチ~」
「うぜぇー、マジで殺すぞ!」
キュ…パキパキ!再び身体が動き出す。
「しつけぇんだよ!まじなんなんだよ!」
首のなくなった鶴本の体は弱々しく動いている、それを見た女が前に出た。
「出しゃばんじゃねぇよ…俺がや…」
すると弱々しく動いていた鶴本の体がピタリ止まった。
「何したんだおめぇー!また、その盾か!」
「そーだよ…あたしの能力の空気操作だよ。便利だよね~、あたしの周りに壁作れるんだから、ほらこんな感じで空中散歩とかも出来ちゃう。あの死体の周りの空気を圧縮して体に沿って空気の壁を作れば『金縛り』みたいな!動き止めたんだから、感謝しろよな!でもなんでゾンビみたいになったんだろーな」
「知らん、お前…よく喋るな。今度こそじぁな、ついてくんなよ」
レンヤは城ではなく学校へ戻っていた。
*
俺の机は、どこだ。血と肉塊で自分の机がよく分からなくなっている。確かここじゃねぇーか。
ガラン…!
あったあった。意味わかんねぇー事ばっか起こるし、武器…あった方が役に立つか。
机を立て直したレンヤは青く光っていた机の上の魔法陣に手をかざした。
レンヤの手には巻物と一本の筆が握られていた。
「はぁ!武器じゃねぇーじゃねーか!アイツ嘘つきやがった…殴ってやる」
「ほー、アンタの武器は巻物と筆か!ぷーまじで笑えるわ、プハハハハッ!はぁーホントにツボるわ!そんなに落ち込むなよ……まぁ教室前で聞いたんだけどよー武器には能力があるって、私で言う空気操作みたいなのだろ、で巻物開いてみたら?」
「あー分かってんよ」
『多数決』
「なんだこれ?多数決?やっぱゴミか」
レンヤの開いた一メートルの巻物には左端に多数決としか書かれていなかった。レンヤはわけも分からずポケットにしまい込み城を目指すことにした。
*
「申し訳ございませんが城壁内に入れることは出来ません!入りたいのであれば身分の証明をしてください」
「そんなんどーでもいいだろ。なんで入れねぇーだよ!ふざけんなよ…!」
「当たり前でしょ…アンタは身元不明の血みどろの怪しい人間なんだから」
「はぁ!なんでついてきてんだよ家畜が!お前もあの陰キャみたいに首もぎ取られたいのか?マジで殺すぞ」
「また家畜呼ばわりか!私の名前は神島 空音その小さな脳みそに詰め込んでおけ!んで、あんたの名前は?!」
「…………」
「無視かよ…」
今コイツに喧嘩売っても勝てる気がしねぇ、どうにかしてあの壁をどうにかしないとな。俺の武器はつぅーかこの変なものどう使うんだよ。多数決…『物事を決める時に、多数意見の方を採決とする』だっけな。ガキの時、俺の案が通らなくて多数の方を全員ボコッたけな。…そんな事より巻物になんか書けばいいのか?じゃー。
『俺はこの城壁内に入れるか』
「こんなんでいいのか…で何すれば?」
「アンタ何してんのよ、ちょっと教えろよ」
レンヤがそう書くとその文字の隣に『入れる』・『入れない』と浮き出てきた。なるほど…そう言うー事か。
「今から、多数決をとる…『俺はこの城壁内に入れるか』?はい!答えろ!」
巻物の右下には三分の〇の数字が浮かび上がる。
「は、何言ってんのアンタ?いきなりなんなんだよ」
「うるせぇーよ…答えろ女!お前もだ、門番!」
「入れる?」
「入れません」
「入れる…いや、入る」
レンヤとソラネは『入れる』、門番は『入れない』と答えた。二対一....次の瞬間、レンヤの持っていた巻物に赤文字で『可』浮き上がった。
「で、これでどうなんだ、巻物さんよ!ただ俺がバカしただけか?おい!なんかやれ…」
「レンヤ様…どうぞ城壁内へ城の方からから許可が出ました」
門番の顔は無表情で目は虚ろだった。まるで何かに操られてる様だ。
「はぁ!アンタ何したんだよ…………………………そう言う事か、クソ!」
「じゃあーな女!そこでワンワン吠えてろ。家畜は外がお似合いだ、ついてきたら殺すから…」
「は!ふざけんなよ!」
ソラネは城壁内に入れてもらえずレンヤだけが城壁内に入っていった。城壁の中には大きな街が広がっている、中に入った血みどろのレンヤは民衆の視線を集めた。
何だここ?発展してんかしてねぇーのか、分かんねーとこだな。言葉は日本語だが顔は色んな奴がいるな…まぁ取り合いず服がいるか、しかしジロジロの見てくるなこの家畜共。
レンヤは服を売ってそうな店へ向かった。
「へい!いらっしゃい血みどろの兄ちゃん、珍しい服着てるね。どんなもの探してんの?うちは色々あるから何でもあるぜ」
「あーそうか、何でもいいから俺にあった服をくれ!」
「兄ちゃんこれなんてどうだ一角うさぎの素材を使ったやつだ、それとも頑丈なリザードマンのやつがいいか?これはさっき入ったんだ」
「こっちでいい」
「そうか、五千ギルになるよ。それにしてもすげー血の量だな何かあったのか兄ちゃん?獣人でもねぇーのに武器も持たずにクエストかい?根性あるねぇー」
バサァ!
レンヤは無言では二つの服を奪い走り出した。もちろんお金は持っておらず奪うしか方法が無いと考えたからだ。
「おい!待てっ…誰か泥棒だ!捕まえてくれっ!あぁあぁ、そこの傭兵さん泥棒だ捕まえてくれー!あの血みどろの男だよ」
「チィ、捕まって溜まるかよ!こっちは何年やってると思っている。さっき街に入った時に逃走経路は確認済みだ!遅ぇーな…家畜共!」
レンヤは、あらかじめ逃走経路を確認して窃盗を働いていた。やがて傭兵は見えなくなり街の裏路地に入り込み、奪った服を着る。服のサイズはピッタリと合っておりこの街の住民と同じような服装だ。
やはり、変な能力だのさっきの服屋の人が一角うさぎだのリザードマンだの言っていたがここは元いた世界とは別の世界と考えられるな。さて、飯でも食うか。
レンヤの手の中には金の入った袋が握られていた。逃走の際にわざと人とぶつかり、財布らしき物を奪っていたのだ。レンヤはフードを深く被り立ち上がった。
カラン…カラン
「いらっしゃいませ!奥の席におすわり下さい」
「あー、この金で食えるもん全部持ってこい」
「ご注文ですね、少々お待ちください」
そう言い、言われるがままに奥の席のカウンターに座った。店の中は人が何人かいるがこちらを見る人間はいない、上手くこの店に馴染めているようだ。注文した大量の料理を口に運んでいると。
「一つ聞きたいことあんだけどよ?なぁ、お前今騒ぎになっている、泥棒だろ!見たぜあの見事のな逃走劇…お前手練だろ」
「だから何だ…誰だ、お前?ここでみんなに言いふらすのか?好きにしろ…たがそのあとは知らねぇーぞ」
「そんな気はねぇ、俺の名はベン…ここら辺で盗賊をやっている。お前も俺の仲間に入らねぇーか?今に人集めてんだよ。俺たちの夢は世界一の自由な盗賊団、最強で最恐の集団さ、どうだ?」
「仲間?んなもん入んねぇーよ…」
「そこを何とか!困ってんなら何でもするからさぁ、なっなっお願い?!」
「じぁー有り金…全部置いていけ!」
カラン…カラン
「ありがとうございました…またのご来店を!」
レンヤはあの後、ベンを一発ぶん殴り気絶させ金とナイフ1本を奪っていた。一瞬、店は静まったがすぐに元の雰囲気に戻ったから別に珍しい事じゃねぇーてことか。しかしこんな目立っていたらすぐに捕まっちまう、もっと目立たねぇー事で金を稼がねぇーと。
「あー!しけてるな、二千えん…じゃ無くて二千ギルかよ。この世界もゴミばっかだなぁ!…………あ、いい事考えた」
バサ!
「おい!ちょっと来い!」
レンヤは明らかに金を持ってそうな奴を裏路地に引っ張りこんだ。
「わ、私はお金など持っていないぞ!だからそんな物騒な事は考えるなよ、も、もし仮に俺様を脅すって言うなら私の部下、百人の傭兵が許さんぞ!」
「おっと、待ってくれよ…そんな事しないよおじさん?
ただアンケートに答えて欲しくて、ちょっとだけだからさぁー」
「あ、アンケート?そ、それなら分かった」
「じぁー、いくよ!多数決を取ります『あなたは持ち金を全てここに置き、その事を誰かに言うか?』さぁーおじさんはどっち?」
『誰かに言う』・『誰にも言わない』
「さぁ、おじさんどっちかな?早く答えてよ!」
「い、一体何なんだ!わ、わわ、私は!ぶ、『部下全員に全てを話す』!お、お前の様な奴は成敗せにゃ、ならんのだ!」
「あらー…残念!俺はねー『誰にも言わない』方がいいと思うよ。おじさ~ん…ハハァ!」
「な、さっきから何を言っておる。それに多数決って一対一で決まらないじゃないか!多数決を知っておるのか?」
「うん!知ってるよおじさん…だからもう一人参加者いるんだよね…ここにねー」
レンヤは、裏路地の木箱の中からボコボコになった女性を出してきた。
「ほら、言ってみてよ…ミシェルさん?ほら早く!どっちだい?『誰かに言う』それとも『誰にも言わない』君ならどっち?」
「『だれにも…いわない』」
「はい、よく出来ました!おじさんこれで二対一だね」
「だから、なんなんだ!こんなことをしても何も意味なんて…………あ!」
レンヤの予想道理におじさんの目はだんだんと光を失っていき、お金が入った大きな袋を置いて街の方に消えていった。
「うわ!今回は、重てぇーな!家畜はさっさと俺に金を渡せばいいんだよ…ジジイがよ!あ、そう言えばミシェルさん…ご協力ありがとうございました、これはお礼です!」
「…た…す…け…」
レンヤは、思ってもいないことを口から吐き、コインを一枚だけ倒れた女性の前に置いて宿を探すことにした。レンヤの腰元には沢山の金の入った袋がぶら下がっていた。
カラン…
「この宿いくらで泊まれる?」
「1泊食事付きで七千ギルです、銭湯は料金別だから気をつけてください」
「じゃーそれで…」
「はい、こちらが二〇二号室の鍵になります。お出かけの際は私かスタッフの方に渡してください、お食事は八時半頃から一階の方でバイキングとなりますのでご自由にお食べ下さい、朝の………あ、あのお客様!」
「……」
レンヤは返事もせずに鍵をとり部屋に向かいベットの上に倒れ込んだ。
*
目を覚ますと外はもう朝だった。レンヤは昨日、宿を借りた後直ぐに眠ってしまったのだ。ベット横に脱ぎ散らかしていた服はピシャと畳まれていた。それに昨日たくさんの人たちから奪ったお金は余るほどあり、ここで一ヶ月ほど暮らせそうだがそうはいかない。
あの仮面野郎に一発、喰らわせねぇーと。
「レンヤ様…朝のお食事の準備が出来ました。準備ができ次第一階にお越しくださいませ」
「あぁ…ああ」
レンヤ言われた通りに服を着て一階におり、食事をするために椅子へと腰をおろした。
「今日の朝食はハムサンド、サラダ、一角うさぎののスープになります。スープは私からの特別メニューです。ごゆっくりと」
朝から一角うさぎのスープとか言うよくわかんねぇーもん食わされると思わなかったな。一体どんな味がするんだ。
レンヤはハムサンド、サラダと食べていき一角うさぎのスープに手を出した。
ゴクンッ!
うまい…とは言えないなんとも言えない味だった。
「おい…」
「お口に合いませんでしたか?」
「いや…」
「あ!体調はどうですか?レンヤ様、昨日はだいぶお疲れに見えましたが?そのスープは疲労回復にいいとされています、お代わりもありますのでぜひ沢山の召し上がって下さいね」
「あ…あぁ、んな事より、お前か俺の服、畳んだの?」
「すいません…勝手に、迷惑でしたのなら深くお詫び申し上げます。あ、あの夕食の時にお見えにならなかったので部屋を覗くと……誠に申し訳ございませんでした!」
「…」
それから、レンヤはスープを残し自分の部屋二〇二号室へ戻った。
クソ何なんだよ!ああ言う事が一番頭にくる。何が疲労回復、それに俺は疲れてなんかねぇー仕事さえすればいい事を…あーイラつくなあの女!
気を悪くしたレンヤはポケットに入っていた残り少ないタバコを口に咥えた。
*
一日前…
「はぁーあ!アイツどこいったんだよ。別に門番がいてもいなくてもあたしは関係無いんだけどね?空中歩けるかからさ。それにしてもデケェ街だな!」
「おっと、そこのね金髪のねぇーちゃん珍しい服きてるね。実は少し前ねぇーちゃんと似た服を着た男が店を泥棒しに来たんだよ。なんか知らないか?」
やっぱりか…アイツのしそうな事だな。
「それなら知っていますがタダでは話さないよ。あたしの着ている服と犯人の情報あげるから、あたしに合った服をくれ!」
ソラネは交渉の挙句、制服、レンヤの情報と引替えに店の人からこの世界に合った服を貰った。
「なかなか似合うじゃん、よーしこれで目立つことも無くアイツを探せるぞ!まずは高い所から見るか!」
へー結構街キレイじゃん。日本とは大違いだな、電車もなきゃ、車も一台も走ってねぇ。文化的に遅れてんなこの世界。傭兵は銃じゃなくて剣かよ!あんなもんで何ができんだよ。
それからソラネは、数時間レンヤを探し続けた。
しっかし…いねぇーな…どこにいるんだ!もう何時間探してるんだよ!あー腹減ったな、少し休むか?!。
「おーい、お嬢ちゃんどうかしたのか!困ってんなら助けるぞー!」
アマネは家の屋根から下り、話しかけてきたお爺さんの元へ飛んでいく。
「どうかしたのか?お嬢ちゃん、もう辺りも暗くなって来てるし、もうソロソロ帰らんと行かん!あーそう言えば困った顔しておったな…どうしたんじゃ」
「実はある男とはぐれちまってよ…こそで――ってことだ」
ソラネはレンヤを探していることを伝えた。
「そうかそうか、もう今日は危ないよ暗くなると街の治安は悪くなるからさぁー。今日はウチに泊まっていきーよ」
アマネはお爺さんの言われた通りに泊まらせてもらうことにした。
「ほら、ごはんできたさぁー。ほれほれ沢山食べい!遠慮なんていらんぞ!それよりお嬢ちゃんほ『魔法使い』かなんかかい?フワフワ空を散歩しとるように見えたんだか?」
「うん?あたしのは魔法とかじゃなくて超能力って言うのさ!この世界には『魔法使い』がいるのか?じーさん?」
「古い昔にはおったとされとるが、近代じゃーほとんど見ない。生きているウチに会うことが出来れば…それはもう奇跡じゃ。まぁ、超能力を使う人も見たことないが」
「古い昔?」
「そうじゃ、そうじゃ!それは人間のほとんどが『魔法』を使えたらしい。魔法はとても便利なもので生活には欠かせないものだったとか…しかしある日、神の呪いにより魔法が使えなくなり人類が滅んだ。そして新たな生命が芽生えて今があるのじゃ。まぁ、伝説じゃがな」
「神の呪い?」
アマネは親切なお爺さんからいろいろな事を聞いた。この世界には気が遠くなるような長い歴史があると分かった。
「ふーん、ありがとよ。いろいろ教えてくれて。実はこの世界に来てまだ一日目なんだよ。つまり異世界人って事になるな」
「そうか、そうか、不思議な事もあるもんじゃな。お嬢ちゃん?明日はどうせ朝から男を探しに行くんじゃろ?早く寝とかんと。ワシは先に寝るとするよ…」
「あんよ!」
アマネは食事をとった後、この世界の事を考えながら眠りについた。この世界は……。
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2025/06/22
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