夢に繋がる架け橋(短編集)

木立 花音

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余命三年(現代・青春ドラマ)

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お題⇒ 疾風、二代目、文芸部

* * *

「余命三年、かあ」

 背中越しに透き通ったソプラノの響きが聞こえ、僕は振り返った。すると、唇が触れそうな距離に幼馴染の女の子の顔があって、思わず、わ、と声が漏れる。彼女は、僕の手元にあるパソコンのディスプレイを真剣な顔で覗き込んでいた。

「勝手に見んなよ。恥ずかしいだろ」

 抗議の声を上げてディスプレイを広げた両手で遮るが、彼女は別に減るもんでもなし、と悪びれる様子もなく言って腕を組んだ。視線は変わることなく、パソコンのディスプレイに注がれている。
 僕の言ってること聞いてないだろ。

「それにしても、余命三年、ですか。人の死をもって心にうったえる、ベタなタイトルですなあ」
 半笑いで彼女が言う。
「別にいいだろ。テンプレ要素は大事なんだよ」

 余命三年。
 文芸部に所属している僕が、文化祭に向けて仕上げている小説のタイトルである。内容は読んで字のごとく、難病に侵された男子高校生が、自分が死ぬまでの三年間の間に何ができるのか? 抱えてきた後悔や周りの人達と向き合いながら悩んでいく、という青春ドラマだ。
 彼女が言うように、「ありがち」と指摘されてしまえば否定はできない。

「そういうお前はどうなんだ? 自分の作品は仕上がったのか?」

 同じく文芸部に所属している幼馴染に問い掛けると、彼女は「えへへ」と苦笑いを漏らしながら自分の席に戻っていった。
 場所は文芸部の部室。
 部員は、僕達を入れて僅か四名。
 今年の秋に部長が引退すると、二年生である僕か彼女の何れかが部長を引き継ぐことになるだろう。

「私はね、アンタと違って才能がない人間なもので。そんな風にスラスラとは書けないんです~」彼女が不満気に舌を出す。「そりゃ、疾風しっぷうの執筆丸さんはいいですよね」
「だから、その二つ名で呼ぶのやめろっての」

 疾風の執筆丸。
 彼女は時々、僕のことをそんな恥ずかしい名前で呼ぶ。なんでもゲームに登場するキャラクターからもじってるらしいが、僕にはよくわからない。
 まあ、確かに? 彼女よりは僕の方が、小説を上手く、また速く書けるという自負もある。彼女がこの二つ名にこめた意味も、そんな感じの事らしい。とは言え、中二病全開な名前はこっぱずかしいので止めて欲しい。度々そう文句を言っているのだが、彼女は一向に聞き入れてくれない。

「いいじゃん。どうせ、二代目部長だってアンタで決まりだし?」

 これも彼女の口癖だ。うちの高校では文芸部が出来てまだ数年なので、二代目、で間違いではない。本音を言うと、僕だって部長なんて面倒だしやりたくない。けれど最近は、一生に一度なんだしそれも悪くないかな、と思い始めてる。長い物には巻かれろ、なんて精神でもないが。

「あれ、反論してこないなんて珍しいね?」
「五月蠅い、だまって手を動かせ」
「へいへい」

 再び立ち上がろうとした彼女をしっしと追い払い、僕はパソコンの画面を注視した。

 もし、僕が本音を伝えたら彼女は驚くだろうか?

 ひとつめ。
 僕はずっと前から、それこそ、中学に上がるずっと前から君のことが好きなんだ、っていうこと。

 ふたつめ。
 余命三年。この物語の主人公は、僕がモデルなんだよっていう事。今は月に一度くらいしか学校も休んでないし、君はまさかって笑うだろうけど。

 ──言えるわけない。

 今日も僕は本音を胸の内にそっと仕舞い込むと、部室の窓から外に視線を移した。

 本日の天候、小雨。梅雨明け宣言は、まだ遠そうだ。
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